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富士急の下吉田駅でブルートレイン「富士」を見てきた

「ブルートレインテラス」に14系寝台客車「スハネフ14 20」を展示

ブルートレインテラス

開放時間:10時~16時

休園日:毎月第1月曜日(月曜日が祝祭日の場合は翌日)

入園料:100円(下吉田駅までの乗車券所持の場合は無料)

下吉田駅の「ブルートレインテラス」に展示されている、14系14形寝台客車「スハネフ14 20」

 2015年8月22日、隔日の臨時列車として運行されてきた寝台特急「北斗星」が札幌駅発の列車でラストランを迎える。これで、14系/24系客車の通称である「ブルートレイン」の定期的に運行する列車は青森駅~札幌駅間の急行「はまなす」だけとなる。

 とはいえ、運行を終えたブルートレインの客車は日本各地で保存されており、まだその姿を見ることができる。今回は富士急 下吉田駅の「ブルートレインテラス」に展示されている、14系14形寝台客車「スハネフ14 20」を見てきた。

 スハネフ14 20は、2010年3月まで寝台特急「北陸」に使用されていた客車で、同列車の廃止後に富士急に譲渡され、富士急で整備されたのち2011年4月29日よりブルートレインテラスで展示されている。

下吉田駅の駅前。駅舎のすぐそばに「ブルートレインテラス」がある

 ブルートレインテラスは、下吉田駅の改札内から入場できるようになっており、下吉田駅までの富士急の乗車券を持っている場合は、そのまま改札で入場証を受け取って入ることができる。なお、クルマなどで訪れブルートレインテラスのみを利用する場合は入園料として100円が必要となる。ブルートレインテラスの開放時間は10時~16時。休園日は毎月第1月曜日(月曜日が祝祭日の場合は翌日)となっている。平日は外観を見るだけだが、土休日は車内に入ることもできる。なお、お手洗いや洗面台は、車内のものは使用できないので、下吉田駅のものを利用しよう。

下吉田駅の改札の脇にある通路を左に行くと「ブルートレインテラス」
「ブルートレインテラス」に展示されたスハネフ14 20
テラス側から見たスハネフ14 20

 下吉田駅のスハネフ14 20は、鉄道会社が管理しているだけあり、現役を2010年退いて5年経つ2015年の今でも局所的に痛みや汚れはあるが、全体としては比較的綺麗な状態で保存されているのが嬉しいところだ。車内に電源を送るため、バッテリー部分に電源が接続されているものの、外観はほぼ現役そのまま。車内もカーテンやリネン類は撤去されていたが、ほとんど手を加えられていない。まさに、スハネフ14 20の現役当時の姿を感じられる。ブルートレインテラスに入場すれば近寄ってじっくり見たり写真を撮ったりできるのもポイントだ。さらに、天候がよい状態ならば、下吉田駅のホームから富士山をバックにした姿を見ることもできる。記者が取材した日には、ちょうど富士山が雲の合間から姿を見せてくれた。

床下のバッテリー部分に電源が接続され、電源を供給できるようにしている
綺麗に磨かれた「スハネフ14 20」の車番
空気バネを採用し、最高運転時速110kmを実現したTR217C台車
スハネフ14 20の車内。乗務員室側から
乗務員室は立ち入り禁止となっている
洗面所側から車内の通路を見る。スハネフ14 20には、15列30人分の寝台がある
寝台は上段と下段がある。1972年の製造当初は“中段”がある3段寝台だった。中央部分は上段に登るハシゴ
ハシゴは収納することもできる。上段には転落防止のベルトが天井から下がっている
下段の寝台。昼の走行時は座席として利用
こちらも寝台としての使用時は転落防止の柵を引き出せる
座席のテーブルには王冠を使った飲料を開けるための栓抜きがある
通路の上には寝台側からアクセスできる空間がありに荷物置きとなっている
通路側の窓の下には折りたたみ式の簡易座席
通路側の窓の上には、身だしなみ用の鏡
寝台には上下段ともに常夜灯があり、消灯後でも本などが読める。寝台列車好きは、この灯りに旅情をそそられるのではないだろうか
洗面台は2つある。スハネフ14 20は古いタイプが健在だった
小さな穴はタンを流す専用の“痰壺”。上部のレバーを回すと水が流れた
新幹線なども含め昔の特急形車両には、このような飲料水の冷水器が設置されていた
取材中に雲が晴れて下吉田駅のホームから富士山が望めた
下吉田駅の駅前から望む富士山
下吉田駅のホームから見たスハネフ14 20。全長は21.3mある。
JR東日本の特急「成田エクスプレス」が河口湖駅まで乗り入れており、スハネフ14 20の側を通り過ぎていった

 富士急といえば、富士山の山梨県側の裾野を、大月駅~河口湖駅まで結んでいる全長26.6kmの鉄道であり、大月駅と河口湖駅の標高差は500mもある。また、「フジサン特急」や「富士登山電車」などユニークな列車を運行しているのも特徴だ。スハネフ14 20は、同型のスハネフ14 6が寝台特急「富士・はやぶさ」の最終列車編成にも使用されており、寝台特急「富士」を象徴する車両と言っても過言ではない。

 14系は、20系に代わる寝台客車として1971年に登場。寝台の幅を700mmに拡大し、編成の分割が容易な分散式電源方式にするなど、次世代の寝台客車として期待された。しかし、1972年11月の北陸トンネル火災事故により、列車の火災対策が見直され、寝台客車の主力は20系と同じ集中電源方式の24系に変更されたことにより、14系の製造は打ち切られた。その後、1978年に火災対策を施した14系15形が製造されたが、製造された車両数は最小限となった。下吉田駅に展示されているスハネフ14 20は、乗務員室のある“緩急車”と呼ばれる車両で、床下に発電用のディーゼルエンジンを搭載しており、自らを含め5両分(食堂車が含まれる場合は4両)の客車に電源を供給できる。このため、車内の電源を電源車から一括して供給する24系に比べて、1つの列車を2つの行き先に分割するといった運用がやりやすかった(20系や24系の場合は編成を分割すると追加で電源車が必要になる)。特に東京駅から出発し、長崎駅と佐世保駅の2つの行き先を持つ寝台特急「さくら」などは、14系に切り替わって以降はずっと14系が充てられてきた。その「さくら」も2005年3月に廃止され、寝台特急「富士」が寝台特急「はやぶさ」と併結されるようになり、編成全車が14系に変更された。そして、東海道本線最後のブルートレインである寝台特急「富士・はやぶさ」となった。2009年3月に寝台特急「富士・はやぶさ」も廃止され、寝台特急「富士」の最後は24系ではなく14系が飾ることになった。

発電用のディーゼルエンジン「DMF15HS-G」がある付近。スハネフ14は自らを含め5両分(食堂車が含まれる場合は4両)の客車に電源を供給できる
ディーゼルエンジンの吸気口
583系寝台電車などで採用された折り扉。新製時には扉の部分にも白いラインが車体から続くように引かれていた。扉の上には、「B寝台」の文字と2段の客車寝台を示す銀色の星マークが3つある
スハネフ14 20は、新製時と比べいくつか改造されている。連結器は密着型の自動連結器に変更され、機関車からの発車時の振動が抑えられるようになっている
右から2番目の窓は非常口だったが、廃止されている。入れ替え作業用の手すりが車両の角にあるのも14系の特徴
富士急の工場で平成23年4月に整備を受けたことを示すマーキングが書かれていた。なお、スハネフ14 20の自重は38トンあるため、重量を示す表記は“ス”を用いる。スハネフ14のスの部分は自重が「37.5トン以上 42.5トン未満」ということを意味している
車両の所属を示す部分には、1972年の新製時に配置された国鉄 東京南鉄道管理局を意味する「南シナ」の文字。現役時の最終配置は、JR東日本の尾久車両センターで、この部分の表記は「東オク」だったため、これは富士急の工場で整備したときに書き換えられたもの。他にも「日本国有鉄道」や新製時の「新潟鉄工所昭和47年」や2段寝台化改造された際の「日本国有鉄道大宮工場昭和60年改造」などの銘板が並ぶ
連結器付近のジャンパー線など。こちもら密着型の自動連結器を搭載
新製時と比べると、乗務員室の窓とトレインマークの窓の部分の縁取りのゴムが灰色から黒に変わっている。また、屋根には列車無線アンテナを搭載

 下吉田駅のスハネフ14 20は、この14系が最後を飾った寝台特急「富士」をイメージして展示されており、トレインマークは「富士」を掲げ、行き先方向幕は「特急富士 西鹿児島 日豊線経由」となっている。14系時代にはすでに寝台特急「富士」は大分駅止まりとなっていたため、ここら辺はご愛敬といったところだが、寝台特急「富士」の最長運行駅は西鹿児島駅(現在の鹿児島中央駅)なので、これはこれでよいのではないだろうか。

トレインマークは寝台特急「富士」を掲出
行き先表示とトイレ部分の明かり窓
行き先表示は「特急富士 西鹿児島 日豊線経由」に

 下吉田駅の見どころはこれだけではない。富士急の歴史を垣間見る車両も展示されている。それが無蓋貨車「ト104」と有蓋緩急車「ワフ1、2」だ。富士急では、1929年の大月駅~富士吉田駅(現在の富士山駅)間の開業とともに貨物輸送が開始され、電車に連結された貨車が地元の生活必需品を運んでいた。とはいえ、トラック輸送の発達により1978年3月に貨物輸送は廃止となった。その貨物輸送時代に使われていたのがト104とワフ1、2だ。特にト104は富士急の創業時に製造された、まさに富士急の歴史と共にある貨車といえる。ワフ1、2は、南海電鉄から1974年に譲渡された車両で私鉄貨車として珍しい存在。

南海電鉄から1974年に譲渡されたワフ2
側面には富士急行のマーキング
ワフ1は富士山麓鉄道のマーキング
ワフ1とワフ2でト104を挟むように連結されている
富士急の生き字引ともいえる「ト104」
「ト104」は、屋根のないいわゆる「無蓋貨車」

 この3両は、ブルートレインテラスから駅舎をはさんで反対側の側線に展示されており、改札内に入れば公開時間の10時~16時は、ワフ1、2の車内も含め自由に見学できる。ワフ1には、当時の貨物輸送をイメージした瓶などが積まれている。また、ト104には、線路の砂利(バラスト)が積まれている。なお、ワフ1は、富士急の前身である「富士山麓鉄道」の文字が描かれており、ワフ2は、富士急行となっている。現役時代のワフ1は富士山麓鉄道時代には所属していなかったが、「富士山麓鉄道」という名前を伝えるための展示となっている。

ワフ1には、当時の貨物輸送をイメージした瓶などが積まれている
ト104には、線路の砂利(バラスト)が積まれている
ワフ2の車内。荷物を積載する部分
ワフ2は車掌が乗る緩急車。ブレーキが掛けられるようになっている

 さらに、下吉田駅は「下吉田倶楽部」というカフェが併設されており、スハネフ14 20や貨車を見学したあとに一息つけるようになっている。営業時間は10時~17時。特に窓際の線路が見える席からは、富士急の列車が通過する様子を楽しめるトレインビュースポットになっている。通常のカフェメニューのほか、夏季限定メニューとして、地元の桃で作る「フレッシュピーチジュース」(360円)やそうめん(500円)、ところてん(300円)が提供されている。また、富士急と姉妹鉄道提携を結んでいるスイス マッターホルンゴッダルド鉄道のマッターホルン登頂開始150周年記念として名産の「モルガアップルマンゴーティー(アイス)」も300円で提供されている。

カフェ「下吉田倶楽部」の店内
下吉田駅は「ななつ星in九州」などをデザインした水戸岡鋭治氏がリニューアルを手がけており、「下吉田倶楽部」の店内もそれに合わせたデザインになっている
お勧めは窓際の席。線路が見えるため、下吉田駅を通る列車を眺められる
「フレッシュピーチジュース」(360円)
夏季限定メニューのそうめん(500円)
夏季限定メニューのところてん(300円)
「モルガアップルマンゴーティー(アイス)」(300円)

 「フレッシュピーチジュース」は絞りたての桃の新鮮な味が濃すぎず薄すぎずといった絶妙な甘さで、非常に美味だった。ただし、2015年は桃の生育が芳しくないようで、日によっては桃が手に入らず、提供できない場合もあるという。もし、提供されているようなら、ぜひ飲んでみて欲しい。

 また、スハネフ14 20の車両銘板のレプリカ(1030円)やB寝台のマークステッカー(520円)ほか、富士急関連のグッズも多数販売されていた

、スハネフ14 20の車両銘板のレプリカ(1030円)やB寝台のマークステッカー(520円)が販売されていた
富士急関連のグッズも多数販売
富士山関連のグッズも販売

(編集部:柴田 進)