ニュース

JAL、女性活躍推進プロジェクト「JALなでしこラボ」定例会議を開催

植木義晴社長が参加、ダイバーシティのあり方について対話

2016年4月21日 開催

定例会議で初めて社長の植木氏が「JALなでしこラボ」に参加
会議は車座で行なわれた

 JAL(日本航空)は、同社グループ企業で女性をはじめとする多様な人材の活躍を推進するために「JALなでしこラボ」を2015年9月に発足、活動を続けている。4月21日には同社代表取締役社長である植木義晴氏が初参加となる「なでしこラボプロジェクト」の定例会議が実施されたので、その様子をレポートする。

 なでしこラボプロジェクトでメンバーは、意識改革やモチベーションがテーマの「意識」、キャリアパスやロールモデルを考える「ポジション」、結婚・出産・介護とライフプランにおける仕事の継続についての「継続性」と、テーマに沿った3つのチームに分かれ、女性の働き方について研究を進めてきた。今回の定例会議は研究の進捗報告を行なうと同時に、植木氏との対話を通して視座を高めていくのが目的となっている。

「意識」チーム: 現状と考え方・理想のギャップから課題を浮き彫りに

 会議ではまず、各チームの進捗状況が発表された。「意識」チームでは、これまでの会合やセッションから、なでしこラボの活動テーマを「女性がやりがいを持って、長く働き管理職を目指すためになにが必要か」と再定義。そのうえで社員の意識からアプローチしていく方針をとったという。

 調査の手始めとして、組織活性度調査や職場浸透度調査といった既存データを活用することでいまの働き方についての意識を把握。さらに現状のスコアの高低と、現状と考え方・理想のギャップの大小によって「現状維持」「無気力」「充実」「苦悩」という4つのグループに分けられるのでは、との仮説を立てた。また、グループごとにクリアすべき課題が違ってくるとのこと。その後、仮説にもとづき、ギャップを調査すべく「意識」チームのメンバーの職場を対象に自主アンケートを実施。

 現在、チームではアンケート結果をもとに、統計手法を活用して特徴ごとにグルーピングを行ないつつ、グルーピングの特徴やアンケート結果を参考にして各社ごとに深く堀りさげるテーマを決定した段階だという。

「意識」チームでは現状と考え方・理想のギャップに着目した発表が行なわれた
「意識」チームのメンバーと植木氏

「ポジション」:女性の管理職登用を阻む要因とは?

「ポジション」チームの発表

 続いて「ポジション」チームの進捗報告へ。現在まで、女性活躍についての課題出しやグループ各社の現状把握を行なったうえで仮説を立て、JALグループ9社にアンケートを実施して仮説の検証分析を実施。

 アンケートを分析した結果、女性は「会社と信頼関係を築けてないことが、女性が管理職になることを阻んでいる」と考えているとのこと。その要因として「評価への納得感が得られていない」「職場のコミュニケーションが不足している」「育児休職復帰後の問題」を挙げられた。

 一方、男性は「男性主義が強いことが女性が管理職になることを阻んでいる」と考えたといい、またチームの調査によると、男性主義と育児休職復帰に対する理解のなさは相関関係にあることが認められ、育児休職への理解を高めることで男性主義を弱めることができる、としている。

 また、チームではこのようなキャリアに対する意識を変えていくための施策についても発案。まず、女性の「評価に納得感が得られていない」という要因については、評価する側とされる側の研修を検討しているという。また、職場環境のコミュニケーションが得られていない点については、公認のカフェスペースの活用や毎朝のブリーフィングで、顔を合わせるコミュニケーションをしていくのが重要だとしている。

 育休明けの環境の問題については、社内でマッチングシステムを構築することで、グループ会社をまたいで作業のワークシェアリングができないか検討。男性中心の考え方に関しては、多様性を受け入れる職場風土の醸成をMBOの項目に追加することで緩和できるのではないかとみている。

「ポジション」チームでは今後、JALグループ44社の情報交換と共有を目的とした「グループプロジェクト」へのヒアリング、他企業研究や社外知見者との意見交換などを通して、女性のキャリアアップを阻む壁に対しての対策を考え発表していくという。

「ポジション」の発表では女性の昇進に関する厳しい現状の改善策が紹介された
「ポジション」チームのメンバーと植木氏

「継続性」:介護における就業支援のあり方とは?

「継続性」チームの発表

 最後は「継続性」チーム。結婚・出産、育児とさまざまなライフイベントがあるなか、チームがフォーカスを当てたテーマが「介護」。出産・育児と比較して、認知度・取組度が低く、男女誰でも直面する可能性があるためだ。JALグループの実態を把握したうえで、介護を担う人の就業継続支援の取り組みにあたって向かうべき方向性の提案を探っていくという。

「継続性」チームによると、介護に直面したときの就業支援は「制度の整備」だけではすべてではないとのこと。重要な課題を以下の5つに仮定している。

(1)日頃からの従業員の知識底上げ
(2)介護に適した制度設計(ニーズ多様/育児と異なる)
(3)同僚・上司の理解&家族の理解
(4)介護と仕事が両立できる働き方
(5)介護する本人の心身の健康維持

 そのうえで対策について考察するために、WebアンケートによるJALグループの介護における実態の把握を行ない、介護に直面する年齢を調査。また、JALグループ内で介護経験者のヒアリングを行ない、仕事と介護を両立しているのか、制度の問題点、また介護事業従事者にもヒアリングし、介護のプロから見えてくる問題点や課題を洗い出していく。ほかにも、東京大学社会科学研究所提供シミュレーションツールを使ってJALグループの介護離職率を試算。

 これらの調査結果を踏まえて先ほどの5つの課題を再検証し、それぞれに対して打ち手を考察していくという。

今回、結婚・出産ではなくあえて介護をテーマに選んだ「継続性」チーム
「継続性」チームのメンバーと植木氏

いま、なでしこラボプロジェクトに期待することとは

なでしこラボプロジェクトのメンバーと植木氏が直接質疑応答する場面も

 今回の進捗報告は、社長の植木氏との対話を交えながら行なわれた。参加メンバーの1人からの「子育てはどう携わっていたのか」という質問について、かつてパイロットだった同氏はフライトで不在にする一方で、スタンバイ時は自宅にいるので朝から晩まで子供と一緒だったという話を披露。「お母さんは産んだとたんにお母さんになる。けれど、父親は大変。努力しないと父親になれない。だから自分のなかにも父性愛とか父親としての愛情を呼び起こすためにも、子供にも父親として認識してもらうためにも、努力しないと。小さいときに一緒にいたときが長かったから、いまもいい関係でいられる」と話した。

 女性の管理職を増やす施策について聞かれた際、同氏は「男性主義を変えていかないといけない一方で、女性もがんばらないと。男性が変わっても、女性がやる気を示してくれなかったら、上司がちゃんとできる方に仕事を回してしまう。『任せなさい、私たちがやりますから!』と女性も発信しなければ」とコメント。社内の女性スタッフが植木氏にFacebookに掲載する原稿を依頼し、渡した原稿に書き直しを命じた話を紹介しつつ、女性側の熱意も女性管理職増加において必要だと説く場面もあった。

 講評では、なでしこラボプロジェクトについて「二流の計画力、一流の実行力でいい。一流の計画を立てて120%間違いのないものは求めない。8割できて『大体、こんなもんだな』と思ったら走って、走りながらPDCを回せばいい。それが今、期待されている。構想力より実行力。実行していくなかで新しい構想が生まれてくるから」と話し、メンバーにエールを送った。

ダイバーシティの意義とは

日本航空株式会社代表取締役社長の植木義晴氏

 定例会議後に行なわれた囲み取材で植木氏は、「これから少子高齢化になって生産人口も減り、当然、人件費も上がっていく。そのなかでどうしていくのかというと、人ではなくロボットやITの技術を使うというのもあるけども、もう1つは人が辞めなければいい。そういうことを考えると、いまいる人たちをまず大切にしよう。どうやって辞めないで、どうやって効率よく働いてもらい、時間は短く本当にコアな必要な時間だけ仕事して、ちゃんと余暇を楽しんでもらう。無理じゃなくできるような工夫をしていく。その1つの方法がダイバーシティ(多様性)にあると思っている」とダイバーシティが少子高齢化の状況下における職場の在り方だと示唆した。

 また、ダイバーシティは女性に焦点を絞られがちだが、そうではないと同氏は話す。「僕自身がダイバーシティだと思っている。ウチは現場の人数が8割で、残り2割の業務企画職のなかからずっと今まで60年間、社長が出てきた。しかし、僕が初めてその8割の現場組織のなかから社長になった。これこそがまさにダイバーシティじゃないだろうか。全然違う価値観、経験、経歴を持った人が社長になったから。本社にいる業務企画職は『あいつは変人だ』と思っているらしい。でも、変人だから、KYだから変えられる。女性も同じ。女性だからできることがある」とコメント。

 最後に「価値観の違う人間が集まって、本音でやりあって、相手を尊重しあうところから、新しいものが生まれてくると僕は信じている」とダイバーシティの意義を話し、取材を締めくくった。

(丸子かおり)