荒木麻美のパリ生活
フランス最大の現代日本映画祭「KINOTAYO」開催。秀作揃いのなか、最高賞は……?
2023年1月21日 08:00
2022年12月、フランス最大の日本映画祭「KINOTAYO」(キノタヨ)映画祭が開催されました。KINOTAYOはフランスで現代日本映画を普及することを目的に2006年に始まり、今回で16回目となります。メイン会場はエッフェル塔近くにあるパリ日本文化会館です。
私はこの映画祭を毎年とても楽しみにしています。自宅にいながらオンラインで多くの邦画を見られる時代ですが、映画館で見ることの喜びにはかないません。残念ながらすべてを見ることはできませんでしたが、オープニングとクロージング作品、制作陣が会場に来ている作品を中心に見てきました。
映画祭で上映される作品は、制作から18か月以内の新作またはフランス初上映の作品を中心に選ばれます。今回のコンペティション部門には7作品、オープニングとクロージング作品に1作ずつ、それから想田和弘監督のドキュメンタリー7作品が上映されました。
想田和弘監督はKINOTAYOとの関係が深く、今回は「知られざる日本」というテーマのもと、特集が組まれました。会場には監督とプロデューサーが来場し、あいさつ、質疑応答のほか、特別講義もありました。
想田監督の作品は事前の打ち合わせや台本なし、ナレーションもテロップも音楽も使わない、ただただ対象を「観察する」という手法のドキュメンタリーです。作り手側から「情報を与えられる」ことに慣れ過ぎている私は最初とまどうのですが、背筋が伸びるような気持ちで集中して映画を見ていると、次第に監督の目線と一体化していくような感覚があり、再見したものも含め、どの作品も心に深く残りました。
特に「精神」とその続編の「精神0」は、今回一番印象に残った作品です。この2作品を合わせて見て強く思ったのは、シンプルに「人はただ生きているだけですごい」ということ。そして現代の精神医療システムの課題と、それを補うために人々がつながることの大切さでした。
一般的な日本のイメージとはまったく違うであろう想田監督の目を通した日本の姿は、フランス人にはどう映るのだろうと思いながらも見ていましたが、制作陣との質疑応答を聞いていると、昔見て印象深かったのでまた見に来たという人、感想だけにとどまらず、撮影手法に関する質問をする人も多く、コアなファンが多いと感じました。想田監督の最新作「精神0」は、1月4日からフランスで公開中です。
中野量太監督の「浅田家!」は、ユニークな家族写真で注目された写真家、浅田政志氏の実話がベース。シリアスな場面では涙する人の姿もちらほらと。でも最後のシーンで会場大爆笑! 制作陣との質疑応答では、この映画を見て家族の写真を撮った、スマホで十分だからカメラを売ろうと思っていたけどやめた、といった感想もありました。「家族」というテーマは国を問わず人の心を引きつけるのでしょうね。
12日間にわたって開催された映画祭でしたが、今回の受賞作品は以下のとおりです。
第16回KINOTAYO
ソレイユ・ドール(金の太陽): 「浅田家!」中野量太監督
グランプリ: 「スープとイデオロギー」ヤン・ヨンヒ監督
審査員賞: 「とら男」村山和也監督
映画祭の最高賞であるソレイユ・ドールは観客に一番愛された作品ということです(「KINOTAYO」はソレイユ・ドール=金の太陽から来ています)。発表されたときは会場からワーッという歓声が上がりました。「浅田家!」は1月25日からフランスでの公開が予定されています。
受賞作品発表後は、関係者たちが舞台上で記念撮影。和気あいあいとした雰囲気のなかで映画祭は閉幕しました。
閉幕後は寿司やドリンク各種が来場者全員に振る舞われ、映画祭の興奮を皆で分かち合いました。私が話し込んだフランス人の女性映画ジャーナリストは日本映画に造詣が深く、日本映画についていろいろ教えてもらうことに。ちなみに彼女が今一番見たい作品は、新海誠監督の「すずめの戸締まり」とのこと。日本アニメの人気は強い!