旅レポ

「い・ろ・は・す 天然水」が生まれる名水地の一つ、富山県を訪ねる(その2)

1975mの高低差がある黒部アルペンルートで黒部ダムに行く

富山県のなかでも大変人気のある観光スポット「黒部ダム」。年間100万人の観光客が訪れる

 良質な水に恵まれた富山県。前日はその水を使った「い・ろ・は・す 天然水」が製造されている北陸コカ・コーラの砺波工場を見学させてもらった。

 この日(6月6日)は予報どおり天候もよく、晴れ渡っていたので、立山のふもとにある人気の観光地「黒部ダム」を目指すことにした。

水と山と空を楽しめる富山県の人気観光ルート

 立山は飛騨山脈(北アルプス)の北部にある立山連峰の主峰で、3000m級である雄山(標高3003m)、大汝山(標高3015m)、富士ノ折立(標高2999m)の3つの峰からなり、富山県と長野県の県境に近い場所に位置する。富山市からは直線距離で約37kmの場所にあり、そこから見える雄大な山並みは街のシンボルになっている。

 そのふもとにある黒部ダムは、膨大な月日と資材、人員を動員して完成した日本が誇る巨大な水力発電用のダム。映画やドキュメンタリー番組が制作されていることもあるが、その風光明媚なロケーションから海外より訪れる観光客も多い。

 今回は、電車とバス、ロープウェイなどを使って、富山県の立山駅から長野県の扇沢駅まで横断する「黒部アルペンルート」を通ってみた。とにかく乗り継ぎが多く、ハイシーズンになると切符を買うのもままならないとのことなので、筆者は立山駅で扇沢駅まで行ける切符を一括で購入した。これなら降りるたびに次の交通機関の切符を買う必要もなく、並ぶ手間も省けるというものだ。

立山から扇沢まで、北アルプスを貫く人気の山岳観光ルート。とにかくアップダウンが激しい
立山からの料金表
立山から扇沢までを一括で購入。それほど混雑しているわけではなかったが、手間が省けるのはうれしい
電鉄富山駅(富山県)から扇沢駅(長野県)までの利用した交通機関

電車:電鉄富山→立山(富山地方鉄道)1200円
ケーブルカー:立山→美女平(立山ケーブルカー)720円
バス:美女平→室堂(立山高原バス)1710円
トロリーバス:室堂→大観峰(立山トンネルトロリーバス)2160円
ロープウェイ:大観峰→黒部平(立山ロープウェイ)1300円
ケーブルカー:黒部平→黒部湖(黒部ケーブルカー)860円
トロリーバス:黒部ダム→扇沢(関電トンネルトロリーバス)1540円

市街地を抜け、水田地帯を通り、緑豊かな山のふもと立山駅まで、富山地方鉄道で向かう
立山駅から美女平駅(標高977m)へ

 立山駅から美女平駅まではケーブルカーで一気に500mほど斜面を駆け上がる。1.3kmほどの距離だが、急峻な坂(斜度は最大で29度)を登っていくので、みるみると眼下に景色が流れていくのが爽快で気持ちいい。7分ほどで美女平駅に到着する。

風情のある立山駅の駅舎。切符売り場は改札を抜けた外にあるので要注意。ハイシーズンになると、こちらの掲示板に待ち時間が掲示されるようだ
ケーブルカーの改札前で黒部ダムや室堂の現在の様子をチェックできる
美女平駅から室堂駅(標高2450m)へ

 美女平駅から室堂駅までは50分間のバス旅になる。23kmの道のりを右へ左へカーブしながら走っていくのだが、尾根伝いなのでそこかしこで開けた谷やこれから向かう立山連峰が顔を出す。周囲の景色も、ブナ林や杉林といった緑豊かな低山帯から、亜高山帯・高山帯で見られる低木のハイマツ林や湿地帯になるなど、バリエーションに富んでいる。

 そして、室堂近くになると巨大な雪の壁が道路に出現し(時期にもよるが高いところで15~20m)、すぐそばを歩ける「雪の大谷ウォーク」(6月22日まで)を楽しむ観光客が目に入ってくる。室堂駅までは周囲にいくつものトレッキングコースがあり、弥陀ヶ原(標高1930m)、天狗平(標高2300m)といった停留所も2カ所ある。

室堂駅へ向かうバスは4列シートの観光タイプ
道路わきにある樹齢300年以上の杉の前では一時停止してくれる
こらちは落差が350mで日本一とされることもある「称名滝」
標高が上がるにつれ、外は雪景色になっていく。室堂駅が近くなると、両脇に雪の壁が現われる
室堂駅から大観峰駅(標高2316m)へ

 室堂駅からは下りに。電気で走るトロリーバスで10分ほど、立山連峰の中腹を貫通するトンネルの中を延々と進む。案内ガイドに「観光と登山の拠点としてもっとも賑わいを見せる場所です」と書いてあるとおり、室堂駅のトロリーバス乗り場は着いて早々に乗り込む観光客でごった返していたのには少々驚いた。お盆などのハイシーズンになると1時間30分以上待つというのもうなずける光景を前に、周囲を散策したい気持ちを抑えてバスに乗り込んだ。

架線からの電気で動く、排気ガスのないトロリーバス。車体はバスでも鉄道の一種
立山連峰の真下を反対側まで貫通するトンネルの中を延々と進む
大観峰駅から黒部平駅(標高1828m)へ

 大観峰駅までたどり着けば、黒部ダムまであと少し。黒部湖に赤沢岳や針ノ木岳といった後立山連峰の雄大な景色が見れる展望台が屋上にあるので、少し寄り道をしてみた。大観峰駅は室堂駅と標高はさほど変わらない2316mと大変高い場所にあるので、屋外に設けられた展望台に出ると辺り一面が白銀の世界。そんな別世界から望む大パノラマは言葉にならない美しさだった。その展望台から見えるロープウェイで、今度は黒部平駅まで約500mの高さを7分で下っていく。

大観峰駅の屋上展望台から見える大パノラマ。赤沢岳、スバリ岳、針ノ木岳といった壮大な山並みに加え、眼下には美しい黒部湖がたたずむ景色はまさに絶景!
その絶景を見るためには54段(+5段)の階段を登る必要があり、階段のところどころに「あと〇〇段です。もう少しです」と応援シールが貼られている。+5段は展望デッキに登るところで、「すいません! あと5段ありました」の看板には笑ってしまった
ロープウェイで黒部平駅まで下って行く。標高が2000mより下になると雪もだいぶ消え、緑が顔を出してくる
黒部平駅から黒部湖駅(標高1455m)へ

 黒部平駅まで来れば、あとは黒部ダムまでケーブルカーに乗るだけ。展望台に出るとまだまだ雪は残っていたが、大観峰駅と異なり、所々に緑が見られた。こちらの黒部ケーブルカーは立山ケーブルカーと違い、トンネルの中を延々と進んでいく。

黒部平からの景色も素晴らしい。立山連峰に後立山連峰など、周りすべてが美しい山々に囲まれた極上の空間にきっと誰もが満足するはず
黒部湖駅まではケーブルカーで800mの距離を5分ほど進む

黒部ダムに到着!

 8時に富山駅を出発して黒部湖駅に到着したのは11時30分過ぎ。3時間30分かけて、ようやくたどり着いたと思うと感慨もひとしお。ダムに続く道はひんやりとした薄暗いコンクリートのトンネルだが、出口に近付くにつれて差し込む日差しも強くなり、それと同時に期待感も盛り上がる。外に出ると、右(南側)にはエメラルドグリーンの黒部湖、左(北側)にはあまりの高さに川底がはるか遠くに見える、高さ186mのコンクリートの壁。左右でここまで景観の違いがある風景も珍しい。

 レストハウスや展望台は堰堤を渡った先の赤沢岳側にある。ちょうどこの日から展望台に続く外階段や放水観覧ステージの安全確認が終わって開放されていたので、ここぞとばかりにさまざま角度から黒部ダムを堪能させてもらった。黒部ダムといえば大迫力の観光放水が有名だが、残念ながら筆者が訪れたときはまだ始まっていなかった。2017年は6月26日から10月15日の間、朝から夕方まで行なわれるそうだ。ちなみに黒部ダムは冬季は閉鎖されるので、2017年は11月30日まで訪れることができる。

黒部ダム

形式:アーチ式ドーム越流型
高さ:186m
堤頂長:492m
総貯水量:約2億m3
着工:1956年(昭和31年)
完成:1963年(昭和38年)
事業主:関西電力
Webサイト:黒部ダム

6月でもトンネル内はかなりひんやりとしている
黒部湖駅側から黒部ダムにいよいよ入る
黒部ダムの周辺マップ
南側は穏やかな黒部湖
長さ492mの堰堤。アーチ型ダムなので、ゆるやかなカーブを描いている
北側は黒部川と巨大なダムの全景が姿を現わす
なんともいえない美しさの黒部湖。日本一高い場所を30分で一周する遊覧船「ガルベ」に乗って、景色を満喫するのもいい。乗り場の近くにはトレッキングコースもある
レストハウスの1階、2階では食事がとれる。有名な黒部ダムカレーも置いてある。3階は資料館になっており、黒部ダム建設時の壮絶なヒストリー映像も流されている
レストハウスわきには外階段があり、展望台やレインボーテラスに行くことができる。展望台は地中トンネル内の階段からも行けるが、どちらも200段以上を登るので心構えをしておこう
展望台からの眺めその1
展望台からの眺めその2
レインボーテラスからの眺め
黒部ダム建設の際に最大の難所であった破砕帯だが、そこから湧き出る水は冷たく澄んでおり、観光客にも人気。関電不動産開発より「黒部の氷筍水」という商品名でボトリングされたものも売られている
黒部ダム駅から扇沢駅(標高1433m)へ

 黒部ダム観光が終わったら、展望台近くにある黒部ダム駅からトロリーバスで扇沢駅までの6.1kmを抜けると黒部アルペンルートも終わりだ。こちらのトンネルは黒部ダム建設時に資材を運ぶために作られたもので、まさに黒部ダムができるかできないかの命運を握っていた場所。破砕帯を突破する壮絶なエピソードはあまりにも有名であり、トンネル内にも破砕帯区間を表示する案内板が掲示されていた。

 また、通過する後立山連峰は富山県と長野県の県境でもある。そんな歴史やいろいろなことに思いを馳せていると乗車時間の16分もあっという間に過ぎ、緑あふれる扇沢駅に到着する。

 扇沢駅からは、JR大糸線に乗るなら信濃大町駅行きの路線バスが出ているのでそれに乗り込む。筆者のように北陸新幹線を利用する場合は、長野駅東口までの特急バスがあるのでそちらを選ぼう。

 富山の水を体験する今回の旅、その水が生まれる雄大な山々を肌で感じられてとても満足いくものだった。北陸新幹線ができたことにより、首都圏からは遠い存在だった富山県がとても身近になった点も挙げておきたい。もう一度、じっくりと富山県に訪れてみたいと思わせるだけの感動が胸に残る旅だった。

関電トンネルを通るトロリーバスには、黒部ダムのマスコットキャラクター「くろにょん」が描かれている
扇沢駅のレストハウスで食べられる元祖「黒部ダムカレー」(880円)。40年以上、当時の味を守り続けているそうだ
路線バスのほか、長野駅に向かう特急バス(アルピコ交通)もある。扇沢駅から長野駅東口までは2600円

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。