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東京へ走る通勤電車、2か月も不通! ピンチの内房線を救った「鉄道代行バス」「高速バス」の奮闘を振り返る

姉ヶ崎駅代行バス乗り場で長蛇の列を作る人々

 朝ラッシュ時には15両編成の特別快速が通勤客を満載して東京方面へ走り、日本有数の京葉工業地帯への通勤客も他地域から入ってくる。高校に通学する生徒や南房総への観光客も入り乱れ、利用客はおおよそ1日5.3万人。

 まごうことなき幹線鉄道である「JR内房線」の一部区間(姉ヶ崎駅~木更津駅、16.2km)が土砂災害によって不通となったのは、2026年9月21日のこと。10月5日に長浦駅~木更津駅が部分復旧したのち、11月8日の昼ごろから不通区間が解消される見込みだ。

 列車が不通であった期間中は、クルマ移動に切り替えた人々も多く、並行道路は大渋滞。沿線の市原市・木更津市では、仕事や日常生活のスケジュールが組めず、生活が激変してしまったという。

 まず、被災当初は「復旧まで3か月」と言われていた復旧工事を迅速に進めた工事関係者ならびに、JR東日本の関係者各位に敬意を表したい。そのうえで、「首都圏通勤鉄道の長期不通」という未曽有の事態に対して、代行バス・高速バスはどのような動きを見せていたか、備忘録として改めて振り返ってみよう。首都圏でもこういった災害が起こり得るいま、現地で起こった事実は覚えておきたい。

代行バスの停留所看板

1日100台の鉄道代行バス、見事なオペレーション!

それぞれのバスには定員が明記されていた
姉ヶ崎駅での代行バス発車風景
長浦駅前のスポーツセンターが各社の待機場となった
姉ヶ崎駅での乗降風景
姉ヶ崎駅の改札も、ICカードを通さず通過する特別仕様に変更された

 内房線に乗り入れる15両編成(E235系1000番台)の列車の定員は、1編成当たりおおよそ1400人。50人乗りのバス28台分に相当する。

 10月5日の運行開始以降、代行バスは1日100台体制で姉ヶ崎駅~長浦駅間を結んだものの、鉄道の1~2割の輸送能力しか確保できていなかった。朝ラッシュ時には姉ヶ崎駅・長浦駅ともに100m以上のバス待ち行列が形成されたのも、やむを得ない話だろう。

 ただ、過去の災害時と比べても、今回の代行バスは工夫された見事なオペレーションであるように感じた。バスの先頭には定員数が張り出され、乗り場の担当者は数台のバスに乗客を分散させ、定員に達し次第すぐに出発させるという運用を取っていたため、準備が整ったバスは次々と発車していく。短距離の駅間(姉ヶ崎駅~長浦駅)を最大限のピッチでピストン輸送するという体制のおかげもあって、「待ち時間は10分~15分程度で済んだ」とは、実際に通勤された方の話だ。

 乗客が多過ぎて完全・完璧とは言い難かったが、各地の代行バスのなかでも見事にスムーズな部類であった。今後もこのシステムは参考にされるだろう。

関東自動車
群馬バス

 そして、代行バスを待つ人々の間で「普段乗車できない全国各地のバス」の話題もふんだんに上った。1日100台もの代行バスは千葉県だけでは調達できず、全国各地からバスが一斉に集結したのだ。ここに都営バスが走っているだけでも驚くのに、見たこともない「帝産観光バス」「西武バス」「茨城交通」「群馬バス」「関東自動車」「福島交通」など……。WILLER EXPRESSは成田空港へのシャトルバス車両を投入するなど、普段はまず隣に並ばないバス会社が、千葉県に集結したのだ。

 代行バスに協力してくれた各社に感謝の声も多く、乗降時に「ありがとうございます!」と声をかける人々も目立った。

緑色の社章を掲げたジェイ・アール北海道バス

 そのなかで、ひときわ目を引いていたのがジェイ・アール北海道バスの車両であろう。普段は札幌市内(琴似営業所)で走っている普通の路線バス車両が、1000km近く離れた札幌市からフェリーで本州に上陸、わざわざ千葉に駆け付けたのだ。

 同社だけでなくジェイアールバス関東(栃木県・佐野営業所)、西日本ジェイアールバス(石川県・金沢営業所)の姿も見られた。なおJRグループの各社は、2019年に広島県で運行された呉線代行バスなどにも駆け付けており、ジェイアールバス関東は自社の高速バス「マロニエ号」を減便してまで代行バスに振り向けている。

対アクアラインで鉄道は劣勢。それでもカバーできなかった「内房線の移動需要」

木更津駅ロータリー

 不通区間の南側にある木更津市・富津市などは、「アクアライン経由の高速バスがあれば、内房線が不通でもなんとかなるのでは?」と思った方もいたかもしれない。……結果、高速バスは鉄道の不通をカバーできなかった。

 都心への鉄道vs.バスで、内房線が高速バスに乗客を奪われ続けているのは周知の事実だ。所要時間からして木更津市~都心エリアはバスが約50分~70分、列車は80分強。本数も比較にならず、1時間で最大13本のバスが発着する「木更津金田バスターミナル」からの利用が年を追うごとに増加。一方で、木更津駅の乗降客はアクアライン開通後に2.5万人から1.3万人に激減してしまった。乗客数も区間によって4分の1となってしまい、いまや内房線の木更津以北は(アクアラインの影響を受けない)千葉市方面の移動需要がメインになっている。

 不通となった姉ヶ崎駅~木更津駅間を含む区間は5.3万人が利用するとはいえ、平成初期の1日7.6万人からは3割も減少している。そんな“高速バス無双・内房線没落”を眺めてきた人々が、「アクアラインと高速バスがあれば、鉄道がなくともなんとかなる!」と考えてもムリはない。では、どんな事態が起きていたのか?

市原市・木更津市は台風被災後に激しい渋滞に見舞われた

 まず、木更津始発の高速バスは「多客による乗車困難・積み残し」に見舞われた。

 鉄道利用客の高速バス転移は容易に想像できたため、千葉県も早々に京成バス東京・小湊鉄道などのバス会社に臨時増便を要請。木更津市に本社を置く日東交通などは、1日10便もの増便で要望に応えたという。それでも木更津駅バス乗り場では100人以上の行列ができる日もあり、乗車した方も「待てばいつかは乗れるんでしょうねぇ」とこぼす状況であったという(アクアライン経由の高速バスは、基本的に予約制度がない)。

 さらに内房線不通の影響を受けたのは、各系統の高速バスが集積する木更津金田バスターミナルの利用者だ。近隣には最安で1日300円程度の格安駐車場が多く、いまや首都圏への移動の在り方は「木更津駅までわざわざ行って、東京行きの列車に乗車」ではなく、「マイカーで安い駐車場に停めて、木更津金田からバス」というラク過ぎる通勤移動が一般化してしまった。バスはあくまでもJR木更津駅始発なので、途中停留所である木更津金田バスターミナルを利用しているユーザーは「来るバスがどれも満員で乗車できない」という事態に陥ってしまったのだ。

 では木更津駅までクルマで行けば、始発から高速バスに乗車できるのでは?と考えがちだが、台風による豪雨後の木更津市は渋滞で移動が困難で、同じことを考える人々によって、駅前駐車場は見事に満車。かつ、郊外よりはるかに高い駐車場の1日料金を払うハメになる。

 また、千葉市方面の交通手段も奪われたために、千葉駅方面の高速バス「南総里見号」などが停車する「木更津羽鳥野バスストップ」の混雑も目立ったという。こちらも京成バスが迅速に2台運行に切り替えるなどして捌ききったが、それでも多客による混乱は長く続いたという。また富津市が蘇我駅への学生向けシャトルバスを準備するなど、独自の対応も目立った。

 一見して圧倒的な輸送力がありそうな高速バスも、1台当たり50人少々しか乗車できず、運転手がいなければまとまった増便もおぼつかない。結果、移動が困難な千葉市へ「木更津→高速バスで東京→JRで千葉」という、大きく迂回したルートで移動した方もいたという。

 やはりこの地域には、1編成当たり1000人以上をゆうに運べる列車(内房線)とアクアライン経由の高速バスをダブルルートで確保しないと、移住者を呼び込むための「東京に通勤できる街」の看板を維持できない。内房線の不通によって、そんな事実が露呈してしまった。

スクールバス・企業送迎バスもスクランブル体制

姉ヶ崎駅から離れた文具店から発着するスクールバス
姉ヶ崎駅近くに並べられたレンタサイクル。「HELLO CYCLING」で無料予約できた

 通常時は君津駅・巌根駅のロータリーに発着している企業送迎バス・スクールバスは、東京・千葉方面からの列車運行がある姉ヶ崎駅に乗り入れることに。普段なら君津駅に発着する翔凜中学校・高等学校のスクールバスも、ほとんどのスペースが代行バス乗り場と化した駅ロータリーの外にある文具店を臨時発着場として、姉ヶ崎駅の近くに乗り入れるという対応をとっていた。それにしても、このスクールバス乗り場は駅から遠く、代行バス待ちの行列の横を移動する生徒の肩身が狭そう……。

 また、代行バス以外の移動手段確保として、おびただしい数のレンタサイクルが確保されていたのも、おそらく初めてに近い取り組みだ。不通となった鉄道をバスでカバーしきれないなら、交通の選択肢を増やしてみよう!というJR東日本のイノベーションでもあり、シェアサイクル導入を他県より積極的に推進していた千葉県ならではの取り組みともいえるだろう。

 こういった思いがけない鉄道路線の被災・不通は、もはや全国どこでもあり得ることだ。JR東日本・千葉県や各自治体が「どうしても必要な鉄道の長期運休」という事態に見舞われた教訓を残し、非常時の際に思い出したい。

 一方、鉄道沿線で暮らす側も「列車が不通の際の迂回ルート」「代替ルートや周辺道路の混雑の事前想定」などのフローを、不測の事態の備えとして調べておくのもよい。普段鉄道を使わない人も、「ほかの交通機関や道路の混雑」「同僚の欠勤続出」といった影響を被るため、この機会に交通機関の不通の備えについて、心に留めておきたいものだ。