旅レポ

チェコ最大のスパタウンで、スター御用達の名門ホテルに宿泊してみた。薬草リキュールやガラス工芸など素敵な伝統産業も

テプラー川沿いに華やかな館が立ち並ぶチェコ最大の温泉保養地「カルロヴィ・ヴァリ」へ

 チェコ政府観光局主催のプレスツアー最後の旅レポは、チェコ最大の温泉保養地「カルロヴィ・ヴァリ」をご紹介します。前回の記事(「チェコ・西ボヘミアの温泉保養地を探訪。ミネラル豊富な鉱泉スパで、古来から続く“ヘルスツーリズム”を体感しました」)で取り上げた「マリアーンスケー・ラーズニェ」と同様に、19世紀後半に築かれたパステルカラーの建物が立ち並ぶとっても美しい街でした。

テプラー川沿いに華やかな館がずらり! チェコ最大のスパタウン「カルロヴィ・ヴァリ」

 カルロヴィ・ヴァリは首都プラハから西に約130km、クルマで1時間50分程で到着します。おおよそ新宿〜甲府くらいの距離ですね。バスや鉄道も利用できますが、電車の場合は3時間以上かかるようです。

 チェコ語で「カレルの源泉」という意味を持つこの街は、さかのぼること14世紀、神聖ローマ帝国の皇帝カレル4世が鹿狩りをしていた際に温泉を見つけたという伝説からこの名が付いたといわれています。日本だと「鹿の湯」なんて名前が付けられそう。

のんびり散策するのが楽しい街
湧き出る温泉水が飲める「コロナーダ」。人々はマイ飲泉カップを持っています
街なかに12か所もある源泉。カルロヴィ・ヴァリの温泉は消化器系疾患や糖尿病などに効果があります
飲泉カップを売る屋台がたくさん
温泉スイーツ「スパワッフル」も種類いろいろ

 19世紀になるとカルロヴィ・ヴァリにはヨーロッパ各国からたくさんの貴族や著名人が保養に訪れるようになります。ゲーテやベートーベン、ショパンにモーツアルトなど、ざっと挙げただけでもそうそうたるメンバー! でもこれだけ美しい街なら納得、皆さんここで英気を養っていったのですわね〜と思いながら街を歩きました。

テプラー川沿いに立ち並ぶホテルやレストラン。うっとりするほど美しい建物ばかり

 近年は、チェコ最大の映画イベント「カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭」が開催されるため、世界各国から多くの映画スターがこの街にやってきます。2022年は7月1日〜9日に行なわれ、日本映画としては10年ぶりにメインコンペティション部門で工藤将亮監督の「遠いところ」が選出されているそうですよ。

神殿のような回廊のあるコロナーダ
レースのような可愛らしい装飾が目を引きます
12mの高さまで温泉水が噴出するヴジードロ間欠泉

 そんな温泉保養地カルロヴィ・ヴァリでは、プレスツアー期間中にチェコ政府観光局主催のB2B商談会「Travel trade Day 2022」が開催され、日本からは旅行会社1社が参加しました。会場となったのは今回私が宿泊したホテルのイベントホールなのですが、実はそのホテル、ある映画の舞台となった場所だったのです。

5月22日~23日に開催された現地サプライヤーとのB2B商談会

007がポーカーをしにやってきたホテル「グランドホテル・プップ」

 さて、いよいよカルロヴィ・ヴァリで2泊したホテルをご紹介しましょう。ここからは若干、鼻息荒くなるかもしれませんがご了承くださいませ。

 私はプレスツアーなどで訪れる際、ホテルに関してはあまり事前情報を入れないで泊まるようにしているのですが、この「グランドホテル・プップ」は現地に到着して何かを調べようとスマホでホテル名を打ち込むと、Googleの予測変換で「007」と出てきました。んん? 何か関係しているですの???

堂々たる佇まいの老舗高級スパホテル「グランドホテル・プップ」
正面玄関前のスペースには昼間カフェが営業します
名門ホテルの割りにはかなり控えめなエントランス

 調べてみると、なななんと! 2006年の大ヒット映画「007/カジノ・ロワイヤル」の撮影で使われたホテルらしいのです。作中の舞台設定はモンテネグロでしたが、ここチェコのカルロヴィ・ヴァリがロケ地。ってもしかして、ボンドがポーカーするために訪れたあのホテル?! キャー!! ……と、滞在中はずっと「ダニエル・クレイグもここを歩いたかも」とか、「このフロントも作中で使われていたっけ?」とか、「殺し合いしたシーンの階段もどこかにあるのかな?」などと映画のことで頭がいっぱい。こんなことなら、来る前にもう1度観てくればよかったですわ〜。

おしゃれな看板。プップ、プップと連続ですみません
メインビルディング(リバーサイド)のフロント

 ちなみに本稿を書きながら気づいたのですが、チェコ政府観光局のサイトではちゃんと「ジェームズ・ボンドやその他多くの著名人が訪れるレストランで……」とホテル紹介されているのでした。旅する前に、ある程度の予習は必要なのであります(反省)。

フロントの奥にあるロビーバーの壁にはハリウッドスターの写真が。1番手前はモーガン・フリーマン。ここは朝食会場にもなっています
こちらはパークサイドのフロントとホール

 約320年前に建てられた小さなホールが、3世紀にわたる歴史のはじまりといわれるグランドホテル・プップ。1778年にプップ家が買い取ったあとは各国からのセレブリティが滞在する迎賓館として使われ、19世紀末には本格的にホテルとして創業を開始したのだとか。建物はリバーサイド(111室)とパークサイド(117室)の2つからなっていて、インペリアルスイートやプレジデンシャルスイートがあるのはリバーサイドのほう。ボンドが泊まったは間違いなくこちらですの。

私が泊まったお部屋はボンド側ではなく、パークサイドのフォレストビュー。ツインルームで広さは23m2
1877年に建てられたというパークサイド。古さが若干感じられましたが、長い歴史もしっかりと感じられるお部屋でした
冷蔵庫のなかはミニバーになっています
バスルームは大きなバスタブ付き。ホテルのロゴマークが刺繍されたバスマットが素敵
ホテル内のスパへ行くとき用のかごバッグ
バスローブ姿のゲストがうろうろしているのはスパ・ホテルならでは

 リラクゼーションプールをはじめ、スチームバスにフィンランド式サウナなど温泉スパ施設も充実しているグランドホテル・プップ。現在のスパ施設は2013年に完成したのですが、なんでもホテル創業者プップ氏の奥さんが作成した“リラックスできるお風呂のレシピ文書”なるものが建設工事中に発見されたのだとか。このおかげでゲストは今でも200年以上前のハーブトリートメントを楽しむことができるのだそうですよ。

超名門ホテルのスパ・プール、もちろん入ってきました! 宿泊者は無料です

 最後に、ジェームズ・ボンドの残り香をちょっとでも感じていただこうと(匂いませんでしたが)、撮ってきた写真を何枚かご紹介します。まずはポーカーで勝利したボンドがヴェスパーと祝杯をあげた場所。朝食会場の奥にあるグランドレストランです。

2日目の朝食はリバーサイド側の会場へ
この扉の奥がグランドレストラン
奥の席にこっち側を向いてボンドが座っているシーンがありました
カフェのある入り口前の広場には有名人の名前が刻まれたプレートが。ベートーヴェン!
有名なハリウッドスターの名前もたくさん
ようやく見つけたダニエル・クレイグのプレート。なぜかここだけクルマが停まっていてタイヤがじゃま

 パークサイド前のこの駐車場は、ボンドカーが停まっていた駐車場に間違いありません。毒入りのカクテルを飲んでしまって、死にそうなボンドがここにフラフラと歩いてくるシーンがありました。

作中では左の建物がしっかり映っています

カルロヴィ・ヴァリの13番目の源泉?! 薬草リキュール「ベヘロフカ」

 カルロヴィ・ヴァリには「ベヘロフカ」というハーブリキュールがあります。化学保存料や人工着色料などを使わず、薬草とカルロヴィ・ヴァリの温泉水のみで作られる蒸留酒です。チェコの定番みやげにもなっているベヘロフカについて知りたければ、ぜひ「ヤン・べヘル博物館」へ。使われているハーブやスパイスを間近で観て匂いを嗅いだりできるガイドツアーを開催しています。もちろん試飲タイムも!

ベヘロフカの巨大モニュメント

 ベヘロフカの飲み方は、トニックウォーターで割ったり、ロックにしたり、お湯で割ってホットで飲んだりといろいろ。アルコール度数が38%と高いゆえ冷凍庫に入れても凍らないと聞いて、私も買ってきたものを冷凍庫に入れています。キ〜ンと冷やしたベヘロフカは夏によさそうなので、炭酸で割って飲もうかな〜。

秘伝のレシピで造られているというベヘロフカは種類もいろいろ

老舗ガラスメーカー「モーゼル」のガラス工場へ

 ガラス加工はチェコの伝統産業の1つ。アンティークマーケットなどで可愛らしいチェコのガラスボタンを目にしたことがあるという人もいるかもしれませんね。今回はカルロヴィ・ヴァリにあるボヘミアンガラスの老舗「モーゼル社 ガラス・ミュージアム」を訪ねました。1つ1つハンドメイドで作られるモーゼルのガラス製品と工場を見学したあとは、お財布と相談しながらショッピングも楽しめます。

モーゼルのガラス工場を見学しました
熱い窯の前で作業する職人さん
いつか欲しいモーゼルガラス

拷問部屋にビビりまくった、中世の刑務所が遺る「ロケト城」

 カルロヴィ・ヴァリから西へ約7kmほどの場所に、とっても絵になる古城「ロケト城」があります。ロケト(Loket)とはチェコ語で「肘」の意味で、ちょうどこの場所でオフジェ川が曲げた肘のように弧を描いて流れていることから名付けられています。

ドイツ~チェコを結ぶ「古城街道」の城の1つロケト城
城を空から見た図。川が堀の役割をしているのが分かりますね
オフジェ川を流れる花崗岩の山塊の上にそびえ立つロケト城
石畳の緩やかな坂を上がっていくと城の真ん中の広場があります

 800年以上の歴史を持つとされるロケト城は、ドイツ国境と近いことから要塞として作られました。1822年~1948年の126年間は、市の刑務所として利用されていたそうで、今でも薄暗い地下牢が遺っています。現在は音楽や演劇などのイベントに使えるホールや旧市立博物館のコレクション展示、武器博物館などの役割もあって、なかなか見応えのあるお城でした。

高さ26mのロマネスク様式の塔には上ることができます
塔のてっぺんからの景色
駐車場から歩いて渡ってきた橋
可愛らしいロケトの街
何に使われたものかよくわかりませんが可愛かったので
「ロード・オブ・ザ・リング」とか「グラディエーター」に出てくるような武器の常設展示も

 刑務所だったお城ということで、リアルな拷問シーンを等身大の人形で再現した部屋がいくつかあって、そこはかなり不気味です。囚人の叫び声の演出があったりするので、ほぼお化け屋敷! ちびっ子は間違いなく怖くて泣いちゃう場所です。

恐ろしい拷問部屋その1。音だけかと思ったら右のじいさんの首がいきなり動いてビビりました
拷問部屋その2。こちらは大量の水を飲ませているのでしょうか。恐ろしい恐ろしい

 お城の周りにあるロケトの街、実はここも「007/カジノ・ロワイヤル」のロケ地なのです!“モンテネグロ”に到着したボンドとヴェスパーが、任務に協力するマティスと初めて出会うシーンがここで撮影されています。劇中では、この写真の中央にオープンカフェが作られていて、そこで3人がおしゃべりするシーンがありました(感激)。一瞬だけですが空撮シーンもあるので、緑に囲まれた美しい街の様子がわかります。

帰国後に映画を観返して建物を見比べましたが、ほぼ変わっていなくてまた感動

カルロヴィ・ヴァリの五つ星スパリゾートホテル、サヴォイ ウエストエンド ホテル

 カルロヴィ・ヴァリには魅力的なスパホテルがたくさんあります。「グランドホテル・プップ」からゆっくり歩いて15分ほどのところにあるのが「サヴォイ ウエストエンド ホテル」。循環器系、婦人科、糖尿病学などに力を入れた医療サービスや、マッサージなどのリラックストリートメントなど幅広い体制で世界中からのゲストを迎えています。

 主要なマーケットはやはり高齢者とのことですが、仕事をリタイヤした外国人も近年増えているそう。“チェコに温泉保養に行く”というヘルスツーリズムが日本でトレンドになる日も近い!?

ドクターがいるのでしっかりしたメディカルプログラムを組んでもらえます
さまざまなスパ&ウェルネス施設が充実

 5つの建物からなる「サヴォイ ウエストエンド ホテル」には、長期滞在用のアパートメントタイプのアコモデーションも。サボイレストランでランチをいただいたのですが食事もとても美味しかったです。

総客室140室。こちらはスタンダードルーム

世界で最初のラドン温泉の街「ヤーヒモフ」を訪ねて

 カルロヴィ・ヴァリから北へ20kmほどの場所に、世界初のラドン温泉として知られる「ヤーヒモフ」という小さな街があります。高ラドン濃度の温泉水で有名で、ここから湧き出る放射能泉は神経的な歩行機能や骨粗しょう症などに効果があるのだそう。かつてはヨハン・シュトラウスやキュリー夫人などがこの地を訪れています。ヤーヒモフの温泉街のなかでも1番有名なホテル「HOTEL RADIUM PALACE」に立ち寄りました。

総客室140室。こちらはスタンダードルーム
マリアーンスケー・ラーズニェ、カルロヴィ・ヴァリ、ヤーヒモフと3か所のスパタウンを訪れて、このようなスパホテルをたくさん見学したプレスツアーでした

 チェコ政府観光局のサイトによると「長く波乱に満ちた歴史を持つ町」だというヤーヒモフ。16世紀初頭に銀が採掘されて「ヨアヒムスターラー」という硬貨が造られますが、それが現在のドル(ダラー)の語源となっています。ってそれ、よく考えたらすごい!

20世紀に政治犯などが送られた強制収容所ではウラン採掘が行なわれていたそう。小さな街の博物館なのですが、歴史的情報量がすごい場所でした

 博物館のほど近く、ヤーヒモフ市庁舎1階にある「ラテン語学校図書館」にも立ち寄りました。銀の発見で突然人口が増えたこの街は、人々のために高度な教育が必要となりラテン語学校が建てられたのだそう。ここでは、その学校の図書館に置かれていた当時の本を展示しています。

図書館の1番の宝はプトレマイオスの「コスモグラフィア」(地球画)とのこと。15世紀に活版印刷術を用いて印刷されたインキュナブラです

 ほどよい大きさの規模の街のなかに歴史や芸術、文化が凝縮していたプラハ。西ボヘミア地方の温泉保養地であるカルロヴィ・ヴァリとマリアーンスケー・ラーズニェの3都市を巡ったプレスツアー。また“ヨーロッパのハート”に位置するチェコに行く機会があるのなら、次回は10日間ほどスパタウンに滞在して、チェコ流の温泉保養をたっぷり楽しんでみたいなぁと思っています。

ゆきぴゅー

長野生まれの長野育ち。2001年に上京し、デジカメライター兼カメラマンのお弟子さんとして怒涛の日々を送るかたわら、絵日記でポンチ絵を描き始める。独立後はイラストレーターとライターを足して2で割った“イラストライター”として、雑誌やWeb連載のほか、企業広告などのイメージキャラクター制作なども手がける。