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Airbnb Japan 代表取締役 田邉泰之氏に聞く。民泊市場規模拡大のカギは「ゲストとホストの触れ合い」

2018年8月3日 実施

民泊新法の施行から1か月半。Airbnbの現在をAirbnb Japan 代表取締役 田邉泰之氏に聞いた

 Airbnbは7月30日、日本国内では関東、関西、福岡、沖縄で提供していた「体験」サービスを、国内全地域へ拡大すると発表した。

 Airbnbの体験サービスでは、「地元料理の作り方を学ぶ」「着物を着て市内を散策する」「ろくろを回して陶器を作る」といったものから、「カヤックで川下り」「日本刀(真剣)の試し切り」「墨と筆による習字を学ぶ」など、さまざまなアクティビティを用意している。宿泊施設と同様に、登録すれば個人でもホストになることができ、料金は1回2000円程度のものから1万円を超えるものまで幅広い。一方、ユーザー(ゲスト)は、地域や日付、参加人数、料金などで絞り込んで検索、予約することができる。

 6月15日のいわゆる民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行から1か月半が経過し、体験サービスの全国拡大を含む同社の現在について、Airbnb Japan 代表取締役の田邉泰之氏に話を聞いた。聞き手は本誌編集長 谷川潔。

Airbnbは「ゲストとホストが互いを尊重しながら利用するコミュニティ」

――日本で事業を始めてからを振り返って現状は。

田邉氏:創業メンバーの目指すゴールは「旅全体をサポートしたい」というものです。旅を計画するところから始まり、予約をして、現地で宿泊、なんらかの体験をする。そのすべてをプランニングできるようにしたい。現地のオフラインでのサポートはもちろん、体験を持ち帰って発信・共有するところまで、エンドツーエンドでサポートしたいという大きなビジョンがあります。その意味では、まだ始まったばかりですね。宿泊だけでなく、体験がようやく伸びてきたところです。

――競合他社に対してAirbnbの持つ強みをどう考えているか。

田邉氏:グローバルで一つのプラットフォームなので、コミュニティ作りがしやすいのがメリットです。ゲストとホストが対等の立場でレビューし合う仕組みなので、例えばあるゲストが日本に来たときに(よくない振る舞いをして)わるいレビューが付いたとします。すると、それは世界中に公開されてしまいます。ですので、お互いにリスペクトしながらコミュニティのなかでサービスを使う、という構造が大きな強みだと考えています。また、グローバルで3億人のユーザー(ゲスト)が利用しているので、その需要規模自体が大変大きいです。

 それから、先日日本企業36社のパートナーを発表しましたが、我々は「人が旅をとおして活躍するプラットフォーム」を作っていると認識しています。例えばエボラブルアジアが運営するエアトリステイとの協業で、ワンストップサービスを発表しましたが、「不動産を持っているが自分ですべてのサービスを始める余力がない」というときに、エアトリステイに依頼すれば事業の導入から運営まで任せることができます。我々は日本で住宅宿泊事業を展開するための“ソリューション”を次々に準備するので、そのうえで個人や企業に活躍してもらいたいと思っています。

 最終的には、我々のサービスで宿泊場所を提供するだけでなく、個人では見つかられなかった地方の文化や体験を、地元の方と交流するなかで発見してもらえるようになれば、と考えています。

――バケーションレンタル(民泊)において世界と日本市場で異なる点は。

田邉氏:Airbnbのサービスは、欧米では口コミで広がっていったのですが、日本での認知は遅れています。シェアリングエコノミーという考え方自体もまだまだ知られていません。2014年にAirbnb Japanを立ち上げるときに苦労したのは、ほかの国とサービスのライフステージ(段階)がまるで違うということです。そこで他国並みに追い付くために、まず日本人の理解を深めなければいけない、というのが海外と戦略の異なるところです。

 例えば、海外ではゲストを獲得するための戦略を考えるわけですが、我々はこの5年間、ホストを増やすことにフォーカスしてきました。それもあって、企業や個人の方に「こんな貸し方もあるんだ」という認知が広まりつつあります。そこで、今年(2018年)からは「Airbnbという旅のスタイル」をゲストに向けて発信していきます。これはアウトバウンド(海外旅行)もそうですが、ドメスティック(日本国内旅行)についてもそうです。

 こうした発信はAirbnb 1社では難しいので、36社の日本企業と一緒にパートナープログラムを通じて、新しい旅のスタイルをどうやって訴求していくかを考えています。そして、パートナーと実際に話をしてみると、どの業界でも新しい旅のスタイルで自社にメリットが生まれることが分かりました。ゲスト/ホストが新しい行動を起こすことで住み方や働き方の改革が起こるかもしれませんし、交通系、食品系、サービス系などいろいろな分野で変化が起こります。

 先ほどの「世界と日本市場で異なる点は」という質問ですが、ほかの国と違うのはこのパートナープログラムです。パートナープログラムを実施しているのは日本だけで、グローバルのサービス基準にできるだけ早く、一気に近づくためにプログラムを実施しています。

Airbnb Japan株式会社 代表取締役 田邉泰之氏

――6月に宿泊施設の削除とキャンセルが発生したが、その後の状況は。

田邉氏:観光庁に指導をいただきながら、許可を得ている物件以外は掲載しないという施策を社内で徹底しています。新しい機能の追加も進めています。

――キャンセル対象者にサポートを実施したが、利用者からの反応は。

田邉氏:我々にとってコミュニティが一番重要です。これは、ホストもゲストも同じです。例えばリブッキング(再予約)のお手伝いや、突然キャンセルになった方にはクーポンを手配しました。ご不便をおかけした方もいるのですが、我々ができうることはすべてやらせてもらっていると考えています。これから長い付き合いになるコミュニティですので、これで施策が終わりというわけではなく、もっと密に連携していきたいと思います。

――いわゆる民泊新法の施行以降、日本での施設登録は非常に手数が増えているが、利用者からどんな声が上がっているか。

田邉氏:最近の数字だと週ベースで登録数が増えていますので、登録する側も、登録を受け入れる側も慣れはじめていると思います。(6月に大量の削除があったが)その後また増加ペースに転じてきています。民泊新法施行後も日本は大きな市場であることに変わりはありませんし、本社も同じ認識です。ですので、しっかりと投資をしていきたいと考えています。

――JNTO(日本政府観光局)は2018年上半期の訪日外国人が約1600万人と発表した。今後民泊の重要性はますます高まるのでは。

田邉氏:この5年間でハッキリしたのは、リピーターを獲得するには「その場所をディープに好きになってもらう」必要があるということです。住宅宿泊でそれに一番効くのはホストの存在で、ホストとゲストが触れ合うことでその地域をより深く知ることができますし、帰ったあともFacebookなどでやり取りをしているというユーザーが多くいます。この人と人のつながりも魅力の一つですよね。

――日本企業36社と提携した「Airbnb Partners」のその後の進展、新たな展開は。

田邉氏:6月15日から1か月半経ちましたが、今は次のフェーズで、どのタイミングで何を発表しようか、というところまで来ています。6月15日は「やります」でしたが、今は「進んでいます」という状況で、「準備できました」という段階で順次発表していきたいと思います。

――共同創業者のネイサン・ブレチャージク氏は「典型的なホストの年間収入は120万円」としていたが、日本での見込みは。

田邉氏:日本でも年間1万1400米ドルくらいなので、ほぼ同じですね。これは中間値です。

 Airbnbで面白いと思うのは、住宅を貸すことで売上があるということだけでなく、高齢化で仕事を引退していても部屋を貸すことで収入を得ることができたり、地方にある空いている家を改築して宿泊施設にできたりと、いろいろなビジネスが立ち上がってくるところです。

――7月31日に体験サービスの全国拡大を発表したが、田邉氏お勧めのものは。

田邉氏:笹塚に住んでいるブラッドという外国人がいて、「自転車で案内します」と言うのですが、私も2年くらい笹塚に住んでいたことがあるので、それほど期待していなかったんです。ところがすごく面白い。別の人間の目線で街を見ると、もう全然違うんですね。

 それから、西麻布のディミトリというロシア人は、日本酒のソムリエの資格を持っていて、自分では普段飲まないようなもののテイスティングをたくさんさせてもらえました。その日本酒だけを飲むと、チーズっぽい匂いがしたりして、「これは自分では選ばないな」と思ったのですが、そこで彼が食事とマッチングしてくれるんです。「この日本酒はこれと合わせて食べるんですよ」と。そうするとものすごく美味しいんです。

 ある地域に対して、自分では発見できなかったアクセス方法やノウハウを持った方と触れ合うというのが、体験サービスで一番面白いところだと思います。

――読者に対して言いたいことは。

田邉氏:「日本を売る」「地元を売る」プラットフォームができたので、個人でも企業でもぜひ活用してほしいですね。日本を訪れる外国人は、何か気張るわけではなく、普段の日本を体験したいと考えています。普段茶道をやっている方が、「この地域の茶道はこうです」と教えてあげるだけで、お客さんはすごく喜ぶんです。

 このプラットフォームを活用してもらって、我々と一緒に新しい旅のスタイルを訴求することで、ビジネスの機会が生まれます。ぜひ参加してください。