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外房線代行バス、なぜJR東日本の正式運行が2週間も遅れた? 現地で分かった事情と「今後の提言」
2026年10月12日 06:00
千葉県全体に甚大な被害をもたらした「台風25号」の通過によって、JR内房線 姉ヶ崎駅~木更津駅(16.2km)が全面運休を余儀なくされてから2週間。JR東日本が仕立てた代行バスと鉄道を乗り換える形で、内房線は10月5日から暫定的につながった。
この区間は1日5.3万人の利用があり、東京方面へ向けて15両編成の列車が行き交うほどに、利用者が多い区間だ。周辺に点在する高校・大学や、沿岸の工業地帯への通勤・通学が内房線頼み、という人々も多いなか、9月30日からは小湊鐡道バスや都営バス車両が一部区間で“実質的な代行バス”運行を開始。その後は都営バス車両10両による実質的な代行バスのみの運行が続いたあとで、JR東日本による代行バスの運転開始に至った。これまでの関係者の皆さまに、まず多大な敬意を表したい。
これを機会に「災害時の代行バス」について、各地の代行バスを巡ってきた筆者の視点から考えていきたい。協力するバス会社にとって代行バスは「臨時収入」から「やむを得ず引き受ける業務」に変化しつつあり、発災時に「出てこい!」と願えば湧き出る存在でもない。
代行バスは「運行しなかった」ではなく「当初からムリがあった」
まず、状況をおさらいしてみよう。なぜ内房線代行バスは、2週間にわたって正式に運行できなかったのか? 原因は「160台にもおよぶバスを確保できなかったから」だ。
内房線は通勤・通学や観光需要などすべての利用実態がまんべんなく多く、ピーク時には1時間に8000人が移動するという。補助席を使わない状態で、ざっくり定員50名のバスで鉄道を代替するとすれば、8000÷50で「1時間160台」。しかし実際に確保できたのは、報道によると30台程度であったという。
なにぶん現状で、同じ千葉県内のバス会社は何台も代行バスを出せる状況にない。房総半島の一大勢力である小湊鐡道バス(市原市)、日東交通バス(木更津市)がほかの代行バス・スクールバスや、内房線の代替手段でもある「木更津駅~首都圏の高速バス(アクアライン経由)」を抱えているなか、県下最大規模の京成バスも含めた3社は、ある意味内房線の代替バスでもある、アクアライン経由のバス増便にも力を注がなければいけない状況だ。
そうなると他地域・県外から確保することになるが、運転手不足が災いして、各社とも1台、2台提供できればよいような状況だ。もし30台程度のバスで姉ヶ崎駅~木更津駅間の代行バス運転を開始できていたとしても、実際の5分の1以下の容量しかまかなえていないことになり、おそらく、いつ乗車できるか見通せないような待機列が各駅で発生しただろう。それでは現地で混乱が起きて当然だ。
もし160台程度のバスを招集できたとしても、そのバスを捌けるロータリーや待機場はどの駅にもない。かつ、渋滞で普段の数倍も所要時間がかかる国道で、常時160台ものバスが走行すると遅延が増し、さらに地域の混乱が増してしまうだろう。こういった地域の事情を織り込んだうえで、JR東日本は代行バスの台数が少なくて済むタイミング(木更津駅~長浦駅間の復旧による不通区間短縮)で、代行バス運転を開始したと考えられる。
これまで数々の「災害時の代行バス」を筆者が見てきたなかで、内房線については「姉ヶ崎駅~木更津駅間の代行バス計画は、そのままでは遂行不可能。運行規模を縮小できる長浦駅~木更津駅間の暫定復旧を見計らうだろう」と感じていた。
利用少ない時間もあった「内房線代行バス・臨時バス」
ただ先に述べたとおり、姉ヶ崎駅~木更津駅間には多くの通勤・通学利用がある。実際に学校や会社を休んだ利用者も多く存在したが、JR東日本が代行バスを仕立てる前に小湊鐡道・都営バスが運行した臨時バスの利用は、何度かの訪問とヒアリングの限り、そこまで多くの利用はなかったようだ。
臨時バスの拠点となった長浦駅は、袖ヶ浦市営の駐車場が近隣に点在しており、普段からパークアンドライド(自家用車→鉄道乗り継ぎ)の利用者が多い。かつ、企業送迎バスも使用できるバスロータリーは広く、西側にはスポーツセンター構内のバス待機スペースもあり、代行バスの拠点として向いている。
しかし、小湊鐡道バスが姉ヶ崎駅~長浦駅間の臨時バス(同社は普段から旧国道経由での路線バス運行実績あり)の運行を開始した時点では、朝晩でも各便とも目視で10人~20人とそこまで利用者は多くなかった。翌日からの都営バス車両による運行も朝晩以外は利用者が少なく、乗客2~3人という時間帯もあったほどだ。
バス会社も「代行バスの仕事は美味しくない」?
一概には言えないが、代行バスは全国的に「通勤・通学利用に利用者が絞られている」「朝・晩以外の利用は通常時より少なめ」といった傾向がある。さらに、代行バスの運転手さんに複数お話を伺ったところ(折り返しの喫煙所などで世間話として)、いろいろな声が上がっている。
・ほぼ朝、晩ラッシュのみの稼働で鉄道会社の社内規則に沿った金額しかいただけないので、代行バスの仕事は会社として美味しくない。かわりに日中の観光バスチャーター依頼を断らざるを得ないので、各社同士で「避ける方法はないか」と話している
・鉄道会社の人は「バスは呼べば来る、どこでも走れる」くらいの認識しか持たずに代行バスを依頼する場合も。関係者が乗り込み、大型バスで曲がれない交差点や狭隘路への進入を次々と指示されたことがある
・協力しないと「地域に密着していない」と会社自体が糾弾されるから引き受けている
各地の災害のたびに代行バスの運行を急いでも、鉄道会社・バス会社ともに運行のリソースは限られ、必要な台数を揃えるのに時間がかかるばかり。災害のたびに鉄道会社の泣き落としでバスをかき集める状況、なんとかならないものだろうか?
大規模な代行バス運営への提言。スムーズな代替輸送は政治の仕事だ!
「乗客絞り込みの明文化」「これまでの代行バス運行のノウハウを残す」「路線バス会社以外の地域協力」といった対策を考えてみた。
代行バスは「できるだけ定期利用者限定」にできないのか?
鉄道は正当な理由がない限り旅客の運送を拒むことができず、その条件も「伝染病の患者や危険物を持ち込もうとする者」(鉄道営業法第4条)などに限定されている。代行バスの混雑回避のために定期利用に絞った運用は難しく、小湊鐡道バスのように「通勤定期券または通学定期券をお持ちの方の乗車が優先、ほかは乗車をお断り」と、運行案内に付け足すのが精一杯の対策だ。
ワゴン車で事足りるローカル鉄道の代替バスならともかく、運営規模も客数も大きい内房線の場合は、早期に代替手段を提供するために、どうしても移動が必要な方向けに利用者を絞る必要がある。全体の数%しか必要なバス台数が揃わない場合は、思い切って「原則として定期利用者のみ、通院などのご事情がある方もどうぞ」「定員があるので乗車は保証できません」くらいのスタンスを公式見解として打ち出し、利用者を絞り込んで代行バス運行を開始したうえで、あとから増車させる仕組みはできないものか。
今回の内房線不通区間のように、出勤の必要があるブルーカラー労働者や学生の利用が多い場合は、法律や各社の規定を後ろ盾に、少ない台数でも代行バスを出せる選択肢を作った方がよい。できるだけ早めに生活の足を暫定回復させる方法がないと、今回の内房線運休のように「タクシーで数キロ走るか、覚悟を決めて歩く」「自腹で木更津~アクアライン~東京~千葉を大回り」といった対策を取らざるをえない利用者が続出してしまう。
「被災運休しそうな箇所」リストアップ、代行バス想定を!
今回の内房線のような「崖の崩壊による鉄道運休」の可能性がある幹線鉄道と言えば、2014年の土砂崩れで鉄道運休に至った東海道線 由比駅~興津駅間などが挙げられ、明らかに災害に弱そうな箇所がある中央本線・函館本線・山陰線など……。極端に言えば、崖線や切り通しが多い山手線でも、土砂災害による運休の可能性はゼロではない。
危険場所をリストアップしたうえで、被災運休の可能性ならびに「代行バスを召集する場合の道路状況、バス停・待機スペース確保」など、バス協会と共同で主要箇所のシミュレーションを作れないものか。そうでないと、代行バス運用を立ち上げる際に「呼んだバスの駐車スペースがない」「遠くから来てくれた運転手さんの休憩スペース・トイレが遠い」「なんでこの道を大型バスが通れると思ったんだ」という、緊急時にありがちなトラブルが発生してしまう。
自社・他社に限らず「ちゃんと案内しようよ!」
少し気になったことがある。JR東日本の代行バスが運行を開始する前の10月4日に訪問したところ、各駅とも「都営バス・小湊鐡道バスはこちら」という表示も駅員の案内も異様に乏しく、聞いても「あちらの方向で探してみてください」と言われるだけ。どうも、「他社だから」と駅での案内を避ける様子が見えた。
なお、JR東日本による10月5日からの開始時には「代行バスはこちら」という巨大フォントの張り紙・矢印を出し、アナウンスもひっきりなしに流していた。にもかかわらず、正式な代行バス開始までを支えた臨時バスの案内は、ほぼなし。臨時バス乗場はメインの路線バス乗り場の反対側にあり、誤って乗車できない人々も相当数いたようだ。
この非常時に自社・他社の区別をつけず、せめて小湊・都営の乗場案内くらいは連携できなかったのか。「鉄道・他社バスの連携」「ほかの交通モードへの連携」は、非常時でなくても大切なはずだ。
各社の代行バスを参考に「ノウハウ・ガイドラインを残せ!」
過去の代行バスは、その運用は非常時であるがゆえに、運用はかなりアクロバティックであった。それぞれ工夫によって、鉄道復旧までの移動手段としての任を果たしたのだ。
巨大地震による架線柱・駅舎などの損傷から立ち直った「鹿児島本線・熊本県内区間代行バス」、朝ラッシュ時に運行されていた超・混雑列車をバス11台でまかなった「くま川鉄道・代行バス」(2026年9月に鉄道復旧)、現場の機転でバス車両そのものを“緊急車両”扱いにしていち早く被災地に送り込んだ東日本大震災でのバス運用、様似駅前の旅館が宿泊所になっていて、窓から顔を出してタバコを吸っていた運転手さんが「あ、さっきのお客さん! あした乗るの?」と声をかけてくれた「日高本線代行バス」、狭い駅前道路にバスが進入できず、国道沿いのデイリーヤマザキ駐車場を借り切ってマイクロバス乗り換えを準備していた中央西線の代行バス(2014年)など……。
これらの事例は、残して活用しないともったいない。いざというときの参考になるように、鉄道・バス全社共通のノウハウとして残せないものか? これらの提案・運用は、国会での論戦が必要となる法改正でなくとも、非常時に“虎の巻”として鉄道会社にサッと出す「代行バス・ガイドライン」なら、まだ容易に策定できるはず。事前の準備とオペレーション提示があれば、非常時に少しでもスムーズに代行バスを仕立てることができるだろう。
こういった非常時の想定づくりは、就任したばかりの井林辰憲・国土交通大臣の政策三本柱「国民の安全・安心の確保」にもかなう。かつ、与野党議員・審議委員会メンバーを問わず、議論に加われるプロは多数いらっしゃるだろう。あとはできれば、鉄道・バス・道路・貨物輸送・タクシーなどの枠を取り払った「非常時の代行輸送の在り方」を、目的を見失わずに考えていただきたい。
災害大国・日本はこの先にもバス代行が頻発することは間違いなく、非常時に「あのときこんな運用をした」「この法的根拠が後ろ盾になった」というノウハウは、必要となるはず。内房線の運休を他山の石とせず、不測の運休・代行バス運行を今後の学びに変えることを、切に願う。



























