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車内に刃物を持った不審者が! そのとき運転士や乗務員はなにをしてる? 東海道新幹線の実車を使った「異常時対応訓練」を見てきた

2023年10月31日 実施

JR東海が東海道新幹線の実車を用いた訓練を実施した

 JR東海は10月31日、東海道新幹線の実車を使った「異常時対応訓練」を実施した。刃物を持って周囲に危害を加える不審者に対し、乗務員、パーサー、警乗警備員、司令員らが連携しつつ対峙するというもので、品川~新横浜間を実際に走行しつつ行なっている。

 実車を使った訓練自体は例年実施しているものだが、今回は非常ブザーが複数押されたことを受けて、本来通過予定だった駅に急遽停車する進路に変更、最大限の速度でいち早く最寄り駅に到達する、という点が新しい試みになっていた。

訓練は実車を使って品川~新横浜間で行なった

 訓練は、乗客がほぼ満席の状態で着席している状況を模して始まった。「スマートフォンからの音漏れを指摘された人物が激高、所持していた刃物を振り回す」といういかにも現実にありそうなシナリオになっており、刃物に気付いた乗客が前後のドアから逃げ出しつつ非常ブザーが押されて、運転士と指令が緊急事態を補足、乗務員・パーサー・警備員らが初動の対処をするという流れ。また、今回は3名の負傷者が出た想定になっていた。

 乗務員らは不審者を取り押さえることが役割ではなく、あくまで乗客の保護が最優先。そのため、スーツケースやポリカーボネートのシールド、さすまたなどを使って不審者を牽制しつつ、注意を引いている隙に反対側のドアから負傷者を別に車両へ連れ出すという手順になっていた。

 牽制役と救出役を分担することでスムーズな救助作業を実現していたが、この背景には、乗務員らがグループ通話システムを使って連携していた点が大きい。

 そして駅で緊急停車すると待ち構えていた警官が突入、抵抗を続ける不審者を確保して訓練が終了した。

 前述のとおり、なるべく早く最寄り駅に到達して乗客を降車させることを主眼に置いているため、ホームの正確な位置に停まるとは限らない。例えば、今回は12号車で事件が発生したが、本来14号車の停車位置に12号車が停まった。しかも車両の扉とホームドアは大きくずれた位置になっていた。

 これを見越して駅ではホームドアを先行して開いており、乗客は車両とホーム柵の間をすり抜けてホームに出る、という形になった。また、2両分停車位置がずれたことで後ろ2両(15~16号車)は「ドアが開いてもホームがない」という状況になるが、乗務員の対応や車内アナウンスでその旨を知らせて安全を確保していた。

「音漏れしてますよ」と注意されたことで事件が始まる
「うるせえな」と詰め寄る男
ヒートアップしてついに男が刃物を取り出す
刃物に気付いた乗客が前後のドアから逃げ出していく
このとき複数の非常ブザーが押された
ディスプレイに非常ブレーキの警告が表示された。しかし今回は複数のブザーがほぼ同時に押されているため、運転士が不測の事態と判断。指令と通信を行なって最寄り駅まで走行する選択をした
わめき散らしながら車内をうろつく不審者
後方の13号車側から車掌が客室に入り、不審者と対話を試みる
危険と判断して後退、ドアを閉じる
男がドアを開こうとするが封鎖されている
今度は前方11号車からシールドを持った車掌が客室へ
負傷者の前まで出て救出できる状況を作る
後方を確認しつつ不審者を牽制、救助を確認して退避した
同様にさすまたを持った警備員が隙を作り、救出役が負傷者を運び出した
列車が駅に停まると警官が突入。男に投降を促す
ナイフを振り回したり蹴りを入れたりと暴れる男を警官が確保して訓練が終了した
今回実際に押された非常ブザー
本来の停止位置とは異なるが、乗務員の誘導や車内アナウンスで乗客の速やかな降車を促していた
「引き続き実践的な訓練に取り組む」と説明する東海旅客鉄道株式会社 執行役員 新幹線鉄道事業本部副本部長・運輸営業部長 近藤雅文氏