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「日本最長の直線国道」を走るバス路線、一部消えゆく。車窓から解き明かす「囚人道路」の歴史

「滝川美唄線」車両。今はなき滝川ターミナルにて

ほぼ全区間を路線バスでたどれる?「日本一の直線道路」

「日本一の長距離路線バス」は奈良交通・八木新宮線(169.9km)。さて、「直線ルートがもっとも多い路線バス」は……約24kmの直線ルートを走る、北海道中央バス「滝川美唄線」だ。ただ、この路線は2024年9月末をもって、事実上の区間短縮(一部区間廃止)となる。

北海道中央バス・滝川美唄線のおおよそのルート。地理院地図より筆者作成
「日本一の直線国道」モニュメント

 この滝川美唄線は、国道12号のうち「日本一の直線道路」区間(29.2km)を経由。北海道滝川市、砂川市、空知郡奈井江町、美唄市と進むルートのうち、直線道路が占める割合は、9割近い。さらに美唄駅で乗り継げる「岩見沢美唄線」も含めると、直線道路のほとんどの区間を路線バスで移動できる計算だ。

 一般的に、バス路線は人家が密集した旧道沿いにルートをとることが多く、1時間もひたすら主要国道を走る路線はさして多くない。また途中で駅や総合病院には寄るものの、まわりの集落に回り込まない一直線のルート設定は、なかなかに清々しい。

 しかし、このバスが走る「日本最長の直線道路」は、忘れてはいけない歴史を有している。どのような経緯で道路が作られたのか。そしてなぜバス路線は必要とされ、いま一部区間が廃止となるのか。まずは滝川駅前から滝川美唄線に乗車、座席から景色を楽しみながら、ゆっくり解き明かしてみよう。

バスはまっすぐ走る、まっすぐ!! 日本一の直線道路の見どころは?

 滝川の街は碁盤の目状にきれいに整備されており、滝川駅から国道38号を東進、「直線道路日本一モニュメント」がある交差点を南に入れば、そのまま直線道路に入れる。しかしバスは、駅を出たあと旧12号である道道227号をナナメに進み、市街地を抜けて空知川を渡り、直線区間に近づいていく。

 この近くにある「北泉岳寺」は、江戸時代の仇討ち劇・忠臣蔵を熱烈に崇拝していた住職が東京・泉岳寺と長らく交流を持ち、土の分配を受けて建立された「四十七士の墓」があるという(寺社名も泉岳寺の公認)。その経緯もあってか、道道227号が直線区間に合流する交差点には、赤穂藩家老・大石内蔵助の像が力強くそびえ立つ。

 赤穂浪士と北海道に直接の関係はないが、吉良邸に討ち入る赤穂浪士のように昂りつつ、いよいよ、日本一の直線道路に突入!! ……ただ、このあとバスは一直線に進むだけで、さしたる見どころや観光地はない。

 国道12号の直線区間はバイパスがほとんど存在せず、クルマやトラックの通行量はきわめて多い。片側2車線の直線区間の大半で走行車線側を走るバスは、追い越し車線側のクルマにひっきりなしに抜かれ、実際の速度以上に遅く感じる。かつ、直線であるがゆえに早く到着し、頻繁に停車しては運転手さんに「時間調整です、お待ちください……ごめんね、このバス遅いのよ」と、気を遣われる。ただ、途中駅が4駅(豊沼・砂川・奈井江・茶志内)しかないJR函館本線に並行して約60か所に停車するため、途中区間に住む高齢者の方々には、重宝されているようだ。

 なおこの路線は、昼間の乗客の大半は砂川市内の市立病院、朝晩は南隣の奈井江町にある高校が目的地であるために、南端の奈井江高校~美唄駅前の乗客が極度に少ないという。隣接する2町は学区も違うため(奈井江町は「空知北学区」、美唄市は「空知南学区」)、通学需要も限られ、2024年9月をもって滝川美唄線は完全廃止となる。

 ただ、従来より運行していた「滝川奈井江線」(実質的に滝川美唄線の区間便)は残るため、完全に廃止となるのは奈井江高校~美唄駅前のみ。直線区間を約12kmほど経由するため、おそらくだが「直線ルート区間が日本最長の路線バス」に変わりはないだろう。なお、美唄市内ではAI技術を活用した予約制バス(デマンドバス)が運行を開始するため、今後とも移動手段は確保される見込みだ。

 一方でクルマにとって「日本最長の直線道路」は走りやすく、バスの車窓に広がるのは、どう見ても典型的な「クルマ社会」だ。沿道には広い駐車場を持つホームセンター・家電量販店・パチンコ店・カーディーラーなどが立ち並び、滝川の市街地を除けば、バイパス建設の必要もなさそうだ。難点としては「横断歩道が少なくて渡りづらい」「いわゆる"ねずみ獲り"が多い」、そして「バスの乗客が極度に少ない」(滝川美唄線の乗客は1便平均5人 ※2017年時点)ことくらいだろうか。

 この「日本最長の直線道路」を含む現在の国道区間は、どのような経緯で完成したのか。何もない原野に立派な直線道路を作るにあたって「囚人」「思想犯」が駆り出されたという歴史的な事実も含めて、その歴史を解き明かしてみよう。

「直線国道を作り上げた「樺戸監獄の囚人」。忘れてはならない強制労働の歴史

「日本一の直線国道」モニュメント

 1869(明治2)年から本格的に開拓がはじまった北海道には、集治監(刑務所)に収監された人々によって切り拓かれた「囚人道路」が多く存在する。のちに国道12号に指定される「上川道路」もその1つで、1889(明治23)年に全線(現在の旭川市 忠別太~三笠市 市来知、約88km)が開通を果たした。

 北海道の集治監に収監されたのは、一般的な窃盗・強盗などの罪を犯した人々だけでなく、成立したばかりの明治政府に盾突き、佐賀の乱・西南戦争などの反乱を起こした士族(武士)や、明治維新後の租税引き上げに業を煮やして一揆を起こした農民、自由民権を訴えた活動家なども「思想犯」「政治犯」として、次々と連行されたという。なかには、令和の今なら考えられないような、理不尽な収監もあったという。

樺戸集治監の独房(写真提供:炭鉄港)

 ただ、1879(明治12)年に内務卿・伊藤博文(のちの初代総理。この時代は内閣制度の成立前)が「凶悪犯・政治犯に、ただ食わせるのは許されない。ロシアからの国防も兼ねて北海道で開墾を行なってもらおう」という提言を行なっており、集治監は「政治犯の追放プラス開拓の労働力確保」という、(あくまでも政府にとっては)一石二鳥の意味合いもあったようだ。その後、東京・小菅から移送された囚人たちが原野を切り拓く段階からはじまり、短期間で道内5か所(樺戸、空知、釧路、網走、十勝)の集治監が設置された。

 のちに、北海道を視察した伊藤博文の側近・金子堅太郎の「囚人を工事に使えば安く上がり、死んでも監獄費の節約になる」という主張(「北海道巡視意見書」より)もあり、上川道路の工事には、今の月形町にあった「樺戸集治監」、三笠市にあった「空知集治監」の囚人が駆り出されることになった。なお、金子堅太郎は同時に札幌農学校・葡萄酒製造・師範学校などを不要と決めつけるなど、あまり長期的な目線も持たず、ひたすら開拓を優先する傾向にあったようだ。

 1886(明治19)年から始まった道路工事は、200人の囚人が一団となって3里(約11km)ごとに工事を行なうも、人跡未踏の原生林で熊や狼の脅威と戦い、満足な食事も準備されないまま過酷な労働に就き、病で倒れる人々も相次いだという。今のような「労働者の権利」(憲法27条・労働三法など)もなく、強制労働で多くの囚人が命を落とした……ようだが、死者の記録そのものがなく、調べようがない(一説には30年間で3000人とも)。

 なお、のちに「日本一の直線道路」となる区間は、1888(明治22)年に発布された工事復命書(指示書)に「ナルベク直線道路ト為スヲ主トシテ、実測ニ尽セリ」と明記され、それまでの道幅を3倍(1.8m→5.5m)に拡げる際に、たった3か月の工期で今の直線道路の原型ができあがった。その後、網走・北見・釧路などへの道路が切り拓かれ、1894(明治27)年に強制労働が廃止となるまで、「囚人道路」建設は続いたという。

 1世紀以上が経過した今、(一般刑事犯が捕まるのは今も昔も変わりないが)かつてのように政治犯・思想犯の安易な投獄もずいぶんなくなった。忘れ難いその歴史は、かつての樺戸集治監の本庁舎を含む「月形樺戸博物館」などで、ひっそりと伝えられている。

日本最長の直線道路、バスでの楽しみ方+シン・路線バス乗り継ぎルート

美唄市内「しらかば茶屋」の鶏めし、塩ラーメン

「日本最長の直線道路」は、ほどよい広さと運転のしやすさから、道外から来た人々がドライブやツーリングを楽しむ姿がよく見られる。また、路線バスの一部区間は廃止となるものの、滝川駅前~奈井江高校間は滝川奈井江線として存続するため、「日本一の直線道路」を路線バスでたどることも、まだ可能だ。

 ただ、廃止となる「滝川美唄線」、存続する「滝川奈井江線」を合わせた1日8往復(平日)が利用できるのも今のうち。バスで砂川市内の「北菓楼砂川本店」に立ち寄ったり、美唄市郊外の国道沿い(廃止予定区間)にある「しらかば茶屋」で、旨味がこのうえなく濃い鶏めし・塩ラーメンをいただくのもよいだろう。

 また今回の廃止で、JR函館本線沿いに旭川市~岩見沢市間で路線バスを乗り継ぐことがかなわなくなってしまった。このルートは拙著「路線バスで日本縦断~乗り継ぎルート決定版」にも「北海道乗りバス本線」として掲載させていただいているが、新しい乗り継ぎルートを、ここに一例として記そう。

浦臼駅前に停車する「月形浦臼線」バス。「美唄自動車学校」が運行している

旭川~岩見沢、一般路線バス乗り継ぎルート

旭川駅前~深川駅前: 北海道中央バス・深旭線
深川駅前~滝川駅前: 北海道中央バス・滝深線(2系統あり)
滝川駅前~砂川駅前: 北海道中央バス・滝川奈井江線 ※「日本一の直線道路」経由!
砂川駅前~えみる(旧・札沼線浦臼駅跡): 浦臼町営バス・浦臼砂川線 ※滝川駅から「浦臼滝川線」利用も可能
えみる~月形駅: 札沼線バス・月形浦臼線(運行:美自校バス)
月形駅前~岩見沢駅: 北海道中央バス・月形線 ※2025年3月廃止予定。「アオヤナギ観光」路線引継ぎの報道あり
 このあと「新篠津交通」「ニューしのつバス」などを乗り継ぎ、札幌方面への乗り継ぎ可能。ほか岩見沢に寄らないルートもある

 ただ、筆者も6回目の訪問でようやく主要路線を乗りつくすほどに、空知地方のバスの本数は少ない。乗り継ぎは困難を極めるが、そこはムリに1日で“乗りバス”を終わらせず、ゆっくりのんびりと、「日本一の直線道路」でクルマにごぼう抜きされながらのバス旅は、控えめに言っても楽しい(注:感想には個人差があります)。