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整備士の基礎技術を競う「JALエンジニアリング 技能五輪」開催

予選を勝ち抜いたJALスタッフ約130名が羽田に集結

2016年6月20日 開催

 JAL(日本航空)は6月20日、羽田空港にあるJAL第2格納庫(M2ハンガー)にて、「JALエンジニアリング 技能五輪」決勝を開催した。このイベントは、JALグループの航空機整備を担当しているJALエンジニアリングの整備士たちが、航空機整備に関わる基本作業を中心とした独自の種目で競技するもの。開催は3回目となり、前回までは非公開だったが、今回初めて報道陣に公開されることになった。

「JALエンジニアリング 技能五輪」の決勝大会は、羽田空港のM2ハンガーにて開催された

 JALエンジニアリングの整備士約3000名のうち、羽田で300名、成田で200名が予選に参加。決勝に進出したのは約130名。競技内容は、電線修理、リベット修理、ボルトの締め付けなど、航空機整備で日常的に行なわれている基本作業をベースとし、いまではあまり使われなくなった基本技術や課題などを加えることで競技性を出した7種目で競う。各競技ごとに、それぞれ2名~4名のチームで参加する団体戦となっている。

 羽田4日、成田3日の計7日に渡って予選が行なわれ、7種目の競技で各日1チームずつ、それぞれ7チームが最終選考に残った。さらに、予選を突破できなかったものの優秀な成績を収めた2チームが決勝にワイルドカード参戦している。また、航空整備士を養成する中日本航空専門学校より3名の学生も招待され、競技に参加した。

格納庫の外は航空機が頻繁に離着陸をしている
参加者や応援する関係者らが集まり開会式が行なわれた

 開会式では、羽田航空機整備センター機体点検整備部部長の斎藤繁男氏が登壇し、「2年ぶりの開催となったが、毎年開催してほしいという声も聞いている。各センターの期待を背負って参加していると思うが、チームワークを発揮し、日ごろの力を存分に発揮してほしい」と参加者を激励した。

 続いて、今大会実行委員長の羽田航空機整備センター機体点検整備部の後藤孝臣氏が登壇。「本日は厳しい予選を勝ち抜いたチームが集まっている。技能五輪の名のとおり、高いスキルで挑んでほしい」と語った。後藤氏は前大会での優勝者で、それをきっかけに実行委員長を務めているという。

参加者を激励する羽田航空機整備センター機体点検整備部部長の斎藤繁男氏
実行委員長の羽田航空機整備センター機体点検整備部の後藤孝臣氏

 会場は7種目の競技が行なえるよう区画を分け、すべての競技が同時に進行できるように準備されている。各競技の参加チームは、それぞれ自分たちの競技種目の区画に集まり、最終的なブリーフィングが行なわれたあと、競技が開始された。

実行委員会スタッフが競技の内容を説明する
真剣に競技概要を聞く参加者たち
開会式が終わると、各競技参加者たちが集まって最終的なブリーフィングが行なわれる

 各競技の簡単なルールを説明すると、「ジェネラル部門」は、タイヤを転がし、その途中で作業を行なう競技。3名のリレー形式でタイヤを転がし、道中でセーフティーワイヤー(パーツを留めているボルトなどが動かないように施す処置)、シックネスケージ(すき間の寸法を測定する金属板)の厚さの判定をして、最終的に時間の短いチームが優勝となる。予選の平均は7分ほどだという。

ジェネラル部門は、タイヤを転がして途中で作業を行なう競技
重く大きなタイヤをうまくコントロールしながら指定の位置に向かう
タイヤをラックに格納したら、次の作業に入る
1人目は2カ所にセーフティーワイヤーをかけ、タイヤをもとの位置まで戻す
2人目は再度タイヤを移動させ、シックネスゲージの厚さを判定する
シックネスゲージは0.004インチ刻みで5枚。目測や触って厚みを判定する
シート部門は、2脚の客室座席の運んで設置する競技

「シート部門」は、客室座席の持ち運びをする競技で、2席用のシートを2人1組で2脚運び、2脚の間を定められたシートピッチに近いように目測で配列する。そのあと、シートに装着されたヘッドレストとシートベルトの交換をし、かかったタイムの合計が少ないチームが優勝となる。

4人1チームで、2人ずつシートを約15m運ぶ
目測でシートを配列し、シートに装着されたヘッドレストとシートベルトを交換する
ほかの競技と比べて粛々と進行する電装部門

「電装部門」は、電線修理と故障探究をする競技で、回路に仕組まれた不具合を解決してLEDを点灯させるまでを行なう。予選では競技時間が40分間だったが、決勝では30分間と短縮された。競技時間を競うが、正確さや美観などもポイントとなる。

回路図を頼りに、LED点灯回路の作成と回路の不具合を修理する
回路図の値からカラーコードを読み取り、正しい抵抗器を見つけ出す
回路図どおりに半田付けし、LED点灯回路を作成
回路にある不具合を見つけ、不具合を修理する
穴を開けた2枚のアルミ母材にリベットの取り付けと取り外しをする板金部門

「板金部門」はリベット(鋲)修理の競技で、穴を開けた2枚のアルミ母材にリベットの取り付けと取り外しをし、品質と作業スピードを競う。リベットの取り付け後にいったん審査を行ない、取り外し後にも審査を行なう。取り付け、取り外しの作業はそれぞれ10分間程度。

クリコを使って母材を仮止めする。クリコは色でサイズが分かれ、黒は4mm用
リベットを取り付けて審査したあと、取り外して母材のダメージなどを再度審査される

「締結部門」はボルトの締め付けをする競技。2人1組で、準備されたパネルに取り付けられたボルト・ナットを外し、その後取り付ける。適切なツールを使用できるか、指定されたトルクで締められるかなどが審査の対象となる。日ごろはトルクレンチを使って作業するが競技では自分の感覚で締め、トルク値の誤差やタイムの合計で競う。予選とは違うパネルが用意される。

締結部門は2人1組で、ボルトの締め付けをする競技
競技は自分の感覚でボルトを締め、トルク値の誤差を測定される

「リーク(漏れ)チェック部門」は、ホースの取り付け、漏れチェックの競技で、ホースをテストスタンドに設置し、N2(窒素)の圧力をかけて漏れをチェックする。2人1チームで、約15分間でリークチェックの正確さと時間を競う。

リークチェック部門は、ホースの取り付けと漏れをチェックする競技

「シーラント部門」は、シーラント(密封剤)を塗布する競技で、塗る精度と速度を競う。主材と硬化剤を混合して固まる2液性シーラントを使用するため、正しい混合比で混ぜないと正しく固まらず、正確な分量配分が必要となる。また、きれいなシーリングには正確なマスキングも必要で、素早く正確にシーラントを混ぜるだけでなく、正確なマスキングを行なえるかも審査の対象となる。

シーラント部門は、密封剤を塗布する競技
2液性シーラントの主材と硬化剤を、正しい比率で混合する
きれいなシーリングをするため余分な部分をマスキングする
競技で作成した成果は、競技ブースに展示されていた

 団体戦ということもあり、参加者たちはチームで相談しながら競技に臨んでいた。また、普段の作業にはない要素も競技に盛り込まれているため、なかなか課題をクリアできずに苦戦しているチームもいくつかうかがえた。

 閉会式では、各競技の上位入賞チームが発表され、優秀チームの代表者にはJALエンジニアリング常務取締役の北田裕一氏から表彰状が手渡された。

閉会式では、実行委員たちから各競技の上位入賞チームが発表された
優秀チームの代表者に表彰状を手渡し、固く握手する株式会社JALエンジニアリング常務取締役の北田裕一氏
「どのような時間のプレッシャーの中でも作業できるのがプロだと思う」とコメントするジェネラル部門優勝チームの菊地さん

 ジェネラル部門の優勝は、エンジン整備センターエンジン整備部試運転課の名樂知彦さん、菊地兼一さん、根本雄太さんチーム。菊地さんは、「優勝したが満足できる結果ではない」という。「競技のなかに通常行なっている作業と行なっていない作業があり、行なっていない作業でどうやってタイムを縮めるかが課題だった。普段も限られた時間のなかで作業しているが、今回の競技はまた違った緊張があった。どのような時間のプレッシャーのなかでも作業できるのがプロだと思うので、次回リベンジしたい」と語った。

シート部門優勝チームの藤波祥成さんは、「日ごろのチームワークで息を合わせることができた」とコメントした

 シート部門は、成田航空機整備センター運航点検整備部第2運航点検整備室第1課第2係の今上毅彦さん、藤波祥成さん、細川淳さん、第1運航点検整備室第1課第2係の新海武志さんチームが優勝した。藤波さんは、「この競技は4人チームで、ほかの競技よりも、よりチームワークが試されるものだった。日ごろから先輩とのコミュニケーションを取りながら作業していることで、今日の競技も息を合わせることができ優勝できた。日ごろのチームワークの重要さを改めて感じた」と感想を述べた。

「競技中、今後役立ちそうなテクニックを見つけることができた」と語る電装部門優勝チームの宮井亨さん

 電装部門の優勝は、羽田航空機整備センター機体点検整備部第2機体点検整備室第4課第4係の宮井亨さん、第3機体点検整備室第4課第4係の加川恭平さん、荒川光太郎さんチーム。宮井さんは、「競技は迅速に不具合箇所を発見しなければならなかったが、日ごろの作業でも役に立つもの。また、競技のなかで今後役立ちそうなテクニックを見つけることもできた」と、競技を通じてスキルアップしたことを語った。

「クオリティーを求めるなかでもスピードが重要」と語る板金部門優勝チームの佐々木幹さん

 板金部門は羽田航空機整備センター機体点検整備部構造・塗装技術室構造技術課第2係の佐々木幹さん、米須秀彦さんチームが優勝。佐々木さんは「だらだらした作業はスキルも向上しない。クオリティを求めるなかでもスピードが重要と感じた」とした上で、「優勝したが減点もあったので、その部分は日々努力して、さらに精度を高めていきたい」と今後の意気込みを語った。

締結部門優勝チームの宮﨑裕太さんは、「日ごろの整備のなかで自信はあったが、緊張して間違うこともあった」と語った

 締結部門の優勝は、羽田航空機整備センター運航整備部国内運航整備室第5課第3係の宮﨑裕太さん、第2係の山田篤史さんチーム。宮﨑さんは、「ボルトを締め付ける作業は、整備において最後の作業。そこで気を抜くとそれまでの工程がすべて無駄になってしまうので、いつも気をつけている。日ごろの整備のなかで自信はあったが、緊張して間違うこともあった。この結果に恥じないように精一杯、整備に従事していきたい」と語った。

「正解をすべて見つけることができなかった」と反省するリークチェック部門優勝チームの今村考宏さん

 リークチェック部門は、羽田航空機整備センター機体点検整備部第3機体点検整備室第2課第1係の今村考宏さん、第5係の關根均さんチームが優勝。今村さんは「日ごろの作業で培ったスキルを発揮できた。しかし、正解(漏れている箇所所)は10カ所だったが、それをすべて見つけることができなかったので、日々の整備作業のなかでスキルを磨いていきたい」と語った。

シーラント部門優勝チームの佐々木亜希仁さんは「日々の作業が時間に追われているので、プレッシャーはなかった」とコメント

 シーラント部門で優勝したのは、ワイルドカード参戦の羽田航空機整備センター機体点検整備部第3機体点検整備室第2課第1係の佐々木亜希仁さん、第1機体点検整備室第1課第1係の河野剛志さんチーム。佐々木さんは、「日々の作業が時間に追われているので、競技で時間を計られていてもプレッシャーではなかった。いつもどおりの作業をし、役割分担をしっかりした」と勝因を語った。

「ますます自己研鑽に努めてほしい」と語る北田裕一氏

 優勝チームの代表者と、それぞれ固い握手をして健闘をたたえた北田裕一氏は、「日ごろから鍛えた力を思う存分発揮できたと思う。これからもその力を整備の現場で活かして、ますます自己研鑽に努めてほしい」と語った。

「競技に参加したが、まったく歯が立たなかった」と悔やむ中日本航空専門学校の学生たち

 ベテラン整備士に混じって競技に参加した中日本航空専門学校の学生は、「事前に学校で練習したが、皆さんの技術力の高さにまったく歯が立たなかった。自分たちも、それくらいすごい技術を身に付けられるようにがんばりたい」と、プロの実力を目の当たりにした感想を述べた。また、「就職して皆さんにリベンジしたい」と、意気込みを語った。

「時間に追われての作業でも、結果や仕上がり状態はさすが」とたたえる部品サービスセンター センター長の志水嘉氏

 最後に、部品サービスセンター センター長の志水嘉氏が登壇し、「通常の作業と違って時間に追われての作業だったが、そのなかでの結果や仕上がり状態はさすがで、日ごろの技術が間違いがないことを改めて感じた」と講評した。

実行委員長の後藤孝臣氏は「参加者も実行委員も得られるものが多かった」と成功を実感

 この大会を取り仕切った実行委員長の後藤孝臣氏は、「前大会のデータがなかったので、自分たちで、盛り上がるように、スキルを高められるようにと、いろいろ考えた。今回の競技は基本作業だからこそ、意外とやり方を知らないことも多く、どの参加者がどの競技を見ても新たな発見ができるような形を目指した」と開催に向けての取り組みを説明。

 大会を終えて「参加者も実行委員も得られるものが多く、成功したと思う」とした上で、「準備に時間がかかり、やりたかったことすべてが実現できたわけではない。次回も実行委員としてがんばりたい」と、次回開催に向けての意気込みを語った。

JALエンジニアリングの整備士約3000名の中から、決勝に進出した約130名と実行委員、関係者たち