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55年ぶり「月の石」公開。閉幕迫る万博・米国パビリオンで没入、宇宙展示とロケット打ち上げ体験へ

2025年8月末 時点
閉幕迫る万博「米国パビリオン」を紹介。圧巻のロケット打ち上げ体験や日本で55年ぶり公開の「月の石」展示は必見

 10月13日の会期終了まで残りわずかとなった「大阪・関西万博」。まだ行っていない人も、もう一度行く予定のある人にもお勧めしたい、圧倒的没入感の「米国パビリオン」(事前予約なしで入場可能)を紹介しよう。

 米国パビリオンが建つのは、東ゲート側から入場し、大屋根リングをくぐったすぐ先。まず目を引くのは、光るキューブが浮かぶように配置された近未来的な建物と、高さ9.45mの巨大LEDスクリーン。雄大な自然や多様な文化を象徴する米国の映像を眺めながら待機列に並ぶ。

 2880m2の館内は、農業技術やナノテクノロジー、大陸の大自然や文化に触れる旅、宇宙開発など、メインテーマ「共に創出できることを想像しよう」のもと、5ジャンルで構成された展示を巡るウォークスルー型となっている。米国パビリオンの公式マスコットで、星条旗を思わせるシンボルやカラーを身にまとったアニメキャラクター「スパーク」がガイド役となり、体験所要約30分のアメリカ旅行へと案内する。

 なかでも注目したいのが「宇宙」の展示。1970年の大阪万博当時進んでいた「アポロ計画」から、現在進行中の「アルテミス計画」に至る歴史をたどり、宇宙開発において米国が果たしてきた役割を実物資料とともに紹介している。

 アポロ計画では主にアメリカが遂行し、有人の月面着陸を目指した宇宙探査だったが、現在のアルテミス計画はアメリカと日本を含む世界各国、さらには民間企業が参画し、“みんなが一緒になって進めている”宇宙探査計画であり、月面での長期滞在や人類初の火星探査も目指した大プロジェクトだ。

 見どころは、55年を経て再び日本で公開されることになった「月の石」。1970年の大阪万博ではアポロ12号が月から持ち帰った「月の石」が展示され、連日長蛇の列ができるほどの人気を集めたが、今回展示しているのは、最後の有人月面着陸が行なわれたアポロ17号が持ち帰った月のサンプル「70035,41」。

 1972年12月、アポロ17号によるミッションで、NASAの宇宙飛行士ハリソン・シュミットが採取した玄武岩118gの一部で、37億年前に形成されたとされ、地球上の岩石の99.99%よりも古いものだという。ショーケースに収められたその「月の石」を見られるのは一瞬で、立ち止まってじっくり見物できないというのが残念だが、我々がいつも眺めている夜空の月の欠片が目の前にあると思うと、それだけでも体験の価値は高い。

55年ぶりに再び日本で公開された「月の石」
ウォークスルー型の展示を進んだ際、ひし形のショーケースをのぞき込むと、アポロ17号が月から持ち帰った「月の石」が見られる。なお「日本館」では「火星の石」を展示
パビリオンのテーマは「共に創出できることを想像しよう」
米国パビリオンの公式マスコット、星型の「スパーク」が案内役
農業技術やナノテクノロジー、大陸の大自然や文化に触れる旅、教育文化、宇宙開発、起業家精神における米国のリーダーシップなど5つの展示で構成

 さらに宇宙関連の展示では、アルテミス計画で使用されるNASAの新しい巨大ロケット「SLSロケット(スペース・ローンチ・システム)」(実物の高さは約100mで、ビルに例えるとおよそ30階建て。史上最大級の打ち上げ能力を持ち、人や物資を運ぶ)の高さ約3mの模型をはじめ、20分の1スケールの「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(開発に25年かけ、2021年から宇宙で活躍している)やこれまで届かなかった距離から送られてくる望遠鏡の捉えた星雲の画像データ、そして将来の月面インフラに応用されるICON社の3Dプリンター「オリンパス」の模型などが並ぶ。

 まさに、アルテミス計画が目指す未来の宇宙探査計画を目前に感じさせられた。

月面3Dプリンター「オリンパス」の20分の1スケール模型。月面で使用するために開発されたもので、地球から建築資材を運ぶことなく、宇宙空間で必要な物資を供給できるようにする
これまで届かなかった距離へ到達し、圧倒的な成果を上げている「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」。JWSTが地球に届けてくれた星雲の画像データも見られる

 展示のクライマックスは、「打ち上げ:月へ、そしてその先へ」と題した没入型体験。大型LEDスクリーンと大迫力の音響効果でNASAのロケット打ち上げを再現したもので、来場者は最初に外観で見たあのキューブ内に“乗船”し、まるで本物のロケット打ち上げを宇宙飛行士目線で目撃しているかのような臨場感が味わえる。

 NASAの音声(英語版は本物)によるロケット発射のカウントダウンから始まり、轟音とともに宇宙へ。次第に「国際宇宙ステーション(ISS)」が見えてくると、2024年3月までここに滞在していたタイラー・ニクラウス・“ニック”ハーグがメッセージを投げかける(ISS滞在中に録音された音声)。いよいよ月面着陸すると、高さ50mにおよぶ有人月着陸船「スターシップ」や、月面インフラを担う「3Dプリンター」が作業している未来の姿、トヨタが開発に関わる月面車両の与圧ローバー「ルナクルーザー」など、宇宙で活躍する技術と人々が登場。

 そして、火星に近づく許可が下り、火星を一周。三裂星雲や干潟星雲も見えてくる。最後は巨大な木星の環のあいだを移動し、1610年にガリレオ・ガリレイが発見した木星の衛星エウロパや最新技術を駆使したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と対面する。振動や風景、スピード感の再現によって、地上から宇宙へと飛び立つ瞬間を全身で体感することができ、会場からは拍手も沸き起こる感動的なクライマックスだった。

360度のイマーシブな空間に入ると、まるで本物のロケット打ち上げを宇宙飛行士目線で目撃しているかのような臨場感が味わえる
ロケット発射のカウントダウンから始まり、轟音とともに宇宙へ
国際宇宙ステーションや惑星、月面で活躍する未来の技術、美しい地球、活躍する人々などを映し出す

 ちなみに、マスコットキャラ「スパーク」による歌唱シーンは“日本語の歌詞がクセになる”とひそかに話題で、ロケット打ち上げシーンではドジャース・大谷翔平の雄姿も。大人はもちろん、親子や家族3世代でも楽しいパビリオンなので、ぜひ細部まで注目いただきたい。

 展示体験を一通り楽しんだあとは、館内レストランへ。「オーロラ・アラスカ・サーモン・バーガー」や「プルドポーク・ネブラ」、「ステラ・メーン・ロブスターロール」など、宇宙をテーマにした名前で米国ならではの食材と郷土の味を堪能できる。

米国パビリオン

場所: エンパワーリングゾーン P11-01
運営時間: 9時~21時
所要時間: 約30分
入場方法: 予約不要(待機列に並んだ順に入場)

併設のショップでは「スパーク」グッズを販売
アメリカングルメを味わえるレストランも宇宙がテーマ