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JR西日本、新幹線用まくらぎ交換機編成の出発式実施

これまでの5倍、1日200本のまくらぎ交換を可能に

2016年4月27日 出発式

新幹線用まくらぎ交換機編成

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は4月27日、新岩国新幹線保守基地(山口県岩国市)において「新幹線用電柱建替車」および「新幹線用まくらぎ交換機編成」の報道向け公開と「新幹線用まくらぎ交換機編成の出発式」を実施した。

新岩国駅の脇にある新岩国新幹線保守基地
500TYPE EVAが通過していった
出発式の前に安全祈願祭を行なった

 新幹線用まくらぎ交換機編成の出発式には、来賓として国道交通省中国運輸局 鉄道部長 鈴木延昌氏、オーストリア大使館 経済商務官 Michael Otter氏、受注者として三井物産プラントシステム 代表取締役社長 先﨑尚祐氏、製造者としてPlasser & Theurer社 CEO Gerhard Polteraurer氏、日本プラッサー 代表取締役社長 Heinz Springer氏、発注者として西日本旅客鉄道 代表取締役副社長 兼 鉄道本部長 山本章義氏らが出席。白崎八幡宮の宮司による安全祈願祭を行なったあと、主催者らによる挨拶が行なわれた。

西日本旅客鉄道 代表取締役副社長 兼 鉄道本部長 山本章義氏

 まず、主催者を代表してJR西日本の山本氏が挨拶。山本氏は地震時の新幹線の安全について「阪神・淡路大震災や新潟中越地震、東日本大震災などを教訓に進めてきた」として、東海、東南海、南海地震を想定して優先順位の高い新大阪~姫路間では逸脱防止対策は作業を2015年(平成27年)までに完了したと前置き。だが、姫路から西の区間はバラスト(砂利)を使っているため、対策には「手間暇も時間も掛かる」として機械化を検討。まくらぎ交換だけでなく前作業、後作業まで機械化するという複雑な仕様としたが、試行錯誤の末に完成、この出発式を迎えたと述べた。今後も「(より安全な新幹線を目指し)さらに取り組みに力を入れて精一杯努力してまいりたい」と挨拶を締めくくった。

三井物産プラントシステム 代表取締役社長 先﨑尚祐氏

 続けて三井物産プラントシステムの先﨑氏がプロジェクトを解説。この編成については「構想からおそらく5年以上の歳月を掛けて設計した」と言い、プラッサー社の「豊富な実績のある技術が要素として盛り込まれている」と評価した。さらに「吸引方式によるバラストの一時撤去」「マニピュレータによる軌間内の枕木交換」といった、「複雑な装置を高度に統合している世界で例を見ないシステム」を実現するとともに、「日本の作業環境条件に合わせた小型化、騒音抑制にも力を注いできている」と説明。「導入当初は困難に直面するケースもあるかもしれないが、一丸となってシステムが最大限機能を発揮できるようサポートしていく」と述べた。

Plasser & Theurer社 CEO Gerhard Polteraurer氏

 Plasser & Theurer社 CEO Gerhard Polteraurer氏は「これまでに大型の軌道建設機械、保守機械を設計してきたが、このたびの連続枕木交換システムはもっとも大きな挑戦のひとつだった」と述べるとともに、「高性能で緻密な枕木交換作業を行なうだけでなく、高い信頼性と日本での厳しい安全基準を遵守することを念頭に設計、製造いたしました」と説明。「本システムの導入により新幹線の列車運行の安全性、定時性、乗り心地に寄与するだけでなく、機械化枕木更新工事が貴社に対し経済面でもお役に立てることを強く希望しています」と述べた。、最後に日本語で「頑張りましょう」と挨拶を締めくくるとともに、記念プレートを西日本旅客鉄道の山本氏に手渡した。

記念プレートが贈呈された
出発式のテープカット

新幹線用まくらぎ交換機編成

 まくらぎ交換作業は山陽新幹線における地震対策の一環。同路線では地震により車両が脱線した際にレールから大きく逸脱することを防ぐため、2011年度(平成23年度)から「逸脱防止ガード」の設置を進めてきたが特注の専用部材が高価なのが難点だった。そこでJR西日本では、取り替えで発生した中古レールを利用できる新方式を開発。ただ、そのためにはまくらぎを交換する必要があり、短時間に大量のまくらぎ交換が可能な今回の車両が開発された。

 まくらぎ交換は「まくらぎ交換機構(SES170)」「軌道整備機構(09-16CSM)」「道床整理機構(SFM20)」の3編成1組で行なわれる。各編成のスペックは以下のとおり。

まくらぎ交換機構(SES170)

 全長: 99.6m
 全幅: 3.4m
 全高(レール面上): 4.39m
 重量(空車時): 283.2トン
 エンジン定格出力: 783kW×2/63.6kW×2
 最大走行速度: 70km/h
 登坂性能: 30‰(パーミル)
 作業時最大カント: 200mm

軌道整備機構(09-16CSM)

 全長: 20.1m
 全幅: 3.11m
 全高(レール面上): 4.07m
 重量(空車時): 66.8トン
 エンジン定格出力: 440kW
 最大走行速度: 70km/h
 登坂性能: 30‰(パーミル)
 作業時最大カント: 200mm

道床整理機構(SFM20)

 全長: 48.9m
 全幅: 3.21m
 全高(レール面上): 4.18m
 重量(空車時): 124.4トン
 エンジン定格出力: 440kW
 最大走行速度: 70km/h
 登坂性能: 30‰(パーミル)
 作業時最大カント: 200mm

 実際の運用はSES170が「バラスト除去→まくらぎ交換→レールとまくらぎを締結→バラスト再散布」のサイクルを行ない、後続の09-16CSMが「バラストの突き固め、軌道修正」、09-16CSMが「バラストのかきならし、余剰バラストの回収、バラストの締め固め」を実施する。人力とバックホウによる従来方式では1日40本の交換が限界だったが、この車両の投入により人員はそのままで200本と5倍まで高められる。

まくらぎ交換機構を備えたSES170
廃レールを使用した逸脱防止ガード
現状のまくらぎ
板バネとボルトでレールを固定
逸脱防止ガード用のまくらぎ
締結部も専用形状
機械での作業を考慮し横から押し込むクリップ式を採用
SES170。作業時はこちらが前になる
保守車両らしくディテールは無骨
まくらぎ車上置場。1日分、200本を積載できる
元々のまくらぎとレールの締結部分は人力で撤去する必要がある。作業員は黄色で囲まれた部分で作業を行なう
車上でまくらぎを運搬する台車
バラスト除去~締結までを行なう部分(左が前方)
負圧でバラスト吸引する。分かりやすく言えば大型掃除機とも言える
バラスト除去からまくらぎ交換まで
締結装置
レールを締結後、バラストを再散布する
軌道整備機構(09-16CSM)
道床整理機構(SFM20)

新幹線用電柱建替車(CWT1500)

 高架線上にあるコンクリート製電柱を耐震性に優れた鋼鉄製に交換するために製造された車両。

 高架線上では電柱の位置をズラして立て替えることができないため、1本ずつ入れ替えて交換する必要がある。そのため、作業には高架下にクレーンを設置する必要があり、加えて列車の走らないわずかな時間での作業完結が求められるなど、効率的な交換作業が困難だった。

 そこで計画されたのがこの車両。クレーン車と電柱運搬車の2両1組で構成され、高架線上の狭い空間の中での作業完結を実現している。

CWT1500のスペック

 全長: 約32m
 全幅: 約3.3m
 全高: 約4.5m
 重量: 約74トン
 製造: 新潟トランシス

 施工能力は1日2本。今回2編成を導入し、2027年(平成39年)度末までに約2500本の交換を計画している。

クレーン車と電柱を積載する車両の2両1組
運転席まわり
連結器まわり
形式や性能を示すプレート
クレーン車と電柱運搬車の連結部
現場ではまずアウトリガーを設置
仮の電柱となるアームを伸ばす
作業員がアームに登る
架線などをアームに移し替える
クレーンを使って電柱を交換

(安田 剛)