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京都丹後鉄道のリニューアル特急車両「丹後の海」を徹底紹介

水戸岡氏は「日本の特急のなかで、一番とは言わないがトップクラス」とコメント

2015年11月13日 運行開始

 WILLER TRAINS(ウィラートレインズ)は11月12日、京都府福知山市にある福知山駅で、自社が運行する京都丹後鉄道のリニューアル特急車両「丹後の海」を報道陣に公開した。併せて「丹後の海」および、WILLER TRAINS新商品発表会の模様もお伝えする。

 丹後の海は、JR西日本(西日本旅客鉄道)との共同運行の特急などで運用されているKTR8000形気動車「タンゴ・ディスカバリー」をリニューアルした車両。今回、1編成2両(KTR8011・KTR8012)が完成して公開され、年内に1編成2両を加えて、計2編成4両の運行を予定している。リニューアル予算は、1編成あたり約8000万円という。

 設計・デザインを担当したのは、建築や鉄道車両などのさまざまなデザインで数多くの賞を受賞している、ドーンデザイン研究所の代表執行役、水戸岡鋭治氏。JR九州(九州旅客鉄道)のグルーズトレイン「ななつ星in九州」やスイーツコースを楽しめる観光列車「或(あ)る列車」などを手がけた。京都丹後鉄道としては、すでに運行されている「あかまつ」「あおまつ」「くろまつ」のリニューアルも担当している。

京都府福知山市にある福知山駅で、「丹後の海」が報道陣向けに公開された

 リニューアルのベースとなった車両は、1996年に北近畿タンゴ鉄道で運行が開始されたKTR8000形気動車「タンゴ・ディスカバリー」で、9月まで運行されていた車両。KTR8011は、運転室のすぐ後ろに共有スペースを持ち、大きな展望窓があるのが特徴。KTR8012は洗面所とトイレが設置されている。「丹後の海」にリニューアルされた後もそれらの構成は変わらず、魅力的なアピールポイントとして残っている。丹後の海では、KTR8012を1号車(自由席)、KTR8011を2号車(指定席)として運行する。

 車体色は、タンゴ・ディスカバリーで採用されていた緑と白のカラーリングから一変し、海の京都をイメージした藍色のメタリックカラーとなった。海原のように日差しを受けてキラキラと光る調色になっている。外観について水戸岡氏は、「元々の車両は、大きなおでこ、丸い形で不細工に見えた。逆にそのおでこを活かすデザインをし、藍色のメタリックカラーにすることで空が映り込み、なかなか高級感を出せた」と、デザインのポイントを語った。

 ボディカラーに映えるアクセントとして、ボディの各所に「ななつ星in九州」や「或る列車」と同様に金色のシンボルマークやロゴが配置される。シンボルマークのモチーフは、すでに京都丹後鉄道で運行されている観光列車「あかまつ」「あおまつ」「くろまつ」で使われている“松”と、丹後の海をイメージした“水(海)”を組み合わせて考案された。ボディのあらゆる場所にマークがあるのは、どこを写真で撮っても「丹後の海」であることが分かるようにという配慮から。

正面から見た2号車(KTR8011)
1号車となるKTR8012
前面上部の曲面にも、シンボルマークが配置されている
前面に取り付けられたシンボルマークのエンブレム
標識灯まわりもブラック塗装で引き締まった。金属製のアクセントもあしらわれた
「丹後の海」は、JR西日本の183系電車との併結装置を持たない
運転席ドアのノブも藍色のメタリックカラーで塗装され、古さを感じさせない
側面行先表示器。表示ユニットは特に変更がないようだ
側面の窓ガラスにも、松と水(海)が描かれている
乗車口の脇には、ひときわ大きなロゴが描かれている
1号車、2号車とも、乗車口は1つで連結部の近く
2号車(指定席)となるKTR8011は、運転席のすぐ後ろが大きな展望窓になっている

 車内も徹底的に改修され、大きく様変わりしている。床、天井、窓枠、座席の背面、テーブル、肘掛けなど、あらゆる部分に素材として木を採用。木に囲まれ、木の中にいる感じを演出している。これは、リビングルームや書斎、レストランをイメージしたものだという。

 天井に採用したのは、自然の木目や木肌を活かし、特殊塗装仕上げを施した特殊積層シートで、アルミ材に0.2mmの薄い木(ツキ板)を貼った不燃材。表面の柄は、パターンや色を数種類使うことで、広い面積の中に変化を付けている。椅子の背面や、側面も同様、特殊積層シートが貼られている。

 座席に使われたモケット(パイル織物)はオリジナルで、座席ごとに色を変えている。木製のセンター肘掛けは、形とサイズが違う2種類が存在する。これは、当初大きめの肘掛けを作ったが、体の大きな人が使いにくいということで、小さいサイズも作ったという。2種類の肘掛けがあるため、自分の体型から席を選んで座って欲しいとのことだ。

 内装について水戸岡氏は「心地よい、贅沢な空間が移動している……というのが楽しいのではないだろうか。工業製品ではなく、人の手間暇が見える仕上がりが重要。今は、利便性と経済性を追求する時代で、今回はいかに手間暇をかけるかという逆方向のやり方をした。しかし、これが、これからの日本を支えていくもっとも大事な考え方だと思っている。手間暇を惜しんでは楽しいことも、豊かなことも、うれしいことも感じさせられない。まずは、来て乗って、車内で話をして、食べて飲んで、豊かな時間を過ごすなかで、この手触り感、本物感を知って欲しい」と語った。

 2号車となるKTR8011の共有スペースは、タンゴ・ディスカバリーよりも広い空間に改装された。水戸岡氏は「今回、席数をあまり減らせないという条件があり厳しかった。4席減らして、共有空間を広げた」と語る。入口にはのれんが掛けられ、運転席や大きく広がる展望窓には格子がはめられた“和”を感じさせる空間に仕上がっている。

 リニューアルにあたり、どのような部分に苦労があったのかを水戸岡氏に尋ねると、「今まで使っていた車両をいかに蘇らせるか、形を何も変えられないなか、デザイナーとして以前とは全然違う車両にしたい。そのために、何をしたらよいのか。たくさんの職人さんたちを説得して、予算もスケジュールもないなかで技術を発揮して欲しい。最高のものにして欲しい……という説得が一番難しく苦労した」と語った。実際に出来上がった車両を見ての感想を聞くと、「結構、贅沢で豊かな車両ができた。日本の特急のなかで、一番とは言わないがトップクラス。世界でもトップクラスの車両かもしれない」と、職人たちの働きによって完成した車両に満足した様子だった。

 また、WILLER TRAINS 代表取締役の村瀬茂高氏は「パース図で見たものより、実際の車両を見ると、とても乗りたくなるできあがり。特に、藍色のメタリックカラーが印象的。日に照らされるときれいに光るので、天気がよい日に乗ってもらいたい。今までの車両と比べ見た目のインパクトが強いが、実際に乗ると、優しく包んでくれてリラックスして乗れる。目的地に着くまで、和気藹々と気持ちが明るくなる」と、新車両に期待を寄せた。

1号車(KTR8012)の車内。内装には木がふんだんに使われている
優先席には、車イスのスペースと、固定する器具がある
棚や天井も木が使われている。照明は暖かみのある電灯色
リニューアル前はカーテンだったが、ブラインドとしてすだれが設置された
リニューアル直後ともあって、座席は肌触りのよいモケットと芯のしっかりしたクッションで快適
床にはナラ材を使用している
1号車(KTR8012)の出入り口部
座席に張られたモケットはオリジナルで、複数の色や柄がある
座席の背面も、木目や木肌を活かした特殊積層シートで化粧されている
テーブルも木製に変更。さらに、座席背面にドリンクホルダーが追加された
贅沢な空間が演出され、リラックスしながら旅を満喫できそうだ
ちょっとしたスペースにも、木製の棚が設置されている
厚さ0.2mmの白樺が貼られた天井
天井の柄は数種類あり、微妙に色も違うマークが配置されている
棚も木製になり、埋め込みの照明はなくなった
形とサイズが違う2種類が存在するセンター肘掛け。大きい肘掛けの座席は、大きな体の人だと座りにくいとのこと
木製のハンドル。座席の回転に干渉するため、設計当初よりも小型化されたという
1号車(KTR8012)の運転席周辺。ガラスには格子をあしらったデザインが施されている
1号車(KTR8012)の運転席。ここはそれほど手を入れていないようだ
2号車(KTR8011)の共有スペース
のれんをくぐって共有空間に入っていく
共有スペースは、「タンゴ・ディスカバリー」よりも広い空間に改装された。ひときわ大きな展望窓が特徴
2号車(KTR8011)の運転席周辺
運転席の窓にも格子があしらわれている
木製でない箇所は、黒を基調とした落ち着いたカラーになっている
1号車(KTR8012)の乗車口付近。トイレや洗面所などが設置されている
多目的トイレも、床材や額縁など、車内の雰囲気を踏襲している
すだれで仕切られた洗面所。側面のガラスにも格子のデザインが施される
男性用トイレも、床や額縁など雰囲気は変わらない
「丹後の海」のベースとなった車両と同型のKTR8014
「タンゴ・ディスカバリー」のロゴが残っているが、列車名として今は使われていない
タンゴ・ディスカバリーの車内。質実剛健に、金属と樹脂で構成されている
タンゴ・ディスカバリーの座席。「丹後の海」とくらべ、肘掛けの造りも武骨に見える
テーブルは樹脂製で、座席の背面にドリンクホルダーもない
タンゴ・ディスカバリーの洗面所
タンゴ・ディスカバリーの共有スペース。丹後の海はここにベンチが設置されている。比較して見ると、いかに旅を楽しむことができるようにリニューアルされたのかが分かる
「丹後の海」内覧会では、同じホームに、同じく水戸岡鋭治氏がデザインした「あおまつ」が停車。同じ青色のボディでも、大きく印象が違う
「あおまつ」の内装も、木を使っている。木製床の耐久性についても、この「あおまつ」で実証済みとのことだった

 報道陣向け内覧会に先駆けて、福知山市で行なわれた「丹後の海」および、WILLER TRAINS新商品発表会では、水戸岡鋭治氏が登壇しデザインのポイントなどを説明した。

 続いて登壇した、WILLER TRAINS 代表取締役の村瀬茂高氏は、「『丹後の海』は、地元の人が“私たちの地元にはこういう鉄道が走っている”と、誇りを持てるシンボルになる。多くの方が京都丹後鉄道を利用し、天橋立やコウノトリの郷といったたくさんの観光地を見てまわれる、とてもよい車両が完成した」と、新車両の自信を表明した。

 さらに、「4月1日から、上下分離として京都丹後鉄道の運行を始めた。同時に、4月から域内の移動、地元の方がこの鉄道を利用できるような商品を作っていこうと、6カ月間取り組み、『あかまつ』『あおまつ』『くろまつ』の運行を開始した。次の段階として、域外の移動を活性化させていく。1つは地元の方が外に出て行く、もう1つは外の方が丹後に来ていただく。『丹後の海』も、そういった域外の移動を視野に入れたもの」と、新たな展開の説明に入った。

 今回発表されたのは、京都丹後鉄道をはじめとする天橋立駅・宮津駅~京都駅間の鉄道乗車券と、高速バス「WILLER EXPRESS」のセット商品。東京や東京ディズニ―リゾート観光に向けた商品で、移動中の車中で2泊することにより、現地では朝から夜までたっぷりと時間を使えるというもの。

 東京ディズニーリゾートパークチケット付きは、0泊3日(車中2泊)プランが1万9800円から、1泊4日(車中2泊)宿泊付きプランは2万8650円~。東京・新宿行きは、0泊3日(車中2泊)プランが1万3300円から、1泊4日(車中2泊)宿泊付きプランは2万670円から、宿泊なしの0泊4日(車中2泊)プランが1万3300円から。

 現在は5つのプランが設定されているが、今後も進化した展開を考案中という。商品は、11月12日より「WILLER TRAVELサイト」(http://travel.willer.co.jp/tour/campaign/tdr/tantetsu/)で発売されている。

 村瀬氏は、「今回販売するのは、地域と域外を結ぶ、鉄道と高速バスを使ったセット商品の第1弾。東京と丹後を結んで、ビジネスや観光での利便性が高まる。『丹後の海』を1つのフックとして、さらに地方の方、遠方の方から、バスを乗り継ぐことでこの京都丹後鉄道を使えるチャンスを増やしていきたい」と、今後の展望を語った。

福知山市内で開催された「丹後の海」および、WILLER TRAINS新商品発表会
「丹後の海」リニューアルのポイントや苦労を語る水戸岡鋭治氏
WILLER TRAINS代表取締役の村瀬茂高氏が登壇し、新商品の説明をした
東京と丹後を結び、ビジネスや観光で利便性が高まる商品として提供。さまざまな商品、サービスを展開していくという
東京や東京ディズニ―リゾート観光に向けた商品で、移動中の高速バスで2泊することにより、現地では朝から夜までたっぷりと時間を使えるというもの
天橋立と東京ディズニーリゾート、天橋立と東京・新宿を結ぶ5つのプランが用意される

(政木 桂)