旅レポ
歴史が彩る地中海の島国・キプロスを巡る(その5)
北部や山間の村巡り。ユネスコ無形文化遺産のレフカラレースに魅せられる
2018年1月26日 00:00
ここまで4回目にわたってお伝えしてきたキプロス観光レポートの最終回。ラルナカ、ニコシア、リマソール、パフォスといった主要都市を中心に巡ってきたが、今回はそれらから少し足を伸ばしたスポットをまとめてお伝えしたい。
まずは、キプロスの北西にサイの角のように突き出した「アカマス半島」を目指す。前回紹介した「コーラルビーチ・ホテル・アンド・リゾート(Coral Beach Hotel & Resort)」からはキプロスの西海岸に沿って北上していく。
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そのアカマス半島へ向かう道すがら、何カ所かのスポットに立ち寄ったので順に紹介していく。まずは「シー・ケーブス(Sea Caves)」。ここはコーラルビーチ・ホテル・アンド・リゾートから北へ5kmほど。このエリアは、3000年ほど前に土地が隆起して形作られたもので、近隣の岩を見ると、岩の層を目にすることができる。古いものでは100万年前にできた岩もあるそうだ。
海からアクセスする洞窟などもあるとのこと。キプロス観光では古代から現代にいたるさまざまな遺跡を見てきたが、さらに古い、人類が誕生する前の地球の活動にさかのぼるスポットまであることに驚くばかりだ。
そして、さらに約5km北上。続いては、聖ジョージ教会(Agios Georgios Chapel)を訪れた。12世紀に建てられたというギリシャ正教会の教会で、こぢんまりとしたかわいらしいスタイルだ。キプロス島は12世紀末から15世紀末までカトリック(西方教会)系のフランク人によって統治されたという歴史を考えると、中世のキプロス島においては最後期のギリシャ正教会の建築物という見方もでき、興味をそそられる。
さらにこのスポットは近隣にマリーナがあり、教会がある場所は高台になっている。そうした立地から眺めも非常によく、青い地中海と、このあと向かうアカマス半島とを一望できる。
そこから、さらに北上すること約8km。ここまでくると、アカマス半島の付け根といってもよい場所になる。まず紹介するのは「ララ・ビーチ(Lara Beach)」。ここはウミガメの産卵地として保護区に指定されており、毎年200~300匹ほどのウミガメが産卵に来るという。駐車エリアの脇には、ウミガメの産卵に関するパネルが掲示されているほか、ビーチに降りたすぐのところに観察小屋が設置してある。
産卵に訪れるウミガメは「アオウミガメ(Green Turtle、学名はChelonia mydas)」と「アカウミガメ(Loggerhead Turtle、学名はCaretta caretta)」の2種で、後者の方が多い。地中海ではアカウミガメの個体数の方が多いほか、アオウミガメは世界的にも絶滅が危惧される種であることから、必然的にララ・ビーチに産卵に来る個体もアカウミガメが主流というわけだ。
ちなみに、キプロスでは1970年代からウミガメの産卵地保護に取り組んでいる。最近では、アカマス半島をはさんでララ・ビーチとは反対側に位置する「クリソシュウ湾(Chrysochou Bay)」での産卵も増えており、2014年時点で西海岸と合わせて1000カ所を超える産卵地が確認されているほど。
春の産卵期にはかなり早い1月の訪問で、しかも昼間に訪れているのでウミガメの産卵を見られたわけではないのだが、キプロスがこのような取り組みをしていることは新たな発見だった。
さて、アカマス半島は「アカマス半島自然公園(Akamas Peninsula National Park)」という国立公園に指定されており、全体が動植物の保護区となっている。そのように保護されてきたこともあり、手つかずの広大な自然が残されている。ここまでに紹介してきた写真でも分かるように、道路も舗装されていない。今回は四輪駆動車、ランドローバーのディフェンダーを使ってアカマス半島周辺を巡るツアーを利用している。
運転手のパニコスさんは、キプロス政府観光局公認の資格も持ったガイドさん。Exalt Travel(英文)という現地ツアーオペレータが提供する「Jeep Excursions」というプランでガイドを務めている。
現地の情報はもちろん、文化や自然に関する知識も豊富。立ち寄ったビューイングスポットでは、「ロムレア」という花や、銅の鉱石の話を聞かせてもらった。銅の元素記号は「Cu」で、これはラテン語の「Cuprum」から来ているが、この「Cuprum」という言葉は、銅の一大産地であったキプロス(Cyprus)に由来するそうだ。
このビューイングスポットも当然舗装などされておらず、知らないと来られないであろう場所だ。標高は500mほどとのことで、アカマス半島ではかなり高い場所となる。自然そのままのアカマス半島の姿や、それを取り囲む海の絶景を360度楽しめる最高の場所だった。
アカマス半島(Akamas Peninsula)
Webサイト:Akamas Peninsula(英文)
次に向かった先は、アカマス半島東岸にある「アフロディーテの泉(Baths of Aphrodite)」。英名からは“アフロディーテのお風呂”というイメージになるが、愛と美の女神のお風呂というのもなんだかそぐわないのか、“泉”と訳されることが多いようだ。
駐車場から歩いて3~4分のところに、その名のとおり、アフロディーテが沐浴を行なったとされる、その泉がある。さらに、アフロディーテはこの地でアドニスに出会い、恋に落ちたともされており、ギリシャ神話をまつわる重要なスポットになっている。
駐車場から歩いて3~4分と記したが、泉がある場所までの道は爽やかな緑に囲まれており、入り口付近は植物園としても整備されているので、少し時間をかけて散歩したくなる場所でもあった。
アフロディーテの泉(Baths of Aphrodite)
Webサイト:Baths of Aphrodite
さて、本稿でここまで紹介してきたスポットは、すべてホテルを朝出発して午前中だけで見てまわったスポット。コンパクトなエリアにいろいろなスポットが集まっていることがお分かりいただけるかと思う。
この日のランチは、アカマス半島の東側にあるポリスの街でいただいた。ポリスはキプロス北部では最大の街で、北岸のクリソシュウ湾(Chrysochou Bay)沿いにはビーチリゾートが多く立ち並ぶ。
訪れたのは「アルコンタリキ(Archontariki)」というレストランで、石造りの建物に、白い壁と青いテーブルクロスのあしらいが、地中海リゾートのような雰囲気を漂わせるお店だ。お店の目の前にある、樹齢700年というオリーブの木も必見だ。
これまでに紹介してきたキプロスでの食事は、素材の味をそのまま活かした料理が多かったが、ここは豚肉の赤ワイン漬けや、ヤギの肉をじっくりグリルしたもの、グラタン風のものなど、いわば“キプロスの味付け”を存分に堪能できる。
アルコンタリキ(Archontariki)
所在地:Makarios Avenue 14, Polis, Cyprus
Webサイト:Archontariki(英文)
続いては、ポリスの街からパフォス方面へ南下したところにある、レモナ(Lemona)村にあるワイナリーを訪れた。地中海沿岸国の例に漏れず、ワインもキプロス名物の一つ。訪れた「ツァンガリーデス・ワイナリー(Tsangarides Winery)」では、キプロス固有種のブドウを用いたものを始め、10種類のワインを製造。うち5種類は有機栽培で作られたブドウを使った商品だという。
ワイナリーにはバーもあり、試飲もできる。フランクで気さくな店主なので、いろいろ話を聞いてみるとよいだろう。ワインは直売もしており、安いものは5ユーロからという驚きの値段。日本入国時には3本を超えると関税がかかってしまうので、そのことを頭に入れておく必要はあるが、それを差し引いても美味しいワインが格安で手に入るので、好きな人にはたまらないはずだ。
ツァンガリーデス・ワイナリー(Tsangarides Winery)
Webサイト:Tsangarides WineryのFacebookページ(英文)
次は、さらに南下してレティンブウ(Letymbou)村のソフィアさんのお宅へ。ソフィアさんのお宅では、キプロス名産のチーズ「ハルミ(ハルーミとも)」を作るところを見学できる。観光スポットとしてオープンにしているわけではないが、現地のツアーオペレータらの紹介で見学者を受け入れているという。
ハルミは前回も紹介したとおり、ヤギとヒツジの乳で作られたチーズで、しっかりした塩味と、焼いても溶けないもちもちの食感が特徴。できたてのハルミをその場でいただけるだけでなく、庭にある石窯で焼いたばかりのパンや、熱した砂を使って作る本格的なキプロスコーヒーもある。
ちなみにソフィアさんのお宅は、さまざまな手工芸品や昔ながらの工業製品なども残しており、食から生活まで、キプロスの生の文化に触れられる貴重な体験ができる。
紀元前後の遺跡が広範囲に残る「クーリオン」
さて、パフォスからアカマス半島周辺にわたるエリアを紹介してきたが、ここからは、少し離れたエリアを紹介したい。まずは、歴史的な貴重な遺跡が多いキプロスのなかでも有名なスポット「クーリオン(Kourion)」だ。クーリオンは前々回紹介したリマソールに近く、リマソールからパフォスへ向かう途中にある。クーリオンの名を冠する関連遺跡は広範囲にまたがっているが、その中心となるエリアは、500mにわたった範囲。海にほど近く、ビーチでの食事と組み合わせて遺跡観光をするコースも楽しそうだ。
クーリオンは、紀元前11~12世紀頃にキプロス島に渡ってきたアカイア人が植民したエリアで、その後、紀元前3世紀ごろからのヘレニズム、紀元前後のローマ帝国、3世紀ごろからの東ローマ帝国と統治者が変わっていく時期の遺跡が集中している。例えば、東ローマ帝国統治時代初期の遺跡で、床にモザイクを見ることができる「エウストリオスの屋敷(House of Eustolius)」の隣は、紀元前のヘレニズム期の「シアター(The Theatre)」が残るといった具合。少し離れたところには、5世紀ごろとされる東ローマ帝国統治時代初期のギリシャ正教の礼拝堂跡があり、その隣にはローマ帝国期の神殿跡が残る。
崩壊した建物が多く、保存状態は必ずしもよくないが、エウストリオスの屋敷では現在、モザイクの保護と雨天時も観賞できることを目的とした屋根の設置工事をするなど、国による保護が積極的に行なわれている。キプロスで古代から中世の歴史巡りをするなら確実に立ち寄りたい場所だ。
オモドスとレフカラ、山間の村にキプロスの文化を見る
続いて紹介するのは、リマソールの北方にある「オモドス(Omodos)」という村。標高800~900mほどのところにある村で、平地から上ってくると明らかに気温が低い。ちなみに、キプロス島の最高峰は標高1952mの「オリンポス山(Mt. Olympos)」で、オモドス村はその裾野にある村の一つといった位置関係だ。
ちょっと固めだが保存性がよいという手作りパンやいろいろなお土産物を販売する「ジョージズ・ベーカリー(George's Bakery)」や、3世紀ごろに修道院が建てられ、現在は18世紀に建てられた教会を見学できる「聖十字架教会(The Monastery of the Holy Cross)」などを中心に街巡り。観光地としては手が入りすぎておらず、かといって見どころがないわけでもない、キプロスの素朴さを感じられる村だ。
オモドス村(Omodos Village)
Webサイト:Omodos Village
また、オモドスの村では、タベルナの「ストウ・キル・ヤンニ(Stou Kir Yianni)」でランチもいただいた。こちらはワイナリーも併設しており、2016年のIWSC(International Wine & Spirit Competition)で銅賞に輝いた「Delfis Rose Dry Wine」なども販売している。
ストウ・キル・ヤンニ(Stou Kir Yianni)
Webサイト:Stou Kir Yianni
さて、次が本キプロス観光レポートで最後に紹介する訪問地となる。ラルナカに近い「レフカラ(Lefkara)」という村だ。JATA(日本旅行業協会)のTeam EUROPE 観光促進協議会が2015年に選定した「ヨーロッパの美しい村30選」に入った村で、レオナルド・ダ・ヴィンチに関する逸話や、ユネスコ無形文化遺産に登録されている伝統手芸品「レフカラレース」で知られる。
JATAが“美しい村”に選定したとあって、ただ街を歩いているだけでもフォトジェニックな通りばかり。石畳の道や、石造りの家があるかと思えば、パステルカラーの家もあり、一つのエリアで時代の流れを感じることもできる。
また、レオナルド・ダ・ヴィンチもこの村を訪れたとされ、同地で生産されるレフカラレースをミラノ大聖堂の祭壇布として持ち帰ったという逸話や、レフカラ村にある「聖十字架教会(Holy Cross Church of Pano Lefkara)」の壁には、ダ・ヴィンチが作ったと伝えられる顔のレリーフが残る。近年になって、ミラノ大聖堂の祭壇布がレフカラレースであることが確認され、ダ・ヴィンチがレフカラ村を訪れていたことは確実視されているという。
そのレフカラレースは、キプロス島がヴェネツィア共和国統治下にあった時代、15世紀から16世紀ごろに作られはじめたとされており、母から娘へと受け継がれてきた。近年は若い継承者が減っていることが課題だ。
すべて手縫いで、長いものでは2年間かけて作るような大きなレースもあるという。デザインは幾何学的なものや十字架が多いが、製作者の自由。ただし、どのような模様であっても、ステッチの技法は伝統が守られている。
特に印象的な幾何学模様は、ユーロ導入前の1キプロス・ポンドにも描かれており、キプロスを代表する産品であることを象徴している。
やはり人によってクオリティには差があるそうで、訪問した「ルビス・レース・アンド・シルバー(Rouvis Lace and Silver)」でも、クオリティが低いものは10ユーロ台だが、同じサイズでもクオリティが高いものは数十ユーロの値が付いていた。
例えば、透かして模様を作るヘムステッチで作る幾何学模様の形の整い具合などが“腕の差”として現われるそうだ。同じデザインのレースも、実際に見比べてみると細かい仕上がりに差がある。
そんなわけで、基本的にはケチな記者、いざ買う段になって仕上がりと値付けのバランスで少しでもトクをしようと吟味をしてしまったのだが、ほのぼのとした村の雰囲気そのままに、お店の人からのプレッシャーもなく、いろいろ話をしながら納得いくまで選ばせてもらえた。
シンプルながら印象に残るデザインもさることながら、手触りもよい。自宅では壁に飾っているが、サイズもコースターからランチョンマット、テーブルクロスまでさまざまに実用できるものが揃っているので、友人にはもちろん、自分へのお土産にもお勧めのアイテムだ。
レフカラ(Lefkara)
Webサイト:Lefkara Village
ルビス・レース・アンド・シルバー(Rouvis Lace and Silver)
Webサイト:Rouvis Lace and SilverのFacebookページ(ギリシャ語)
以上のとおり、ぐるりとキプロスを巡ったレポートをお届けしてきた。日本からの直行便がないことから、心理的な距離感も遠い国ではあるが、そもそも地中海沿岸、とりわけリゾート地への直行便はほとんどないことを考えれば、行き先の選択肢から外す理由はあまりない。ビザについても、日本のパスポート所持者は90日間はビザ免除なので、入出国にかかる手間もない。
今回は動きまわって遺跡を中心に巡っているが、何度も記したとおり、歴史的にさまざまな文化を持つ民族が入れ替わり立ち替わり統治してきたキプロス島は、多様な文化がコンパクトな範囲にまとまっている点で特筆できる。
また、食事は日本人の舌に合う味付けのものが多いし、今回は触れる程度になってしまったが、欧米人のキプロス訪問の目的として多いリゾートでの長期滞在や、海や山へのアクティビティなど、楽しめることが多い。さまざまな欧州的文化を一つの国でまとめて味わえるといってもよいかも知れない。大陸から少し足を伸ばして、この島国を訪れてみてはいかがだろうか。