井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

すぐ乗りたいのに待たされる……車内整備と折り返しの関係

釧路駅で、到着した下り「スーパーおおぞら」(当時)が、上り列車として折り返すために車内整備中の図

 列車がホームへ入線、所定の位置で停車すると、直ちに扉が開いて乗車……とはならないことがある。これが頻発するのが、新幹線の駅、とりわけ東京駅。多くの場合、発車時刻ギリギリまで乗車できない。在来線の特急でも、同じ場面に遭遇することがある。

車内整備とは何をする作業か

 通勤電車ならそんな作業は必要ないが、新幹線や特急列車では、「乗客を迎える前の車内整備」という作業が入る。到着した列車が、その場で反対方向の列車として折り返す場合、その整備に時間がかかるのだ。

 だからといって在線時間が長くなれば、発着できる列車が減ってしまう。そこでギリギリを追求した結果として、発車時刻の直前まで乗車できない場面が増えた。

車内整備を担当するスタッフが、到着する列車を迎える図。東北新幹線の東京駅で
こちらは東海道新幹線の東京駅。降車する乗客を出迎えるとともに、降車が済んだら直ちに乗り込んで作業にかかる

 車内整備といっても、その作業内容は駅や状況によって異なる。新幹線や在来線特急の場合、腰掛(シート)の方向転換と、背面テーブルやカーテンの収納、客室内のゴミの片付け、といったあたりが最小限の作業となる。

JR東日本の新幹線電車は、腰掛の自動方向転換装置が付いている。すべての腰掛を同時に回転させるとぶつかってしまうので、奇数番・偶数番に分けて回転させている(写真はE2系)
車内整備を終えて、きれいに整えられた車内の一例。これは山陽新幹線「こだま」の500系

 さらに、床に掃除機をかけたり、デッキに設置されているゴミ箱の中身を回収したり、テーブルや窓框(窓の下辺にあるテーブル状の部分)を拭き掃除したり、ヘッドカバーを交換したり、といった作業が加わることもある。

 これぐらいの作業であれば、しかるべき人員・機材と交換用品を用意すれば、駅のホームで実施できる。新幹線の場合、降車完了後に車内整備を実施して乗車可能とするまでのプロセスを10分と経たない間に済ませているのだから、これはすごい仕事だ。

 ところが、車両基地に取り込まなければ実施できない作業もある。その最たるものが便抜き、つまりトイレで出たものを床下のタンクから抜き取る作業である。抜き取ったものの後始末を考えると、これを駅で行なうのはムリがある。

 また、洗面所やトイレで使用する上水の補給も、車両基地で実施することがほとんどだ。一度、駅で補水作業を実施する現場を取材したことがあるが、これは今では例外的。

床下に設置された汚物処理装置の例。左下に、手前向きに取り付けられた太い管が見えるが、ここにホースをつないで中身を抜き取る

到着番線と発車番線を比較すると、折り返しかどうかが分かる

 こうした事情があるので、終着駅に到着した列車が次にどうなるかは、「その場で車内整備を実施して折り返し」と「車両基地に取り込んで車内整備、便抜き、補水などを実施」の2パターンに大別される。

 逆に始発列車は、車両基地や留置線から出庫してきて据え付ける場合と、到着列車のホーム上折り返しの2パターンに大別できる。前者は車内整備を車両基地や留置線で済ませているから、ホームに据え付けたら直ちに乗車できる。後者は車内整備が終わるまで乗車できない。

 では、その両者を見分ける方法はないか? 車両基地から出庫してくる列車なら、時間に余裕を持って乗り込める可能性が高いのだが。

 紙の時刻表を見ると、列車ごとに発着番線の表示がなされている場合がある。ことに新幹線の場合、両端の駅は必ず、発着番線の表示がある。実はこれがヒントになる。

 そこで例として、東海道・山陽新幹線の「のぞみ27号」を引き合いに出す。これを書いている2024年12月23日時点のデータでは、「のぞみ27号」は東京発11時12分、発車番線は18番線とある。

 そこで、この11時12分より少し早い時間に18番線に到着する列車がないかどうか、上り方向の時刻表で調べてみた。すると、10時15分着の「のぞみ210号」が見つかったが、小一時間もそのまま東京駅に止めて、貴重な線路とホームを塞ぐわけではあるまい。

 すると、「のぞみ210号」で到着した車両は大井の車両基地に取り込み、別の車両を大井の車両基地から出してきて18番線に据え付けるのではないかと推測できる。

 次の博多行き「のぞみ29号」は、同じ18番線を11時30分に発車する。同じ要領で上り列車を調べると、「のぞみ80号」が11時15分に同じ18番線に到着している。インターバルが15分ならホーム上折り返しではないか、と推測できる。

 つまり「一般的なホーム上折り返しのインターバルに見合う時間だけ前に、同じホームに到着する上り列車がいるかどうか」を調べるわけだ。ここでは東海道新幹線を引き合いに出したが、ほかの新幹線も同じ要領である。

終端駅では車両基地への取り込みが多い

 ところが、これは東京駅の話。反対方向の終端駅、つまり博多、金沢、敦賀、新潟、新函館北斗あたりになると、到着した列車をいったん車両基地に取り込む場面が多くなる。

 ちなみに、九州新幹線や西九州新幹線では車両基地が中間の駅にしかないので、途中駅止まりの列車を設定したり、回送列車を設定したりしている。

芸備線の矢賀駅近くにある、博多総合車両所・広島支所。山陽新幹線を支えている、3か所ある車両基地の1つ
東海道新幹線の東京駅で。夜も遅い時間になると、到着した列車はみんな車両基地への回送になる
新函館北斗駅から、駅の南東方にある車両基地に回送されるE5系

 終端駅で、車両基地への取り込みが多くなるのは、主として以下のような事情による。

・ホーム上折り返しを繰り返していると、汚物処理装置の抜き取りができないだけでなく、上水タンクも空になってしまう。
・車両は適切な間隔で検査に入れなければならない。
・ダイヤ乱れが発生したときに、折り返し列車に遅延が波及しやすい。

 ホーム上折り返しでは、到着列車が遅れると、それの折り返し列車も道連れになって遅延してしまう。到着列車の車両を入庫させて、入れ替わりに別の車両を出庫させる運用なら、そこで遅延を食い止めることができる。

在来線特急は?

 なお、ここまで書いてきたのは新幹線の話だが、在来線や民鉄の有料特急でも事情は似ている。ただし、新幹線みたいに終端駅に車両基地があるとは限らないので、どこで車両基地からの出入庫を行なうか、どこでホーム上折り返しを行なうか、のバリエーションは増える傾向があるようだ。ときには、始発駅の近くにある車両基地を利用していることもある。

 なんにしても、快適・清潔な車両を利用できるのは、車内整備の仕事があるからだ。やや地味ながら、欠かせない仕事の1つである。