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ANA、機内/ラウンジで提供する9月からのワインを「コンラッド東京」エグゼクティヴ ソムリエの森氏が解説
2018年9月27日 00:00
- 2018年9月25日 実施
- 2018年9月から提供
ANA(全日本空輸)は、9月からラウンジや機内で提供しているワインの説明会・試飲会を報道向けに行ない、全日本最優秀ソムリエコンクール優勝、2016年世界最優秀ソムリエコンクール8位入賞などの実績を持つコンラッド東京 エグゼクティヴ ソムリエの森覚氏がセレクションについて解説した。
ANAでは翌1年間の空港ラウンジや機内で提供するワインを選ぶブラインドテイスティング方式の選定会を、毎年実施している。2018年は18か国から約2800銘柄をピックアップし、書類選考で300銘柄に、プレ選定会で187銘柄に絞られ、2017年10月に行なわれた選定会で2018年のワインセレクション54銘柄が決定した。2018年のセレクション全体については、本誌でも紹介しているので(関連記事「ANA、2018年9月に国際線で提供するワインセレクションを一新。ANA機内限定や『酒造りの神様』が作った日本酒も」)ご参照いただきたい。
ただ有名銘柄をそろえるだけではなく、機内食とワインのマリアージュを楽しんでもらいたい
会冒頭にはANA CS&プロダクト・サービス室 商品戦略部 部長 原雄三氏があいさつし、ワインセレクションの概要を説明した。
ワインセレクションは2002年から始まったもので、ただ有名銘柄をそろえるだけではなく、ワインに詳しい、ワインを楽しみたい乗客のために、機内食とワインのマリアージュを楽しんでもらおうという思いから、毎年ワインセレクションを一斉入れ替えしている。
選定会には、機内食や飲み物をプロデュースする各界のプロフェッショナルが集まった「THE CONNOISSEURS(ザ・コノシュアーズ)」に所属する、2000年世界最優秀ソムリエのオリヴィエ・プーシェ氏や森覚氏などのワインアドバイザー、ANAケータリングサービスのシェフ、ソムリエ資格を持つCA(客室乗務員)、商品戦略部の社員などが参加。ワインアドバイザーは5倍、ソムリエの有資格者は2倍、そのほかのメンバーは1倍の持ち点で投票・集計される。
近年のANA機内ワインは、英「Business Traveller」の「Cellars in the Sky」や、北米「Global Traveler」の「Wines on the Wing」などでも入賞しており、「これからももっともっとお客さまにお楽しみいただけるワインを、今まで以上にしっかり選定していきたい」と語った。
銘柄の有名無名には絶対にとらわれないようにテイスティングを行なった
各銘柄の説明の前に、森覚氏が2018年のセレクションの概要を説明した。オリヴィエ・プーシェ氏は2004年~2014年の期間、エールフランス航空の機内で提供するワインの監修をしていたという経歴も持ち、2016年からANAのワインリストの監修を担当している。選定会の前にプーシェ氏は2回コンラッド東京に食事に訪れ、さまざまな意見を交わすことができたという。
2人は、地上で飲んで美味しいと思う銘柄も、機内では酸味や苦みなどが強調されてしまうので、いろいろな人が飲むということで、オールマイティな味わいがあり、そのなかでもしっかりと個性がでているものを選んでいこうということを共有して、取り組んできたと語った。
そして銘柄の有名無名には絶対にとらわれないように、ブラインドテイスティングではその銘柄が何かを考えるより、このワインが機内でどのように楽しまれるかを想像しながら100銘柄以上のテイスティングを行なった。
テイスティングしたなかには、プーシェ氏が日本産であることに驚くほどのワインとの出会いもあり、「ブラインドならではの楽しみ、発見があり、非常に有意義なテイスティングであり、セレクションになった」と振り返った。
9銘柄の特徴をエグゼクティヴ ソムリエの森覚氏が解説
2018年のワインセレクションから9銘柄について、森覚氏が解説を行なった。
1. 甲州ANAオリジナルブレンド2017(白)
提供路線:国際線のファーストクラス
提供時期:2018年9月~11月(北米路線)、2019年6月~8月(欧州路線予定)
概要:森覚氏が監修したANAオリジナルワインで、産地は山梨
森覚氏のコメント:
2017年のブドウを使い、たくさんのロットのなかから2基のタンクを選び、それぞれ違う製法で仕込んだ4種をブレンドした。
甲州は日本のワインを代表するものであり、日本のエアラインがプッシュするべきワイン。2020年に向けて、日本のオリジナルワインをしっかり作りたいという思いから監修した。
甲州は味が多様なブドウ品種で、作り方によって軽めになったり、甘口になったり、スパークリングにもなるが、機内で飲むことを想定して、「軽めのすっきり」だけではぼけた味になってしまうので、前半に丸みのあるやわらかい果実味を持たせて、シュール・リー(澱の上:澱を残したまま保存して複雑さや旨味を出す)という製法で作られたワインをブレンドすることで、後半から味わいに力強さや複雑さをもたらすような味わいに仕上げた。
飲んですっきり美味しいだけでなく、最初に果実味・ふくよかな味があり、後半には複雑な味わいが出てくる、二段構えで味わいが押し寄せてくるようなワインになっている。
地上で飲んでも非常に美味しいと思うが、機内で飲むとより味わいのバランスがしっかりと出ると思う。
試飲した記者の感想:
ほどよい酸味とともに果実味を感じ、サラダや前菜に合いそう。個人的には鮮魚のカルパッチョを食べたくなった。軽やかだが余韻をしっかり楽しめる白ワイン。
2. トゥーレル・ド・トロミーSY&CN ANAオリジナル(赤)
3. トゥーレル・ド・トロミーCO&SB ANAオリジナル(白)
提供路線:国際線のプレミアムエコノミークラス・エコノミークラス
提供時期:2018年9月から
概要:オリヴィエ・プーシェ氏が監修したANAオリジナルワイン
森覚氏のコメント:
オリヴィエ・プーシエ氏から届いたサンプルを地上で試飲したときは、フレッシュな味わいで、白も赤も最初に果実味が最初にあり、フレッシュさがあり、白であれば苦み、赤であれば渋みがマスキングされた、全体的にふくよかでまるみのある味わいで、これは美味しいなと思った。
たまたま香港へ行く際に機内で飲んだ感想は「バランスがよい」。白は酸味が出過ぎず、「酸味の扱い方がものすごくうまい」と思った。機内で飲むと、酸がいきいきとした味わいに感じ、疲れた体で飛行機に乗っても、このワインを飲むと元気になるようなイメージを持った。機内食ともよく合うと思う。
試飲した記者の感想:
赤も白も特定の要素がとがることがなく、しかし飲み応えはある絶妙の落としどころだと感じた。食事に寄り添うワインで、「肉だから」「魚だから」で選ぶのではなく、「赤が好きだから」「白が好きだから」で選んでしまっても、前菜からメインディッシュまで楽しめるのではと思う。
4. 安心院スパークリングワイン
5. 安心院スパークリングワイン(ロゼ)
提供路線:国際線のファーストクラス
提供時期:2018年9月~11月(※ロゼは9月のみ)
概要:大分県宇佐市安心院(あじむ)で作られたスパークリングワイン。国産のスパークリングワインがANAの国際線ファーストクラスで提供されるのは初めて
森覚氏のコメント:
9月の提供開始後、乗客からも好評で、CA(客室乗務員)からも増量搭載のレポートが上がるほどの人気のため、コンラッド東京からオーダーしたら「もうありません」と言われ、「そういうことだったのかと(笑)」。
日本一のワインを決める日本ワインコンクール(Japan Wine Competition)で毎年審査員をしているが、毎年この安心院のスパークリングワインが「ダントツ」で1位になる。ほかの審査員に、ほかのスパークリングワインはそんなによくないのかと聞くと、「よいのだが、この安心院がずば抜けている」「飲んだ瞬間に安心院と分かるぐらい個性があり、品質に長けている」と。
コンラッド東京でもワインリストに加えているが、すぐになくなってしまう銘柄で、これを継続的にエアラインで提供できることがすばらしい。日本を代表するスパークリングワインが、日本のエアラインで提供できることは誇りであり、こういった銘柄を私もどんどん推薦していきたい。
試飲した記者の感想:
ロゼを試飲したが、シャンパーニュがなくてもこれで十分納得・満足できるのではと感じた。リッチな泡立ちにベリー系というかチェリー的な香りが品よくあって、食事はもちろん、これだけをただ楽しむ時間を機内で持てたら幸せだと思った。
6. ヴーヴ・オリヴィエ・ブリュット
提供路線:国際線(欧米/オセアニア/マニラ以外の東南アジア)のプレミアムエコノミークラス/エコノミークラス
提供時期:2018年9月から
概要:シャルドネを使ったフランス産のスパークリングワイン(シャンパーニュではない)
森覚氏のコメント:
プレミアムエコノミークラスとエコノミークラスは量が出るところでありながら品質を保ちたいという思いがあり、セレクションが一番難しかったと個人的に思っている。
エコノミークラスでは、スペインのスパークリングワイン「カヴァ」なども候補に入ってくるが、カヴァはどうしても煙のようなニュアンス、機内では閉じこもったような味わいになってしまうものが多い。
よりレベルの高いものになればなるほど、香りや味わいの本領を発揮できないスパークリングが比較的多く、機内では苦みを感じやすいものになってしまうなかで、果実味やいきいきとした味わいの個性を高く評価して点数を付けた。最終的に選ばれた「ヴーヴ・オリヴィエ・ブリュット」は、果実の味わいが前面に出て、機内で飲んでもそのフレッシュさ、フルーティさは損なわれず楽しめると思う。エコノミークラスではより年齢層なども幅広くなると思うので、若い人から年配の人までバランスよく楽しめるスパークリングワインだと思う。
7. シャンパーニュ・カステルノー・キュヴェ・ブリュット・レゼルヴ
8. シャンパーニュ・デュヴァル・ルロワ・ブリュット・レゼルヴ
提供路線:国際線のビジネスクラス
提供時期:2018年6月から先行サービス
概要:フランス産のシャンパーニュ
森覚氏のコメント:
ビジネスクラスで提供するシャンパーニュは、とくに注力して舌を研ぎ澄ませて吟味に吟味を重ねたカテゴリー。候補にある銘柄は、知名度があるシャンパーニュがほとんどで、ブラインドで飲んでいてもどこのものかは分かるが、分かったうえで、トップのトップを選んでいくという観点で選んだ。
「シャンパーニュ・デュヴァル・ルロワ・ブリュット・レゼルヴ」を作っているのは大手で、いろいろな種類のシャンパンを作っており、その強みは最終的なブレンドで活きて、「シャンパーニュ・デュヴァル・ルロワ・ブリュット・レゼルヴ」ならではの複雑性がでてくる。ブラインドで飲んでいても分かるぐらいの特性があり、複雑性あふれる、繊細な泡立ちのシャンパーニュ。
「シャンパーニュ・カステルノー・キュヴェ・ブリュット・レゼルヴ」はエアライン系のワインのアワードを過去にも受賞している銘柄で、残るべくして残ったもの。バランスのとれた酸味、果実味、深みがあり、後半には洗練された味わいが伸びてくる。デュヴァル・ルロワの複雑性に対し、カステルノーは伸びのある味わいで、両極端だが、どちらも評価できるシャンパーニュ。
9. シャンパーニュ・ニコラ・フィアット・レゼルヴ・エクスクルーシヴ・ブリュット
提供路線:国内線(羽田発着の伊丹/札幌/福岡/那覇)のプレミアムクラス
提供時期:2018年9月から
概要:フランス産のシャンパーニュ
森覚氏のコメント:
プレミアムクラスではスパークリングワインを提供することが多かったが、9月からこのシャンパーニュを提供するようになった。いわゆる協同組合系(生産者集団)のシャンパーニュのなかでは非常にレベルが高い、品質の高い、そしてブドウの個性がしっかりとでている特筆するべき銘柄だと思う。
国内線でシャンパーニュを提供できることは非常に強みであり、一般的なスパークリングワインにはない深みを持っている。国際線は長時間なので、飲み飽きしないものを選ぶが、国内線はトップレンジで飲んだ瞬間に美味しいと思える、短期間で美味しさが伝わりやすい銘柄になったと思う。