ニュース

全線開通が見えてきた新東名、最難関「高松トンネル」ほか工事現場を見てきた

残すは新秦野IC~新御殿場ICの約25km

2023年12月14日 実施

建設が進められている新東名高速道路 河内川橋

 NEXCO中日本 東京支社は12月14日、令和9年度(2027年度)の開通を目指して建設中の新東名高速道路(E1A)新秦野IC~新御殿場IC間の建設現場を報道公開した。

 今回公開したのは秦野工事事務所が担当する河内川(こうちがわ)橋、山北スマートIC、高松TN(トンネル)の3地点。

 新東名は海老名南JCT~豊田東JCT間を結ぶ、延長約253kmの自動車専用道路。現在までに海老名南JCT~新秦野IC間(約21km)、新御殿場IC~豊田東JCT間(約207km)が開通済み。残る新秦野IC~新御殿場IC間(約25.2km)において工事が進められており、神奈川県内を秦野工事事務所(約14.2km)、静岡県内を沼津工事事務所(約11.0km)を担当する。

秦野工事事務所建設区間概要

区間名: 第二東海自動車道 横浜名古屋線
設計速度: 120km/h
車線数: 4車線(暫定)
最小曲線半径: 3500m
最急縦断勾配: 2%
本線延長内訳:
[土工延長]2.9km
[橋梁延長]2.3km
[トンネル延長]9.0km
萱沼TN(約1.4km、貫通済み)
高松TN(約2.9km、約5割)
赤坂TN(約1.0km貫通済み)
古宿TN(約0.6km、貫通済み)
湯触TN(約2.1km、9割以上)
谷ヶ山TN(約2.8km、神奈川県内約1.2km、貫通済み)

 同区間は当初、2020年度に全線開通となる予定だったが、後述する高松トンネルの工事などが難航。現在は2027年度内の開通を目指している。

 現場公開を前に新東名高速道路 山北事業PR館(神奈川県山北町)において、中日本高速道路 東京支社 秦野工事事務所 所長の伊原泰之氏が概要を説明した。

 伊原氏は「(神奈川県内の)県境部分は線形がわるく事故も多い」ことから山側に新東名の建設が計画され、現在は新秦野ICから新御殿場ICまでの残る約25kmを2027年度の開通に向け建設を進めていると前置き。神奈川県内の工事区間となる新秦野ICから県境の区間は「ずっと緩やかな2%(勾配で)登っている」「山と谷の連続でトンネルと橋梁が多い」と特徴を紹介した。

 平成18年(2006年)に事業着手、2020年度開通の予定でスタートしたものの2023年度に延期したあと、現在は2027年度を目標として進められていると説明した。こうした度々の延期が行なわれたのは「高松トンネルの脆弱な地盤と湧水に悩まされてきた」ほか、山深く高い地点に建設することから「現場に行くアプローチが非常に難航している」という。2023年11月末時点での工事進捗率はおよそ8割(秦野工事事務所管内はおよそ7割)となっている。

中日本高速道路株式会社 東京支社 秦野工事事務所 所長 伊原泰之氏
山北事業PR館にあるジオラマ。同館は一般でも入場できるが事前予約制となっている
河内川橋から新御殿場方面へ向かうとすぐに山北スマートICがある
山北事業PR館のパネル展示。このほか建設過程をさまざまな方向から見ることができるVR映像や橋の仕組みが分かる模型なども展示されている

河内川橋

 丹沢山地を源流とする酒匂川の支流、河内川と県道を渡河する橋梁。橋脚を中心に左右にバランスを取ったアーチ構造とするバランスドアーチ橋でコンクリートのほか、アーチ部の縦方向の骨組み(鉛直材)に鋼、そして斜め方向のワイヤー(斜吊材)を複合的に組み合わせた構造となる。橋長771m(上り線)、アーチ支間長(P2~P3間)220mで、これは徳島自動車道(E32)の吉野川池田ダム湖を横断する「池田へそっ湖大橋」(橋長705m、アーチ支間長200m)を上回り日本最大級となるもの。

 この河内川橋は道路面が水面から120m、およそ30階建てのビルぐらいの高さとなることから、建設にあたっては事前の準備も大掛かりなものとなった。東京側のP2橋脚においては材料や車両を運搬するためのインクラインが設置された。一度に大型コンクリートミキサー4台、およそ90tを運搬できる巨大な装置で、道路工事において設置されるのはめずらしいもの。一方、御殿場側のP3橋脚の施工には専用のトンネルを掘削、橋脚の根元に大型のステージを用意してから建設をスタートした。

 アーチ部分においては橋脚から東西に張り出して施工していく。先端に設けられた大型の移動作業足場を利用し、枠組みのなかでコンクリートを組み立て1ブロック(およそ6.5m)を施工。およそ2~3か月で1ブロックを完成させると次のブロックに移り、これを片側16ブロック施工することで左右からの張り出し部が終了、最後に中央部を埋めることでアーチが完成する。橋体の完成後はプレキャスト製の床版および壁高欄を施工して完成となる。

北側から見た河内川橋
河内川橋の概要
P2橋脚。山肌に斜めに設置されているのがインクライン
アーチ部分を製作する移動作業足場
P3橋脚の基部。ステージ奥に橋脚建設のために掘られた工事用トンネルが見える

山北スマートIC(仮称)

 河内川橋西側に設置される神奈川県最西端となるスマートIC。「東京方面から降りる」「東京方面に向かう」と2方向に限定されたハーフタイプのICで、ETC搭載車(車長12m以下)のみが利用可能となる。なお、余談ではあるが同IC西側にある谷ヶ山TNは映画「シン・ウルトラマン」で「ゴメス」が出現する舞台となった。興味のある向きは映像を見直してみるのもよいだろう。

 ここではトンネルや橋梁の建設で発生した残土をすべて受け入れ盛土を行なっており、総量はおよそ320万m3。現在までに250~260万m3が搬入され、工事が進行している。

 また、ICTを調査、測量、設計までフル活用して全工程を3次元化しているのも特徴。例えば測量では通常、25ヘクタールほどもあるこのエリアの場合、2人組で2週間程度を必要とするが、ドローンを活用することにより写真やレーザースキャナによるデータ取得がわずか2時間あまりで完了。加えて取得した点群データから3次元の設計モデルを作成することができ、構造物の取り合い検討が机上で可能となるほか、重機のオペレーターが画面を見ながら盛土の調節が可能になるなど省人力化、コスト削減、安全性の向上などが図られているという。

谷ヶ山トンネル入口上部からみた山北スマートICの工事現場。中央奥の紅白に塗り分けられたクレーンが数多く見える部分が河内川橋、右奥には東名高速道路も見える
山北スマートICの周辺写真
ICTをフル活用して工事が進行中
ドローンによる測量により大幅な省力化を実現
使用されたドローン。当日は光学カメラのみ搭載
中央のコマツ製ブルドーザー「D61EX-24」でICTを使い盛土の平滑化を図っている
AR(拡張現実)により現場に完成形を重ね合わせることも(写真はピンと面が異なるため左右で合成)
山北スマートICから新御殿場IC方面に向かうとすぐに谷ヶ山トンネル入口。映画シン・ウルトラマンでは擁壁上部からゴメスが出現した

高松トンネル

 秦野工事事務所が担当する工区で最難関となっているのが、神奈川県松田町と同山北町を結ぶ高松トンネル。全長は約2.9kmと特別長いわけではないものの、脆弱な地脈で土砂化、粘土化した地層を掘り進める必要があった。また、多いときには500t/hもの突発的な湧水が発生したほか、2022年9月には崩落も発生。2023年5月まで掘削を一時中断していた。

 その後、有識者の意見を聞きながら施工方法を検討、さらに前方へのボーリングを実施し地山の状況を確認、同時にボーリング部分からの排水を行ないつつ掘削を再開。現在は湧水量が200t/hと落ち着いたことで、1日に4~5m程度の速度で順調に堀り進められているという。進捗は上り線が約1.5km、下り線1.4kmで、おおよそ50%となる。

 トンネルの掘削にはNATM(ナトム)工法を採用。ただ、この現場では地山が脆弱なことから切羽(掘削の最前部)部分では長尺鋼管先受け工法も採用。これは長さ12.5mの鉄パイプを斜め上方120°の角度で挿入、そこから注入剤により地山を固めることでトンネルの天場が崩れないようにしている。

上り線トンネルの切羽部分。取材時はホイールジャンボにより鋼管の挿入を行なっていた
ブーム部の先端
火山灰などが滞積して作られた緑色凝灰岩。水につけると粘土のようにボロボロになる
1回の工程で約1m進む。そのたびに200mmのH綱をトンネル断面にぐるりと配置。黄色の部分はトンネルの変異を防ぐために打ち込まれたロックボルト。長さは約4m
現在も切羽やせん孔部から若干の湧水がある。湧水はトンネル出口付近に配置された浄化装置で処理されて排出される
ホイールジャンボの作業風景