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ポルシェ×東大、子供たちに夢を持つ力を与えるプロジェクト。スマホなし、検索禁止で目的地にたどり着けるか!
- 提供:
- ポルシェジャパン株式会社
2021年10月30日 00:00
最初に断っておくと、ポルシェジャパンと東大が共同で実施した、この若者向けプログラム「LEARN with Porsche」の大半に、華々しいポルシェのスポーツカーは登場しない。
ここからしばらく紹介していくのは、10名の若者たちが知的探究心を刺激し、自らの可能性を感じて、より自信を深めていくドキュメンタリーだ。4日間にわたって夏の北海道で繰り広げられた「LEARN with Porsche」の密着レポートをお送りしよう。
子供たちに夢を持つ力を与える「LEARN with Porsche」
夢を持つことに優劣はない。「LEARN with Porsche」の取り組み
最近の若者は積極性に欠けるとか個性がないとか、○○離れしているとか、いろいろと言われることもあるが、実際にはさまざまな周囲の要因が関わっている。家族や学校など小さなコミュニティ以外に関わる機会が減っていたり、SNSなどスマートフォンから極端な影響を受けやすかったりする。
今回実施した「LEARN with Porsche」の発端となる「LEARN」は、東京大学 先端科学技術研究センター 人間支援工学分野が展開している一連のプログラムだ。中邑賢龍(なかむら けんりゅう)教授の研究室が中心になり、Learn(学ぶ)、Enthusiastically(熱心に)、Actively(積極的に)、Realistically(現実的に)、Naturally(自然に)の頭文字を取り、さまざまなベクトルに向けた新しい学びの方向性を見いだす活動になっている。
これまでも中邑研究室では、現代特有の教育課題解決に向け、実践的な研究を行なっている。その過程で、ICTの進化により、必ずしも一人一人を既存社会にむりやり適応させる必要がなくなってきていて、個人に最適な環境のなかで能力を伸ばし、自信を深め意欲を高めていく、それぞれに合った学びを見つけていくという教育が可能になってきている。
中邑教授の言葉を借りれば、「これまでの教育が目指してきた、協調性があり従順な、オールマイティな人の集団からはイノベーションは起こらない。社会や組織から排除され、枠から外れてしまった人を矯正して集団に入れるのではなく、その人の才能を伸ばす。才能が開花していなくても高い志がなくても、一緒に参加できるようにする。
ここまで構築してきた“メリトクラシー”(能力主義、業績主義。能力が高い人が統治するようになる社会。メリットと支配を意味するクラシーを掛け合わせた造語)はやめにして、新しい価値観を自らが創造していく必要がある」ということだ。
この中邑教授の取り組みにポルシェジャパンが賛同した。同社は「夢を持つことに優劣はない」という考えのもとに、「Porsche. Dream Together」というコンセプトの若者向けの取り組みを立ち上げており、その第1弾として「LEARN with Porsche」を東大と共同で実施する運びとなった。
夢を持つことをあきらめてしまった若者に、出身や社会的なステータスとは関係なく夢を持ち、未来へのイノベーションを起こしてもらう手助けをしようという、新しい試みだ。
北海道・新千歳空港からはじまった <1日目>
「LEARN with Porsche」は、北海道の玄関口新千歳空港で8月に始まった。
全国各地から書類選考とオンライン面接を経て選ばれた10名が新千歳空港に集まる。中学2年生~高校3年生まで幅があり、男女ともに5名。空港ロビーで軽く初めての顔合わせをしたあと、初ミーティングのため空港の会議室に向かった。
集まったメンバーは、実はこの日まで新千歳空港に集合すること以外、何も知らされていない。オンライン面接で顔を見ている中邑教授やスタッフ以外、メンバー同士は初の顔合わせ。ここで各自自己紹介しながら、「うさぎ」「ライオン」「リス」の3チームに分けられた。このチームは固定ではなく翌日まで。その後、毎日変更して、まんべんなく全員が交流することになる。
中邑教授の「いよいよ『LEARN with Porsche』を開始したいと思います。このプログラムの趣旨はポテンシャル、アビリティ(能力)って何だろうかを考えることです」という第一声でプログラムが始まった。
中邑教授は趣旨の解説を加える。
「君たちの能力はどんなものだ? テストで好成績をとることかな? 今回のプログラムは授業のように上から教えられるものではない。予習復習なし。ある意味で適当。君たちが何かを感じ取る“場”を提供するという、ただそれだけのコトなんだ。教科書を使った勉強で気がつかないことを、ここで気づいてもらいたい」
さらにたたみかけるように説明を続ける。
「産業革命以降、お金持ちが機械を買って製造していくと、さらにお金持ちになっていく。お金を持っていれば発言力が増していき、社会的地位が上がっていくという社会ができあがっていった。これは“メリトクラシー”と呼ばれている。がんばれば報われる。高度成長期はそれでよかった。
しかし、がんばっても報われない人もいる。こういう人にも注目しなきゃいけないんだ。今、まさにそういう時代に入ってきている。これから時代は激変する。これまでの考え方でそのまま生きていてよいのか。新しい価値観を、君たち自身で考えてほしい」
ここで、メンバーの顔が引き締まったように感じられた。
明日指定時刻に“森の馬小屋”に集合せよ
ここで、中邑教授が第一目的地を発表した。
「明日の13時までに、“森の馬小屋”っていう場所に来てほしいんだ」
「えっ!?」
ここ新千歳空港からどうやって行けばよいのか、地図を含めてそういった情報はない。空港の案内板にも“森の馬小屋”なんて観光地は書かれていない。
「さて、知らない場所に行くにはどうすればよいでしょう?」
「ググる!」と、声が上がる。
「もし、ググれなかったら?」
今回のプログラムでは、情報機器の使用を制限されるシーンが多い。自ら考えることを重視するからだ。ネットの情報では画一的な考えに陥りやすい。これを自覚することも重要だ。
「地元に人に聞く、かな」
「ヨシ! それじゃあ今から聞きに行こう。最近、知らない人に尋ねたことってありますか? 最近では人に聞かなくても済む暮らしになっている。本当は聞いた方が意外な情報も得られたりもするけど、聞く作業がめんどうになっている。これから“森の馬小屋”がどこにあるのか、どうやって行けるのか、空港にいる人たちに聞きに行って探索してほしい」
ただし、いくつか条件があった。スマホを含めて情報端末は使用禁止。声をかけた人のスマホで検索してもらうのも含めて禁止だ。空港インフォメーションセンター以外の空港職員、店員など働いている人に声をかけることも禁止された。情報機器を使わずに、目的地を知っている人に出会えるかがポイントになる。
つまり、基本的に空港内でブラブラしている一般の人に声をかけて、“森の馬小屋”を知っていれば教えてもらえるということになる。1時間という時間制限もある。ある意味ゲーム的だ。
さっそく各チームが空港内に散っていく。空港インフォメーションセンターが唯一の望みだったが、カウンターの係員には「検索をしないと分からない」と言われてしまい、と早々に玉砕。なかなか一般の人に声をかけて尋ねるという行為はハードルが高いようで、声をかけあぐねているシーンが多かった。
メンバーは優しい気持ちの人が多いようで、どうしても急に声をかけると迷惑ではないかと気にしているようだった。リスチームは途中から、「森の馬小屋さがしてます」と書いたプラカードを持つ作戦で、かなりの人に当たっていたが、どうしても知っている人には出会えなかった。
結局のところ、3チームとも時間までに、一般の人から有益な情報を得ることはできなかった。
中邑教授は想定内の様子。「昨今の都会の人々は公共の場所にいると、“アーバン・コクーン”といわれる現象で、自分のマユのなかで閉じて、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。昔はそんなことはなかった。電車のなかにいても、世間話から入って気軽にあいさつをしたりして、人と人のコミュニケーションがあった。現代の人は、そういうことが苦手になっているのかもしれないね」と言う。
「それでも、ちゃんとコミュニケーションをとりながら会話をしていくと、本来の解答とは関係ないけど予想外の有益な返答があるかもしれない。こういったことが今の社会に失われてしまっている。こういった能力があると、これからの人生が豊かになるかもしれないよね」
「仕方ない。スマホで検索してみよう」
すると、“森の馬小屋”は一瞬で答えが出る。検索はみな手慣れたものだ。地図も表示され住所も分かる。
最寄り駅はJR根室本線の十勝清水駅もしくは御影駅。一般的な行き方だと、南千歳駅と新得駅で乗り換える必要がある。
そして、ここで明日の移動をするうえで、以下の条件が加えられた。チームごとに考えをまとめて、移動手段を選ぶ必要がある。
1. 階段を含め段差は10段まで
2段や3段飛ばしで段数を稼ぐのはダメ。エスカレーターやエレベーターはOK。5cm以上の段差を1段と換算する。10段にいたった時点でゲームオーバー。
2. 予算は1人あたり6000円まで
食事も含める。タクシーは最小限にとどめないと到着できない。
3. 13時までに着くこと
徒歩区間が多過ぎると時間オーバー、なるべく近場まで交通機関を使う必要がある。
4. 情報機器は朝出かけるときに預けていく
これはこのあとも毎日同じ条件。ネットで検索した情報は使えない。夜間のみ利用が許される。
明日、この移動ゲームを見事クリアしたチームは、教授から昼食が振る舞われることになった。各チームには審判もかねたスタッフが同行する。このあとは、持ってきたPCやスマホを総動員して、道順を検索しながら作戦会議。明日朝には、PCやスマホは預けなくてはならない。地図のプリントを作ったり、メモを取ったり、情報機器がなくても道順が分かるようにしておかなくてはならない。
段差はもちろんバリアフリーを体感してもらうために付けられた条件だ。車いすで移動している人にとっては、10段でも甘いくらいだろう。電車に乗るステップにも段差はある。乗り換え駅の跨線橋にエスカレーターかエレベーターはあるのか。メンバーには特急列車の切符の買い方を知らない人もいたりする。実に心配はつきない。