旅レポ

タイ東北部イサーン地方の食と文化、バンコクの今を知る旅。カラシン県でめずらしいライス・キャッスルや恐竜の博物館を見学する

タイの東北部を旅してきた

 東南アジアの旅行先として日本人にも人気のタイ。東南アジア有数の大都市であるバンコクや南国リゾートのプーケット、過ごしやすい気候と独特の文化で人気になっている北部のチェンマイなど、魅力的なエリアが数多く存在する。それ以外にもまだまだ知られていない素晴らしいスポットはたくさんあり、タイの奥深さを認識させられる。今回はタイ国政府観光庁主催の取材ツアーで訪れた東北部のコーンケーン県やカラシン県について紹介しよう。

 バンコクにあるスワンナプーム国際空港までは、東京の羽田空港からだと直行便で約6時間30分ほど。そこから国内線でコーンケーン空港までは約1時間の行程だ。スワンナプーム空港からはタイ国際航空が運航するブランドの一つ「タイスマイル」の飛行機が飛んでいるので、今回はそちらを利用した。もちろん、LCCが多く就航しているバンコクのもう一つの空港、ドンムアンからコーンケーンまで飛ぶこともできる。ちなみに陸路だと、道路状況にもよるが、おおよそ6時間ほどの道のりになる。

タイ国際航空の羽田からスワンナプームまでのフライトに使われている機体は日本ではあまり見かけなくなったボーイング 747型機
タイ国際航空100%出資のグループ会社である、タイスマイルのカウンター。国内線や国際線を主要な各都市に運航している
コーンケーン行きのTG2046便は、タイ国際航空のコードシェア便として運航している

 タイの東北部はイサーン地方と呼ばれ、そのなかで南イサーンの経済の中心がコーンケーンだ。1964年に設立された国立の総合大学「コーンケーン大学」のある学園都市として栄えてきた歴史がある。観光スポットとしては、コーンケーンの東に位置するカラシン、1994年に恐竜の化石が発掘されたのを皮切りに次々と貴重な化石が発掘されており、近隣には恐竜博物館も建てられている。また、養蚕業も盛んで、タイシルクの生産地としても有名だ。

街中はタイの地方都市といった感じで主要道路沿いには商店などが立ち並ぶが、少し郊外に出ると水田や畑といったのどかな田園風景が広がる

コーンケーンに宿泊する際に便利な高級ホテル

 さて、訪れるには何はともあれ宿泊施設が必要。まずはコーンケーンで宿泊したホテルを紹介しよう。こちらの「プルマン・コーンケーン・ラジャオーキッド・ホテル」は5つ星の高級ホテル。それほど高層ビルが立ち並ぶわけではない県内においては22階建ての高さは遠くからでも分かり、主要なアイコンにもなっている。市の中心部に位置しており、コーンケーン空港からもクルマで約10分とアクセスも良好。いくつかのレストランやバーラウンジのほか、MICE用途に便利な多目的会議室も15部屋用意されており、企業のセミナーや発表会、VIPの会合などにも使われている。ゆったりとした広さの客室からはコーンケーンの市内を一望でき、清潔に保たれたベッドに横になれば旅の疲れもたちまち癒してくれる。

プルマン・コーンケーン・ラジャオーキッド・ホテルは市の中心部にあり利便性も高い。22階建てで、高層階は眺めも良好だ
宿泊したデラックス客室はキングサイズのベッドにワークデスクが備わっている
ワークデスクの脇にはコンセントがあり、使い勝手もよい。もちろん、無料のWi-Fiも完備している
広いバスタブもあるので、お湯に漬かりながらゆっくりできる
19階からの眺め。コーンケーンの街並みが眼下に広がる
エントランスの中心には噴水が置かれており、憩いの場所になっている
朝食はビュッフェ形式で好みに合わせてチョイスできる。麺の種類が選べるクイッティアオがあるのもポイント

レイクサイドにあるカジュアルなレストラン

 到着したその日の夕食は「スマイル・ウォーターサイド・レストラン」でいただいた。プルマン・コーンケーン・ラジャオーキッド・ホテルからクルマで10分ほど走った先にある湖畔のレストランだ。早速、“激辛”と言われているイサーン料理を体験するのかとドキドキしたが、スタッフの配慮によりマイルド仕様になっていたので少しホッとした。鶏肉や豚肉のミンチを使ったラープや、もち米を詰めて発酵させたソーセージのサイクローイサーンといったイサーンを代表する料理は発酵調味料のおかげか、奥深い旨味が印象的だった。

スマイル・ウォーターサイド・レストランはその名のとおり、湖畔にあるカジュアルレストラン。屋内のほかテラス席も用意されており、地元の人も利用していた
鶏肉のミンチを使ったラープ。もち米と一緒に食べるこの地方の一般的なおかず
サイクローイサーンは少し変わった味のソーセージだがとても美味
イサーン地方は豚肉もよく食べる。こちらは柔らかく仕上げたポークリブ

シリキット王太后も愛用する高級シルクを作る村

 2日目に最初に訪れたのはコーンケーンの東にあるカラシン県。ここの北部には、タイ東北部の民族プータイ族が住む「バーンポーン・プレーワー・シルク村」があり、美しい手織りシルクの「プレーワー」が有名だ。プータイ族の女性の正装は黒地の上着の上から「サバイ」と呼ばれる絹織物を肩掛けする。このサバイは赤が基調の緻密で美しい幾何学模様を織り込んだシルク製の細長い帯で、これがもともとはプレーワーと呼ばれていた。

 プレーワーが有名になったのはプミポン前国王の王妃であるシリキット王太后がこの村に訪れたことから始まる。1977年にシリキット王太后(当時は王妃)が訪れた際に、村の人たちは足元を汚してはいけないとプレーワー(サバイ)を絨毯の代わりに敷いて出迎える。しかし、シリキット王太后は足を止めてプレーワーを手に取り「なんて美しいのでしょう。こちらをいただけませんか?」と声をかけ、その後はこの織物を巻きスカートなどにもできるように幅を広げるように勧め、自ら熱心に保護や奨励活動を行なったそうだ。

 この日のランチは見学施設に併設されているレストランでいただいた。卵、鶏肉、野菜など、どの素材も地元で収穫した物であり、田舎の素朴な味を楽しめた。ただし、こちらで出されたディップソースはこの旅行のなかで一番の激辛であり、イサーン料理ならではの辛さも体験できた。

プータイ族が織る絹織物は品質のよい高級品として認知されている。だいたい3000バーツ(約1万561円、1バーツ=約3.52円換算、2019年4月現在)から販売されており、最高級品は桁が変わってくる
プレーワーをまとったプータイ族の女性。シリキット王太后がほれ込むのもうなずける美しさだ
昔ながらの機織り機で丁寧に織り込んでゆく。この村には350人の女性職人がいる
小指を上手に使って複雑な模様を作り上げる。女性は子供のうちから教えられ、学校帰りに作業する女の子もいる
カイコの繭から絹糸を取り出しているところ
お湯でボイルしながら糸を取り出す
取り出したばかりの絹糸はゴワゴワしているので、洗浄と漂白をしてなめらかにする
染料に使う素材は天然由来の物か、人体に影響が少ない薬品を使っている
大鍋のなかに染料を入れ、火にかけながら染め上げる
タイの暑いなかでこの作業は結構大変。ちなみにこの日の気温は35度
キノコたっぷりのスープや素朴な味の玉子焼き、ラープやもち米といったイサーン地方の定番料理
ナンプラーと唐辛子の入った激辛ディップソース。ニオイと辛さで食べられない人が続出
タイではプッサーと呼ばれるインドナツメ。青りんごと梨を足して2で割ったような味で、さっぱりとした甘さでクセになる美味しさ

恐竜の化石の発掘現場も見学できる自然史博物館

 カラシンならではのスポットとして、恐竜で有名な「シリントーン博物館」がある。こちらは東南アジアで最大の自然史博物館として、生物の進化や人類の誕生などの展示、そして恐竜の生態などを8つのエリアに分けて紹介している。実際、付近は恐竜の化石が数多く発掘されており、現在までに7頭以上が確認されている。展示されている化石は保護の観点からレプリカがほとんどであるが、併設されている研究室には実物が置かれており、ガラス越しだが本物を見ることができる。また、博物館の周囲には現在も発掘調査を行なっているエリアが4つあり、そのうちの1つは閲覧スペースが設けられているので発掘の様子を間近で見れる貴重な体験ができる。

 おもしろいエピソードとしては、この地域で初めて恐竜の骨を発見したのは近くにあるお寺の和尚さんで、1970年のことである。発見した骨が恐竜のものであると判明したあとも、和尚さんの「まだまだ出てくるから掘ってみなさい」という言葉どおりに発掘作業を進めると、出るわ出るわで状態のよい約700個以上の化石が出土した。敬虔な仏教国であるタイらしいお話だ。

博物館の入口には、ようこそ?とばかりに肉食竜のシャモティラヌスが来場者をお出迎え
自然史博物館であるが、恐竜がメイン。さまざまな恐竜のモニュメントや骨格標本が展示されている
博物館に併設されている研究施設には本物の恐竜の骨の化石が陳列されており、1億数千万年前という途方もない時間をたどってきたロマンを感じられる
博物館から少し離れた場所には見学のできる発掘現場がある
なかは発掘現場を一望できるようになっており、現場の雰囲気を味わえる
化石が発掘された場所の昔の写真。丘陵地帯にある畑で見付かった

ライス・キャッスルを築いて豊穣のお祭りを祝う寺院

 こちらのお寺「ワット・サウェッタワン・ワナラーム」では期間限定だが、ライス・キャッスル(もち米の稲わらを使ったお城)を見ることができる。このお城は、2月9日~12日にかけて行なわれるお祭りで、豊穣の神様に奉納するために作られるものだ。村人が持ち寄ったもみ殻付きの稲わらを100万本以上使っており、製作に必要な準備期間は2か月というからスケールの大きさに驚く。訪れた日は祭りの前日であり、ライス・キャッスルもほぼ完成状態で、まわりでは祭りの準備のために照明や音響などのセッティングが行なわれていた。ちなみに祭りが終わると城を解体し、稲わらは脱穀して、村人や恵まれない人たちに寄進されるとのことだ。

100万本以上の稲わらで作られたライス・キャッスル。もちろん、イサーン地方の主食であるもち米が使われている
お米の付いた状態の稲わらを使っている
稲わらは束ねたあと、柱にくくり付ける
お祭りなので、屋台も集まってきていた

カエル料理が登場した2日目のディナー

 2日目の夕飯はコーンケーンにある「ドゥアン・ピッサワ・レストラン」でいただいた。トムヤムクンやラープといったもの以外の(日本人にとって)めずらしいものとして出てきたのはカエルの唐揚げ。とはいっても、筆者は今まで何度か口にする機会があったので“あっさりとした鶏肉”というイメージのもと、美味しくいただけた。そのほか、イサーン地方の主食であるもち米も登場。バタフライピー(タイ語で「アンチャン」)というチョウマメを使って鮮やかに着色されたものであり、バナナの葉っぱに包まれて提供された。このバタフライピーは健康によいハーブということで、とにかくよく使われる。

カエルの唐揚げ。言われない限り分からないうえ、味も鶏肉に似ており美味
バタフライピーで鮮やかに色付けされたもち米
鶏をかたまりでターメリックとショウガで煮込んだもの。柔らかくてスパイシー
ココナッツを容器にしたトムヤムクン

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。