荒木麻美のパリ生活
パリの都市農園 エコロジー政策を意欲的に進めるパリの緑地化計画
2021年2月20日 08:00
2020年、余裕の再選を果たしたアンヌ・イダルゴ市長。前の任期中からパリ市の緑地化をどんどん進めており、殺伐としていた私の家の最寄り駅高架橋下にも畑ができました。
そんな緑地化が進むパリ市内にできた「都市農園」から、2か所をご紹介したいと思います。
広大な敷地でマイクログリーンを生産
パリ20区に「マイクログリーン」の製造販売所があるというので訪ねてみました。パリ市内に6000m 2 という敷地が広がっていて驚きです!
1460m 2 の温室の中に入ると、働いていた人の1人が「説明をしましょうか?」とすぐに声をかけてくれました。
その説明によると、マイクログリーンとは、土に植えて発芽してから10日から1か月以内に収穫する葉物野菜のこと。冷蔵庫で1週間から10日間保存可能。似たものとして「スプラウト」があるのですが、スプラウトは水耕栽培で、発芽して数日で食べます。
スプラウトに比べてマイクログリーンのほうが風味豊かで、栄養価も高いそうです。実際の栄養価は研究報告が各種あってよく分かりませんでしたが、家で育てているスプラウトに比べると、マイクログリーンの味が濃いのは確か! ビーツ、白菜、ラディッシュ、マスタードなど、あれもこれもと味見をさせてもらいましたが、小さくてもその野菜の味がしっかりとあり、すっかり気に入ってしまいました。
マイクログリーンは2000年代はじめにカナダで始まり、アメリカで広まりました。アメリカでこれを見たフランス人が「Paysan Urbain (都会の農民の意)」というアソシエーションを作り、2016年にパリ郊外にあるロマンヴィルでマイクログリーンの栽培を始めました。2018年からは、マルセイユにも活動の幅を広げています。
その後、パリ市から声がかかったのをきっかけに、2020年春にロマンヴィルからパリ市内に活動の拠点を移しました。2021年には温室の外の広い敷地で、ハーブ栽培や鶏の飼育も計画しているそうです。
パリのPaysan Urbainの従業員は、パリ在住であること、仕事がなかった人、シングルマザーといった人たちです。今回説明をしてくれた人も「採用後に研修を受けるまで、ここでの仕事に関することは何も知らなかったんですよ」とのことでした。
マイクログリーンの種や土はすべてBIO(オーガニック)ですが地面に直接植えず、プランターで育てているため、オーガニック製品扱いにできないとのこと。そのためオーガニックショップでは販売できませんが、見た目も美しいのでレストランからの注文が多く、経営は順調でした。でも新型コロナウイルス感染症のためにレストランが閉鎖されてからは、レストランからの注文が激減。今はここに直接買いに来る人と、「La Ruche qui dit Oui !」という、地産食品支援販売サイトを通じて販売しているそうですが、「在庫が多めなのでたくさん買っていってね!」とのことなので、喜んで4パックを購入。どんな料理にも合わせやすいのであっという間に食べてしまいました。
住居とレストラン・バーに囲まれた都市農園
もう一つの都市農場は、パリ19区「La ferme du Rail(線路の農場の意)」というところにあります。2019年暮れに完成式典が行なわれたLa ferme du Railの敷地内には、社会復帰を目指す人向けの部屋が15室、学生向けの部屋が5室ある建物と、レストラン・バー「Le passage à niveau(踏切の意)」、そして持続可能農業を目指した畑があります。畑は建物に住む、社会復帰を目指す人が世話をしています。近々養鶏と養蜂も始まる予定です。
レストランは新型コロナ対策のためテイクアウトのみでしたが、前菜+メイン+デザートで12.50ユーロ(約1587円、1ユーロ約127円換算)。畑で育った作物も含め、できるだけ質のよい素材を使っており、すべての料理はレストラン内で作られています。ベジタリアンメニューもあり、どれもかなりのボリューム、何より美味しいので大満足でした!
残念なことに、人の多い運河や大きな道路に面していないこと、ずっとテイクアウトだけの営業のために、売り上げはかなり厳しいそうです。もっと陽気がよくなるころには敷地内で食べられるようになっているといいのですが。そのときはのんびり日向ぼっこをしに必ずまた来ます!
今回ご紹介したところ以外にも、パリ市の緑地化はいろいろなところで進んでいます。ただメンテナンスが十分でないところも多く、「パリの町がきれいになったなぁ!」と私はあまり思いません。でも2024年にはオリンピック・パラリンピックも予定されていますし、今は過渡期なのかもしれません。今後4年でパリがさらにどう変わっていくのか、引き続き注目です。