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ANAが社長交代会見。新社長・井上慎一氏「お客さまの本質的欲求に沿った商品・サービスを提供」で黒字化目指す

2022年2月14日 実施

ANAは、代表取締役社長交代に伴い、現社長の平子裕志氏(右)と新社長の井上慎一氏(左)が臨席した記者会見を実施した(写真提供:ANA)

 ANA(全日本空輸)は2月14日、4月1日付けでの代表取締役社長交代を2月10日に発表したことに伴い、現代表取締役社長の平子裕志氏、新社長の井上慎一氏が臨席する記者会見を実施した。

 2017年4月に社長に就任し、2022年4月1日からはANAHD(ANAホールディングス)取締役副会長に就任する平子裕志氏は、「羽田空港発着枠拡大と東京2020オリンピック・パラリンピックがある2020年をANAの飛躍の年にしたいと考え、2017年から2020年の任期4年を一区切りとして事業運営に邁進した」との気持ちで就任したが、2020年度末の新型コロナウイルスのパンデミック宣言がなされ状況が変化。「残り1年でコロナの影響を見極め、その処方箋書くことは不可能で、任期を1年延ばした」とし、2021年度は新しい環境のなかで航空事業をどのようにしていくのか、そのビジネスモデル、サービスモデルを策定し、アクションプランに変えて組織に落とし込むことを行なってきたが、ほぼ目処がついたので、今回社長を辞して、後任にバトンタッチすることにした」と、今回の社長交代に至る背景、タイミングについて説明した。

 任期中には、ボーイング 787型機のエンジントラブルによる大量欠航や、運航乗務員のアルコール問題、コロナウイルスなど「息つく暇がなかった」というが、「課題のないときはない。一つの課題が解決すると新しい課題ができるのが世の常で、井上は専務として常日頃からコミュニケーションを密にしており、会社の経営課題は優先付けも含めてすべて共有できている」と、後任にすべてを託せる状況であるとコメント。

 また、社長として就任時から「現場力」を重視し、「コロナ前から現場で対話することを心がけた。また、第一線で活躍する社員と直接話すことも大事だが、その意見を経営に取り入れる、というのが私の解釈する現場主義。徹底的に社員と話をできたのは大きな喜び」としたほか、定時性について部門横断的に定時性を高める検討を進め実行し、2021年の運航実績でイギリスのCIRIUMから定時到着率(The On-Time Performance Awards)の世界1位、アジア・パシフィック1位に認定されたことを「大きな自信になった」と話した。

 一方、「働き方改革に反すると言われそうだが、社長になると日々戦場だったので、心構えも含めて、いつでも出動できる体制にした。また、会社や空港で社員と顔を合わせると会話が生まれる、結局リモートワークを一度もしたことがない」と、やり残したこととして「リモートワークをしていない」ことを挙げた。

4月1日付けで全日本空輸株式会社 代表取締役社長に就任する井上慎一氏(写真提供:ANA)

 新社長に就任する 井上氏は1990年9月にANA入社。アジア戦略室長やLCC共同事業準備室室長を経て、2011年からピーチ(Peach Aviation)代表取締役CEOに就任。2018年にはピーチとの統合を控えたバニアエアのCEOも兼務した。その後、2020年4月にANA代表取締役専務執行役員としてANAに復帰。2021年4月からはデジタルプラットフォームや旅行事業など手がけるANA Xの代表取締役社長も兼務している。

 平子氏は井上氏について、「多様な経歴が本人の価値観の多様性につながったと思っている。ダイバーシティ&インクルージョンを加速する時代を率いるにふさわしい人物。また、篠辺(前社長)がANAの社長に求められる資質として『“あんしん、あったか、あかるく元気”のDNAを持っていることが重要』と話しており、それを持っている人物」と後任指名の理由を挙げている。

 また、ピーチ立ち上げ前のアジア戦略室長時代に苦労していた姿を見ていたエピソードを話し、「(ピーチCEO時代に)大阪で人気を博し、明るい面ばかりフィーチャーされているが、裏の部分で歯を食いしばる根性もある」と評している。

 井上氏は就任にあたり「『天命』とわきまえ、これまで培ったあらん限りの知見を尽くして、精いっぱい取り組む」とコメント。

 そのうえで、社長として推進する点を大きく3つ挙げた。

 1点目は安全運航と定時運航で、「安全運航、定時運航が第一の、最大のお客さまとのお約束と認識しており、一丁目一番地の取り組みとして推進する。今日安全だから、明日安全という保証はないと思っており、妥協なく、愚直なまでに取り組みを進めたい」とした。

 2点目は「1日も早い黒字化」で、そのためのキーをいくつか挙げている。

 一つは「顧客の本質的欲求に沿う」ことで、「お客さまの本質的欲求に沿って、それを把握し、商品・サービスに反映することが大事。例えば、HONU(エアバス A380型機、FLYING HONU)の遊覧チャーターも、寄せられたお客さまの声に沿ってやったらヒットした」と紹介。「収入的インパクトは大きくないが、お客さまにポジティブに反応していただいた。まだまだ先行きは見えないが、だからこそ、お客さまの本質的欲求、インサイトはなにか、にこだわった活動をしていきたい」とした。

 このほか、「2年間で学んだのは、ファンがありがたいということ。ピンチのときにお助けいただいているファンの皆さまをもっと大切にして、いろいろなコミュニケーションをさせていただくこと」や、「社員が頑張ってこその会社であり、社員のエンゲージメントを高め、モチベーションを上げ、どうやって生き生きと働いていただくかを、ANA社長としても推進したい。優れたパフォーマンスの社員がいる価値はすごく高い。そういった人たちがさらに活躍できる場を作っていくこと」といった点も黒字化のカギとして挙げている。

 3点目には「ANAのカルチャー」を挙げ、「ANAは創業70周年目を迎える年となったが、いろいろな困難にチャレンジして、それを乗り越えてきたからこそいまがある。かつてANAは“野武士集団”と言われていたが、これは言い換えると“努力と挑戦をする集団”。多少の失敗を恐れずに挑戦したから今があり、挑戦しないと未来はないと思っているので、限定に帰り、努力と挑戦をする集団にもう一度みんなで価値を共有して、一丸となって困難に立ち向かうこと」も社長として推進する点に挙げている。

現社長の平子裕志氏(右)と新社長の井上慎一氏(左)(写真提供:ANA)

 今後の事業の動向について、井上氏は、「需要そのものは予測がつかないところにいるが、パンデミックはいずれ収束するとみられていることを踏まえて、終わったあとにいかに先行して手を打つか」を重視。「国際線では、パンデミックで各社苦労しており、すぐに元の便数に戻すことができない状況にあるので、スターアライアンスを活用した新しい展開があるのではないか。国内線ではピーチとの合同マーケティング。異なる顧客層のANAとピーチが一緒に取り組むことで、より多くのお客さまにご利用いただける機会があるのではないか。いずれも強みを活かして、他社より先行してお客さまを獲得することに邁進したい」とした。

 ANA、ピーチとの連携については、平子氏も「同じ航空事業リソースを活用していくときがくる。地方路線のネットワーク充実の観点からも必要になると思うし、幹線において相互乗り入れはカニバリゼーションになるのでないかと言われるが、(一方の会社が)飛んでいない時間帯もあるし、お客さまはANAで貯めたマイルをピーチで使いたいなどの要望もある。いろいろな価値の変遷を踏まえた使い方があり、我々はいろいろなアイディアを提供したい。コラボに期待してほしい」と話した。

 こうした航空事業の方向性を示す一方、「航空事業そのものはパンデミックに弱い。2年前に構造改革として非航空分野の柱をもう一つ作るということで、ANA Xでデジタルプラットフォームを推進している。まだ形にはなっていないが、これによってお客さまとの日常での接点を作ることで収入機会が増えると考えている。データもより多く集まってくるので、いろいろな事業展開が可能になってくる。新しい柱での収益を上げることを考えていく」と、非航空分野におけるアプローチの方向性もコメント。

 今後ANAHD副会長に就任する平子氏も、「航空一本足経営からの脱却を目指すべく、より俯瞰的にANAグループを見て、2人の社長を支えていきたい」とし、「ホールディングス体制になって10年目を迎える。非航空事業の売り上げを増やすのが一つの目的だったが、ホールディングスの求心力と、事業会社の遠心力のバランスの取り方が難しい。航空事業一本足打法の経営はかなり厳しいというのが経営陣共通の認識。チケット収入以外の収入をどう増やすか。ライフタイムバリューを最大化する目的で、ANAが貢献できるところはないのだろうかと、いろいろな仕掛けをやっていて、来年度からその第一歩が始まる。それ以外にもANA NEOやアバターなどで、非航空分野における収入の糧を探してきている。これまでのバランスをどのようによりレジリエンスのあるポートフォリオに持っていけるのか見ていきたい」と話した。