旅レポ
アメリカ音楽の聖地ナッシュビルでカントリーミュージックに触れてきた
ボブ・デュラン特別展開催中の「カントリー・ミュージック博物館」
2016年11月17日 18:32
ナッシュビルは、アメリカ南部のテネシー州にある都市だ。自ら「ミュージック・シティ」と名乗ることからも分かるように、カントリーミュージックをはじめとするアメリカ音楽の中心地でもある。日本からナッシュビルを訪れる場合、日本からは直行便が運航されていないため、乗り継ぎが必要となる。今回は、ミネアポリス セントポール国際空港へ羽田空港から直行便を運航しているデルタ航空を利用し、ミネアポリス経由でナッシュビルを訪れた。関連記事「デルタ航空のミネアポリス直行便の利便性を確認してきた(後編)」でお届けしたように、ミネアポリス セントポール国際空港はデルタ航空がハブ空港として活用していることもあって楽に乗り継ぎができる。
ミュージック・シティと呼ばれるナッシュビルは、カントリーミュージックをはじめとするアメリカ音楽の聖地だ。もともとは地元ラジオ局が始めた音楽番組がきっかけだそうだが、それ以降アメリカの大手レコード会社や独立系レーベルの録音スタジオが多数ナッシュビルに集まり、“ナッシュビル・サウンド”と呼ばれるアメリカ音楽の中心地として発展してきた。現在もナッシュビルは街中が音楽に包み込まれており、一日中生演奏のサウンドが絶えることがないほどだ。
絶対に外せない「カントリーミュージック殿堂博物館」
そんなナッシュビルで絶対に外せない場所が、「カントリーミュージック殿堂博物館」だ。こちらには、カントリーミュージックに関連するありとあらゆるものが展示されている。
特に大きな見どころとなっているのが、実際にミュージシャンが使っていた楽器や衣装などの展示物だ。カントリーミュージック黎明期のスターや現代のスター達が使っていた衣装や楽器が多数展示されており、衣装や楽器がどのように変遷してきたのか目の当たりにできる。
カントリーミュージックの人気の高まりや、ラジオからテレビへと放送媒体が変わっていくにつれてどんどん衣装が派手になっていく様子や、楽器もビンテージもののバンジョーや派手な装飾が施されたギターなど、カントリーミュージックの変遷や歴史が手に取るように分かる。
また、エルヴィス・プレスリーやニール・ヤング、ジョニー・キャッシュなど、日本でも人気のあるミュージシャンも多数取り上げられている。特に、アメリカでも未だに高い人気を誇るエルヴィス・プレスリーや、地元ナッシュビル出身のジョニー・キャッシュは、特に多くの展示スペースが割かれており、エルヴィス・プレスリーが実際に使っていたクルマが展示され、ジョニー・キャッシュが出演する番組のビデオも流されている。
殿堂博物館ということで、カントリーミュージックの殿堂に選ばれている全ミュージシャンの楯を展示する専用ホールも用意。殿堂入りの年やミュージシャンの紹介文だけでなく、それぞれの似顔絵も彫り込まれている。おなじみのミュージシャンを多数見つけられるので、好きなミュージシャンを探すだけでも十分に楽しめるだろう。
もちろん、博物館では有名ミュージシャンの楽曲も数多く楽しめるようになっている。さまざまな場所でビデオが流されていたり、有名ミュージシャンのアルバムに収録されている楽曲を試聴できるコーナーもあるので、カントリーミュージック好きなら時間を忘れて楽しめるはずだ。
ところで、今回訪れたときには、ボブ・ディランの特別展が開催されていた。ボブ・ディランは、フォークソングシンガーというイメージが強いが、1960年代後半にナッシュビルに拠点を移して活動していた時期があり、ナッシュビルとも縁が深い。
また、ジョニー・キャッシュとも親交があり、特別展でもボブ・ディランとジョニー・キャッシュ双方に関連する内容の展示も数多く用意されていた。2016年のノーベル文学賞を受賞したことで一躍脚光を浴びているが、ボブ・ディラン特別展は2016年12月末まで開催が予定されているので、興味のある方はぜひとも足を運んでみてはいかがだろうか。
カントリーミュージックの象徴的なライブ会場「ライマン公会堂」
カントリーミュージック殿堂博物館の徒歩圏内に、もうひとつ外せない名所がある。それが「ライマン公会堂」だ。
もともとは、ナッシュビルで蒸気船の船長として財をなしたトーマス・ライマンによって1892年に建てられた礼拝堂だ。カントリーミュージックのライブハウスとして、数多くのミュージシャンがライブを行なったことで非常に有名な場所だ。
このライマン公会堂の名を、全米はもちろん世界的に広めたのが、1925年に始まったラジオ番組「グランド・オール・オープリー」だ。毎週土曜日に放送されるカントリーミュージックの公開ライブ放送で、現在でも放送が続いている長寿番組だ。
そして、このグランド・オール・オープリーは一時期ライマン公会堂をライブ会場として放送されていた。また、ナッシュビル出身のミュージシャン、ジョニー・キャッシュが出演するテレビ番組「The Johnny Cash Show」も、ライマン公会堂で収録され放送されていた。
それによって、ライマン公会堂はカントリーミュージックの象徴的なライブハウスとして定着し、現在では「カントリーミュージックの教会」と呼ばれ、カントリーミュージックの聖地として親しまれている。
現在でも有名ミュージシャンによるライブが行なわれているが、ライブを行なっていない時間帯には内部を見学できるようになっている。建物の内部を自由に見学できるが、見どころはやはり舞台や観客席周辺だ。観客席は2階建ての構造となっており、木造のベンチが並べられている。ベンチはライマン公会堂がライブハウスとして利用されるようになった当時から使われているそうで、歴史を感じるのはもちろん、そのモダンなデザインにも感銘を受ける。
また、客席後方には、実際にライブを行なったミュージシャンの舞台衣装や楽器も展示されている。もちろん、ライマン公会堂でのライブで使われたものばかりだ。このほか、通路などにはライマン公会堂で行なわれるライブのポスターも多数展示されており、そちらも必見だ。
ジョニー・キャッシュ好きは外せない「ジョニー・キャッシュ博物館」
カントリーミュージシャンとして、日本でも人気のあるジョニー・キャッシュ。アメリカでも特に人気が高く、地元ナッシュビル出身ということで、ほかのミュージシャンと比べても一目置かれる存在となっている。そして、ジョニー・キャッシュ好きなら必ず訪れたい場所が「ジョニー・キャッシュ博物館」だ。文字通り、ジョニー・キャッシュだけを取り上げた博物館で、さまざまな品が展示されている。
ジョニー・キャッシュが実際に使っていたステージ衣装や楽器は、年代ごとに並べられており、その変遷を確認できる。また、アルバムジャケット、ゴールドディスクやプラチナディスクも多数展示されており、その数から人気の高さが容易に伝わってくる。年代ごとにジョニー・キャッシュの楽曲を視聴できるコーナーもあり、ジョニー・キャッシュの歌声をじっくりと堪能することも可能。そのほか、ジョニー・キャッシュ自身が描いたイラストや、自宅で使っていた私物に至るまで、それこそありとあらゆるジョニー・キャッシュゆかりの品々が展示されており、ファンにはたまらない内容となっている。
ここまで紹介した、カントリーミュージック殿堂博物館、ライマン公会堂、ジョニー・キャッシュ博物館は、ナッシュビルのダウンタウン中心部、徒歩で回れる範囲内に位置しているので、ナッシュビルのダウンタウンを散策しながら巡るといいだろう。
プレスリーが多くの楽曲を録音したスタジオ「RCA Studio B」
エルヴィス・プレスリーもナッシュビルにゆかりがあり、色々な名所が残っている。そのなかで特に見ておきたいのが、「RCA Studio B」だ。
RCAビクターレコード(現RCAレコード)をはじめ、さまざまなレーベルが録音スタジオとして活用してきたことや、“ナッシュビル・サウンド”と呼ばれるカントリーミュージックの人気を下支えしたことから、こちらもカントリーミュージックの聖地としてファンに親しまれている存在だ。
このRCA Studio Bではさまざまなスターが楽曲の録音を行なっているが、なかでも有名なのがエルヴィス・プレスリーで、実に250を超える楽曲をRCA Studio Bで録音したという。RCA Studio B見学ツアーでは、プレスリーを中心として、実際にスタジオで録音された楽曲や、ミュージシャンが録音を行なっている様子を収録したビデオを流しつつ、説明員がスタジオの歴史やミュージシャンの逸話などを詳しく紹介してくれる。スタジオは、実際に使われていた当時の様子がほぼそのまま残されており、ガラス越しにスタジオ内部の様子を見るだけでなく、実際にスタジオ内部も見学できる。
スタジオ内はプレスリーが使ったピアノが設置されており、実際にそのピアノの前に座って記念写真を撮ることも可能。スタジオ内や展示物を自由に撮影していいという点は、ファンにとって非常に嬉しい部分だろう。また、スタジオ内では往年の名曲も流してくれるが、音響のよさは特筆すべき部分で、それだけでも感動するほどだ。スタジオ自体は平屋建てで規模は想像以上に小さいが、そこに詰まっているものはとてつもなく大きいと実感できた。
なお、RCA Studio Bの見学ツアーは、カントリーミュージック殿堂博物館で申し込む必要がある。スタジオ自体はカントリーミュージック殿堂博物館から車で10分ほどの場所にあが、見学ツアーはカントリーミュージック殿堂博物館からバスで出発し、見学後にカントリーミュージック殿堂博物館に戻ってくるため、レンタカーなどの足がなくても大丈夫。カントリーミュージック殿堂博物館を訪れる際には、同時にRCA Studio B見学ツアーにも申し込むことをお勧めしたい。
ライブハウスでスターを夢見るミュージシャンの歌声に触れる
ナッシュビルダウンタウンには、ライブステージを備えるレストランやバーが多数あり、毎夜さまざまなミュージシャンがライブ演奏を行ない、大いに盛り上がっている。こういった部分からも、ナッシュビルで音楽がいかに愛されているかが伝わってくる。
そういったなか、今回はナッシュビルでも伝説的なライブハウスとして有名な「The Bluebird Cafe」。新人ミュージシャンの登竜門として有名なライブハウスだそうで、連日スターを夢見るミュージシャンがライブを行なっているそうだ。今回は平日に訪れたにもかかわらず、オープン前から大勢の人が行列を作っていた。
店内はそれほど広くなく、テーブル席や後方の座席を含めても50人入れるかどうかといった規模だ。そして、ステージ前の席からは手を伸ばせばミュージシャンに届くほどで、ステージと観客との距離の近さも、このライブハウスの大きな魅力となっている。
今回は、メジャーデビュー前の4人の女性ミュージシャンがステージに立ち、それぞれが作詞作曲したオリジナルソングを交互に披露した。実際にステージに立つ以上、相当レベルの技量を備えるミュージシャンであることは間違いないと思うが、緊張のためか、時折音程を外したり、ギターの演奏を間違える場面も見られた。ただ、初々しさとともに、将来の可能性も伝わってくるような内容で、応援したいと思わせるものだった。
また、観客も演奏が終わるたびに大きな拍手を送るなど、1時間半ほどのライブの間、店内は大いに盛り上がりを見せた。有名ミュージシャンのライブでは味わえない、楽しさと温かさに包まれるひとときだった。
The Bluebird Cafeは、ナッシュビルのダウンタウンからクルマで15分ほどの郊外に位置している。もし訪れる場合には、バスを使うか、レンタカーまたはタクシーの利用が必須となる。ただ、音楽好きなら、そこまでして訪れる価値は十分にあるので、ナッシュビルを訪れた際には、ぜひチェックしてみてもらいたい。
このようにナッシュビルは、とにかく音楽にあふれる街だった。カントリーミュージックが中心で、訪れている人もどちらかというと年齢層が高いという印象もあったが、逆に街全体がのんびりとした雰囲気で、とても居心地がよかった。また、朝、昼、夜と、どの時間帯でも必ず音楽が聞こえてくる点も、ほかの街にはない大きな魅力だろう。
なかなか行く機会のない街かもしれないが、カントリーミュージック好きなら、わざわざ足を運ぶ価値は十分にあるので、ぜひとも検討してみてもらいたい。