ニュース

新幹線車内が大満足の声優イベント会場に。東海道新幹線で開催された「声優新幹線」レポ

左から石飛恵里花さん、久保田未夢さん、田中ちえ美さん、中島由貴さん、岬なこさんという人気声優の方が乗車した声優新幹線

 東海道新幹線の利用時、ホームにあがるとまず目を向けるのが吊り下げられている発車案内板。自分が乗る列車の名前や入線するホーム、発車時間などを確認するためだが、この案内板に「団体」と表示されていることもある。

 これは貸し切りの列車のことだ。代表的なものでは修学旅行で利用されたりするが、通常の座席指定ではなくて貸切を選ぶことで、単なる移動だけでなく、車内で旅行に関するオリエンテーションや注意事項の説明も行なえるなど、集団で行動するには便利なことが多い。

 また、その貸切のパターンも1編成丸ごとだけでなく、通常ダイヤで運行する新幹線のなかの一部の号車のみを貸し切ることもできるので、修学旅行のように大人数にならない社員旅行や企業イベントなどでも新幹線の貸切は利用されている。

今回は東海道新幹線「のぞみ」の貸し切り利用と、そのサービスを利用した「声優新幹線」についてレポートする

 そして、その貸し切り利用についてだが、JR東海では2022年12月から「東海道新幹線 貸切車両パッケージ」というプランを用意している。

 内容は東海道新幹線「のぞみ」を1編成、もしくは号車単位で貸し出し、車内でオリジナルイベントなどを実施できるというもの。JR東海では団体旅行での利用のほか、各種発表会やファンイベントなどの開催を例に挙げている。なお、単に車両を貸し切るだけでなく、オプションとして座席のヘッドカバーをイベントオリジナルのものにしたり、通路にレッドカーペットを敷く、照明を変更するなどのサービスも用意しているので、車内の雰囲気を用途に合った世界感に仕上げることもできるのだ。

「東海道新幹線 貸切車両パッケージ」はジェイアール東海ツアーズ、JTBにて販売している。詳しい内容はWebサイトを確認していただきたい。

東海道新幹線 貸切利用パッケージはジェイアール東海ツアーズおよびJTBにて販売している。車掌の制服の貸し出しサービスもあるので、社員旅行での貸し切り利用では、社長さんが車掌に扮して従業員にサービスを行なうといったこともあったそうだ

5名の人気女性声優が車掌の制服で乗車する「声優新幹線」

 1964年(昭和39年)10月に開通した東海道新幹線は2024年10月で開業60周年を迎えた。それに伴いJR東海ではさまざまな催しを行なっているが、その一環として運行したのが、創刊30周年を迎えた声優雑誌「声優グランプリ」との特別企画「声優新幹線」だ。

 声優新幹線は、のぞみ360号を1編成貸し切りにして、2024年11月30日12時に新大阪発、14時27分に東京着(途中乗降なし)というスケジュールで運行した。

 声優新幹線の車内では、人気声優11名による録り下ろし音声の車内放送が流れたほか、石飛恵里花さん、久保田未夢さん、田中ちえ美さん、中島由貴さん、岬なこさんという5名の声優が実際に乗車し、新幹線乗務員の制服姿を披露。そしてすべての号車を声優たちが歩いて参加者にあいさつするグリーティングや、車内放送を使ったトーク企画など、ファンにとってはうれしいイベントが実施された。

 また、声優新幹線ならではのサービスとして、オリジナルロゴの入った座席ヘッドカバー、クリアファイル、乗車券風のカード、パスケース、声優ごとの写真カードが乗車特典として用意された。さらにグリーン車に乗車した人には、声優自らが乗車特典を手渡しするという内容になっていた。

 料金は普通車(座席指定)が3万円、グリーン車が4万円という設定だったが、売れ行きは好調だったそうで、特に声優からの「お渡し」があるグリーン車は申し込みが多く、抽選は約5倍の倍率だったそうだ。

乗車特典の座席カバー
そのほか、クリアファイルなど。すべて乗車した人だけの限定グッズ

声優新幹線に乗ってみた

 今回は「声優新幹線」に同乗することができたので、車内での状況などを紹介していく。

声優新幹線のぞみ360号は新大阪駅24番ホームに入線。発車案内板には団体360と表示された
出発の20分前に「声優新幹線」が入線。車内にはこのようなボードが掲げられていた

 声優新幹線がホームに入線。参加者の方に続いて筆者を含む取材陣も乗車した。案内されたのは運営スタッフが乗る号車だが、そこは「声優新幹線」の主役である声優さん方の席もある。筆者が乗り込んだとき、声優の皆さんは、この日の衣装である「東海道新幹線の車掌の制服」をすでに着用した姿だった。

内容盛りだくさんの声優新幹線

 声優新幹線は定刻どおり新大阪駅を発車した。車内では本物の車掌さんから案内やお願い事項が車内放送で伝えられた。ちなみにこの日に乗務した車掌さんは声優好き、アニメ好きとのこと。そこでこの乗務は志願したものかを聞いてみたところ、イベント列車を含めて東海道新幹線では志願したからといって乗務が決まる仕組みはないと前置きしつつ、「いちおう上司には乗りたいと伝えました(笑)」と答えていただいた。

 さて、車掌さんからの放送が終了後、乗り込んだ5名の声優さんからの「声優新幹線」の開始が伝えられ、1人ずつあいさつをしたあと、この企画の目玉である、声優たちがすべての車両を歩いてまわるグリーティングイベントが開始された。

 ご存じのように新幹線の通路は大人1人が歩くのにちょうどいいくらい幅なので、座席との距離感が近い。特に通路側の座席であれば声優さんとは20cmくらいだろう。その距離間で声優たちはゆっくり歩きながら左右の座席を向かって手を振ったり、声がけに応えたりしていた。

 グリーティングイベントが終わると次は車内放送を使っての「新幹線ラジオ」がスタート。ちなみに声優さん界隈にはインターネットで配信する声のみの(イラストなどは使用する)トーク番組があり、それを「声優ラジオ」と呼んでいるので、音声を届けるという点から声優新幹線の車内放送も「ラジオ」と称しているのだ。

 新幹線ラジオは5名の声優さんが皆さんで話すほか、2組に分かれての放送になっていたので、トータルで約1時間45分もの長尺になっていた。その内容はというと……これは声優新幹線に乗車した方だけの特典なのでここでは詳細を伏せるが、1つ、参加者に聞いたことを挙げると、ラジオ内で車窓から見える風景が話題になったときに、その風景が自分にも見えているので、「同じ列車に乗って同じ景色を見ている」ということにうれしさを感じたという。

 新幹線ラジオだけでも貴重な体験になったと思うが、声優新幹線にはもう1つ、グリーン車に乗るファンに対して記念品を直接手渡しすという大きなイベントがあった。

 筆者も久保田未夢さんと石飛恵里花さんが対応しているところを見させてもらったが、お2人とも参加者の方に接するときは少し屈んで目線を下げ丁寧に渡していた。また、1人ずつ「どこからの参加ですか」など、声優さん側から話題を振って会話をしていたのが印象的だった。

お渡し会前のグリーン車。グリーン車は倍率が5倍という激戦になったそうだが、それも納得の内容だったと思う

 お渡し会が終わると終点の東京までは再び新幹線ラジオの時間となったが、放送がない時間はグリーティングやお渡し会が行なわれていたので、東京に着くまでの間、車内では常になんらかのイベントが行なわれていたことになる。

 そして東京駅に到着。筆者はデッキに立って降車する参加者の方を見送っていたが、笑顔で降りていく方がほとんど。どうでした?と聞いてみると「よかったです」「最高でした」と答えてくれる方ばかりで、声優新幹線が大成功だったことがハッキリと分かる反応だった。

「一緒におもしろい新幹線を走らせたい」

東海旅客鉄道株式会社 営業本部 法人営業グループ(MICE担当)森本啓太氏

 声優新幹線は今回が初開催。JR東海側はどのように感じていたのか、営業本部 法人営業グループ(MICE担当)の森本啓太氏に伺った。

「普通の新幹線は旅や仕事に行くために乗るものなので、いわば無機質寄りなものかと思います。それに対して声優新幹線はコンテンツとして声優さんがお話をしてくれて。お客さまはそれを聞いて楽しんでいただけていることに、非常にいい空間だなと感じました」とコメント。

 さらに「実は走り出すまでかなり緊張していました。車内でのイベントはしっかり考えて企画しましたが、はたしてそれでお客さまが喜んでいただけるか不安もありました。でも、始まってみると皆さん笑顔になっていただけて。グリーティングやお渡し会では本当にうれしそうな表情も見られたので、とてもうれしく思いました。

 声優さん側も声優新幹線を楽しみにしていただけていたと聞いていますので、“いい新幹線”になりました。また、新幹線車内は密閉度の高い空間ですが、その特性と“音”のコンテンツとの相性がいいということは新たな発見で、新幹線にはこういった使い方があるのだなと思いましたし、もっとお客さまのニーズに合わせていろいろとやって行きたいと改めて感じました。

 我々はこの貸切車両パッケージを通じて、団体さま、企業さまの要望に全力でお応えしていくので、いろいろなアイデアを頂戴しながら、一緒におもしろい新幹線を走らせて行けたらと思っています」と語った。