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星野リゾート トマムのバックカントリーツアーに星野代表と一緒に参加してみた

2025年2月17日 取材
星野リゾート トマムのCATツアーでパウダースノーを満喫する星野佳路氏

 星野リゾート トマムでは、狩振岳エリアでパウダーライドを存分に楽しめる「狩振岳CAT(雪上車)ツアー」を提供している。本誌では、星野リゾート 代表の星野佳路氏が同ツアーに参加するとの情報をキャッチし、同行取材した。

 星野リゾート トマムの敷地内には、2つの山にまたがるトマム スキー場があり、初心者から上級者まで楽しめるゲレンデが整備されている。日本一寒い村とも呼ばれる占冠(しむかっぷ)村に立地する同スキー場には、マイナス30℃以下の極寒が生み出すパウダースノーを目当てに集まるスキーヤーやスノーボーダーも多い。

 スキーやスノーボードの腕前が上達してくると、アルペンや基礎系、モーグル、ハーフパイプなど、なんとなく好みのスタイルが見えてくるが、今回紹介するCATツアーはバックカントリーというジャンルに位置づけられる。

 バックカントリーは、整地されたスキー場のコース外のことを指しており、冬場には度々遭難事故が報道されることからネガティブな印象もつきまとう。しかし、Freeride World Tourのように競技化する流れがあるほか、板・ビンディングといった用具や雪崩対策用のエアバッグなどの安全装備の進化もあり、バックカントリーを無謀ではなく、いかにリスクを抑え、安全なスポーツとして楽しめるようにするか、日々努力が重ねられている。

 そんな試みの一つとも言えるのが、今回取材した星野リゾート トマムのCATツアーだ。2025年は1月18日~3月9日の土日に実施されており、参加費は1名7万4800円。別途料金が必要となるが、パウダー用のボードやファットスキーのレンタルも可能だ。

ツアーで使用するCAT(雪上車)

 参加条件として、「あらゆる場所・雪面状況でも滑走、制御(停止)できる」ことが求められる。記者自身はというと、富山出身で子どもの頃からスキーの経験があり、スキー場内ではどんなゲレンデでも転ぶことはない程度には滑れるが、バックカントリーは初体験。恐る恐るではあるが、参加してみることにした。

ブリーフィング、そしてバックカントリーへ

 朝8時過ぎにホテルのロビーに集合し、ブリーフィングをスタート。普段のツアーではトマム ザ・タワーのロビーでブリーフィングが行なわれるそうだが、この日は参加者全員がリゾナーレトマムに宿泊していたこともあり、リゾナーレトマムのロビーでの実施となった。

 まずはスタッフの指示に従うことや、怪我のリスクに関する内容が記された誓約書にサイン。誓約書と引き換えに遭難救助用のビーコンが手渡され、否が応でも緊張感が高まるが、不思議とワクワク感も高まってくる。

 ブリーフィングが終わると用意された車に乗り、狩振岳の麓にあるベースステーションに30分ほどかけて移動する。そこで1日お世話になるCAT(雪上車)と対面。同時にお世話になりたくないが、ショベルやエアバッグなどが入ったバックパック(無料貸出)を受け取り、みんなで準備運動をした上でCATに乗り込み、30分ほどかけて山頂へ。

誓約書に署名するとビーコンが手渡される
星野氏がエアバッグを体験

 CATを降りると、立ち上げからCATツアーに携わっているリードガイドの玉井幸一氏の先導の下、滑走のスタート地点となるドロップポイントへ。森林限界で高い木々もなく、一面パウダースノーの世界が広がっている。

滑り始めるドロップポイントの景色

 どの方向にも自由に滑って行けそうだが、滑って行った先には森や沢もあれば崖もある。正しいルートを選択しなければ命に関わる危険が待ち受けている。そんな中で安全に滑れるルートを示してくれるのが、頼れるリードガイドの玉井氏ということになる。

 同氏の頭の中には狩振岳の地形とともに安全にバックカントリーを楽しめる複数のルートがインプットされており、状況に応じて適切なルートへと誘導してくれる。毎回、必ず先頭を滑り、安全が確認されてからトランシーバーで最後尾を滑るテールガイドの2人に連絡。雪質や注意点を伝えてくれ、リードガイドのGOサインが出ると1人が滑り、次のGOサインでまた1人が滑り、ということを繰り返していく。

リードガイドの玉井幸一氏

滑りやすいが止まるのは難しい

 途中で転んで深い雪に埋もれると、その場で立ち上がるのが困難なのは、実際に転んでみてよく理解できた。転んだときの衝撃はパウダースノーに吸収され、全くと言っていいほど痛みは感じないが、頑張って起き上がろうとしても暖簾に腕押し状態で体を起こすことが難しく、ひたすら体力を消耗してしまう。1人で滑っていてこの状態に陥ると本当に命の危険を感じるだろう。

転んで新雪に埋もれる記者

 そんな哀れな記者を救ってくれたのは、CATツアーのスタッフで、この日テールガイドを担当していた田中大介氏。起き上がれる姿勢に戻し、腕を掴んで引っ張り上げて立たせてくれた。まさに命の恩人だ。

 初めて滑る深いパウダースノーの世界は、意外にも滑りやすいと感じられた。身につけていたリストバンドの心拍モニタリングのデータを見ると、圧雪されたゲレンデよりも体への負荷は小さいようで、無駄に転びさえしなければ、本当に気持ちよく滑り続けられるように思える。

誰も滑っていないパウダースノーを独り占め

 反対に難しいのは最後のブレーキング。ゲレンデの感覚でエッジをきかせて急ブレーキをかけるクセが抜けず、反動で谷側に体を持っていかれてしまう。強くブレーキングするのではなく、大きく回り込んで気持ち山側に戻るぐらいの感覚でゆっくりと止まるのがよさそうだ。

 そんな記者とは対照的に、60代も半ばで一回り年上のはずの星野氏だが、一切転ぶこともなく、慣れた板さばきでスイスイと滑っていっては、決まってブレーキングで転んで息を切らしながら救助される記者に「途中まではすごくいいのに、最後の最後が惜しいね」と、にこやかに語りかけるのだった。

スリリングなツリーラン

 山頂から一滑りすると、徐々に木々が現れる。その間をすり抜けて滑るツリーランのスタートだ。しっかりとスキーを滑らせる方向とスピードをコントロールしつつ、迷いなく確信を持って挑まないと、すぐに木にぶつかって怪我をしそうだ。

木々の間をすり抜けて滑るツリーラン

 そんな時にはリードガイドの玉井氏が示してくれるトラック(滑った跡)が参考になる。局所的に針の穴を通すような滑りが求められる場所はあるが、比較的余裕を持ったコースを案内してくれるので、トラック周辺の新雪部分を使って、心地よい緊張感を持ちつつ木々の間を滑っていくことになる。

 玉井氏によると、ツリーランのコツは木を直視せず、できるだけ遠くを見るようにすること。このあたりはゲレンデを滑るときや、車を運転するときにもよく言われる話だ。

 ひとたび木にぶつかれば怪我は必至。前述の通り、深いパウダースノーは転んでも痛くはないので、木にぶつかるくらいなら、無理せず手前で安全に転ぶのも一つの手だ。転んでもテールガイドが助けてくれるのがCATツアーの良いところ。起き上がるのに多少は疲れるが、気持ちよく転んでしまおう。

 ツリーランを終えると、再び山頂に連れて行ってくれるCATが待ち受けている。これを午前中に3回、昼食を挟んで午後に2回楽しんだ。

山の中腹にある昼食会場

星野氏もハマるバックカントリーの魅力

 繰り返し滑っていて不思議だったのは、毎回誰も滑っていないノートラックな雪面に案内されること。玉井氏曰く、1週間経つと新雪が積もり、雪面がリセットされるので、同じコースは1週間に一度しか通らないように工夫しているのだとか。豊富な経験のなせる技だ。

 そんなパウダースノーだけでなく、中腹にある暖かいテントの中で楽しめる豪華な昼食もまたCATツアーの魅力と言える。この日のメニューは食べきれないほどの海鮮鍋。コーヒーやデザートまでしっかりと満喫できる。

この日のランチは海鮮鍋だった

 昼食を食べながら星野氏としばし雑談。ウィキペディアには年間60日のスキー滑走を目標にしていると書かれているが、今は年間80日を目指しているという。今年はペースが遅く、2月半ばで「まだ40日ほどしか滑っていないので、4月以降の春スキーで取り戻したい」とのこと。関係者は、星野氏は夏になると決まって南半球に滑りに行ってしまうので、発表会などのスケジュールが調整しにくくなると苦笑いしていた。

【カメラマン撮影】参加者とスタッフ全員で記念撮影

 今回のCATツアーに参加して実感したのは、整備されたゲレンデとは異なり、大自然の中でスリルを感じながらパウダースノーを楽しめるバックカントリーの魅力の大きさで、星野氏がのめり込む理由も何となく分かったような気がする。

 もちろん、整備されたゲレンデを滑っていても怪我をする場合があるのと同じように、いくら安全に配慮されたツアーとはいえ、怪我をしてしまうリスクはゼロではない。現時点ではCATツアー自体に保険は付いていないので、万が一の場合を想定すれば、別途バックカントリーも補償対象になっているスキー保険などに加入しておくと安心だろう。

星野リゾート トマムの冬の名所「アイスヴィレッジ」
結婚式を開催できる「氷の教会」
今シーズン登場した「氷の気温塔」の表示はマイナス1℃。現地の人からすると“暖かい”のだとか
「氷のラーメン屋」
氷でできたカウンターで食べられる
絶対に食べておきたい「氷のラーメン」
手前が「リゾナーレトマム」、奥に見えるのが「トマム ザ・タワー」