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三菱重工とJAXA、「H-IIB」&「こうのとり」のラストミッション・9号機を5月21日2時31分に打ち上げ

見学は自粛を要請。JAXAがYouTubeでライブ配信

2020年5月19日 発表

「こうのとり」9号機(HTV9)を乗せたH-IIBロケット9号機が5月21日2時31分00秒に打ち上げられる(画像:三菱重工業)

 三菱重工業は5月19日、H-IIBロケット9号機によるISS(国際宇宙ステーション)補給機「こうのとり」9号機(HTV9)の打ち上げ時刻を、5月21日2時31分00秒とすることを決定した。予備期間は5月22日~6月30日。

 H-IIBロケットは2009年9月11日にこうのとり1号機(HTV1)を搭載して初打ち上げに成功後、これまで8回の打ち上げをすべて成功。4号機からは三菱重工の打ち上げ輸送サービス事業による打ち上げへと移管され、今回の9号機が最終号機の打ち上げとなる。

 9号機の打ち上げは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の種子島宇宙センターから打ち上げられる。これまでに現地で発射整備作業が進められており、5月20日には発射台(射点)へと機体を移動後、推進薬の充填を開始。21日2時31分00秒にリフトオフしてから15分11秒後にHTV9の切り離しを予定している。HTV9を切り離した第2段機体は、計画水域に制御落下させる。

 ちなみに8号機では発射台で火災が発生するトラブルが起きているが、発射台設備の一部に使われている断熱材が高濃度酸素雰囲気下で燃焼してしまったものだった。これはJAXAにより可燃性があるものを撤去する抜本的な対策を講じ、再発を防いでいるという。

H-IIBロケット9号機の計画(画像:三菱重工業)
H-IIBロケット9号機の飛行計画(画像:三菱重工業)
第2段機体の制御落下(画像:三菱重工業)

 一方、2009年の打ち上げから始まった「こうのとり(HTV)」も、今回のこうのとり9号機が最終号機となり、開発中の新型ISS補給機「HTV-X」へ受け継がれることになる。スペースシャトル引退後、もっとも大きな宇宙補給機としてバッテリをはじめとするほかの補給船で運べない機器をISSへ輸送したほか、民間事業者や教育機関による実験装置をISSへ輸送。レイトアクセス(発射直前に物資を積み込むこと)による生鮮品の輸送などを実現してきた。

 また、ランデブ・キャプチャ方式やPROX(近傍通信システム)といった、のちに他国の補給線にも採用された新たなスタンダートの創出や、ISSからの物資回収技術の獲得などにも貢献している。

 こうのとり9号機は、船内物資、船外物資合わせて約6.2トンの補給品を搭載。レイトアクセスを5月中に2回に分けて実施している。打ち上げ、分離後は5月25日21時15分ごろにISSに到着する予定。輸送物資の運び出しやISSでの廃棄物資の搭載を行なったうえでISSから離脱。最後は地球に再突入する。離脱、再突入の時期は未定となっており、詳細が決まり次第、アナウンスするとしている。

こうのとり9号機(HTV9)の計画(画像:JAXA)

 こうのとり9号機では、HTV-Xで獲得を目指す自動ドッキング技術の技術要素の一つとして、自動ドッキングの際に機体に搭載されたカメラの動画を無線LAN経由でISSへリアルタイム伝送する技術の実証試験を実施。

 搭載品としては、「きぼう」日本実験棟で運用されるライフサイエンス実験用の顕微鏡システムや固体材料燃焼実験で使用する装置の構成品。JAXAが実施する民間事業者とのパートナーシップ型研究開発プログラム「J-SPARC」など民間事業者によるビジネス創出に向けた物資として、スペイン企業の超小型衛星搭載用地球観測カメラや、バスキュールとスカパーJSATとともに創出を目指す宇宙メディア事業「きぼう宇宙放送局」における双方向通信に必要な物資、ANAホールディングスとavatarinとともに実現を目指す宇宙アバター事業の「宇宙アバター(space avatar)」を搭載(関連記事「JAXAとANAグループ、ISSで宇宙アバターに向けた実証開始。地球上から『きぼう』内のアバターを操作できるイベント開催予定」参照)。このほかにもISSの運用、維持に必要不可欠なバッテリや窒素タンク、生活物資などの輸送が行なわれる。

こうのとり9号機(HTV9)の実証実験や搭載品について(画像:JAXA)

 今回の打ち上げに際しては新型コロナウイルス感染拡大防止のための取り組みも行なわれており、三菱重工、JAXAともに感染者ゼロを続ける種子島へウイルスを県外から持ち込まないことに特に気を払ったという。そのために両者ともに現地作業にあたる人員を2~3割削減。一部をテレワークによるデータレビューに切り換えるなどしているという。一方で人数を減らしたことによる影響が出ないよう計画を進め、これまでのところ1人の感染者も出さず、かつ作業も順調に進捗しているという。

 なお、通例であればロケットの打ち上げ見学のために多くの人が種子島を訪れるところだが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から自治体は来訪自粛を要請。ロケット打ち上げ見学場もすべて閉鎖されている。打ち上げの様子はJAXAが5月21日2時ごろからライブ配信する。