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ひっそり消えゆく「北総高額鉄道」対抗バス。半額運賃の「ちばにう」が役目を終えた理由

「生活バスちばにう」千葉ニュータウン中央駅にて

幹線鉄道のライバルとして誕生? 「生活バス・ちばにう」力尽きる

 幹線鉄道にぴったり並行して、抗うように走っていた「生活バス・ちばにう」が、まもなく力尽きる。

 2024年9月末をもって全線廃止となる「ちばにう」は、「直行便」(2023年1月休止)は、全区間(新鎌ヶ谷駅~千葉ニュータウン中央駅)で北千葉道路(国道464号バイパス)をまっすぐ進み、道路中央部を走る「北総鉄道」の鉄道路線と経路はほぼ同じ。途中で立ち寄るバス停も、西白井駅・白井駅・小室駅と、鉄道とまったく変わらなかった。

 最後まで残った「北環状線」ルートも各駅に寄るため、バス路線としては北総鉄道の並行バス路線と言える。

「生活バス・ちばにう」路線図。直行便は、北総鉄道とぴったり並行する(鎌ヶ谷観光Webサイトより)

 バスと鉄道が並行する場合、バスは鉄道の速さ、快適さ、多量輸送にかなわず、経由地や停留所の数などで差別化を図ることが多い。しかし「ちばにう」は、北総鉄道とルートも停留場も同じという、鉄道に“ガチンコ勝負”を挑む路線だったのだ。

 そもそも「ちばにう」は、最初から北総鉄道に対抗して開業した経緯がある。鉄道は10分少々、バスは30分と、所要時間で見ると勝負にならないように見えるが、「ちばにう」は「鉄道なら運賃570円、バスなら300円」という強力なセールスポイントを持ち合わせていた。その開業も、沿線の人々に熱望されてのものだったという。

 なぜ「ちばにう」は、鉄道という巨大なライバルに立ち向かい、どのような勝負を仕掛け、なぜ力尽き、消えゆくのか。まずはバスの開業前、そもそもの元凶である「北総鉄道の高額運賃問題」から読み解いてみよう。

バスなら半額! 時間は遅いが格安「ちばにう」誕生まで

「ちばにう」と並行する北総鉄道は「成田スカイアクセス」のルートでもある
北総鉄道 新鎌ヶ谷駅

「ちばにう」の開業は2014(平成26)年6月。そのはるか前から、この鉄道の沿線住民は、「北総高額鉄道」とも呼ばれる並外れた運賃水準に悩まされていた。2014年当時、北総鉄道の初乗り運賃は290円(これでも2010年に10円値下げ)、千葉ニュータウン中央駅~新鎌ヶ谷駅間だと、10km少々・たった11分の乗車で570円も取られていたのだ(いずれも現金運賃)。

 もともとこの区間は鉄建公団(現在のJRTT)「P線」として建設され、建設費用の1298億円と利子の返済が必要であった。かつ、34万人が住むはずだった「千葉ニュータウン」の人口が10万人ほどにとどまったこともあり、乗客の利用は想定をはるかに下回り、年間30億円ほどの赤字が続くことに。鉄道会社としての経営は「支給のワイシャツを薄手に変更」「本社機能をビルからプレハブに移転」(「北総鉄道50年史」より)といった策を余儀なくされるほど厳しく、もちろん会社単独で運賃値下げができる状況ではない。

 北総鉄道は京成・都営浅草線などに乗り入れるため、都心への通勤・通学定期はさらに高額になる。しかし、地元自治体も値下げを求めるどころか、会社の存続すら危うい北総鉄道に、逆に総額300億円以上を支援せざるを得ない事態に。「不便で高いのに、補助金だけ莫大に食う」状態であった北総鉄道への反発は根強く、鉄道運賃の値下げを求める住民訴訟(2015年に敗訴確定)や、強硬に補助金拠出を決めた市長が失職するなど、議論を進めるうえで大きな禍根を残した。

 こういった状況のなかで、少しでも安く通勤したい人々は「並行する北千葉道路にバスを走らせた方が安いのでは?」という考えを持つようになる。せめて、新鎌ヶ谷駅まで出て、運賃水準が格安な新京成・東武野田線に乗り換えれば……といった発想で、「ちばにう」の原型となる「鉄道対抗・格安路線バス」構想が持ち上がった。

鉄道対抗バス・最大の課題「どの会社が運営?」。あえて手を挙げた観光バス会社

「ちばにう」の運行を担う「鎌ヶ谷観光バス」は、その名のとおり観光バス・貸切バスを主に運行する会社だ。かつ、鎌ヶ谷市からコミュニティバスの運行を受託されていたため、路線バス会社としてのノウハウもわずかにあった。

 ただ、運行にあたってはさまざまな紆余曲折があったという。まず、この地をメインのエリアとする「ちばレインボーバス」は、北総鉄道とおなじ京成グループであり、北総鉄道の各駅に乗客を送り込まないバス路線を引き受ける理由がない。また沿線自治体も北総鉄道に税金を投入しているため、鉄道の価値を落とすようなコミュニティバス路線を開設できない。こうして各地のバス会社に打診しては断られ、また打診して断られ……といった状況が続き、ようやく鎌ヶ谷観光バスが引き受けに手を挙げた、という経緯を持つ。

 ようやく運行を開始した「ちばにう」は、平日は1日46便、祝日は19便運行。1日の利用者400人を採算ラインに設定し、千葉ニュータウン駅~新鎌ヶ谷駅間の運賃を北総鉄道の同区間(570円)のほぼ半額(300円)に抑えた。

 開業当初は1日200人程度であった利用者は、1年で400人を越える日も出てきたという。さらに2017年には「北環状線ルート」「牧の原循環ルート」の運行を開始。安定して採算が取れるほど順調ではないものの、「ちばにう」はなんとか走り続けてきたのだ。

「北総高額鉄道」対抗バス、「鉄道の大幅値下げ」の前に散る

千葉ニュータウン中央駅

 鉄道より格安の運賃で利用者を取り込んだ「ちばにう」。2022年10月に北総鉄道が実施した「初乗り運賃改定・普通運賃最大100円値下げ」「通学定期最大1万円以上値下げ」などの値下げ施策によって、皮肉にも「鉄道対抗バス」としての存在価値が失われた。

 この運賃改定によって、千葉ニュータウン中央駅~新鎌ヶ谷駅間は480円、「ちばにう」は先に値上げを実施していたため330円。差額が150円に縮まったうえに、都心に通う学生は「ちばにう」に乗らず、定期代が大幅に下がった北総鉄道を乗り通すようになったという。

 この値下げは、北総鉄道の業績改善で、累積債務の解消にめどが立ったことから実施されたものだ。本来であれば喜ばしいことだが、近距離の値下げは「地元利用者の利便性向上」が目的でもあり、ほぼ同時に行なわれた増便が乗客を奪った。さらに「ちばレインボーバス」が対抗する路線を開設したこともあり、ますます「ちばにう」の存在意義がなくなってしまった。

2024年6月の大幅減便前の時刻表

 また、もともと鎌ヶ谷観光バスの路線バス事業は、厳しい経営を強いられていたという。ここに2020年から続いたコロナ禍で、事業の柱である観光バスの収入が激減。さらに車両の老朽化、バス運転手不足が重なり、会社はにわかに存亡の危機を迎える。同社や後援会(ちばにう友の会)はクラウドファンディングを実施したものの、300万円の目標に対して65万9650円と、危機を脱出するには至らなかった。

 なお、「ちばにう」は早くから事業撤退の意思を示しており、完全撤退に先立って2024年6月には「北環状線ルートのみ1日1往復で存続、9月末に廃止」というダイヤ改正を実施。1往復となったあとも「利用者は平日13~20人、週末10人前後」と、かなり利用されている(船橋市「地域公共交通活性化協議会」議事録より)。にも関わらず、「生活バスちばにう」は、まもなくこの地から去る。

 スカイブルーと白を基調としたバス停の丸看板や、手をつなぐ家族の絵がプリントされた「ちばにう」車両を見ることができるのも、あとわずか。住民のために生まれ、役割を果たして消えゆく「ちばにう」を惜しみつつ、ひっそりと見送りたい。