旅レポ

地震で被害を受けた熊本城の「今」を紹介

公式ボランティアガイドと見学

 2016年4月17日に発生した平成28年熊本地震から4カ月が経とうとしている。熊本を訪れる観光客の数は、いっとき落ち込みを見せたが、少しずつ回復傾向にあるという。通常営業している観光地も数多くある。

 そこで熊本応援企画として、実際に訪れることができる観光スポットを紹介していきたい。その初回として、県のシンボルでもある熊本城を、公式ボランティアガイドの協力を得て見学。敷地内にある「桜の馬場 城彩苑」では、地元グルメからスイーツまで、一挙に楽しむことができる。

 今回はセットで楽しめるコースを紹介していこう。「九州ふっこう割」を利用すれば、リーズナブルに熊本を楽しむことが可能となるところも大きなポイントだ。

多くの飲食店・土産店が立ち並ぶ「桜の馬場 城彩苑」

桜の馬場 城彩苑(熊本市中央区二の丸1-1-1)

 熊本城の敷地内にある「桜の馬場 城彩苑」は、「総合観光案内所」、フード・スイーツ・土産の専門店街である「桜の小路」、歴史文化体験施設の「湧々座」(わくわくざ)と、大きく3つに分かれた施設によって、観光案内だけでなく、歴史に触れられ、地元グルメまでも一度に体感できる複合施設となっている。

芝居や人形劇を楽しめる湧々座

地震により天井などが崩落したが、先だって2階が復旧した。現在は無料にて入館可能

 歴史文化体験施設である「湧々座」では、演者によるミニ芝居や、オリジナルキャラクターによる人形劇の映画が楽しめる。どの物語も10分程度にまとめられているので、好きなタイミングで訪れても、少ない待ち時間でコンテンツを楽しむことができるだろう。

 現在は、1階の復旧をめざして工事中とのことだが、無料公開されている2階では、応援メッセージが掲示されていたり、崩落した城壁から発見された人物イラスト入りの石垣石材が展示されていたりと、通常では目にすることができないものが見学できる。

無料公開されている2階。吹き抜けから開放感を感じられる入口付近
敷地内にある県立美術館西側(二の丸西端)の石垣が崩落した際に、見つかった石材に掘られた人物の絵。積み上げられた状態では確認することができない
県外や国外からの応援メッセージや、進呈されたつまようじアートが展示されている
この2階からは、石垣が崩落した飯田丸五階櫓の様子が確認できる。現在は門型の鉄骨が架けられ、空洞となった石垣部分に鉄骨が差し込まれて母屋が釣り上げられている状態だ
「ものがたり御殿」では、演者による芝居や人形劇の映画が上映されている
1階にはオリジナルキャラクターの人形たちが展示されている
1階入り口には、加藤清正公の人形が飾られている。福岡県の伝統的な祭りである「博多祇園山笠」の山車に使用されたもの
1階のロビーには、城彩苑に出店している関係各社からの応援メッセージが掲げられている

桜の小路には多くの飲食・物産店が集結

城下町をイメージした街並みに23店舗が集まっている

 飲食店や土産店が軒を連ねるゾーンは「桜の小路」とよばれる。天草や阿蘇をはじめとする熊本県の名産品や、料理を味わうことができる。土産用の馬肉や、本格的なからし蓮根を販売している店舗もあり、ここで熊本の代表的な食を完結させることが可能である。

「阿蘇庭 山見茶屋」では、馬肉を溶岩プレートで焼く定食の”さくら膳”(1980円:税込)が人気
「肥後めしや 夢あかり」では、太平燕や担々麺がオススメ
やはり、くまモングッズが目立つ土産店ゾーン
「森からし蓮根」と「いきなりやわたなべ」は店舗名そのままの郷土料理が販売されている
「いきなりやわたなべ」のいきなりだんご。右写真中央の紫色のものは、紅はるかを使用したいきなりだんご。そのほか、カレー味やチーズ味のものもラインナップされている
「森からし蓮根」のからし蓮根。江戸時代の製法そのままを受け継ぐ伝統の味
スイーツの充実度もなかなかのもので、多くの店でオリジナルのソフトクリームが販売されていた。記者が体験したのはメロンソフト(果肉入り)500円

 上記では紹介しきれないほど店舗数が充実しており、食事からデザート、お土産選びと、旅行の要素すべてがまかなえてしまうほどだ。後に紹介していく熊本城見学の際に、最初に訪れる拠点としてもベストな施設といえる。

熊本城見学はボランティアガイドによるツアーがオススメ

城彩苑の総合観光案内所にいくと、「くまもとよかとこ案内人の会」のガイドが常駐しているので、声をかけてみよう。今回は会長の吉村徹夫さんのガイドによる案内が実現した

 さて、お腹が満たされたら、いよいよ熊本城を周囲を歩くツアーに出発したい。城彩苑の入口近くにある総合観光案内所には、熊本観光のボランティアガイドが常駐しており、無料にてガイドを依頼できる。ただし、常に3名という限定的な人員となっているため、タイミングによっては全員が出払っている可能性もあることは気に留めておいてほしい。
 今回は、「くまもとよかとこ案内人の会」の会長でもある吉村徹夫さんにガイドしてもらうことにした。「黄色いシャツが目印ですので、気軽にお声がけください。少人数であれば団体でもご相談にのれるかと思います」とのこと。

 地震以降、天守閣内部の観覧はできなくなってしまったが、被災の状況とこれから少しずつ復旧をしていくであろう未来を予想する貴重な機会でもあるはずだ。

まずは城彩苑から二の丸広場へ向かう

名称からも南西を表している「未申櫓」経由して二の丸広場へ進む
二の丸広場手前の通路奥には、崩れた石垣が確認できた
広大な芝生が広がる「二の丸広場」。ここから宇土櫓や大天守、小天守を望むことができる
左に見えているのが宇土櫓、順に小天守、大天守の順
そこから手前に視線を移すと、崩落した石垣が確認できる。この石垣は一度取り払われており、復元されたもの

北西の戌亥櫓を折れて加藤神社へ向かう道

先ほどの石垣から繋がる”戌亥櫓”の様子を北西方面から眺める。粒の小さい石が使用されており、近年に復元されたことがわかる
加藤神社に向かう途中の歩道。地割れが今も進行中とのことで、写真右上側の城側がわずかに沈んでいる
最初の写真右側が戌亥櫓。北側の石垣はほぼ崩落している
続く2枚の写真は、加藤神社に進む橋の両脇を撮影したもの。たもとの左側(写真左)と右側(写真右)で、使用されている石の大きさが違うことから、違う時代で復元を繰り返してきたことがわかる

そのままの姿を残している宇土櫓と人でにぎわう加藤神社

宇土櫓は昭和の改装にて、内部に筋金補強がされていた。当時、賛否はあったものの、今こうして形を保っている。北西方向から写真だが、石垣の西面の奥側が膨らんでいる(白く変色している箇所)
補強工事が行なわれなかった長櫓は崩落してしまっている
熊本城内に鎮座する加藤神社は、その名の通り加藤清正公が祭られている
加藤神社は、参拝の際、自分で祓串を振る方式を採用している
加藤神社の石垣も崩落したが、その石垣石材の中から観音様が描かれた石が発見された。積み上げられた状態では、描かれた面は表に出ておらず、こうして崩れたことから発見につながった
小天守と大天守。瓦と鯱が崩落している
石垣と母屋の間に隙間が確認できる
加藤神社に続く通路脇には、崩落防止のフレコンバックが積み上げられていたが、黒い素材のものがチョイスされており、およそ3倍の耐久性が確保されているとのこと

石垣にはすべてナンバリングが施されており、元通りの復旧が可能だが……

加藤神社を後にして、棒庵坂を下ると外周路に出てくるが、崩落した石垣の石材が並べられていた。
すべてナンバリングされており、元の位置に戻すことが可能とのことだが、城壁伝いに歩いてくると、その規模の大きさに先の長さが感じられる
馬具櫓の石垣は地震ではなく、その後の長雨で崩落した。立ち入り禁止区域を広くとっていたことによってけが人が出ずに済んだ
冒頭にも登場した飯田丸五階櫓だが、別の角度から。約10mもある門型の鉄骨で釣り上げられる復旧手法が用いられており、母屋の下部である石垣の空洞部分にも鉄骨が差し込まれる形で支えられている

「人は元気なので熊本に来てほしい」という声

 天守閣に登ることができない熊本城だが、こうして周囲をガイドしてもらう機会もそうそうないものだ。しかも、その場所で起こった歴史エピソードたっぷりで紹介してくれるので、臨場感もタップリだ。

 熊本城は、長い歴史のなかで焼失や取り壊しがあり、その時代に則した建築技術によって復元を繰り返してきているが、今回の地震の被害によって、復元方法による歴史的証拠が明らかになった、ともいえる。晴れて復旧が完了した時には、こうして熊本城を違う側面から見学できる機会はなくなってしまうことからも、機会があるうちは現地で確認してほしい。

 今回の取材を通じて、現地の担当者が口々に「地震が怖いというのもあるが、逆に気を使って来れないという声も聞くが、多くのエリアで日常を取り戻しているので、ぜひ熊本に来てほしい。まだまだ見どころはたくさんある」と語っていたのが印象的だった。

くまもとよかとこ案内人の会 会長 吉村徹夫さん

赤坂太一

福岡市在住のライター。トラベル Watchでは、九州・山陽エリアの取材を担当することが多い。自動車誌をはじめとする乗り物系媒体に寄稿しているが、最近では一般紙から新聞の取材も。東京から福岡に移住して5年目をむかえた札幌生まれ。ブログはhttp://taichi-akasaka.com/