ニュース

「バズった場所に寄り添う集客を」インバウンド拡大に向けて、JATAが観光庁に要望。通訳ガイドに在留外国人の活用ほか

多年度展開を目指す「訪日版デスティネーションキャンペーン」も

2026年4月23日 発表
要望書の内容を説明する一般社団法人日本旅行業協会 訪日旅行推進部長 齋藤浩之氏

 JATA(日本旅行業協会)は4月23日、霞が関の本部で定例会見を開催し、4月13日に観光庁長官へ提出した要望書「訪日旅行の持続的発展に向けて~第5次観光立国推進基本計画目標達成のために~」の内容について説明を行なった。登壇者は、訪日旅行推進委員会 副委員長の石田恒夫氏と、訪日旅行推進部長の齋藤浩之氏。

 3月27日には、2026年度~2030年度を対象とした「第5次観光立国推進基本計画」が閣議決定。3つの方針のうち、1つは「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」としている。

 今回の要望書は上記の方針を達成するべく、JATAが2023年から4回にわたって実施した、旅行会社・宿泊施設・自治体・DMOなどへの「インバウンド受入拡大に向けた意識調査」で抽出した課題をもとに、観光庁との対話を重ねてまとめたもの。

1. 地方誘客の一層の推進に向けた官民一体となった総合的なプロモーションの実施
(1)訪日版デスティネーションキャンペーンの実施
(2)海外旅行博などへの戦略的出展の推進ならびに共同出展者の連携強化

2. 観光の質的向上を担う観光人材の育成強化
(1)通訳ガイド(全国通訳案内士)の質・量の拡充を通じた観光の質的向上
(2)地方誘客を担う観光人材育成(在留外国人活用・アドベンチャーガイド育成など)

3. 国際交流機会の創出による若者の国際教育強化
 海外教育機関との交流奨励プログラムの実施

 最大の課題である「地方誘客の拡大」と観光人材の不足などを解決し、若年層を中心とした国際交流を推進するため、大きく分けて3分野・5つの具体的な対策を要望している。

 訪日旅行推進部長の齋藤浩之氏による、具体的な説明は以下のとおり。

単年度予算の壁を越える「訪日版デスティネーションキャンペーン」

 要望の目玉となるのが、官民一体となった大規模かつ集中・継続的なプロモーションである「訪日版デスティネーションキャンペーン(DC)」の実施。国内旅行者向けの大型施策として、JRグループが自治体・観光事業者と共同で実施しているDCの訪日版をイメージしているとのこと。

 広域連携DMO・10法人のうち、特定の地域(東北、中央日本、せとうち、九州など)を選定し、複数の予算事業を組み合わせた総合的なプロモーションを展開することで、実質的に多年度にわたる誘客事業への転換を目指す。

 齋藤部長は、これまでの省庁の予算事業が単年度ごとに区切られていることに触れ、「準備から販路拡大、集客までを考えると1年のスパンでは非常に短い」と指摘した。

 例えば、ヨーロッパや北米、オーストラリアの観光市場においては、航空券を出発365日前から予約するにあたり、パッケージツアーの企画はそれよりも前から取り組むなど、すでに1年半〜2年先を見据えて動いているという。

 そもそも日本の単年度の予算枠組みでは、ツアー商品の造成や海外でのプロモーションが間に合わない実情がある。

訪日版デスティネーションキャンペーンの展開イメージ。予算額についてはあくまで“活用案”として提示するもので、すぐに訪日版DCを実施できるかは不透明とのこと ※画像を開いてからクリックで拡大

 さらに、欧米豪からのインバウンドは、一度の旅行で2週間程度日本に滞在し、全国の地方を広く周遊する傾向があるとのこと。この層を確実に取り込むためにも、1年目を準備・商品造成、2年目をプロモーション、3年目を集客といった形で、2〜3年をかけた事業展開を求めている。

 具体的なイメージとして、全国に10ある広域DMOのうち2地域に絞って、1期(2~3年)は事業を集中的に行ない、順次別の地域へ展開していくようなアイデアを示した。

 また、欧米豪などのB2B商談を中心とした海外旅行博において、地域(自治体・DMOなど)と日本の旅行会社が一体となってプロモーションを行なえる場の充実なども、併せて要望している。

海外旅行博の実情と出展・連携強化案

“バズった場所”に寄り添う集客「県と県をつなぐのではなく、地域という『面』で捉えるべき」

 質疑応答では、地方誘客を成功させるための具体的なアプローチとして「“バズった場所”に寄り添う集客」の重要性を語る場面もあった。

 齋藤部長は、「(どの地域を選ぶかについて)京都のようにすでに多くの観光客を集めている、世界のどこかでバズった場所に寄り添うほうが、今後の集客は望めると思う。その周辺地域は、バズった場所からどう旅行者を引っ張るか(周遊してもらうか)という視点が必要だ」と指摘。

 続けて、これまでの観光キャンペーンは県単位で行なわれることが多かったが、2週間かけて全国を周遊するような欧州などの旅行者のニーズを満たすには、「県と県をつなぐではなく、地域という『面』で捉えるべき」だと強調した。

 東京・京都といった定番の都市だけでなく、これまでは足を延ばさなかった東北の祭りや桜など季節ならではの風景、あるいは山陰地方の国立公園などを組み合わせ、全国を面でまわるような旅行商品を造成することが旅行会社の役割であり、今後の地方誘客の鍵になるという。

 この広域な視点こそが、「訪日版デスティネーションキャンペーン」の根本的な考え方につながっているようだ。

地方誘客を成功させるためには「“バズった場所”に寄り添う集客が重要」と語る齋藤部長

「サブガイド」制度の導入、教育旅行の受け入れ支援

 地方へのリピーター獲得に欠かせない通訳ガイドなどの人材育成についても提言を行なった。国家資格である「全国通訳案内士」の高齢化や若手の実務経験不足といった課題に対し、新人が実際のツアーでベテランガイドに同行して技術を学ぶ「サブガイド」制度を設け、その研修やファムトリップ(視察ツアー)への取り込みを補助するよう求めている。

 あわせて、旅行会社や海外エージェントとのマッチングを円滑にするため、観光庁が提供している「通訳案内士登録情報検索サービス」の機能・情報拡充や、在留外国人の活用、アドベンチャーガイドの育成支援なども盛り込んだ。

サブガイド制度について
在留外国人の活用やアドベンチャーガイド育成支援の詳細

 さらに、インバウンドによる教育旅行の受け入れ促進も重要なテーマとして挙げている。

 海外の学校から日本の学校への訪問希望が多い一方で、日本の学校・特に予算化されている公立では、コーディネートの難しさや、昼食代・部活動の教材費(書道の墨や紙など)といった数万円程度の経費負担がハードルとなり、受け入れをためらうケースがあるとのこと。

 こうした金銭的・制度的な障壁に対する助成を行なうよう求めている。

海外からの受け入れ希望は多いものの、日本側の受け入れ体制が整っていないという

インバウンドの増加がもたらす「旅行需要の平準化」と「海外旅行への波及」

 こうしたインバウンド誘致の取り組みは、単なる「海外からの誘客」にとどまらず、旅行業界全体の好循環を生み出す波及効果があるという。

 その一つが「旅行需要の平準化」。日本人の国内旅行は仕事や家庭の都合で土日祝に集中しがちだが、先述の欧米豪からの旅行者は曜日に縛られず長期間滞在するため、平日需要の喚起に大きく貢献するとしている。

 さらに齋藤部長は、海外の学生を日本に呼び込むことが、結果として日本の若年層が海外へ目を向けるきっかけになると指摘。インバウンドを起点とした双方向の相互交流を深めることで、将来的なアウトバウンド(日本からの海外旅行)の増加にもつなげていきたいと、総合的な視点での施策の重要性を語った。

 石田副委員長も、「日本にとってインバウンドの価値が高まり、消費によって住民の方も潤うようにしていきたい」との考えを述べ、持続可能な観光産業の発展に向けて、引き続き観光庁や地域と連携していく姿勢を強調した。

一般社団法人日本旅行業協会 訪日旅行推進委員会 副委員長 石田恒夫氏