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ロボットがフロントやベルマンを務める「変なホテル」がハウステンボスにオープン
「変なホテル」は変化と進化を目指す
(2015/7/17 15:02)
- 2015年7月17日 オープン
ハウステンボスは7月17日、テーマパークの公式ホテルとして「変なホテル」をオープンした。最新ITを徹底したスマートホテルとして注目を集めている。
ハウステンボスは長崎県佐世保市にあるテーマパークだ。「変なホテル」の「変」は“変わり続けること”、そして、“変化”、“進化”を意味する。今回のオープンは第一期に相当し、地上2階建て72室が開業した。さらに第二期として2016年3月に72室を持つ同様の施設が誕生する予定だ。
そのコンセプトは徹底したローコスト化にある。ハウステンボスのホテルの多くは一泊あたり3~5万円かかるのに対して、「変なホテル」は1万円前後で宿泊できる。その秘密は泊まるために必要な設備を再考したことにある。3年前にプロジェクトを計画し、今回のオープンにこぎつけた。
ハウステンボス代表取締役社長の澤田秀雄氏は、ホテル宿泊費の高騰をなんとかしたかったという。ローコストの航空会社はビジネス的に成功への道を歩んでいるが、ホテルは決してそうではない。ならば、世界で最高に生産性の高いホテルを作ってみようということになった。
ロボットをキーにローコストを実現
ホテルにおいて、もっともお金がかかるのは人件費だと澤田氏。それを1/3、1/4にするにはどうすればいいかが徹底的に洗い直された。
そこでまず、ロボット化がキーとなる。
ホテルの玄関を抜けると一般的なホテルと同様のフロントカウンターがある。そこで応対をするのは3体のロボットだ。ここで宿泊客はチェックインの手続きをするわけだが、基本的にはタッチ操作ができる端末を自分で操作することになる。
予約の確認後、認証のために顔を登録し、宿泊中は部屋の出入りは顔認証で行なわれる。当然、カードキーさえ使う必要がない。フロントには顔認証の精度を高めるために宿泊客の顔を照らすライトが装備されている。
フロントの向かい側にはクロークがある。預け入れた荷物をロボットがロッカーに収納する様子が、ガラス張りの巨大な空間にデモンストレーションされている。
フロントで部屋が決まれば、荷物はカートに運ばせる。当然これもロボットだ。荷物をカートに積みタッチスクリーンで部屋番号を入力すると、部屋までの道のりをカートが自動的に案内する。宿泊客はそれに付いて行けばいいだけだ。どうせなら顔認証で部屋番号を認識して自動案内といった仕組みが欲しかったところだが、そこはそこ、フロント業務含めてロボットは、これからまだまだ進化していくという。
ちなみに2階建てのホテルだが、部屋までに階段はなく基本的にスロープで移動できるようになっている。これらは、ロボットの移動を考慮した結果だというから徹底している。
澤田氏によれば、人件費の次にコストの大きく占有するのが光熱費だという。電気代をどうするかを再考した結果、「一般的なホテルの約40%くらいしか電気代がかからないはず」という建物ができあがった。
そのために、屋根にはベンチャーが開発した特殊な塗料を使い、外気温に対する室内の温度の一定化に成功した。さらに空調にはエアコンではなく輻射熱などを活用する。あちこちにセンサーを配置し、そのデータを活用して節電するのは当然だ。
部屋に入るとベッドがデンと構えている。だが一部の高級グレード室を除き、部屋にはTVがない。そして冷蔵庫もない。これらが意外と電気代に響くそうだ。
ベッドサイドにはWindowsタブレットがあり、これですべてのコントロールができるようになっている。電話もないが、フロントへのコールはこのタブレットの「Skype」で行なう。
空調もTVもすべて1台のタブレットで行なう。そして傍らにいるのがデジタルアシスタントの「ちゅーりーちゃん」。目覚ましや天気予報などを音声認識で応えてくれる。いわば「Siri」や「Google Now」の実体版だが、機能的にはまだ、到底これらには及ばない。今後の進化に期待だ。タブレットとはUSBで接続されているが、これは電源の供給のみで、別の経路で集中管理されているとのことだ。
ハウステンボスとしては、目標として5年後、10年後に世界中のあちこちのホテルにこのシステムが導入されて、ローコストホテルの見本となることを掲げる。そのためにも、常にリファレンスとして変わり続け、進化し続ける宿命を持っている。
セレモニーに出席した佐世保市長の朝長則男氏は、2010年以降澤田氏に経営を依頼してハウステンボスはV字回復を果たしたことを述べ、多くの観光客が来てくれるテーマパークになったとし、ここまでにはさまざまな取り組みがあったが、ハウステンボスのチャレンジは佐世保、長崎、九州の観光の牽引力になっているという。
「その中で新しいチャレンジとしての変なホテルが始まった。今までのホテルとコンセプトがまったく違い、環境に配慮した上で、居住性と効率を重視、客に対してローコストで長期滞在ができるホテルとして機能するだろう。ホテルも多様化し、高級ホテルから中級、普通のクラスのホテルまでいろいろあるが、ここはきっとローコストでありながらグレードの高いホテルになるだろう。ぜひ、ここから世界に発信ができ、世界に広がる、世界のホテルが求めるところになってほしい」と祝辞を述べた。
このホテルの設計、施工にはおそらく200人以上のプロフェッショナルが参加している。ロボットからデザインまであらゆる分野のプロが一緒にコミュニケーションしながら作ったのがこのホテルだ。つまり、日本の底力が伝わるホテルということができる。
建築空間としては、建築とロボットをどう統合して落とし込むかの調整が必要だった。一般的な建築物は、普通は人間の活動を支えるために作られている。だが、今回のホテルは人間のほかにロボットという新しい存在が共存することになる。そして、そのロボットは思うほど優秀ではないとも。現状では人間の能力の一部しか担えないわけで、最高のパフォーマンスを発揮できるように建築側がロボットをサポートするようにという考えのもとにホテルの建物は作られた。
当然、ロボットと建築空間を調停していくうえではさまざまな問題が起こった。それを1つ1つ解決、例えば移動系のロボットが移動をスムーズにできるようにゆとりのあるスロープがたくさんある。ここに至るまでには、いろんな葛藤や試行錯誤があったそうだ。ロボットの性能のすごさも見所だが、それを建築がどうサポートしているかを見てほしいという。