旅レポ

チェコ・西ボヘミアの温泉保養地を探訪。ミネラル豊富な鉱泉スパで、古来から続く“ヘルスツーリズム”を体感しました

マリアーンスケー・ラーズニェはヨーロッパでも有数の温泉保養地として知られています

 チェコ政府観光局主催のプレスツアー3回目の旅レポは、首都プラハから西へ約170km、ドイツ国境近くの温泉保養地「マリアーンスケー・ラーズニェ」をご紹介します。今回はバスで移動したのですが、所要時間は2時間ほど。東京IC~焼津ICくらいの距離感です。

 日本人には発音しにくい地名ですが、“マリアの温泉”という意味があるのだとか。今回は宿泊したホテルでヨーロッパ式のスパ体験をしてきました! さらに、ちょっと足をのばして訪れたお城などもご紹介していきます。

スパワッフルを食べ歩きながらマリアーンスケー・ラーズニェを散策

 国内のみならず世界的に有名な温泉保養地であるここは、カルロヴィ・ヴァリ、フランチシュコヴィ・ラーズニェと地図上で結んで、西ボヘミア地方の「温泉三角地帯」といわれています。日本人が“温泉保養地”という言葉から連想するイメージとはほど遠く、淡いクリーム色の建物が並ぶ光景はまるでディズニー映画のようでした。

街の中心部にあるコロナーダでは湧き出る源泉を飲むことができます。手前はいつも人が集まっている「歌う噴水」
「これは宮殿?!」と思ってしまうような素敵な装飾の建物がたくさん。ほとんどが保養客のためのホテルです

 街なかには湧き出る源泉を飲むことができる「コロナーダ」と呼ばれる飲泉所があり、そこに集まる人々は皆、「飲泉カップ」を手にしています。そう、飲む温泉です! とはいえ飲めば飲むほどカラダにいいというものではなく(というか不味くてそんなに飲めない)、しっかりした療養目的のためにこの街を訪れる人たちは、まずドクターの診察を受けて、どの源泉をいつどのくらい飲むべきか指示をもらうのだそう。ヨーロッパの温泉はメディカル的な要素が強いですね。

装飾が施されたコロナーダの回廊。ここにはカフェや売店、ちょっとしたコンサートができるステージも
100種類の鉱泉があるというマリアーンスケー・ラーズニェ。カルシウムや鉄、マグネシウムなどそれぞれ含有物が異なっていて、胃や腸、肝臓など消化器系によいのだとか。コロナーダでは味(効能?)の違う源泉が出てくる蛇口が並んでいました
鉄っぽくて、少し炭酸が感じられて、ちょっと酸っぱくて苦い味。はっきり言って美味しくないのであります(レフ丸くんもそう言っていました)

 硫黄成分などが含まれているため、口に含んだ瞬間顔をしかめてしまった源泉ですが、チェコの温泉保養地にはお口直しにぴったりのスイーツ「スパワッフル」があります! バニラクリームやチョコレートクリームを薄いウエハースに似た生地で挟んであるおせんべいのようなもので、鉱泉の水を使って作られているそうですよ。日本でいう鉱泉煎餅ですね。

こちらは有名なスパワッフル屋さん。箱でも売っていますが1枚から買えるので食べ歩きにオススメ
軽い食感のスパワッフル。ほんのり甘くて美味しいですわ〜
ゲーテにショパン、カフカ、シュトラウスなども保養に訪れたというマリアーンスケー・ラーズニェ。緑が豊かで滞在しているだけでも健康になれちゃいそうな美しい街でした

1896創業の5つ星スパホテル「Ensana Health Spa Hotel」に泊まってみた

 マリアーンスケー・ラーズニェで2泊したのは「Ensana Health Spa Hotel」という歴史あるスパホテルです。ゲストの多くはメディカルヘルス・プログラムを目的とした温泉療養で、このホテルは特に筋骨格系障害や肝臓疾患、代謝障害、消化器系、呼吸器系の治癒にフォーカスしているとのこと。もちろん一般の観光客も泊まることができます。

ホテルの名物「ローマ風呂」。敷地内から湧き出す天然水のプールが2つあって、ここは水着で泳ぐことができます(宿泊者は無料)
写っている建物全部が同ホテル系列の施設。なんと建物すべてが全長約800mの地下通路でつながっているのですが、はっきりいって迷路のよう(笑)

 マッサージやミネラルバス、ハイドロセラピートリートメント、プール、サウナ、フィットネスと、さまざまなウェルネスプログラムが充実していて、専門的な医療指導を受けたあと2週間〜1か月ほど滞在するのが一般的とのこと。

迷路地下通路マップ。こんな通路をとおったり、たまに飲泉所があったり。ゲストはここをバスローブ姿で行き来します
昔イギリスの王様エドワード7世が訪れた際に特別に造られたトリートメントルーム「ロイヤルキャビン」も。内部の装飾がとにかくすごい!

ピチピチ弾ける炭酸泉のミネラルバスでスパ体験

 2泊するからには私も何かスパ体験をせねばということで、「Mineral bath with natural CO2」にトライしてみました。何をやるかというと、ぬるいお湯に20分浸かってその後20分ほどシーツと毛布に包まって休むだけ!(笑)ですが、これがなかなかよかったのです。

「Mineral bath with natural CO2」を体験。料金は660CZKなので日本円で3750円ほど

 スーパー銭湯好きなら「炭酸泉」をご存知の人も多いと思います。炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んだお湯で、静かに入っていると細かい泡が身体に付着し、体内にその炭酸成分が入ることによって血行促進などの効果が期待されるというもの。私が時々行くスーパー銭湯では「高濃度炭酸泉」なるものがあってお気に入りなのですが、今回やったスパ体験は、それのさらに上を行くものでした。そもそもスーパー銭湯は機械で人工的に炭酸ガスを発生させていますが、ここではそれが天然の炭酸泉なのですから!

このようなミネラルバスのスパができる個室が18室あります

 湯温は33〜34℃とかなり低めで、入った瞬間は(寒っ!)と思ったのですが、そのうち慣れてきました。足も伸ばせる大きさのバスタブだったのでリラックスして入っていると、泡がぷくぷくピチピチとおもしろいくらい発生して、スーパー銭湯の比ではありませんでした。

 もう全身、細かい泡だらけ。20分くらいしてセラピストさんが入ってきて「ベッドにどうぞ」と促され、濡れたまま(真っ裸で)仰向けになると、くるくるっとシーツをミイラみたいに巻かれ、その上から毛布をかけられ再び放置プレー。なんだか身体がポカポカしてきてきましたわ〜気持ちいいですわ〜(ウトウト……)となったころに、ドアがノックされ「はい終わりです。着替えてね」と言われて終了。身体が軽くなったというか、頭がスッキリしたというか、うまく表現できないのですが、とにかく身体によいと感じたのは確か。初めての感覚に包まれたスパ体験でした。

実家の昔のお風呂みたいなステンレスの湯船

「Ensana Health Spa Hotel」の客室は全97室。泊まったお部屋は「ダブルスーペリアデラックス」というカテゴリーだと思うのですが、広々としていて快適でした。1階だったのでテラスが広く、朝は鳥のさえずりで目覚めました。

クラッシックなインテリアでまとまっていました
バスルーム。バスタブはなくてシャワーブースのみ。トイレの横にビデ付きなのはさすが歴史のあるヨーロッパのホテル
BBQできそうな広いテラス付きのお部屋でした

 ホテル自慢のローマ風呂内のプールも体験したかったので、チェックアウト日に早起きして入ってきました。自家源泉のミネラルウォーターを使ったプールで泳ぐ機会なんてなかなかないですからね。併設のサウナに入ってととのったりも。短い時間でしたがヨーロッパの“ヘルスツーリズム”を体感できたマリアーンスケー・ラーズニェでの滞在でした。

敷地内の泉から湧き出る医療用天然水を使ったローマ風呂。大理石の柱に囲まれたプールで泳げたのはいい思い出

クラドスカー自然保護地区の遊歩道を散策して、絶品ローストダックを食べる

チェコ政府観光局の公式マスコット「レフ丸」くんとは、旅の仲間としてすっかり仲良しに

 マリアーンスケー・ラーズニェから北に8kmほどの高地に「クラドスカー自然保護地区」があります。このエリアにはいくつかの泥炭池が広がっていて、その泥炭(Peat)がガスを取り込み、長い年月をかけて地下水となり、マリアーンスケー・ラーズニェに運ばれているそうです。ヨーロッパ屈指の温泉保養地の源ともいえる場所で、軽めのハイキングを楽しみました。

マリアーンスケー・ラーズニェの温泉水(鉱泉)は、このクラドスカー自然保護地区から来ています

 遊歩道を小一時間歩いたあとは、ロッジ風のレストランでランチ。ここで食べた「ローストダック」が今回の旅のチェコ料理でした。ハーブで絶妙に味付けされたお肉はナイフでホロホロっと切れるほどやわらかくボリュームも満点。蒸しパンのような白いものは「クネドリーキ」というチェコの食事パンです。添えられた紫キャベツはドイツのザワークラウトと似ていますが、作り方も味付けも違うそう。ちなみにこの料理、320CZKなので約1840円! リーズナブルですよね。

狩猟ロッジ風の建物。1階がレストラン、2階はペンションになっています
ハイキングのあとなのでビールがおいしい
鹿の肉団子が入ったスープは85CZK
ローストダックに赤キャベツとホームメイドクネドリーキの盛り合わせ

ベチョフ・ナト・テプロウ城で、チェコで2番目に価値のある遺産を見学

 マリアーンスケー・ラーズニェから北東にクルマで30分ほど行った郊外にある「ベチョフ・ナト・テプロウ」というお城に立ち寄りました。チェコ国内には映えるお城がいくつもあるそうなので、ここもそのうちの1つなのかな〜なんて思いながらゆるい坂道を上って入り口へ。すると入場が異様に厳重でびっくり。セキュリティゲートと荷物チェックがあるのです。それもそのはず、このお城にはチェコで「ボヘミアの戴冠宝器」の次に価値があるとされる宝物が展示されているからです。

田舎の静かな村といった感じの場所にあるベチョフ・ナト・テプロウ
いくつか建物が寄せ集まっていますがメインのお城はこちらの茶色い建物
ベチョフ・ナト・テプロウの可愛らしいミニチュア模型
お城の入り口に出ていた屋台ではチーズやはちみつなどを売っていました
石畳の坂道を上りながら入り口へ

 その宝物というのが「聖マウルスの聖遺物箱」(って何!?となったのですが)。なんでも1985年にこのお城の礼拝堂の床下から見つかった洗礼者ヨハネ、聖マウルス、聖テモテ、聖アポリネールの遺骸や遺品が入っているとされる箱なのだそう。ここまで聞いてもまだピンときませんが、それがただの箱ではなく豪華なレリーフがいくつも施されて、たくさんの宝石や金細工で装飾された黄金箱とのこと。ようやくすごいモノっぽい感じがしてきましたね。

長らく行方不明だった「聖マウルスの聖遺物箱」は、この床下から見つかったそうです
ボランティアの人たち(?)が、発見時を再現した劇を披露してくれました

 展示室ではガラスケース越しに間近で見ることができたのですが、撮影禁止だったので展覧会のビジュアル写真をご覧ください。

中世の金細工が見事に施されたロマネスク様式の遺産「聖マウルスの聖遺物箱」。長さ140cm、高さ65cm、幅42cm

 13世紀にヨーロッパで作られた「聖マウルスの聖遺物箱」は、どうやら時代ごとに所有者が変わったようです。1838年にはアルフレッド公爵さんという人が購入、1851年にはさらに次の所有者が修理をしたことや、1888年にブリュッセルで展覧会のために貸与されたことが分かっています。

こんなすごい金細工が施されていましたよ、の説明図
聖遺物箱ってこういうものですよ、の説明図

 最後の所有者が1945年にチェコスロバキアを離れる際にこの場所に隠し、しばらく行方不明だった「聖マウルスの聖遺物箱」。見つけたのはチェコの犯罪学者とのこと。発見後は調査・修復のために一旦プラハに運ばれ、現在はこのベチョフ・ナト・テプロウで展示保管されています。箱に入っていた中身を動画で紹介していましたが、遺骨や鉛板、織物や革切れなど。歴史的、宗教的にも重要なものなのだと思いますが、ちょっと不気味に感じてしまったのでした。

展望台からの景色が素晴らしかったです
まるで絵本に出てきそうな風景
この辺りはサイクリストも多いようです
お城にはカフェもありました
エスプレッソでほっとひといき

 さて最終回となる次回は、ボヘミアの温泉三角地帯のなかでも最大の街「カルロヴィ・ヴァリ」をご紹介します。泊まったホテルが大好きな某映画のロケ地だったことが分かって大興奮でした。お楽しみに♪

ゆきぴゅー

長野生まれの長野育ち。2001年に上京し、デジカメライター兼カメラマンのお弟子さんとして怒涛の日々を送るかたわら、絵日記でポンチ絵を描き始める。独立後はイラストレーターとライターを足して2で割った“イラストライター”として、雑誌やWeb連載のほか、企業広告などのイメージキャラクター制作なども手がける。