旅レポ

ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館でオーストラリアのアート鑑賞。アボリジナルアート&日本とつながる作品も

ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館を見学

 オーストラリア政府観光局によるプレスツアーに参加してきた。

 シドニー・オペラハウスで見学とランチを満喫した後は、「Art Gallery of New South Wales(ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館」を訪れた。本館・新館とも非常に大規模で、両方をすべて鑑賞して回るには丸1日かかりそうな広さなのだが、一部の特別展示を除いて入場料は無料となっている。

オーストラリアと先住民の歴史を感じる本館

 本館は神殿のような外観で、内部も厳かな雰囲気だ。中に入ると、アボリジナルの人々によるアートが出迎えてくれる。

 同ギャラリーは、1871年に美術アカデミーとして設立された。オーストラリアや世界各国から集められた美術品に加え、先住民によるアート作品が収蔵されている。2022年12月には、本館の北側に新館もオープン。本館も展示替えが行なわれ、新しい時代が始まるところなのだという。歴史あるコレクションとともに、現代美術や先住民による作品がかけられており、対比を感じられるようなキュレーションが魅力だ。

先住民によるアート作品が出迎えてくれる

 ヨーロッパで誕生した印象派だが、オーストラリアの画家たちがイギリスに渡って勉強したり、イギリスの画家がオーストラリアに根付くようになったりしたことで、オーストラリアに印象派の影響が及んでいく。この影響を受けたメルボルン郊外のハイデルベルグにアーティストたちが集い、「ハイデルベルグ派」となっていった。

 ハイデルベルグ派を語る上で欠かせないのが、チャールズ・コンダーと「9 by 5 Impression Exhibition」だろう。チャールズ・コンダーは、現在もシドニーの海の玄関口にあたるサーキュラー・キーから船が出る様子を描いた「オリエント号の出航、サーキュラー・キー」がアート・エキシビジョンに入れられたことをきっかけにハイデルベルグを訪れ、ハイデルベルグ派に参加した。雨が降っている様子を描いているが、この表現は西洋画には少なく、ジャポニズムとして解釈できる。雨の表現に加え、そのころ誕生した写真技術を彷彿させる大胆な構図だったこともあり、新しいと絶賛された。

オリエント号の出航、サーキュラー・キー

 展示室を少し進むと、小さい絵が集まって展示されている。ハイデルベルグ派が開催した「9 by 5 Impression Exhibition」は、オーストラリアで行なわれたものとして他に類を見ないほどの商業的な成功を収めたエキシビジョンである。元々、9インチ×5インチの小さな絵は、大きな絵を描く際の下絵として描かれることが多かった。しかしながらハイデルベルグ派は、小さいからこそその瞬間の光と影を描き切ることができ、これこそが印象派の極意であると考え、9×5インチのさまざまな絵を出展したという。これは葉巻の箱と同じサイズで、小さいことから値段も手頃だった。エキシビジョンに出展した絵はすべて売れたそうだ。

9インチ×5インチの小さな絵

 同ギャラリーでは、オーストラリアが日本のアーティストに影響を与えた面もみることができる。鋳金工芸家の和泉整乗によるカンガルーをモチーフとした作品は、パリ万博をはじめとするさまざまな博覧会に出展していた時期に、シドニーの博覧会にインスパイアされて作ったのではないかと言われている。

 オーストラリアの造形作家であるイヴォンヌ・クールマトリーの現代アートからは、オーストラリアの先住民の文化と歴史からクールマトリーが感じた美意識を見出すことができるだろう。クールマトリーは、先祖から伝わる実用的なものをアートに変える「History into Art」を目指し、アボリジナルの人々がうなぎを取るために使っていたイール・トラップに着目した。

和泉整乗によるカンガルー
イヴォンヌ・クールマトリーによるイール・トラップをモチーフとした作品

 オーストラリアの自然や環境破壊をテーマにキュレーションされた展示室もある。オーストラリアの歴史においても、ゴールドラッシュは重要な出来事として語り継がれている。展示室には、ゴールドラッシュをモチーフにした数々の作品が展示されていた。

 世界中から人がやってきて金を求めた当時、実際に起きた「ユリーカ砦の反乱」を思わせるアートがある。労働者たちの不満が高まっていたタイミングで鉱夫の遺体が見つかり、逮捕された仲間の鉱夫の無実を訴える暴動が起きた事件で、オーストラリアで労働者や組合の力が高まる契機となった重要なエピソードだ。暴動が見過ごされることなくイギリスから役人がくるなど事件は大きな波となり、そこから労働環境が改善されて組合も認められるに至った。絵においても白いユニオンの旗が掲げられ、ミニチュアが集まったような可愛らしい雰囲気の作品に歴史的な意味が組み込まれていることがわかる。

「ユリーカ砦の反乱」を思わせるアート

 ゴールドラッシュを描いた作品としては、他にも1人の採鉱者を描いたものが展示されている。ジュリアン・アシュトンによる、金が取り尽くされたころのノスタルジーが感じられる作品だ。この作品については、シカゴ万博に芸術特派員として派遣された日本の久保田米僊がスケッチした帳面も残されている。

採鉱者を描いた作品
久保田米僊によるスケッチ

 イギリスからやってきた人々に対し、オーストラリア先住民が抱いていた感情が伝わってくるような作品にも目を惹かれた。ダニエル・ボイドはアボリジナルの現代アーティストで、肖像画家によるジョセフ・バンクスの肖像画をオマージュした作品は同ギャラリーでも一際インパクトがあった。

「Sir No Beard」

 ジョセフ・バンクスはイギリスからやってきた博物学者・植物学者で、ジェームズ・クックの第1回航海に同行し、多くの植物標本や写生画を持ち帰ったことで知られている。他方で、オーストラリアの先住民の目には、突然やってきた侵略者として映ったことだろう。徐々に進むイギリスによる植民地化に立ち向かった先住民の戦士の1人は、イギリスに対して苦戦を強いるほどの強さをみせたが、最終的に背後から殺害されてしまった。イギリス兵は彼の首をバンクスに届け、バンクスはそれをイギリスに持ち帰っている。

 ボイドの作品でバンクスが抱えている首はアボリジナルであるボイド自身のもので、大きな意味が込められていることがわかるだろう。ちなみに、タイトルの「Sir No Beard」は「あご髭のない指揮官」といった意味で、先住民の人々の反発する思いが感じられる。

開放的な新館で現代アートやアボリジナルアートに触れる

2022年12月にオープンしたばかりの新館

 続いて、2022年12月にオープンしたばかりの新館をみていこう。新館のオープンは「シドニー・モダン・プロジェクト」の一環で、本館のリニューアルや中庭の整備なども含む大きなプロジェクトとして進められている。

 ガラス張りと白を基調とした開放的なデザインの新館は、地上から滑らかに下っていくような形状に設計されている。もともとこの土地には、入植の際に築かれたオイルタンクや高速道路など、近代化を象徴する遺構が眠っていた。傾斜があり、非常に建物を建てにくい土地だったのだという。旧オイルタンクをそのまま用いた地下展示室にはオイルの匂いが微かに残り、他方でオイルタンクより上階の展示室は海とつながって見えるほどひらけている。オペラハウスでも感じたように、アートを魅せるためのアートとして建築物を組み立てる感覚が表現されているように思う。

オイルタンクをそのまま用いた地下展示室

先住民たちの作品を展示するイリバナ・ギャラリーには、ロレイン・コネリー・ノーティーによる作品が一面に展示されている壁がある。廃材をそのまま手を加えずに用いた「narrbong-galang(many bags)」だ。

先住民たちの作品を展示するイリバナ・ギャラリー

 また新館では、体験型のインスタレーション「Archive of Mind」も印象的だ。広い部屋のなかで3色の粘土から好きなものを選び、手のひらで丸めていく。丸めたボールを大きなテーブルに置けば完成だ。一面の窓ガラスから景色を眺めながら粘土を転がしていると、徐々に心が落ち着いてくるような感覚が味わえる。

「Archive of Mind」

 スイスのウーゴ・ロンディノーネによる「clockwork for oracles」は、カラフルな窓が51枚集った作品となっている(スペースの都合上、実際に展示されているのは49枚)。カラフルだが明度の低い色合いのそれぞれの窓が鏡になっており、内省を促されるようだ。51という枚数は1年間に訪れる週の数にちなんでおり、またよく見ると壁は新聞紙で覆われているなど、「死と有限性」をテーマにしているという。いつ終わるかわからない人生の儚さを思い出させられる。

「clockwork for oracles」
よく見ると壁は新聞紙で覆われている
1年間に訪れる51週分の窓によって自分自身と向き合う

 なおこちらには、日本の現代アーティストの作品として、村上隆や草間彌生の作品も展示されている。

屋外には草間彌生の作品も
夕食は「Le Foote Restaurant」にて地中海グリル料理を堪能
編集部:大竹菜々子