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三菱重工とJAXA、H-IIBロケット最終号機を打ち上げ。9機すべての打ち上げに成功。こうのとり9号機は25日夜にISSへ

2020年5月21日 打ち上げ

ラストミッションとなるこうのとり9号機(HTV9)を搭載したH-IIBロケット9号機の打ち上げに成功(写真:三菱重工/JAXA)

 三菱重工業とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は5月21日、ISS(国際宇宙ステーション)補給機「こうのとり」9号機(HTV9)を搭載した、H-IIBロケット9号機を、予定どおり5月21日2時31分00秒に、種子島宇宙センターから打ち上げた。

 H-IIB打ち上げ後、約2分後に固体ロケットブースター(SRB-A)を分離。3分43秒後に衛星フェアリングを分離し、15分7秒後にこうのとり9号機(HTV9)の分離に成功。所定の軌道に投入された。HTV9はその後、3軸姿勢、通信リンクを確立。ISSへ向けて飛行を続けている。

 こうのとり9号機のISS到着は5月25日の予定で、HTVの特徴であるロボットアームによる把持が25日21時15分ごろ、結合完了は26日明け方となる見込み。把持の様子はYouTubeのJAXAチャンネルでライブ配信が行なわれる。

 関連記事「三菱重工とJAXA、『H-IIB』&「こうのとり」のラストミッション・9号機を5月21日2時31分に打ち上げ」でもお伝えしているとおり、こうのとり9号機は物資約6.2トンを搭載。ISSの「きぼう」日本実験棟で運用される実験器具や、民間事業者によるビジネス創出に向けた物資などを搭載。

 後者においては、バスキュールとスカパーJSATが計画するISSからの双方向通信メディア事業「きぼう宇宙放送局」が2020年夏に放送を予定しているほか、ANAグループによる宇宙アバター(space avatar)を地上から遠隔操作できるイベントも2020年内に行なわれる予定となっている。

 このほか、こうのとり9号機では、6号機から4回に分けて輸送した日本製の新型リチウムイオンバッテリも計画どおり輸送。2021年の導入が予定される次期ISS補給機「HTV-X」での導入を目指す自動ドッキング技術確立に向け、こうのとり9号機に搭載したカメラの映像を無線LANを通じてリアルタイムにISSに電装する技術の軌道上実証も行なわれる。

発射台のH-IIBロケット(画像:JAXA)
予定どおり5月21日2時31分にリフトオフ(画像:JAXA)
高度を上げ、約2分後にSRB-Aを分離。15分7秒後にこうのとり9号機(HTV9)を分離した(画像:JAXA)
ロケット搭載カメラが撮影したSRB-Aの第1ペア/第2ペア分離(画像:JAXA)
ロケット搭載カメラが撮影した衛星フェアリング分離(画像:JAXA)
ロケット搭載カメラが撮影した、こうのとり9号機(HTV9)の分離(画像:JAXA)
H-IIBロケット9号機の飛行計画と第2段ロケットの制御落下について(画像:三菱重工)

 打ち上げ後、三菱重工とJAXAによる記者会見がオンラインで行なわれた。

 H-IIBロケットとこうのとり(HTV)の打ち上げは2009年9月11日の初号機から今回で9号機目となり、今回が最後のミッションとなる。打ち上げ直前に火災で延期するなどの事象はあったが、9回すべてで打ち上げに成功した。そして、H-IIBロケットとこうのとり(HTV)の後継として、H3ロケットとHTV-Xの開発が進められている。

 三菱重工 執行役員 防衛・宇宙セグメント長 阿部直彦氏は「H-IIBは2009年9月11日、本日と同じ時間帯に初号機を打ち上げて以来、通算9機中9機を成功。成功率100%を達成した。H-IIAと合わせて通算50機中、49機を成功。成功率は98%となる。また、H-IIA/IIB合わせて連続44機成功となった」と成果を報告。成功率100%となったことについては、「結果として100%となったが、そこに至るまでは1機ずつ積み上げてきたのが実態。終わってみて、ほっとしている、安堵しているのが正直なところ」と話した。

 また、三菱重工 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 副事業部長 打上執行責任者 田村篤俊氏も「H-IIBロケットは9機成功を重ねることができた。初期の打ち上げから成功を連続するのはなかなか難しいことと考えており、それを達成できたことは大型ロケットの開発のなかでは輝かしい足跡を残せたのではないかと思っている。その信頼性の高さをH3ロケットにも引き継ぎたい」とコメントした。

 JAXA 理事長 山川宏氏は「素晴らしい打ち上げだった。我が国の宇宙へのアクセスの自在性を確保するという意味で、基幹ロケットとしてのH-IIIBの成功は極めて大きな意味を持っている」とし、こうのとり9号機のミッションについては「まだ始まったところで、これからが本番。気を引き締めて運用していきたい」と述べた。

 今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの制約があるなかでの打ち上げとなり、各位とも地元の種子島をはじめとする関係者への謝意を示した。また、発射台にその感謝を伝えるメッセージが掲示されたほか、打ち上げ直前の21日22時45分から15分間、新型コロナウイルスと戦う医療関係者に感謝の気持ちを示すブルーのライトアップも実施している。

 JAXA 有人宇宙技術部門 HTV技術センター 技術領域主幹 辻本健士氏は、「こうのとりは開発に難航し、時間もかかったが、初号機以降、こうのとり自身も徐々に進化しながらミッションもすべて成功させてここまで来た。結果としてISS運用に貢献し、技術的にはさまざまなノウハウを蓄積したと考えている。こうのとり9号機のミッションは始まったところだが、無事に終わらせ、その後、HTV-Xではこうのとりで培ったさまざまな技術的ノウハウ、先進的技術を導入して、さらに発展させる取り組みを進めたい」と話した。

発射台に掲示されたメッセージ(写真:JAXA)
打ち上げ前にブルーにライトアップ(写真:JAXA)

 2020年度内の初号機(試験機)の打ち上げを目指すH3ロケットについて、三菱重工 阿部氏は「H-IIBで1段エンジン2基を実現したので、H3につながる技術が確立できていると考えているが、打ち上げ当日に延期する事態も発生しており、慢心することなく一つ一つ解決しながら、完成度を高めていかないと考えている」とコメント。

 H3ロケットでは「価格を下げて受注を重ねたい。目指している価格が実現でき、H-IIA/IIBが持っている信頼性やオンタイムでの打ち上げといった付加価値を兼ね備えることができれば、少なくともH-IIAよりも有利な戦いができるだろう」とする一方、「まだ初号機が飛んでいないので、事業面でのハンデは大きい。初号機を飛ばして何機かが安定飛行することがビジネスの必須条件」とした。一方で、H-IIAの売り込みを始めたころは世界的には名前すら覚えてもらえていなかった状況だったことに触れ、「現在は日本にロケットがあって、打ち上げサービスを提供していること、信頼性が高く、オンタイムでの打ち上げ率が高いことを認識いただいている。H-IIA/IIB合わせて50機の実績は大きく寄与している」とした。

 JAXA 山川氏は「H3ロケットの検討は、運用性や国際競争力、自在性、信頼性を得るロケットはどのようなものかという点からスタートしている。(価格面に加え)お客さまとなる衛星型の使い勝手がいかによいかに注力して開発しており、全体として国際競争力を持たせたものになる」とコメント。

 HTV-Xについては「こうのとりの開発や、今回の9号機までの打ち上げ、運用を通じて蓄積した技術や知見を活かして、輸送能力、運用性を向上させた新たな補給船として、今後のISSへの補給を引き継ぐ。さらには、国際協力で開発を進める月周回ステーション、ゲートウェイへの補給を担うべく、国際間での調整を進めている」とし、「今後、HTV-XとH-IIIロケットの着実な開発によって、我が国の自在な宇宙輸送を支える基盤がさらに強固になっていくと確信している」と述べた。

 なお、H3ロケットは2020年度内に、HTV-Xは2021年度内に初号機の打ち上げを目指しているが、新型コロナウイルスの影響による開発スケジュールの変更などについて、三菱重工 田村氏は「さまざまな対策をしながらスケジュールを守るべく開発を進めている。現時点で、新型コロナウイルスの影響で開発期間が延びるといったことがないように努力を重ねている」、JAXA 辻本氏は「テレワークをフル活用し、日々の業務を進めている」とし、いずれも開発スケジュールに影響がないよう進めているとした。

こうのとり9号機の計画概要。今後、5月26日明け方にISS結合後、地上からの輸送物資の搬入、ISSからの廃棄物資搭載を行なって、ISSから離脱し、地球に再突入する(画像:JAXA)
こうのとり9号機(HTV9)の実証実験や搭載品について(画像:JAXA)