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「新成人にパスポートを無償発行するくらいのことを」と髙橋会長。JATAが旅行業界の現状と課題・展望を説明

2024年7月18日 実施

JATAが業界の現状・課題・展望などを説明した。写真は一般社団法人日本旅行業協会 会長 髙橋広行氏

 JATA(日本旅行業協会)は7月18日、旅行業界の現状と課題、将来についての説明会を実施した。

 冒頭では、会長の髙橋広行氏から、主要旅行会社の取扱額(1月~5月)や能登半島地震への支援状況が示されたほか、9月26日~29日に東京で開催するツーリズムEXPOジャパン2024についての紹介などがあった。

 また、2021年以降に業界内で雇用調整金の不正受給など複数の不祥事があり、直近では公正取引委員会からJATA会員企業5社の独禁法違反で排除命令があったことを振り返り、コンプライアンス強化の取り組みを説明した。

 具体的には、4月にコンプライアンス推進室を設置しており、5月には懲戒規定の策定を行なっている。さらに具体的な取り組みのための手引きの発行や、7月以降にはJATA主催のコンプライアンス研修の実施を進めており、来年には有識者委員会によって進捗を確認するフォローアップも予定している。髙橋会長は「具体策を着実に実行することで不正を一掃し、社会的信頼を取り戻す。私も先頭に立って真摯に取り組みたい」と説明した。

 一方、最新の受注動向における日本人の海外旅行(アウトバウンド)については、2024年が海外旅行自由化60周年、日米観光交流年であることをフックにしたいとしつつ、円安や物価高といった制御できない要因が立ち塞がる苦しさについても触れた。

 実際、海外旅行を取り扱う主要旅行会社43社の回復率を見ると、2024年1月~5月全体は2023年比で165.0%ながら2019年比では60.6%に留まっており、なかでも業務渡航は2019年比で82.9%としっかり回復に向かっていることが分かるものの、レジャーは同43.9%と厳しい状況が続いている。

 国・地域別に同時期のアウトバウンドの渡航者数を見ると、定番のハワイでも2019年比で43.5%、リピーターの多いタイが54.1%、台湾が63.1%といった状況。一方でトルコが111.5%(2023年比は195.0%)、韓国は85.6%(同176.3%)、オーストラリア79.2%(同161.2%)といったよい兆しも見えている。

 髙橋会長はかねて「海外旅行の復活なくして業界の復活なし」と述べており、鍵を握るのは若年層であるという。

 日本人のパスポート保有率は17%台(コロナ前でも24%台)と先進国で最低レベルであり、若者の海外旅行離れが叫ばれて久しい。髙橋会長は「日本はパスポート取得費用が高すぎる」とも指摘しており、国に対しては「成人に達したらパスポートを無償発行するくらいのことをしてほしい」と話す。

 JATAと観光庁による海外旅行機運醸成の取り組み「今こそ海外!宣言」ではパスポート取得費用の補助キャンペーンを行なっており、現在も地方空港の国際線維持のため、住民向けにパスポート取得補助を行なう自治体もあるという。いまは訪日外国人旅行者(インバウンド)がきわめて強いため成立しているが、本来国際線はイン/アウト双方向のバランスが取れなければ適切に路線を維持できなくなり、現状のままだとアウトバウンドが回復したときに日本発の座席を確保できないといった問題も発生してしまう。

 仮に新成人にパスポートを無償発行しても毎年80万人~100万人程度であり、保有率の大きな回復にはならないが、「持っていなければ海外に行ってみようという前提にもならない」としたほか、「若者が海外に行くことで国際感覚を身につける土台になり、国際的な舞台で活躍するといった将来につながっていく。若者を育てなければ、将来の国際競争力に関わってくる」と述べ、若年層への期待と現状の危機感を表現した。