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大阪駅うめきた新ホーム、デジタル&AIの実験場だった! 顔認証改札やAI券売機、スマートロッカー、センサートイレが集結

2023年3月18日 開業

うめきた地下口改札に設置された顔認証改札機

 3月18日に開業した大阪駅うめきたエリアの新ホーム。西口やうめきた地下口の詳細および導線などについては既報のとおりだが、本稿ではうめきた地下口で展開している、デジタルやAIを駆使した新たな仕掛けについて紹介する。

ゲートのない顔認証改札機

 うめきた地下口の改札には、顔認証を利用した改札が設置される。顔認証改札機は、これまでにOsaka Metroや富士急などいくつかの事業社が実証実験を行なっているが、うめきた地下口に設置された顔認証改札機は、自動改札にあるようなゲートがない、という点が大きな特徴になっている。

 ゲートはトンネル状になっており、左右に2人並んで通過できる構造。そして、原則として入場・出場とも右側通行になっており、床や天井のサイネージには進行方向が表示される。とはいえ、左右の通路を分けるような仕切りはなく、左側を通行したとしても問題なく通過できるようになっている。

 実際に顔認証改札機を通過するデモを見ていると、2人が同時に通過しても問題なく認識して通過できているし、顔情報が登録されていない人が通ろうすると、登録されていないとしっかり認識される。認証速度も申し分ない印象だ。もちろん、マスクをつけていても問題なく認証できており、この点でも利便性に優れると感じる。

 なお、顔認証で入出場できるのは、うめきた地下口と新大阪駅東口のみ。また、うめきた地下口または新大阪駅東口から顔認証で入場後に、それ以外の駅で出場する場合には、別途精算が必要なので要注意だ。

 この顔認証改札機の運用は実証実験で、3月6日からモニターを広く募集している。モニターに応募できる条件は「大阪~新大阪駅間を含むICOCA定期券を持っている」ことだけで、それ以外に制限はない。また、実施期間も特に定めておらず、当面実証実験を行なうとのことなので、興味のある対象者はぜひとも体験してみてもらいたい。

通常の自動改札とは異なり、トンネル状の大きなゲートになっている
顔認証改札機は入場レーンと出場レーンが右側通行で分けられ、2人が並んで入出場可能
床に進入方向を光で示している
ゲート天井のサイネージでも進入方向を示す
マスクを装着していても問題なく認証し通過できる
ゲート内にはカメラを6台設置して、通行者の顔を認証
交通系ICカードリーダーも設置しており、ICOCAなどをタッチして通過することもできる
顔認証改札機を通過する様子
2人が同時に顔認証改札機を通過する様子

音声認識、音声合成を利用した券売機「みどりの券売機プラス+AI」

 JR西日本の主要駅に設置している「みどりの券売機プラス」では、券売機に搭載したカメラとディスプレイを利用して、遠隔のオペレーターと会話しながら特急券などを購入できる点が特徴となっている。

 それに対し、新たにうめきた地下口に設置した「みどりの券売機プラス+AI」は、AIを活用した音声認識および音声合成機能を利用し、オペレーターを介さずに音声入力による会話形式できっぷを購入できる点が大きな違いだ。

 まず、画面に表示されている「かんたんきっぷ購入」の「はじめる」ボタンをタップし、音声利用の注意書きに同意すると、音声入力がスタート。あとは「東京駅までのきっぷ」などと目的地を話せば、その内容をAIで認識し、目的地までのきっぷの候補を表示する。そのまま購入してもよいし、「11時出発」「18時に到着」などと発着の時間を話して新たな候補を表示させることも可能。

 また「せんだい」駅のように、同じ呼び名の駅が複数ある場合には、対象となる駅が一覧表示されるので、そのなかからタッチで選択することになる。

 なお、音声認識では対応できない場合などは、オペレーターに引き継いできっぷの購入を続けられるようになっている。

 音声入力でのきっぷ購入時には、券売機に設置されている受話器を利用する。これは、周囲の音にジャマされずしっかり音声認識できるように配慮してとのこと。音声の認識精度はまずまずという印象。実際に試してみたところでは、普通にしゃべれば問題なく認識したが、周囲の騒音が大きい場合などはうまく認識できない場面もあった。また認識までに数秒かかるため、少々待たされる印象もあった。

 このほか、受話器を利用するという点を気にする人もいそうだが、今後は接触を気にせず利用できる方式も検討していきたいという。

うめきた地下口のきっぷ売場に設置されている「みどりの券売機プラス+AI」
音声認識などAIを活用し、会話形式できっぷを購入できる
画面の「はじめる」ボタンをタッチすることで、音声認識でのきっぷ購入が可能となる
音声認識は券売機に用意されている受話器を利用
音声認識で行きたい場所を認識し、最適なきっぷが提案される

AIを利用した案内ロボット「AyumI」

 みどりの券売機プラス+AIの横に、もう1つ音声認識や音声合成を活用したデバイスを設置。それがAI案内ロボット「AyumI」だ。

 AyumIは、AIによって駅の施設や周辺施設の案内、大阪付近の観光地への道順などを案内するシステムだ。みどりの券売機プラス+AIとは異なり、空中に浮いて表示されているように見える空中ディスプレイを活用し、非接触で操作できる。また、音声認識機能を利用し、教えてもらいたい内容を話して案内してもらうことも可能。

 同時に、道順案内ではJR西日本のスマートフォンアプリ「WESTER」と連携し、スマホでAyumIに表示されるQRコードを読み取り、目的地への道順を自分の手元で確認することもできる。

 このAyumIによって、利用者の利便性を高めるのはもちろん、駅係員が人による対応の必要な業務に注力できるようになるため、サービス向上に努めたいとのこと。

 なお、AyumIは改札外のきっぷ売場に加えて、改札内のコンコースにも設置する。

うめきた地下口のきっぷ売場に設置されている案内ロボット「AyumI」
うめきた地下口改札内にもAyumIを設置
画面と下部の空中ディスプレイを利用した非接触ボタン、音声認識や音声合成を利用して案内を行なう
写真では分かりにくいが、下部のボタンは空中ディスプレイに表示され、非接触タッチで操作可能。また右のマイクボタンで声で質問することも可能だ
USJへの行き方を尋ねると、下部ディスプレイに乗り換え方などの道案内が表示される
乗り換えや道順の案内は、ディスプレイに表示するだけでなくスマートフォンアプリ「WESTER」に転送して手元で確認することも可能だ

デジタル案内板に自分向けの案内サインを表示する「One to One案内システム」

 うめきた地下口の構内には、各所にデジタル化され可変的な案内を表示できる案内板が設置されていることは既報のとおり。そして、そのデジタル案内板を利用し、利用客個人に向けた案内を表示する「One to One案内システム」も3月18日より提供開始となった。

 アプリ「WESTER」で目的地を入力して起動することで、自分向けのマークがアプリに表示される。そして、そのスマートフォンを持って駅構内を移動すると、最寄りのデジタル案内板に自分向けのマークとともに、目的地への案内が表示される。

 今回の取材時にはデモが行なわれなかったので、どのように表示が行なわれるかは未確認だ。ただ、デジタル案内板に自分向けの案内が表示されることで、駅構内を迷わずに移動できる手助けになるはず。これまでにない取り組みなので、うめきた地下口を訪れたらぜひ実際に試してみてもらいたい。

スマートフォンアプリ「WESTER」と連携し、自分向けの案内をデジタル案内板に表示する「One to One案内システム」
WESTERアプリで目的地を検索すると、検索結果に続いて自分だけのマークを表示
駅のデジタル案内板に、自分だけのマークとともに、自分だけの案内が表示される

視覚障害者向けナビゲーションシステム「shikAI」

 駅構内には視覚障害者向けの点字ブロックが設置されている。ただ、行きたい場所の位置が分かっていないと、点字ブロックを辿るだけで目的の場所にたどり着くのは難しい。そこでうめきた地下口エリアでは、視覚障害者向けナビゲーションシステム「shikAI」を利用できる仕組みを用意している。

 shikAIは、スマホアプリとQRコードを利用したナビゲーションシステムだ。点字ブロックの角や分岐点などにQRコードが埋め込まれており、専用アプリを起動したスマホのカメラでそのQRコードを読み取ることで、今どこにいるかを判断。そして、アプリで行きたい場所を設定すれば、途中のQRコードを読み取りつつ、音声のナビゲーションによって目的の場所までの移動をサポートしてくれる。

 例えば、うめきた地下口のトイレ行きたい場合、アプリを起動して行きたい場所としてトイレを設定。すると、今いる場所から目的地までの距離や、そこまでに何回QRコードを読み取る必要があるのか、といったことが説明される。そして、スマホをかざしながら点字ブロックを進み、次に分岐点のQRコードを読み取ると、「改札です。直進3m」というように、今いる場所や、次の分岐点までの進むべき方向と距離が声で案内される。それを繰り返すことで目的の場所までナビゲートする仕組みだ。もし途中で間違った方向に進んだとしても、その先のQRコードを読み取った段階で、改めて正しい方向がナビゲートされる。

 視覚障害者にとって、初めて訪れる場所では行きたい場所へたどり着くのが非常にめんどうな場面も多いはずで、shikAIのようなシステムがあれば大いに心強いはずだ。

 なお、shikAIが利用できるのはうめきた地下口エリアと西口エリア、そしてうめきた地下口と西口をつなぐ改札内地下連絡通路となっている。また目的地としては、西口改札、うめきた地下口改札、トイレ、ホームへとつながる階段やエレベーターなどを用意しているとのこと。

視覚障害者向けナビゲーションシステム「shikAI」
点字ブロックの角や分岐点にQRコードを埋め込み、スマートフォンアプリで読み取ることで目的地までの移動をサポート
スマートフォンに目的地をセットすると、音声で現在の場所や次に進む向き、距離などを音声で案内してくれる
このように、スマートフォンをかざしながら移動するこで、初めて訪れた場合でも行きたい場所にスムーズに到着できる

センサーなどを駆使した「トイレDX」

 うめきた地下口改札内のトイレには、「トイレDX」という仕組みが取り入れられている。

 トイレDXでは、トイレ内の大便器、小便器、扉、手洗い洗剤容器などにセンサーを搭載。そのセンサーを活用して、便器の使用回数や、トイレットペーパー、手洗い洗剤の残量などをリアルタイムで把握し、清掃員の作業効率を高め省力化につなげるともに、利用者にも使いやすさを提供することを目的としている。

 通常のトイレでは、定期的な確認と清掃を行なっているが、それでは手洗い洗剤やトイレットペーパーの減り具合が実際にトイレに行かないと把握できず、追加で補充が必要になるなど手間が増えることがある。しかしトイレDXではセンサーでそれら状況がリアルタイムで把握できるため、作業効率を高め省力化を実現できる。

 同時に、便器の使用回数と、清掃員の目視による確認と組み合わせて、便器の状態や故障などの把握などにも活用するという。こちらは便器メーカーなどとも情報を共有することで、メンテナンス効率を高めたいとのこと。

 利用者側のメリットとしては、トイレ個室の利用状況をトイレ外のモニターやスマートフォンアプリ「WESTER」で確認できるという点がある。トイレの入り口上にあるモニターやWESTERアプリで、男性トイレ、女性トイレ、多機能トイレの個室の利用状況が確認できる。トイレに入ったものの個室が満員で使えない、といったことが事前に避けられるので、ありがたい機能と言ってよいだろう。

うめきた地下口改札内のトイレには、清掃員の作業効率や利用者の利便性を高める仕組みを備えた「トイレDX」というシステムを採用
トイレ清掃員の作業効率やトイレのメンテナンス効率を高めるだけでなく、利用者が個室の空き状況をトイレ外から確認できるのも便利

まるで水族館にいるかのような待ち合いエリア

 改札内コンコースの奥には、日常に癒やしを与える空間演出を行なう待ち合いエリアを用意している。エリア入り口の天井付近のサイネージと、エリア奥の壁面に縦3.3m、横14mの映像をプロジェクションマッピングで環境映像を表示することで、ほかとは違う雰囲気が味わえるエリアとなっている。

 表示される環境映像は、水の都 大阪をイメージし、さまざまな風景のなかでゆったりと魚が泳ぐ姿を表現した水系の映像。それも、季節や気候、時間帯によって表情が変化するため、常に違った表情を楽しめるようになっている。映像の前に立っていると、まるで水族館にいるかのような雰囲気で、駅にいることを忘れてしまう。

 また、インタラクティブ性のある要素もある。例えば映像に人が近付くとその部分に泡が表示される。さらに、左右の壁面に設置しているタッチ操作対応のサイネージで、風景を変更したり、季節に合わせた特別な演出を表示させることも可能だ。

 こちらは、待ち合いスペースとしての活用だけでなく、各種イベントやプロモーションなどでの活用も検討しているとのことで、今後の展開が楽しみな空間だ。

うめきた地下口改札内コンコース奥の待ち合いエリア
待ち合いエリア入り口上部のサイネージと、奥の壁のプロジェクションマッピングで環境映像を表示
プロジェクションマッピングは縦3.3m、横14mの大迫力で、季節や気候、時間帯によって表情が変化する水系の環境映像を表示。まるで水族館にいるかのような雰囲気だ
プロジェクションマッピング表示する環境映像
タッチ操作対応サイネージで表示内容を変更したり、季節に合わせた特殊な演出を表示することが可能
壁の扉部分で記念撮影できる演出も用意

オンラインで注文した食品も受け取れるスマートロッカー「pikuraku」

 うめきた地下口の改札横に設置されるロッカー。収納スペースとして、常温が大4室、中3室、小4室の11室、冷蔵4室の全15室を用意し、JR西日本が3月17日よりサービスを開始した駅配サービス「pikuraku」の受け取り場所として活用できるスマートロッカーになっている。

 pikurakuの専用アプリを利用して、受け取るスマートロッカーの位置と受け取り日時を指定したうえで商品を購入。すると、指定した場所のスマートロッカーに、指定した日時に合わせて商品が配達される。あとは、指定したスマートロッカーまで行き、アプリを起動して受け取りの作業を行なうと、自動的に扉が開いて商品を受け取れる。朝の通勤や通学などの移動中にアプリで商品を注文し、帰宅時に駅で商品を受け取る、といったことが可能となるので、スマートに買い物が行なえ時間を有効活用できる。

 3月18日時点ではコストコと提携し、コストコが販売する冷蔵品や常温品を購入可能で、順次対応ショップを増やしていく計画だ。

 もちろん、通常のコインロッカーとしての利用も可能。大きなスーツケースや冷蔵品を預けて周辺を観光するといった場合も便利に活用できる。このほかにも、宅配便で発送する荷物をこのロッカーから発送したり、壊れた電気製品を修理に出す場合の発送、受け取りの場所として活用したりと、さまざまな用途での利用に柔軟に対応可能とのことで、今後活用の幅が拡がることが予想される。

 なお、このスマートロッカーは、うめきた地下口のほか、大阪駅中央口と御堂筋口、高槻駅中央口と日本旅行前、北新地駅、大阪天満宮駅にも設置する。

うめきた地下口改札横に設置されたスマートロッカー
通常のコインロッカーとしての利用はもちろん、JR西日本が運営する駅配サービス「pikuraku」の受け取り場所としても活用される
pikurakuで注文した商品を配達員が運び、スマートロッカーに収納。食品を扱うため、収納時に配達員は手袋をし、ロッカーを消毒したうえで商品を収納する
pikurakuのアプリで操作するだけで商品が受け取れる

 このように、うめきた地下口エリアでは、デジタルやAIを駆使したさまざまな仕掛けを展開している。これは、JR西日本がうめきたエリアをイノベーションの実験場「JR WEST LABO」の中心と位置づけているためだ。

 これ以降も、さまざまなパートナーとの共創によってオープンイノベーションを加速させていく計画とのことで、うめきたエリアの開発が進むにつれ、うめきた地下口エリアにもさらに新しい仕掛けが数多く実現されていくことになるだろう。そういった意味で、うめきた地下口エリアはこれまでにない駅の姿が楽しめる空間として、注目の存在となりそうだ。