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外来種の雑木林を原生種の育つ絶景へ再生。日本とハワイの心地よい関係創造を目指すJALの「'OLU'OLU! Honolulu!」をホノルルで見てきた

2025年3月1日~15日 実施
日本とハワイのつながりを創造するJALのプロジェクト「'OLU'OLU! Honolulu!」

 JALは、日本とハワイの関係・つながりを創造する新企画「'OLU'OLU! Honolulu!」を3月1日~15日に実施した。

 'olu'olu(オルオル)とは、「心地よさ」を意味するハワイ語。ハワイまたは日本各地のアクティビティに旅行者が参加することを通じて、従来の消費型観光では生まれづらかった現地とのつながりを作るための取り組みで、体験を経て互いが心地よい関係になることを目指している。

 本プログラムでは、対象便搭乗でLife Statusポイントの付与、渡航前のコート預かりサービスの利用でマイル付与などいくつかの試みを用意していたが、特に興味深いのはハワイ現地でほぼ日替わりに設定していたアクティビティ群だ。そのほとんどがWebサイトから無料で申し込むことができ、ダイヤモンドヘッドで海岸線に沈む夕日を眺める体験やハワイ伝統のタロイモ栽培体験など、定番のハワイ滞在とはひと味違った角度から現地とのつながりを育めるものになっていた。

ただワイキキの夕日を眺めるだけ、という贅沢

 例えば、「JALダイヤモンドヘッド サンセットツアー」は、ワイキキからダイヤモンドヘッドへと上る道の途中、女性飛行士アメリア・イアハートの碑で知られるビスタポイントの少し手前の「Kuilei Cliffs Beach Park」(31042002, Honolulu, HI)で、海岸線に沈む夕日を眺めて“なにもしないを楽しむ”という試み。

「Kuilei(クレレイ)」とはハワイ語で光の連なりを意味する言葉で、ここには印象的な灯台(Diamond Head Lighthouse)も設置されているのだが、実は比較的最近まで崖に向かう斜面全体にキアベ(南米などが原産のマメ科の木)が生い茂り、現地の人たちもこの崖全体の様子を把握できていなかったという。

 キアベはかつてハワイの外から持ち込まれた樹木で、成長が早くドライランドだったハワイの緑化に一役買ったものの、少し人の手を離れると急速に育成域を広げ、ハワイ原生種を駆逐するほど繁茂してしまった。Kuilei Cliffでも道路からは海や灯台が見えないほど生い茂った結果、近隣では車上荒らしが増えたり、ホームレスが増えたりと治安がわるくなり、地元の人も近づきにくくなっていた。

ワイキキの海に沈んでいく太陽を“ただ眺めるだけ”の贅沢。軽食とともにレジャーシートを広げてピクニックしてもいい
キアベの林を切り拓いた「Kuilei Cliffs Beach Park」の2025年3月の様子。画面右に見えるのがキアベで、道を挟んだ山側の斜面にはまだ大量のキアベが残る

 一方で、崖の先はサーファーから定番スポットとして現在も愛好されており、この状況を憂えた地元サーファーが中心となって自然環境の再生に着手した。具体的には、外来種であるキアベの林を切り拓き抜根、整地した部分には芝生を敷くことで雑草の繁殖を抑えて緑化し、人間と動物がくつろげる公園として整備を進めている。この公園はもちろん無料で、誰でも入ることができる。

 雑木林と化していたエリアが次第に開けていくのを目の当たりにして、地元の人たちが興味を持って活動に参加したりと、再生の輪が広がっているという。最近ではアホウドリ(アルバトロス)が飛来して産卵するようになり、年に30羽くらいの雛が孵るようになっているとのこと。

 この再生活動を主導的に行なっているのが、久保田亮さんが代表を務める「Kuilei Cliffs」。そしてその趣旨に賛同したJALのハワイ支店が活動に加わり、今回のプログラムでツアーの形にまでたどり着いた。緑の芝生越しにワイキキの海を望む今の姿から以前の様子は想像が付かないが、キアベ林を切り拓いたことで犯罪が減りホームレスが姿を消すなど、社会環境としても再生が進んだ。

 取材するなかで、ここまでの話を聞いて治安の改善はともかくホームレスを追い出したような印象を受けていたが、実際にはこの活動にホームレスたちも参加しており、そのうちの一人はホームレスをやめてシェルターに入ったそうだ。

最近ここで産まれたばかり、という鶏の雛と母親。公園では鶏がたくさん暮らしていた
キアベの代わりにハワイ原生種を植樹している。公園にはスプリンクラーを設置して、芝生の水やりも抜かりない体制

 再生のもう一歩進んだ取り組みとして、この公園ではミロ、コウ、ククイなどハワイ原生種の植樹も行なっている。特にウィリウィリと呼ばれる種類は外来種の虫に弱く、一度ハワイから絶滅していたが、保存されていた種から育てた実生苗を植えることで元気に育ちつつある。ウィリウィリは柔らかく加工しやすいため、大きく育ったものはサーフボードの材木としても使われるとのことで、将来はこの公園生まれのサーフボードに乗って、その目の前のスポットで波を切るサーファーの姿を見ることができるかもしれない。

ワイキキ中心街からはJALがチャーターしたバスで移動
Kuilei Cliffs 代表 久保田亮氏(左)、日本航空株式会社 ハワイ支店 総務セクション 西村元延氏(右)

学生たちが参加した「ダイヤモンドヘッドのクリーンアップ」

 実は'OLU'OLU! Honolulu!のプログラムには、このKuilei Cliffs Beach Parkの自然環境再生活動に参加する、というツアーも用意されていた。取材のタイミングでは土曜の朝にもかかわらず、ハワイ大学に春季留学中の日本の大学生を中心とした40名を超すグループがクリーンアップ活動に参加しており、最初は農具の扱いに慣れない様子だったのが、だんだんと片付いていく公園の様子に再生活動の実感を得ているようだった。

 今後どれだけの学生が活動を継続するかはそれぞれだが、自ら整備した公園がワイキキの新名所となって残り続けるというのは得がたい経験に近いない。

 ハワイ支店の西村さんは、「ここはワイキキにも近くて、中心部から少し足を伸ばせば来ることができるので、ホノルル観光の延長で楽しめる場所なんです。『再生しよう』と特別高い意識を持ってもらうことなく、地に足の付いたカジュアルさがあるから参加の輪も広がっています。私は今ハワイに住んでいるので地元の問題として捉えていますが、ここなら観光で来た人も身近に感じられるはず」と話す。

朝の光で見るKuilei Cliffs Beach Park。これぞハワイという海の色が絶景
クリーンアップ活動に参加する学生たちが到着
久保田・西村の両氏が活動の趣旨などを説明する
思い思いの道具を手にクリーンアップに参加していた

エンタメ性のあるモビリティとしての電動車椅子

 'olu'oluの期間限定プログラムとは別に、いつでも利用できる取り組みとしてジャルパックハワイが用意しているのが、電動車椅子「WHILL」のレンタルサービスだ。

 免許不要で歩道を走行できるWHILLは、障害を持つ人やケガ人だけでなく歩行に不安を持つ人をサポートする電動モビリティで、せっかくのハワイ旅行なのに「歩くのが辛いから私はホテルに残る」と遠慮してしまうような同行者でも、街歩きの心地よさを同じように味わうことができる。

「JALPAKアロハステーション」で貸し出しているWHILL F型
シェラトン・ワイキキのJALPAKアロハステーション

 JALはシェラトン・ワイキキとモアナサーフライダーの「JALPAKアロハステーション」で、5台の「F型」と2台の「C2型」を有料で貸し出しており、特に新しいF型は約27kgと軽量(C2型は約52kg)で折りたたみ式のため、車両移動時はトランクに入れたり、ホテルでは部屋の隅でコンパクトに保管できたりと扱いやすい。多少の段差(35mm)を乗り越えられる出力と、最小回転半径78cmという小回りの利く車体を特徴としている。
※モアナサーフライダーのアロハステーションは2025年5月9日で営業終了

 実際に乗ってみると、右手首部分にある360度スティックで直感的に前後左右に操ることが可能で、ほとんどの利用者が年齢問わずすぐに習熟できているという。4段階の変速機能付きで、最高の4ではちょっと速過ぎるくらい。貸し出しの際も、市内では1~2段で操作するよう伝えているとのこと。

 ジャルパックの藤本茂樹さんが「歩行困難な人だけでなく、一つの移動手段として広めていきたい」というように、思った方向に動いてくれる追従性の高さは乗り物としてのエンタメ性も感じられる。現状は歩行困難者の利用が中心とのことだが、セグウェイツアーほどではないにしても、新感覚のモビリティとして人気を集めるポテンシャルは感じられた。

 なお、WHILLはリピーターからのニーズが非常に高いそうで、すでにゴールデンウィークや夏休みなど、年内繁忙期の予約は埋まってしまっているという。

レバーを押さえながら手前に引くだけで簡単に折りたためる
スティックは上から手のひらをかぶせるタイプ。+と-のボタンで変速する
動力が車体後部に小さくまとまっているのが分かる
貸し出し時はACアダプタが付属するため、ホテルに戻って充電すればよい。航続距離は20km
株式会社ジャルパック ハワイアロハステーション 藤本茂樹氏

「人が行かないと発展しない、守られない」

 2022年度から始まった「JAL2030サステナブル・チャレンジ企画」。SDGs達成の目標年として掲げる2030年にグループの“ありたい姿”を社員それぞれが考え、実行していく取り組みで、'OLU'OLU! Honolulu!プログラムはESG推進部 企画グループ 主任の森瑞紀さんが主導している。

 人が移動した先で新しい関係を生んだり、経済的に地域を活性化したりという「つながりの創造」はJALとしても中長期的なテーマに据えており、本プログラムは日本とハワイのつながりに注目した取り組みになっている。

 いくつかあるプログラムは、ここまでに紹介したもののほか、「ハワイの伝統農業体験」「ビーチクリーン」「ハワイ固有種の植樹」などの活動も含まれていた。

 Kuilei Cliffs Beach Parkの活動においても原生種の植樹は大きなウェイトを占めていたが、森さんは「自分や両親・祖父母の植えた木があることでまた旅行に来たくなる、という世代を超えたハワイとのつながりができたり、実はその木がハワイの固有種だったというストーリーが生まれることを大切にしたい」と話す。

 森さんは以前、「環境を守りたいというのに輸送量は増やしたいのか」と学生に問われたことがあるという。実際、コロナ禍に人が減ったことで自然環境が回復した例は多くあり、ハワイでもダイヤモンドヘッドやハナウマ湾が予約制になるなど、環境と観光のバランスを図る施策がとられている。一方で、コロナ禍に人流が減って観光地だったから整備されていたところが荒れてしまうという課題もあった。森さんは、「人が行かないと経済的に発展しない、守られない」という。

「旅行業界としては、オーバーツーリズムや環境負荷などで地元の方にご迷惑をおかけしている部分もあるのですが、それでも『JALが人を運ぶことでいい変化があった』と町の方に思っていただけるようになりたいと考えています」と述べ、観光客だけ、JALだけではなく「行き先の地域の方と一緒に成長できる未来を作っていきたい」と展望を語った。

ハワイ線の機内ではスナックの包装や紙コップに'OLU'OLU! Honolulu!のデザインを施していた
日本とハワイのつながりをアイコンと円環で表現した'OLU'OLU! Honolulu!のキービジュアル
ハワイ線の機内で放映している「JAL ハワイ語 'OLU'OLU 単語帳」(動画提供:日本航空)
日本航空株式会社 ESG推進部 企画グループ 主任 森瑞紀氏