旅レポ

歴史が彩る地中海の島国・キプロスを巡る(その3)

首都・ニコシアと第2の都市・リマソールで、古代から現代に至るキプロスの長い歴史をたどる

キプロスの首都、ニコシアの目抜き通り「レドラ通り」

 パフォスがEU(欧州連合)の「欧州文化首都」に選定されたのを機に訪問したキプロス旅のレポート。今回は、首都のニコシア巡りから紹介していく。

 キプロスの首都である「ニコシア(Nicosia)」は、同国の公用語であるギリシャ語で「レフコシア(Lefkosia)」とも呼ばれる。ガイドブックや資料によって両方の表記が使われているので、どちらも同じ都市を表わすことは覚えておいた方がよいだろう。

 また、キプロス島の北部はトルコ共和国の後ろ盾による北キプロス・トルコ共和国が実効支配しているが、ニコシアの街も分断されており、こちらも政庁を置いている。

 前回も触れたが、ニコシアの街は16世紀に作られた城壁を境に、内側が“旧市街”、外側が“新市街”と区分されている。この城は典型的な星型要塞を持ち、現在残っている城壁はヴェネツィア共和国統治時代の16世紀に作られたもの。内側は歴史を感じさせる建築物も多く、観光では主にこちらを巡ることになる。

 その目抜き通りが「レドラ通り」で、1ブロック隣の「オナサグル通り」と並んで多数のお店が並ぶ。地元のレストランやお土産物屋さんなどにブランド品を扱うブティックやマクドナルドなどの外食チェーン店のような外資系ショップもあり、とてもにぎやかだ。

 近くにある「シャコラス・タワー(Shacolas Tower)」は、11階が展望デッキ(入場料は2.5ユーロ=約340円、1ユーロ=約135円換算)になっており、ニコシアの街を東西南北に上から眺めることができる。各方向の主要スポットを紹介するパネルも用意されているので、ニコシア観光の前後に訪れると違う視点で楽しめてよりよいかもしれない。

ニコシア(Nicosia)/レフコシア(Lefkosia)

Webサイト:ニコシアのWebサイト(英文)

16世紀の城壁跡。その内側が“旧市街”、外側が“新市街”と区分される
ニコシアの目抜き通り「レドラ通り」。雨よけの幕が張られてアーケードのようになっている
旧市街では、このようなバルコニーがせり出したアパートメント住宅を多く見かけた
古い街並みをそのまま活かしており、道路は入り組んでいるので方向感覚を失わないよう注意が必要
ニコシアの街並み。黄色い建物は市が運営する博物館
ニコシア市のインフォメーションセンター付近。お土産物屋さんやカフェが集まっていた。この十字の像は「ピクロライト」というキプロス土産の定番。理由はのちほど
レドラ通りにほど近い場所に、バックギャモンに興じるおじさんが集まる雰囲気のよいカフェがあったので一休み。コーヒーはいわゆるトルココーヒーで、オスマン帝国統治時代からの文化の継承を感じさせるが、ここではあえてキプロスコーヒーと呼ぼう
シャコラスタワー11階の展望デッキ。4方向に窓があり、方角ごとに有名なスポットを紹介するパネルが用意されている
西

 続いては、同じ旧市街のエリアではあるが、レドラ通りからは少し離れたスポットを紹介したい。まずは、「聖ジョン教会(St John’s Cathedral)」だ。旧市街の東寄りに位置する。

 聖ジョンは14世紀にキプロスを訪れた伝道者。この聖ジョンが建てた修道院を、17世紀(1662年)に再建したものが、現在の聖ジョン教会のルーツとなる。キプロス正教会の教会で、建築年からも想像できるとおりビザンチン様式で建てられている。

 撮影が許可されなかったため記事中では教会内の写真をお目にかけられないが、シンプルな外観とは違って非常に豪華。特にキリストの家系をたどれるという壁に描かれたフレスコ画が見事で、これは建築当時のものがそのまま残っているという貴重なものでもある。

 この聖ジョン教会には、オスマン帝国統治時代の生活を知ることができる博物館(Cyprus Folk Art Museum)や、ビザンツ文化を紹介する博物館&美術館(Byzantine Museum)、キプロス独立時の初代大統領で大主教のマカリオス三世の邸宅(Archbishop’s Palace)が隣接しているほか、歩いて数分のところにはイギリスからの独立記念碑(Liberty Monument)もある。

 城門の一つで、現在は公会堂として使われているファマグスタゲート(Famagusta Gate)も近いので、キプロスの歴史の一端を垣間見るのにお勧めのエリアだ。

聖ジョン教会(St John’s Cathedral)

Webサイト:Agios Ioannis(St John’s)Cathedral(英文)

聖ジョン教会(Agios Ioannis(St John’s)Cathedral)
外観はシンプルだが、内部には豪華かつ建築当初の貴重なフラスコが残る
ビザンツ(東ローマ帝国)時代や、オスマン帝国時代の品を展示する博物館が隣接
独立キプロスの初代大統領であるマカリオス三世の邸宅
当時使用されたクルマ
イギリスからの独立記念碑。牢屋からの脱出をモチーフにしている
現在は公会堂として使われているファマグスタゲート

 ニコシアの観光スポットとして最後に紹介するのが、「キプロス考古学博物館(Cyprus Archaeological Museum、キプロス博物館/Cyprus Museumとも呼ばれる)」だ。旧市街にほど近いものの、厳密には城壁の西側に建っている。入場は4.5ユーロ(約610円)。

 キプロス島における考古学の研究はイギリス統治時代にはじまったそうで、研究のために発掘されたものが数多く展示されている。展示品はほとんどが紀元前のもの。

 そうした考古学的な発見により、キプロスの歴史は紀元前9000年ごろから人類が住んでいたと考えれており、その後、新石器、土器、ヘレニズム文化、ローマ文化などが流入して作られた道具や像、貴金属などが展示されている。

 特に有名なのが、人が手を広げて、膝を折り曲げるようにしている十字の小さな石像で、「ピクロライト」と呼ばれるもの。古いものでは紀元前2000~3000年ごろのものがある。先述したお土産物屋さんの十字像がこれだ。

 キプロスは、古くから文明が栄えたエジプトとギリシャにはさまれた場所に位置しており、海を隔てているとはいえ、当時の先進的な文化が入りやすい立地だったのだろうと感じられる。ちょっと大げさかもしれないが、日本では特別展などでしかお目にかかれないような展示品が常設されているといっても過言ではない、古代史を生で見られる博物館として必見の場所という印象を受けた。

キプロス考古学博物館(Cyprus Archaeological Museum)

所在地:Mouseiou 1, Nicosia
Webサイト:Cyprus Archaeological Museum(英文)

キプロス考古学博物館(Cyprus Archaeological Museum、キプロス博物館/Cyprus Museum)
紀元前数千年という古代の発掘物から、ヘレニズム時代、ローマ時代のものまで、キプロスの考古学的発見物が多数展示されている
この石は紀元前9000年ごろのものと見られ、人工的な曲線であることから、このころにはすでに人が住んでいたことと予想されている
人が手を広げて、膝を折り曲げているような独特のスタイルの「ピクロライト」

南部の街・リマソールへ。道路をはさんで教会とモスクが並ぶスポットも

 さて、ニコシアの街を堪能したあとは、キプロス南部の街であるリマソールへ。ニコシア/レフコシアと同様に英語とギリシャ語で呼び方が異なり、英語では「リマソール(Limassol)」、ギリシャ語では「レメソス(Lemesos)」となる。“キプロス第2の都市”とも形容され、人口がニコシアに次いで多い。

 リマソールは南側が海に面しており、港湾都市として栄えた街で、現在もクルーズ客船が寄港する海の玄関口になっている。

 中心部へ行く前に、まずは昼食を……ということでニコシアから向かう途中の海沿いにあるレストラン「サラッサ・レストラン・アンド・カンファレンス(Thalassa Restaurant & Conference)」に立ち寄った。ここはホテルの併設レストランで、バンケットルームも備えており、ウェディングプランなども提供している。

 レストランは外光が差し込む開放的な作りで、外には青い海とビーチが広がっている。ウェディングでの利用にも納得のロケーションだ。

 海沿いのレストランらしく、メニューはシーフードが中心。揚げ、煮込み、蒸し、とさまざまな調理法でいただける。味付けはシンプルだが加減が絶妙で、素材の美味しさがそのまま舌に広がるイメージ。クセがなく、日本人に合う味わいだ。

サラッサ・レストラン・アンド・カンファレンス(Thalassa Restaurant & Conference)

所在地:P.O. Box 54871, 3728 Limassol
Webサイト:Thalassa Restaurant & Conference(英文)

外を見ると青い海が広がる海沿いのレストラン

 リマソール周辺の海沿いには新しい建物が続々と建てられており、ニコシアからリマソールへ向かうと近代的な雰囲気を感じられるエリアも多いが、観光スポットとしては東ローマ帝国統治時代からの色合いを残す“旧市街”と呼ばれる地域が中心となる。

 また、これは別記事でお伝えする予定だが、古代都市遺跡の「クーリオン(Kourion )」といった歴史的価値の高い遺跡もこの地域にある。旧市街地には、東ローマ帝国統治時代のギリシャ正教会と、オスマン帝国統治時代のモスクが並んで建つような場所もある。人類が空へ飛び立つ以前は、海を渡るための道具として主に船を用いていたわけで、多様な文化が港湾都市である同地に根付くのは必然だったとも思う。

 そんな歴史の象徴的なスポットが、「聖アントニオス教会(Saint Antonios Church)」と「コプルル・モスク(Koprulu Mosque)」。道路をはさんでほぼ隣という位置関係に異なる宗教施設が建っており、角度によっては教会の鐘楼とモスクの塔を並んで見ることができる。さまざまな宗教的背景を持つ国が入れ替わるようにこの島を統治していたことを象徴するかのような場所だ。

 旧市街地にもそうした教会やモスクなどが点在する一方で、マリーナが近いこともあってカフェやレストランも多く、じっくり時間をかけて歩きまわりたくなる街だ。

リマソール(Limassol)/レメソス(Lemesos)

Webサイト:リマソールのWebサイト(英文)

道路をはさんで並ぶ聖アントニオス教会(Saint Antonios Church)とコプルル・モスク(Koprulu Mosque)
聖アントニオス教会
コプルル・モスク
キプロス中世博物館(Cyprus Medieval Museum)。リマソール城跡地を博物館にしており、中世のオリーブオイル作りに用いられた道具や、モザイクが残る
リマソールの旧市街地に建つ「アヤ・ナパ教会(Ayia Napa Cathedral)」。19世紀後半~20世紀にかけて建築されたギリシャ正教会の教会
奥に見える天井がドームになっている建物は「パナギア・カトリック教会(Panagia Katholiki Church)」
リマソール旧市街の街並み
旧市街の港のすぐ横に作られたマリーナ。観光案内所もある

眺望抜群の5つ星ホテル「セント・ラファエル・リゾート」に宿泊

 この日の宿泊先は、リマソールの旧市街から東へ10kmほどのところにある5つ星ホテル「セント・ラファエル・リゾート(St. Raphael Resort)」。目の前にビーチが広がる好立地のホテルで、272の客室の90%近くは海やマリーナを望める向きになっている。

 もっとも多いのが「シービュー」と呼ばれるタイプの部屋で、小さなバルコニーから海を望むことができる。宿泊した部屋からは夕方や早朝に赤く染まる風景も見ることができ、非常にリラックスできる。

 また、リゾートホテルらしく、ビーチやプール、スパ、ジムなどの施設を備えるほか、ヨガやダイビングなどのアクティビティメニューも案内している。欧州からキプロスを訪れる人はリゾート地として長く滞在する人が多いそうで、このようなホテルが好まれるのだろう。

セント・ラファエル・リゾート(St. Raphael Resort)。エントランスからリッチな雰囲気が漂う
ロビーは広く、吹き抜けのロビーを中心に部屋が配置されている
シービューの客室。その名のとおりバルコニーから海を望める
客室の設備。コンセントはBFタイプのほか、欧州に多いCタイプを装備。アメニティは同ホテルのシグネチャブランド品だ
8つのトリートメントベッドやプールを備える「セレニティ・スパ(Serenity Spa)」
ジム
プールは2つ。ビーチで時間を過ごすこともできる

 レストランもエリア内に7つあり、長期の滞在でもいろいろな味で飽きさせない。夕食は、そんなレストランの一つ「パラディウム(The Paradium)」でいただいた。ここはビュッフェスタイルのレストランで、料理は一般的な洋食メニューが並んでいたが、特徴は日替わりで利用客を楽しませるイベントを実施していること。

 この日は「キプロス・ナイト」という、伝統的なダンスを披露するイベントが行なわれていた。観客(=食事をしに来ているお客さん)を巻き込んでのパフォーマンスもあり、食事だけでない思い出を残せるホテルだった。

セント・ラファエル・リゾート(St. Raphael Resort)

所在地:Amathountos Avenue, P.O. Box 51064, 3594 Limassol
Webサイト:St. Raphael Resort(英文)

「パラディウム」はビュッフェスタイルのレストラン
この夜のイベントは「キプロス・ナイト」。伝統的なダンスで訪れていた人を楽しませた
セント・ラファエル・リゾートから望む朝焼け。次回はさらに東に向かい、2017年の欧州文化首都に選定された「パフォス」を訪れる

編集部:多和田新也