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Gogoの高速機内インターネット「2Ku」のテスト飛行に乗ってきた(後編)

Gogoカラーの2Kuテスト機に搭乗。下り最速は17.46Mbpsで3倍以上高速!!

 前編では、Gogoの機内インターネットを実現する仕組みについて、これまで使われてきた「ATG」「ATG4」「Ku」というソリューションに続き、2016年からは新しく「2Ku」が導入される見通しであることを説明した。後編では、Gogoがアメリカ・イリノイ州シカゴにある本社近くの空港で開催した、2Kuを搭載したGogoのテスト機材(ボーイング 737-500型機)を利用した“2Ku体験会”の模様をお伝えしていきたい。

下りは5Mbpsを超えたGogoが提供するデルタ航空の機内インターネット

スマートフォンからトラベル Watchのサイトにアクセスしているところ。なお、デルタ航空のGogoの機内インターネットは、1つのアカウントで複数のデバイスでログインして利用することが可能だった

 今回のテスト飛行は、米国イリノイ州シカゴ市にあるゲーリー・シカゴ国際空港で開催された。シカゴには複数の空港があるが、多くの乗客が利用するのはシカゴ・オヘア国際空港で、このゲーリー空港は特に日本人にはあまり知られていないだろう。

 今回、筆者が訪問した際の到着空港もオヘア空港で、デルタ航空の便で到着した。デルタ航空は、Gogoの顧客の1社で、機内Wi-Fiインターネットの導入に積極的な航空会社だ。成田~ミネアポリスをデルタ航空のDL585便、ミネアポリス~シカゴをDL1717便と乗り継いでシカゴ入りした。そして帰りはその逆で、シカゴ~ミネアポリスをDL1632便、ミネアポリス~成田をDL584便と乗り継いだ。

 DL584/585便はエアバス A330-200型機、DL1717便はボーイング 717型機、DL1632便はボーイング 737-800型機が機材として利用されていたが、いずれのフライトでもGogoの機内インターネットサービスを利用できた。なお、DL584/585便は、成田~ミネアポリス間のフライトとなるので、衛星通信を用いたものとなり、現在はKuアンテナを利用して機内インターネットが実現されている。

 Gogoの機内インターネットサービスを利用するには、まずPCやタブレット、スマホなどを開いてWi-Fiをオンにし、GogoのWi-Fiアクセスポイント「gogoinflight」に接続。その後、接続のための画面が表示されるので、用意されているパスを買うことになる。

 ただ、パスを購入するためには、まずアカウントを作成する必要がある。といっても必要な情報は、電子メールのアドレスと自分で決めるパスワードだけで、簡単に作成できる。筆者はこれまでも何度かGogoの機内インターネットを利用したことがあったので、すでに持っていたアカウントのID(メールアドレス)とパスワードを入れてログインした。初めてアカウントを作成する時には、同時に支払いのためのクレジットカードを登録する必要があるので、それも用意しておこう。

 ログインするとどのパスを選択するかを促される。今回のDL584/585便では

(1)Gogo 1-Hour Pass(1時間有効):19.95ドル(日本円で約2400円)
(2)Gogo Flight Pass(購入時のフライトでのみ有効):39.95ドル(日本円で約4800円)
(3)Global All-Day Pass(購入日のデルタ航空の全フライトで有効):44.95ドル(日本円で約5400円)

の3つが選択肢として用意されている。何度も米国を往復する人向けには69.95ドル(日本円で約8400円)の1カ月有効のパスも用意されており、往復とも利用する人や、頻繁に日米間を往復する人であれば、こちらを選ぶとお得だ。

 今回は、乗り継ぎでも利用するつもりだったので、Global AllーDay Passを選択した。なお、搭乗前に購入すると若干割り引きされるプランを購入できる場合があるので、確実に使うことが予想されている場合には、地上にいるうちにパスを購入しておくとよいだろう。ただし、事前にパスを購入する場合には、米国国内線のみ向けと、国際線向けのパスが異なっていることには注意しておこう。

 実際に利用した感想だが、帰りのフライト(DL584便)において回線の速度を計測するSpeedtest.netで計測してみると、下りが5.12Mbps、上りが0.04Mbpsという結果になった。この速度計測は巡航高度に達して利用の許可が出てから、できるだけすぐに行なったので、利用者が少ない状況における上限に近い結果と思われる。一般的にユーザーがインターネットに接続してコンテンツを閲覧する場合には、下りの速度が快適性に大きく影響するといってよい。例えば、この記事を読むためにインプレスのサイトに接続した場合には、インプレスのサーバーからデータがユーザーの機器にダウンロードされる。この時に使われるのが下りの回線で、その速度が速ければ速いほど快適に利用できる。

 これに対して、上りに関しては、なんらかのアップロードをする場合に使われる。具体的にはファイルをアップロードしたり、VoIP(インターネットを経由した電話、SkypeやLINE電話、Facebook Messengerなどが挙げられる)で通話する場合などに利用される。今回のデルタ航空のフライトに限らず、Gogoの機内インターネットは上りに関してはかなり遅いようだ。

 今回の取材でお話を聞いたGogoの関係者によれば、これは航空会社の要請で上りの速度を絞っているからだという。実際、ほとんどの航空会社では、VoIPの利用が機内インターネットの利用規約で禁止されている。これは機内をできるだけ静かにしたいという航空会社の意向があるためとのことで、技術的な制約ではないとGogoの関係者は説明した。

 このあたりはマナーや文化との関わりがある問題なので、一概に善し悪しを決められる問題ではなく、現状ではそうした考え方が主流ということなのだろう。このため、LINEでいえばテキストメッセージをやりとりすることはできるが、LINE電話を利用して電話をするのはNGということになる(この上りの速度ではほぼ通話は不可能だ)。なお、このほかにも、「Netflix」などのストリーミング型のビデオ配信も使うことができないとされている。

 ただ、すでに述べたように下りは速いので、一般的なインターネットの使い方であれば十分利用可能だ。実際、今回はFacebookのメッセンジャーでトラベル Watchの谷川編集長と仕事の打ち合わせをしようと思ったら、いきなり原稿の締め切り時刻を繰り上げられたり、原稿を催促されたり、美味しそうな食事の写真を送られたりと散々な目にあったが、溜まっていたメールの返信をできるなど時間を有効的に利用することができた。やはりさまざまな方法での連絡を飛行機内からとれるのは便利だと感じた。

PCなどを起動すると、「gogoinflight」というアクセスポイントが検出される。なお、地上にいる時などインターネット接続できない状況でも、このアクセスポイントは検出される
インターネットが使える状態の時には、アクセスポイントに接続後、このページが表示される。Gogoのアカウントにログインしてパスを購入するとインターネットに接続できる
すでにGogoのアカウントを持っていれば、ログインしてパスを購入できる
アカウントを持っていない場合には新規に作成し、クレジットカードを登録しておく必要がある
パスを購入し、接続されると、このような画面になる
スマホでも同様の動作になっており、アクセスポイント「gogoinflight」に接続してWebブラウザを開くと、このようにGogoのページに自動転送される
L2TPのVPNもそのまま通るので、会社や自宅などに設置しているVPNサーバーに接続して利用することもできる
Speedtest.netのアプリケーションを利用して速度のチェック。下りは5.12Mbps、上りは0.04Mbpsとなった。上りの速度が絞られているのが特徴といえる
トラベル Watchの編集長と機内から打ち合わせしたが、機内で締め切りを宣告されたり、美味しいモノの写真を送りつけられたり……なかなか熱い体験だ
こちらはアメリカン航空でのGogoの機内インターネットサービスに接続したところ。このようにWebサイトのデザインは航空会社によって異なっている
ずっと使えるのかと言えばそうでもなく、衛星の受信状況ではこのように使えない場合もある。2Kuではこの状況が改善されるはずだ

ブルーのGogoカラーに塗装された2Kuテスト機材、アンテナは機体中央部に設置

 そうしたKuベースのインターネットを経験した翌日に、シカゴのゲーリー空港で2Kuのテスト飛行を体験することになった。今回Gogoが用意したのは、同社が実証試験のために利用しているボーイング 737-500型機で、2Kuアンテナが組み込まれている。

 現在Gogoでは、この機材を利用してさまざまな試験、さらには航空会社の関係者などの顧客に向けたプレゼンテーションを行なっており、Gogoのコーポレートカラーである薄い青をベースにした塗装が施されていた。

 もちろん運航を担当しているのは、本物のパイロットで、今回のフライトには客室乗務員(CA)も搭乗しており、飲み物などのサーブや離着陸時のアナウンスなどを担当していた。Gogoの関係者によれば、実証実験中などには技術者だけでCAは搭乗していないそうだが、報道関係者や顧客となる航空会社の関係者が搭乗する時には、CAに乗務してもらうのだという。

 テスト飛行とはいえ、本当に空港を離着陸するフライトなので、搭乗前にはパスポートなどによるIDチェックと、金属探知機を利用した荷物、身体検査が行なわれた。なお、搭乗の記念にはGogoのスモールCEOの直筆サインが入った搭乗記念パスポートをもらえるという特典付きだった。

 機材そのものは、塗装がGogoカラーになっていることを除けば、一般的なボーイング 737-500型機と違いは見つけられなかった。しかし、機材の中央上部に2Kuアンテナが搭載されているドームの膨らみがあり、2Kuのテスト飛行機であることが一目で確認できる。

 実際に搭乗してから確認してみると、ちょうどアンテナがある真下付近のオーバーヘッドコンパートメントに機器が取り付けられており、衛星からの電波を送受信するための機器が納められていた。もちろん、この位置にあるのはテスト用の飛行機であるためで、実際の航空会社の飛行機では別の場所に収納され、乗客の荷物スペースを圧迫したりということはないとのことだった。

Gogoのボーイング 737-500型機
2Kuの機材をテストするために導入されているGogoのボーイング 737-500型機。垂直尾翼のGogoのコーポレートカラーであるブルーに塗られている
垂直尾翼とエンジンがGogoカラーのブルーに
前部のドア付近にGogoのロゴが描かれていた
飛行機の中央部には、2Kuのアンテナが取り付けられていた
アンテナ下部の機内には、このように通信用の機材が搭載されていた
「MODMAN」は“Modem and Manager”の略称で、電波で送られてくる通信を、データに変換する役割を担っている
アンテナからのケーブル
「KANDU」はKuアンテナに対して電力などを供給する役割を果たしている
歴然としたジェット機によるフライトなので、ライセンスをもった本物の機長が運航を担当する
シートは前方にビジネスクラス相当、後方にエコノミークラス相当がシートも用意されており、実際の商用フライトを模している
後方にはトイレやギャレーといったお馴染みの設備も。CAもも搭乗
飛行前には、緊急時の対処方法という普通に飛行機に乗った時のお馴染みの光景が
わずか1時間ちょっとの飛行なのだが、アメニティキットまで配布された
Gogo CEOの直筆サイン入りのパスポートライクな記念グッズも配布された
飛行機に乗る人にはお馴染みの、緊急時の対処方法が書かれたシートもGogo仕様に。内容は通常の飛行機と同じ

下り17.46Mbps、上り0.8Mbpsと、Kuアンテナを大きく上まわる通信速度を確認

2Kuのテスト飛行中にトラベル Watchのサイトに接続しているところ

 テスト飛行は約1時間で、シカゴ近郊の上空をぐるっと1周して再びゲーリー空港に戻るというルートで行なわれた。

 まず試したのは、やはり通信速度のベンチマークテストだ。Speedtest.netのスマホアプリで何度か計測したところ、最も速い時で下りが17.46Mbps、上りが0.8Mbpsとなった。商用サービスとして提供されているデルタ航空のフライトで試した時には、下りが5.12Mbps、上りが0.04Mbpsという結果だったので、下り、上りともに向上していることを確認できる。

 なお、何度か測定したが、速度はそれなりに変動した。というのも、今回のテスト飛行には筆者以外にも複数の報道関係者が搭乗しており、同じように速度計測を行なっていたからだ。最も速かった17.46Mbpsの結果は、まだ皆がPCを開き始めたタイミングで、スマホを使って急いで測定したもの。ネットワークに負荷が少ない状態での結果だと思われるので、利用者が多い場合、やはり速度は低下することになることがこの結果からも分かるだろう。

 また、下りに比べると、上りが遅い数字になっているが、Gogo関係者によれば、やはり上りは絞ってほしいという航空会社の要請が多いので、テスト機材でもそれに合わせた設定にしてあるとのこと。2Kuアンテナは2つのアンテナで送信、受信を行なう仕組みになっているので、上りの速度もそれなりに上げられるはずなのだが、(同社の顧客である)航空会社の側のニーズとなれば致し方ないところだろう。

 実際のアプリケーションだが、例えばYouTubeの動画再生なども楽々と再生できたし、今後Gogoが機内サービス向けに導入を計画しているIPTVもテストすることができた。

 IPTVとは、インターネットを経由して行なわれるTV放送のことで、ストリーミング形式で、ライブの動画が乗客の機器に配信される仕組みになっている。具体的には通信衛星と飛行機の間の通信回線の一部分をIPTVのストリーミング用に確保し、安定して配信できるようにする。そのうえで飛行機内にあるGogoのネットワーク機器で分配して乗客の端末に配信する仕組みになっている。これにより、ストリーミング配信であっても途切れたり、止まったりすることなく配信することができるとGogoでは説明している。実際、テスト飛行ではアイスホッケーの試合が生中継されており、これが実現するのは非常に便利だと感じた。

 というのも、筆者にはスポーツ中継をライブで見ることができず悔しい思いをしたことがあるからだ。2006年のサッカー・ワールドカップでのアジア予選で日本代表チームが北朝鮮代表チームとの試合をして、勝てばワールドカップ出場が決まるというゲームが飛行機での移動日と重なっており、この時は、地上に着いたら真っ先に録画しておいたこの試合を見ようと思っていた。

 ところが、筆者が乗ったフライトの機長が親切な人で、到着時に「日本の皆さんおめでとうございます、日本チームが勝利しました」とアナウンスするではないか。周りの日本人は大喜びしているなか、地上に着いてもインターネットなどあらゆる情報をシャットアウトして結果を知らないようにし、録画したビデオを見ようと思っていた筆者はがっかりしたという体験があった(もちろん日本チームがワールドカップに出場したことはうれしかったが……)。

 そうした“悲劇?”も、機上でのIPTVといったソリューションが普及すれば避けることが可能になるかもしれないわけで、大いに期待したいところだ。

最も速い時には下りが17.46Mbps、上りが0.79Mbpsの速度が出ることを確認できた
IPTVを見ているところ、ライブストリーミングなのにまったく映像が途切れなかった

もう地上とは隔離されない飛行機内、機内IPTVの普及にも期待したい

 このように、2Kuのフライトを体験して感じたことは、“速さは力”ということだ。実際にベンチマークを測ってみると、Kuに比べて明らかに速くなっているのが分かった。飛行機内で“Webブラウザを見るぐらいならそんなに速くなくてもいいんじゃないの?”と思う人もいるかもしれないが、すでに述べたように機内インターネットサービスは、利用している乗客全員で通信速度をシェアすることになる。従ってユーザーが増えれば増えるほど、速度は低下することになるので、元の回線が速ければ速いほど、1人あたりの割り当ては増えるはずで、やはり回線が速くなることには大きな意味があるといえる。

 むろん、上りが絞られているという点は依然として課題として残っているが、これは技術的な問題というよりは、航空会社のポリシーの問題とのことだ。高速な回線が利用できるようになって、より多くのユーザーが使い、VoIPを使いたいなどのユーザーのニーズが高まれば、航空会社も考え方を変えていく可能性があるのではないだろうか。

 また、機内IPTVはもう1つの新しい可能性を見せてくれたと思う。2Kuでは通信衛星と飛行機間の通信速度が向上したことで、一定の速度をIPTVに割り当てることが可能になり、地上からIPTVを配信することが可能になった。先述のサッカーの試合の話のように、飛行機に乗ってしまうと、国際線では長ければ十数時間、地上の動きと途絶されることになる。しかし、今の時代はSNSなどを通じて、地球の裏側の出来事もライブで伝わる時代だけに、常に最新情報を知っておきたいというユーザーにとっては苦痛でしかないだろう。しかし、IPTVで例えばCNNの放送が常に見られるようになれば、飛行機に乗っていても世界の動きを、より知ることができるようになる。これは大きな進歩ではないだろうか。

 そうした未来を垣間見せてくれた2Kuのテスト飛行。筆者にとっては非常に有意義な体験だった。さまざまな航空会社で採用が進み、飛行機に乗ったらインターネットからは隔離される状況が大きく改善されていくことに期待したい。

(笠原一輝)