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宿泊施設・旅行会社のDX、「観光産業共通プラットフォーム」で非効率な業務の解消へ。JATAが旅行業界の現状と課題・展望を説明

2023年7月5日 実施

JATAが旅行業界の現状などを説明した。写真は一般社団法人日本旅行業協会 会長 髙橋広行氏

 JATA(日本旅行業協会)は7月5日、コロナ禍を経て旅行業界の現状と課題、将来についての説明会を実施した。

 その冒頭、会長の高橋広行氏は直近四半期の販売動向や業界挙げてのサステナブルな取り組み、10月に大阪で開催するツーリズムEXPOジャパンについて説明した。高橋氏はこれまでも「海外旅行の復活なくして旅行業界の復活なし」と繰り返し述べているが、改めてこの点を強調し、業界団体として取り組んでいく姿勢を見せた。

 説明会では国内・海外・訪日旅行のほか人材育成や助成の働き方などにも言及したが、本稿では国内旅行のDX(Digital Transformation)と中国からのインバウンドを巡る状況について取り上げる。

 国内旅行については、担当役員の副会長 小谷野悦光氏が説明を担当。新春会見で高橋氏が触れた「宿泊業者の情報の一元管理・共有」の進捗について紹介した。

 国内の業界は新型コロナで大きな打撃を受けており、各社で個性を出して競争すべきところと、連携して取り組むべきものを分ける必要がある、としたうえで、その取り組みが形になったものが「観光産業共通プラットフォームの構築」だという。

 宿泊施設と旅行会社の間で非効率になっている業務に焦点を当てたDXで、生産性向上、人手不足の解消、品質向上、高付加価値化などの効果を見込んでいる。

一般社団法人日本旅行業協会 副会長 小谷野悦光氏

 例えば、旅行会社が宿泊施設に求める基本情報には、施設名や所在地、施設規模、客室数、客室タイプ、バス/トイレの有無、客室の備品、レストランの有無、大浴場の有無、駐車場の有無など、細かな項目が膨大に存在している。

 これを毎年(あるいは契約更新時に)、旅行会社が宿泊施設へ問い合わせて、宿泊施設は旅行会社ごとに異なるフォーマットに則って返信を行なっていた。一方旅行会社は、メールやファクスなどで返ってくる回答を自社システムに手入力する必要があった。これを業界挙げてデジタル化しようというのが今回の取り組みだ。

 宿泊施設は共通プラットフォームに以下のような項目を入力し、変更があった場合はその部分を修正するだけでよい。データベースは旅行会社で共有するため、毎年個社による確認・回答・入力という膨大な作業が一気になくなることになる。

観光産業共通プラットフォームに登録する基本情報

・施設名、所在地、電話番号、チェックイン/アウト時間、築年数、地上/地下階数、エレベーターの有無、客室数、客室タイプ・眺望、備品、バス/トイレの有無、レストラン、宴会場(数、収容人数、広さ)、会議室、大浴場(数、露天風呂・サウナの有無、洗い場の数)、駐車場の有無、大型バスの対応可否、現地へのアクセス、娯楽施設、利用可能クレジットカード、最寄りの病院、最寄りの警察署など約1000項目

 また、災害発生時などに被害状況を電話確認していたものが、宿泊施設側の共通プラットフォームへの登録で完結するため、電話回線の混雑や電話対応による業務効率の低下、周辺地域の風評被害なども抑え込むことができるようになる。

 宿泊施設情報の一元化と営業情報の発信は10月下旬を予定しており、今後は多言語化、画像管理、観光施設への展開などを視野に検討していくという。

一般社団法人日本旅行業協会 訪日旅行推進委員会 百木田康二氏

 インバウンドについて説明した訪日旅行推進委員会の百木田康二氏は、2022年10月11日の個人旅行解禁(ビザ取得免除)以降、中国・ロシアを除く全マーケットが急回復している現況に触れ、4月には外国人旅行者数が2019年同月比で66.6%に達しているという数字を示した。

 旅行消費額についても、この1月~3月期は2019年同期比で88.1%の1兆146億円を記録しており、2022年同期が3.1%(352億円)だったことを振り返るとその急回復ぶりがよく分かる。

 あとは中国からの訪日団体旅行の復活が大きなトピックとして待たれるが、羽田/成田の東アジア路線の再開とLCCネットワークのさらなる展開、受け入れ施設側の人員とノウハウの不足、ツアーオペレーター各社の担当要員の不足などが課題になるとしたほか、秋以降の日本はオーバーツーリズムの懸念もあると見通しを説明した。