旅レポ
京都丹後鉄道の走るダイニングルーム、丹後くろまつ号の新サービスを味わった
4月1日から新サービスを開始
(2016/3/30 00:00)
- 2016年4月1日運行開始
2015年4月に北近畿タンゴ鉄道を引き継ぎ、WILLER TRAINS(ウィラートレインズ)が開業した「京都丹後鉄道」(以下、丹鉄)。日本三大景勝地として知られる天橋立など、沿線には多くの観光資源を擁しており、鉄道ファンならずとも一度は訪れてみたい場所だ。
そんな地の利を活かして力を入れているのが、車窓と地域の食を一度に楽しむことができる観光列車の運転だ。同社には鉄道車両のデザインでおなじみの工業デザイナー水戸岡鋭治氏がデザインを手がけた3両の観光車両が在籍しており、なかでも「丹後くろまつ号」は「“海の京都”の走るダイニングルーム」をコンセプトに、予約制のレストラン列車として運行されている。
2016年4月1日からは「FOOD EXPERIENCE」をコンセプトに“食を楽しむだけではなく、食を通じて沿線地域の魅力を発見できる”新しいサービスを開始する。列車は金・土・日・祝日に運転され豊岡駅と天橋立駅を1往復半。その間、それぞれに内容の異なるコースが用意されている。
丹後のこだわり味わいコース ~BETSUBARA~
豊岡駅(10時08分)発~天橋立駅(12時20分)着、8800円
丹後のこだわり味わいコース ~MANPUKU~
天橋立駅(12時54分)発~豊岡駅(14時56分)着、8800円
丹後のこだわり味わいコース ~YOKUBARI~
豊岡駅(16時05分)発~天橋立駅(18時21分)着、7800円
丹後のこだわり味わいコース ~TASHINAMI~
豊岡駅(16時05分)発~天橋立駅(18時21分)着、7800円
(YOKUBARIとTASHINAMIは同列車で提供メニューが異なる)
今回は4月1日からの運行を前に報道陣向けの試乗会が行なわれ、「丹後のこだわり味わいコース ~BETSUBARA~」に参加することができたのでレポートしたい。
スタートはJR山陰本線との接続駅、豊岡。1番線ホームの先端半分が天橋立・宮津方面へ向かう宮豊線の乗車口となっている。ホームには10時8分発のくろまつが入線しているが、同時に9時51分発の西舞鶴行き列車も出発を待っており、その発車を待ってからの乗車となった。
気動車ならではのブルブルッという振動とともに豊岡駅を出発。昔の車両よりはずっと洗練されて振動や騒音が少なくなってはいるものの、最近ではあまり乗る機会がなくなってしまっただけに、これだけでも“旅に来た感”が盛り上がる。アテンダントの紹介とともに各席にお茶が配られ、いよいよくろまつの旅が始まった。
最初に提供されるのは「コウノトリ大豆のおぼろ豆腐~米糀と北村ワサビと共に~」。無農薬で育てられた「コウノトリ大豆」を使ったおぼろ豆腐に、コウノトリが育むお米から作られた塩麹と醤油麹、それに300年前から作られているという北村わさびのワサビが薬味として用意される。
おぼろ豆腐と聞くとやわやわなモノを想像してしまうけれど、こちらはわりとしっかりした固さで、お箸で持ち上げることもできる。まず、豆腐だけを口に運ぶと、フワッと溶けて大豆のうま味と香りが広がる。非常にベタな感想で申し訳ないけれど「コクがあってクリーミィ」という感じだ。
続いて2種類の麹とワサビを添えて食べてみる。それぞれに傾向は異なるものの、豆腐の美味しさをより引き立たせてくれ、あっという間に平らげてしまった。コース的には前菜の位置づけになると思うが、立派な一品料理として十分通用するボリューム感だった。
豆腐の余韻を味わっていると、まもなく久美浜駅に到着(10時21分)。ここではホーム上に設けられたブースで、あつあつの「漁師汁~久美浜湾の恵み~」が振る舞われた。漁師汁はいわゆるアラ汁で、この日はタイとブリがメインとなんとも贅沢。ここに綿徳商店の「鯛煎餅」を浮かべるのが久美浜流とか。
で、実際にいただいてみると……、昆布出汁をベースにした味噌汁に魚のうま味が加わってるんだから、そんなの旨いに決まってる! アラとはいえ身もしっかり付いているので、魚の美味しさも直球で味わえるのが嬉しい。
この久美浜駅の発車は10時55分と30分ほどの停車時間がある。アラ汁をいただいてもまだ余裕があるので、駅前までちょっとぶらぶら。この久美浜駅の駅舎は元久美浜県の県庁玄関を木造で再現したという本格的な木造建築で見ごたえ満点。
駅舎内では地元の名産品を集めた「くみはまエキマルシェ」が開かれており、お土産を買いこむにもちょうどよさそう。オススメのお土産は? と尋ねると「いたわかめ」とのこと。ただ、今年は不漁らしくなかなか入荷しないとか。
10時55分に久美浜を出発。くろまつは明るい雰囲気の田園地帯を、なかなかのスピードで進んでいく。車内では丹鉄オリジナルグッズの販売が行なわれた。くろまつの車内でしか購入できない限定モノもあるので、欲しい人は要チェックだ。
列車交換のため小天橋駅で小休止したのち、11時17分に網野駅に到着。ここでは地元の名店「とり松」による「丹後ばら寿司のまつぶた盛り」が提供された。丹後ばら寿司は京丹後地方の伝統的なお寿司で、親戚の集まりなどがあると茶碗蒸し、お造りとともに供されるのが一般的とか。
具材のメインとなるのは鯖を炒り炊きにした「鯖おぼろ」。餅などを入れる細長い木箱(まつぶた)に詰めたすし飯の上に鯖おぼろと干瓢、さらに酢飯を重ねてから鯖おぼろと干瓢、タケノコ、錦糸玉子、シイタケ、かまぼこなどを散らして出来上がりとなる。
家庭によって味が異なるのが普通と言い、とり松のばら寿司は甘辛&さっぱりな感じ。初体験の味だけにどんどん箸が進むものの、1人分がかなりのボリュームなので、“ベツバラ”とはいえかなり満腹になる。網野駅出発は11時50分なので、停車中にゆっくり食べられるのがいい感じ。
網野駅を出てしばらく北方向に向かったあと、進路を東に変えると間もなく左手に阿蘇海が見えてくる。車内ではお土産が配られたりしているものの、もうすぐ終着の天橋立駅だ。でも、このくろまつの旅にはもうひとメニュー残っている。天橋立駅ではホーム上で「地魚の一刻干しと黒ちくわの七輪焼き」が楽しめるのだ。
12時20分、天橋立駅1番線に到着。列車から降りた乗客全員でぞろぞろと先頭方面に向かう。濛々と煙を上げるスペースを覗くと、炭火で干物が焙られていた。この日のメニューはサワラの一刻干しとシンコイカ、それに名産の黒ちくわ。その日に獲れた新鮮な地魚を1~2時間程度干し、旨味を引き出したサワラは、炭火焼と相まってふっくらとやわらかく、それでいて濃厚。
ほんの少し前にばら寿司をたらふく食べたばかりなのに、ご飯が欲しくなってしまう。とはいえ、実際にはもうお腹いっぱいに近い状態なので、あまり食べられないのが残念な感じ。ちなみに一刻干しの魚は水揚げによって変わってくるそうで、サワラ以外だとアジやカマスになることが多いらしい。
ちょっと未練を残しつつ七輪焼を食べ終えたところでくろまつの旅は終了となった。時間に余裕があれば食後のデザートを楽しんだり、天橋立を見にいったりしたいところだけれど、残念ながらこのままトンボ帰り。12時54分発のくろまつを横目で見つつ、12時55分発の福知山行き「丹波あおまつ号」に乗る。
こちらは予約不要の自由席なので誰でもウェルカム。くろまつとはちょっと違うイメージの車内を楽しんだり、車内カフェで飲み物やグッズを買ったり、と楽しむことができるので時間が有効に使えて2度おいしい感じ。そういえば、あおまつの終着である福知山はスイーツの街。時間があるなら福知山城を眺めつつスイーツでまったり、なんて過ごし方も楽しそうだ。