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JTB、2023年の旅行動向見通し。国内旅行は対前年108%、海外旅行は2.8倍まで回復

2023年1月26日 発表

年間旅行動向推計数値

 JTBは2023年(1月~12月)の旅行動向見通しを発表した。2023年は海外旅行および訪日外国人旅行についても3年ぶりに発表する。

 本動向は各種経済動向やJTBグループが実施したアンケート調査などから推計したもの。

2022年末までの新型コロナの状況と旅行の動き

 ワクチン接種が進み、2022年には欧州を中心に入国制限の撤廃や隔離機関の短縮など水際対策の緩和、国際航空便の再開が進んだ。タイヤシンガポール、韓国や台湾などでも緩和の動きが広がり、終息宣言は依然出ていないものの、国際間移動はコロナ前に戻りつつあるという。

 国内では2022年10月11日から入国の水際対策が緩和され、1日あたりの新規入国者数の上限撤廃、陰性証明や隔離期間など入国時の条件緩和、訪日外国人観光客の個人旅行の解禁などが行なわれ、日本人の海外旅行と外国人の訪日旅行が容易になった。

 国内旅行については、全国的な観光需要喚起策として「全国旅行支援」が10月から始まり、多くの旅行者が各地で見られるようになった。

旅行を取り巻く経済環境と暮らし向き

 外国為替市場では現在も1ドル130円前後で推移しており、コロナ前と比べると20円ほど円安が進んでいる。輸入品やエネルギーなどの価格が高騰し、物価上昇が家計に影響を与えている。

 消費者物価指数を見ると、交通・通信以外の項目で上昇が見られ、特にガソリン価格をはじめとするエネルギー関連や電気代の上昇が著しくなっている。日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」の「現在の暮らし向き(ゆとり)」を見ると、「ゆとりがなくなってきた」の割合は2021年9月以降それまでの横ばいから増加し、2022年12月には53%と前年同月から13ポイント高くなった。

2022年の円に対する主な外国為替レート
消費者物価指数
ガソリン単価の推移(レギュラー)
暮らし向き(ゆとり)の状況推移

旅行者の現状

 国内旅行は2022年3月のまん延防止等重点措置の解除を最後に行動を制限する発出はなく、延べ宿泊者数は回復に転じた。さらに10月11日から始まった観光需要喚起策「全国旅行支援」が功を奏し、10月の日本人の延べ宿泊者数は2019年の同月比で105.9%、11月は102.7%とコロナ禍前を超え、国内旅行は本格的な回復に向かっている。

 海外旅行は2022年春の大型連休のころから出入国における水際対策が一部緩和され、海外旅行のパッケージツアーの販売が徐々に再開し、出国者数は増加傾向となった。10月はさらに緩和が進み、海外旅行により行きやすい環境となった。

 しかし、世界の物価上昇の加速化に円安が重なり、航空券の燃油サーチャージの上昇に伴う旅行費用も高騰していることや、ウクライナ情勢をはじめとする不安定な国際情勢も影響し、現在海外旅行者数の回復は緩慢。

 訪日旅行は海外旅行とは対照的に、円安を背景に現段階では急速に回復している。2022年12月の速報値は137万人で、コロナ禍前の2019年同月比で54.2%まで回復した。2022年の国・地域別の年間の訪日外客数は、韓国(101万2700人)台湾(33万1100人)アメリカ(32万3500人)となっている。なお、中国は2022年までゼロコロナ政策を続けていたため、18万9000人に留まった。

延べ宿泊者数の推移
宿泊旅行統計調査
2022年日本人出国者数
2022年10月~12月の延べ宿泊人数・日本人出国者数・訪日外客数と19年比
2022年訪日外客数と19年比(上位7か国)

2023年のカレンダーと主なイベント

 2023年は3連休以上の連休が7回ある。GWは5月3日から7日までの5連休で、5月1日、2日を休めば4月29日~5月7日まで9連休となる。

 スポーツイベントが国内外で開催される。WORLD BASEBALL CLASSIC(WBC)の第5回大会は当初2021年の開催予定だったが延期となり、今年3月8日~21日にアメリカ、台湾、日本で「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC」として開催される。そのうち3月9日~13日のB組4試合、3月15日~16日に準々決勝が東京ドームで行なわれる。

 ほかにも、7月14日~30日には「第19回FINA世界水泳選手権2022福岡大会」も2021年開催予定から約2年遅れで開催される予定。海外では9月8日~10月28日に「ラグビーワールドカップ2023」フランス大会が開催される。

 ほかの国内大型イベントとしては、4月15日~2024年3月31日まで、東京ディズニーリゾートの40周年を記念したアニバーサリーイベントが開催される。

 3月10日には東京ミッドタウン八重洲がオープンする。2022年9月に開業したバスターミナル東京・八重洲に加え、4月には国内初となる「ブルガリホテル東京」が開業予定。また「虎ノ門・麻布台プロジェクト」のもとで「アマンレジデンス東京」とラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」が開業を予定している。夏には「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京-メイキング・オブ・ハリーポッタ―」がとしまえん跡地に開業予定。

 さらに3月にはプロ野球チームの北海道日本ハムファイターズが、新本拠地を北海道広島市の「エスコンフィールド HOKKAIDO」に移転する。ニセコに2023年冬「アマンニセコ」が開業予定。関西では、5月30日にIHGホテルズ&リゾーツのプレミアムホテルブランドである「voco大阪セントラル」が、夏には奈良市内に「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」が、秋には京都でタイの高級ホテルブランドである「デュシタニ京都」が開業予定。

2023年の主な開業予定

国内旅行の動向

 2023年の国内旅行者数は2億6600万人、平均消費額は物価上昇の影響を受け4万300円、国内旅行消費額は10兆7200億円と推計した。平均消費額は2000年以降で最高額となる。

 第8波における感染者数は依然多く、行動制限の要請がなくても自発的に旅行を控える人も一定程度いると考えられ、旅行者数はコロナ禍前を割り込むものの、平均消費額はコロナ禍前を上回ると予測した。

 全国旅行支援もあり、旅行意欲は今のところ高く維持され、円安や燃油費高騰の影響を受け、海外旅行から国内旅行へのシフトも期待できるが、物価高に伴う景況感は厳しい状況が続くと考えられる。

 国内旅行の意欲が高い層としては、引き続き男女20代となるが、シニアの旅行意欲が高まってきている。JTB総合研究所が実施した「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化と旅行に関する意識調査」(2023年1月)によると、2023年1月~12月に国内旅行を予定・検討している人は全体で40.3%だった。最も意向が高いのは女性20代(53.5%)、次いで男性20代(48.2%)、そして男性60歳以上(44.4%)となった。

 前回調査(2022年7月実施)と比べると、男性60歳以上は5.7ポイント増加、女性60歳以上は1.6ポイント増加となり、シニアの回復に期待がかかる。

 イベントや新規開業のほかに、主に国内旅行の流れの中でコロナ禍を通じてライフスタイルや価値観が変わったことによる影響が、旅行や観光にも徐々に見られるようになった。

今後1年以内に国内旅行を予定・検討している割合

海外旅行の動向

 2023年の海外旅行者数は840万人、平均消費額は円安と燃油費高騰の影響を受け、29万4900えん、海外旅行消費額は2兆4800億円と推計した。1人あたりの平均消費額は2000年以降で最高額となる一方で、海外旅行の回復は訪日客とは対照的に緩慢な伸びになることが予想される。

 10月の日本入国時の水際対策緩和により、出入国の手続きは容易になったが、ワクチンの接種証明と陰性証明は必要。感染症対策としての規制やルールを継続している国・地域もあるなか、完全にコロナ前と同じ条件になっていないことも伸びが緩慢である理由として考えられる。

 前述の調査で、調査対象者のうち海外旅行の予定がない人を含む全員に、どんな状況なら海外旅行をしたいかを聞いたところ「円高が進めば(27.1%)」「休みがとれれば(22%)」「旅行先の新型コロナの感染状況が落ち着けば(21.6%)」「手ごろなプランや宿泊施設がとれれば(21.5%)」が上位となった。

 海外旅行も意欲が高い層は男女ともに20代で、特にこの層は2023年中に海外に出かけたい割合が高い結果となっている。同調査で2023年に限らず、今後海外旅行を予定・検討している人に、直近の旅行の行き先を1つ選択してもらったところ「ハワイ」が20.4%で最も高く、次いで「ヨーロッパ(12.9%)」「台湾(11.5%)」となった。

 実際の各国政府の観光部門が発表した2022年11月の日本人旅行者数は、韓国が6万2422人、タイが4万6020人、ハワイは2万7898人、台湾は2万1204人となっている。

今後どんな状況なら海外旅行をしたいか(複数回答)
今後予定・検討している海外旅行の時期(性年代別)
今後予定・検討している海外旅行の行き先

訪日外国人客数

 2023年の訪日外国人客数は2110万人(前年比550.6%、2019年比66.2%)と推計した。2022年10月の日本への入国規制の緩和以降、出国に関する規制緩和が先行している韓国、タイ、シンガポールなどからの訪日客が増加し、急回復が期待できる。

 その一方で、コロナ前の2019年の訪日外国人のうち最も多い割合を占めていた中国は、2023年1月時点では本格的な回復の目途は立っていない。本予測では中国からの訪日需要は2023年7月以降に回復が本格化し、他の訪日市場とおおむね同じパターンで急回復すると想定して算出している。今後の動向により大幅に変わる可能性がある。

 旅行先としての日本の人気は根強く、2022年2月に日本政策投資銀行・日本交通公社が発表した調査によると、アジア居住者・欧米居住者ともに「次に海外旅行に行きたい国・地域」は日本が1位となっている。

 また、2021年に海外の著名な旅行情報誌「ロンリープラネット」のおすすめの旅行先の地域編に6位に選出された四国や、2022年11月に愛知県に開業した「ジブリパーク」、2023年1月にニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52か所」に選ばれた岩手県盛岡市は、訪日旅行者にとっては新しい魅力的な場所として反響がありそうだとした。

 旅行者の回復に伴い、課題も浮き彫りになっている。その1つが観光業界を支える人材の不足だ。日銀が発表している雇用人員判断によると、「宿泊・飲食サービス」は2021年10~12月期以降人員不足が続いている。

 しかし一方で、直近の2022年10月、11月は延べ宿泊者数の推移から分かるように、コロナ前に迫るほどの多くの観光客が戻った。2022年11月時点の東京、大阪のホテルの稼働率は2019年の8割の水準まで回復しており、今後急速に訪日需要回復が進むと人手不足が一層進むことが懸念される。

訪日外客数
次に海外旅行したい国・地域について(アジア居住者・欧米居住者別)
産業別雇用人員判断
2004年~2022年の推計、2023年の見通し数値