ニュース

高校卒業までに海外修学旅行・語学研修など「国際交流の必修化」を。JATAが旅行業界の現状・課題・展望を説明

2025年7月4日 実施
JATAが旅行業界の現状などを説明した。写真は一般社団法人日本旅行業協会 会長 髙橋広行氏

 JATA(日本旅行業協会)は7月4日、旅行業界の現状と課題、将来についての説明会を実施した。

 現行の「観光立国推進基本計画」の計画期間は2023~2025年度であり、現在観光庁は次期計画を5か年(第5次:2026~2030年度)で作成すべく協議を進めている。改定では訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円などを盛り込む見込みで、この目標はJATAの見通しとも一致している。

 特に旅行者数については2024年の3687万人という実績に対し、2025年は1月~5月ですでに1814万人と、5か月で前年の半数まで届いている。5か月間の累計前年比は123.9%で、JATAの予測では前年比113.5%で伸長すると2025年は4185万人、2028年には目標を2年も前倒して6119万人に到達するという(※仮に120%超で伸長すると2027年に6000万人を超える)。

 一方で、2024年の日本人の海外旅行者数は1301万人に留まり、出入国における日本人の割合は26%。インバウンドとの乖離がこのまま続くと、いざ日本人が海外に行こうと思っても航空座席が外国人で埋まって予約できないなどの問題に直面することになるが、主要旅行会社による海外旅行取扱高は2023年度が約10億7000万円(2019年比59.7%)、2024年度が約12億9600万円(同73.4%)と年間で+10pt超規模の成長を続けており、このまま進捗すれば2030年までには2019年当時のアウトバウンド2000万人も不可能な数字ではない。

 JATA会長の髙橋広行氏は以前から「海外旅行の復活なくして旅行業界の復活なし」と繰り返し発信しているが、5月末に観光庁・外務省・文科省に提出した提言書「ツーリズムで築く世界に誇る日本の未来 ~持続可能かつ先進的な観光産業構築に向けた包括的政策提言~」においても、まず第一に海外旅行者の拡大による「均衡の取れた双方向交流の実現」を掲げている。

 世界的な物価高、円安といった短期的に解消しづらい負担が日本人の旅行に対するマインドに影響を与えていることは確かで、その負担軽減に向けてパスポート取得費用の抜本的な見直しや手続きの簡略化など、まずはパスポートの保有率を上げるために身近な障壁を取り除いていくことを提言している。現状のイン/アウトバウンドの不均衡が解消に向かえば日本発の需要が増えて航空/船舶の増便につながり、ひいては海外から日本への発給増が図られる、インバウンドも強化される、という好循環も期待できる。

 あわせて、国際路線も東京や大阪など大都市に頼り切りになるのではなく、地方空港の国際線の活発化が必要になる。提言書では地方空港の国際線誘致に向けて、「国際定期便就航支援・チャーター便運航に対する助成制度の拡充などを通じて、近隣諸国との路線網の拡充を図る」とその必要性を説いている。

 また、髙橋氏はアウトバウンドの復活とあわせて、若者の海外旅行経験の大切さについてもたびたび言及しており、提言書の第二章では「国際交流機会の創出による若者の国際教育強化」を掲げた。新型コロナ以降の海外修学旅行の取りやめや物価高・円安などに起因して、特に18歳以下の若い世代では国際感覚が育まれにくい状況が生まれている。

 提言ではこうした機会減少が「英語力や異文化理解の低下を招いている」との調査結果に触れ、18歳以下にはさらなるパスポートの取得促進策とともに、「学校教育の過程において海外渡航や国内での国際交流プログラムへの参画などで、海外の文化・言語・価値観に触れる『国際交流の必修化』の取り組みを検討すべき」と述べている。

 これは語学力の向上のみならず、国際社会での適応力やコミュニケーション能力の育成、将来のグローバルリーダーとして素養を高めるなどさまざまな実効が期待できるもので、すでに大阪府では全府立高校において短期留学や国内での国際交流をすべての生徒に提供する計画を発表しているが、提言は大阪府の例をさらに推し進めて必修とする内容になっている。

国内旅行市場について説明した一般社団法人日本旅行業協会 副会長 小谷野悦光氏
海外旅行市場について説明した一般社団法人日本旅行業協会 副会長 酒井淳氏
訪日旅行について説明した一般社団法人日本旅行業協会 訪日旅行推進委員会 委員長 百木田康二氏
人材確保と育成について説明した一般社団法人日本旅行業協会 副会長 原優二氏