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三菱航空機、MRJの現状について会見。「ローンチカスタマーのANAへのデリバリーに集中している」とプログラム統括のベラミー氏

試験機の愛称は「Rising Star」「Pirates」「Dragons」「Shinobi」

2018年6月27日(現地時間) 実施

三菱航空機はMRJの現状について説明する会見を行なった

 三菱航空機は6月27日(現地時間)、米国ワシントン州モーゼスレイクで会見を開き、同社が開発を進めている国産リージョナルジェット「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」について各国メディアへ説明を行なった。

 モーゼスレイクは、同社がMRJの試験飛行拠点としているグラント・カウンティ国際空港があり、シアトル・タコマ国際空港からはクルマで3時間ほど。敷地内にはMRJを4機格納できるハンガーや、オフィスやブリーフィングルーム、テレメトリールームなどを含む施設があり、総称して「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(Moses Lake Flight Test Center:MFC)」と呼ばれている。

 最初に登壇したのは、MFCでMRJの試験飛行プログラムを統括する三菱航空機 モーゼスレイク・フライトテスト・センター長の岩佐一志氏。岩佐氏からは、「現在定期便がなく、試験飛行にはもってこい」というグラント・カウンティ国際空港の環境やMFCの施設、試験中の4機のMRJ 90型機について説明があった。MFC内部の様子については、別記事で紹介しているとおり(関連記事「“ハンク岩佐”センター長が解説、三菱航空機『MRJ』の米国試験飛行拠点『MFC』初公開」「ANA塗装の三菱航空機『MRJ』3号機試験飛行。フライトシミュレータも公開」)。

 4機の試験機にはそれぞれ愛称が付けられており、1号機(初号機)は「Rising Star」(登録記号:JA21MJ)、赤いラインの2号機は「Pirates」(登録記号:JA22MJ)、ANA塗装の3号機は「Dragons」(登録記号:JA23MJ)、4号機は「Shinobi」(登録記号:JA24MJ)という。岩佐氏は「Dragonsは名古屋が拠点のプロ野球チーム、Piratesはなぜこの名前が付いたのか分からない」と笑いを誘い、「Shinobiは忍者。4号機は頻繁に仕様が変わり、単独行動が多いからでは」と愛称の由来を紹介した。

 現在、MFCでは約400名が働いており、国籍は日本、アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、コロンビア、イギリス(イングランド、ウェールズ)、スペインなどさまざま。そのメンバーによってデザインされたというエンブレムには、「Moses Lake Flight Test Center」の文字に日の丸と星条旗、中央には翼の意匠とともに漢字で「和」と描かれている。岩佐氏は「Working Together(ともに働くこと)」を意味していると説明し、MRJのプロジェクトの成功のためにグローバルなチームが協働していると強調した。

 また、MFCでは周辺住民や子供を招いて、格納庫の見学やSTEM(科学/技術/工学/数学)教育なども行なっているという。

三菱航空機株式会社 モーゼスレイク・フライトテスト・センター長 岩佐一志氏
MFCの施設
約3000mと約4000mの滑走路を持つ
4機の試験機はそれぞれ愛称が付けられている
MFCでは周辺住民を招いて格納庫見学なども行なっている
MFCの精神を示すエンブレム

 続いて登壇したのは、MRJプログラムの全体スケジュールや商品戦略を統括する、三菱航空機 Chief Development Officer 兼 プログラム推進本部長のアレクサンダー・ベラミー(Alexander Bellamy)氏。ベラミー氏は前職のボンバルディアでCシリーズ7機の試験機に関わり、型式証明の取得やデリバリーを主導した経歴を持つ人物。同氏からは2017年以降のプログラムの進捗について、50%以上の試験飛行が終了していること、試験飛行が2000時間に及ぶこと、300人以上の専門家の参画によってグローバルなチームに転換したことなどが説明された。

 また、FAA(米連邦航空局)とJCAB(国土交通省航空局)とは型式証明の取得に向けて緊密に連携していると述べ、現在試験飛行は次のフェーズ(滑走路性能の評価)に移っていると説明、「ローンチカスタマーのANAへのデリバリーに集中している」と締めくくった。

三菱航空機株式会社 Chief Development Officer 兼 プログラム推進本部長 アレクサンダー・ベラミー(Alexander Bellamy)氏
ベラミー氏が示したスライド

 MRJの全世界でのセールスとマーケティングを担当する三菱航空機 営業部 営業部長の福原裕悟氏は、現在のリージョナルジェット市場を数字を交えて解説。主力市場の北米では、国内線のおよそ半分が100人未満の乗客であると示し、また2022年から2027年の間におよそ900機のリージョナル機の置き換え需要があるとして、MRJの販売の機会が今後まだまだあることを説明した。

 MRJ 90型機のデリバリーは2020年半ば、MRJ 70型機はその1年後以降という従来のスケジュールについては変わらないことを述べたうえで、米国のスコープクローズ(Scope clause:航空会社とパイロットの労使協定。大手航空会社のパイロットの職域が侵されないよう、リージョナル機の総重量や座席数を制限するもの)では、88席のMRJ 90型機は(重量も)協定に抵触するが、76席のMRJ 70型機は完全に適合しており、「唯一のクリーンシートデザイン(ゼロから設計すること)が強み」と強調。一方で、「将来の予測は難しい」として、現行のスコープクローズが2019年末に改訂されることへの期待を示唆した。

三菱航空機株式会社 営業部 営業部長 福原裕悟氏
福原氏が示したスライド