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「はなまるうどん」本社を香川県高松市に移転! 狙いは対丸亀製麺ブランディング? 現地を見てきた
2025年1月17日 12:20
はなまるうどん、香川県に本社“里帰り”!
国内で418店(2024年1月現在)のうどん店を展開する「はなまるうどん」(株式会社はなまる)は、2025年1月1日をもって、創業の地である香川県高松市に本社を移転した。
8日に都内で行なった会見には、はなまる 代表取締役社長の前田良博氏、香川県東京事務局所長の森岡英司氏などが出席。同時に、創業1号店である木太店などのフルサービス店舗への改装や、県産品を使った新メニューの開発などを柱にした「おいでまい!さぬきプロジェクト」(おいでまい=方言で「おいでください」の意味)の始動を宣言した。今後はなまるうどんは讃岐うどんの個性と伝統を守りながら、世界に「讃岐うどん」を発信していくという。
香川県はローカルフード「讃岐うどん」の本場として知られ、県民のうどん玉消費は全国平均の4倍(1人あたり年間約200~230玉)にものぼる。2005年に本社機能を東京に移転してから20年目にしての里帰りを発表した記者会見には、香川県知事 池田豊人氏からビデオメッセージが寄せられるなど、創業の地・香川とはなまるうどんの蜜月を改めて伺わせるものだった。
なぜはなまるうどんは、創業20年目にして「本社里帰り」を決断したのか……その前に、新しく本社が置かれた「香川県高松市・田町商店街」の現在の様子を見てみよう。
はなまるうどん本社がある「高松市・田町商店街」どんなとこ?
はなまるうどんの本社が移転した田町は、高松琴平電鉄のターミナル駅・瓦町駅にほど近い巨大アーケード街のなかにある。現在のところ、住所が該当する雑居ビルの1階で「はなまるうどん田町店」が営業中だ。
このアーケード街は、高松城(玉藻城)を起点に金刀比羅宮に通じる街道上にあり、古くから商業の中心地としてにぎわってきた。周囲のエリアにははなまるうどん以外にも「綿谷」「しんぺいうどん」など数軒のうどん店や、数十年も営業している食堂(うえまつ)や純喫茶(カフェグレコ)、洋菓子店(春風堂)、少し離れて旧・ドンドン餃子など……指折りの老舗が軒を連ねる、格式高いアーケード街だ。
余談だが、筆者が14歳まで住んでいた実家+父親の会社は、南隣の小学校の校区、はなまる新本社から距離にして1kmほどの場所にあった。
ただ、はなまるうどん創業の地はこの場所ではない(3kmほど郊外の「木太店」)。この状況のなかで、伝統ある店舗が軒を連ねる田町アーケードへの本社移転は、「これから讃岐うどんの本場・香川県に移転して、地域に根差した運営を行なっていく」という決意表明、うどんの本場・香川県発のうどん店としてのブランディングで、急速に出店エリアを拡大している丸亀製麺(創業は兵庫県加古川市)などとの差別化を図っていくための施策であろう。
なお、はなまるによると、都内の拠点(中央区日本橋箱崎町)にある本社機能は移転しておらず、現時点では登記上の移転にとどまっているようだ。現地でもいたる所に「本社移転は準備中です。お問い合わせは○○(東京の拠点)へ」「店舗(はなまるうどん田町店)へのお問い合わせはご遠慮ください」との張り紙が貼られており、本格的な移転はまだ先になりそうだ。
「資さん」も成功、ご当地の味。ローカルブランドの利点とは?
はなまるうどんが本社移転によって得ようとしている「ローカルブランド(はなまるの場合は讃岐うどん)の本場発」というイメージは、特にうどんチェーンでは、各社とも欲している。
なぜなら、一定の地域で「本場の味として支持を得ている」=味・サービスともに優良顧客がついている状態だ。消費者からすれば安心の選択肢、店にとってはほかの外食チェーンにとの差別化が可能なのだ。
近年では、福岡県北九州市で創業した「資さんうどん」が、創業50年目にして関東進出を果たした。ただ資さんの場合は、ここ十数年で福岡市・九州全域・大阪市に進出するたびに100人単位の大行列が発生し、2024年にも東京・神田のアンテナショップで媒体の露出を狙ったイベントが大行列の盛況。その勢いのまま千葉県・八千代、さらに都内にも進出予定だ。資さんは、「北九州の味」ブランドを橋頭堡に、「全国の味」への飛躍に成功しつつある、と言ってよいだろう。
ただ、ローカルブランドとの関係性で苦心しているのが、うどん店で業界トップの店舗数を擁する丸亀製麺だ。「丸亀」という香川県の地名使用はよいとして、その名前をアメリカで商標登録のうえで、丸亀を名乗る他店に撤退圧力ととられるような行為をとったことが多くの批判を浴び、香川県からの信頼は大きく失墜している。
丸亀製麺は香川県に進出したものの、3店舗で残っているのは1店舗だけ。もともと外食への興味が強く、吉野家、ケンタッキーなどの進出ではキロ単位の渋滞が発生した高松市で、すぐに話題にならなくなった……。進出の失敗も、個人店との値差が倍近くあっただけでなく、こういった反発も無関係ではないだろう。
ただ、近年では香川県丸亀市の離島・広島に、研修施設「心の本店」を置き、セレモニーには丸亀市長が参加している。近年では香川県内の名店「よしや」「おうどん瀬戸晴れ」とのコラボレーションをはなまるうどんの旗艦店が近くにある渋谷区・丸亀製麺道玄坂店で実施するという。こういった動きから、自治体や業界との関係も、徐々に“和解”しつつある、といっていいだろう。
2022年には、インターブランドジャパングループ・C Space Tokyoが発表した「顧客体験価値ランキング2022」で、丸亀製麺が昨年の16位から1位に躍進。2023年も4位をキープしている。選択の項目を見ると「消費者向けだと思える」「自分向けのものだと思える」といった項目が突出し、もはや「讃岐うどんだから選ばれている」状態ではない。
丸亀製麺は本場との関係を修復しつつ「讃岐うどんを名乗るから選ばれる」(店に「讃岐富士」の写真が飾られている)という理由とは別のフェーズで選ばれ、はなまるうどんは本場発祥のブランド力で勝負、という「それぞれの戦略を選んだ」といえそうだ。
香川県内でははなまるうどん、丸亀製麺も厳しい? 県内の「うどんチェーン」事情
はなまるうどんは本社の再移転によって、創業の地に根差した営業を続けていくだろう。ただ課題としては、実は、はなまるうどんは香川県内でトップシェアを誇っているわけではない。
まず県内には600~700軒のうどん店があり、個人店が大半を占める。自宅の改装・家族経営での営業しているため損益分岐点がかなり低く、格安でのうどん提供が可能。高松市内の中心部でも「うどん屋に囲まれたマクドナルドが早々に撤退」など、思わぬ形で競争相手となっている。
かつ、県内発祥のチェーン店として「こがね製麺所」(県内22店)、「こだわり麺や」(県内14店)、「いきいきうどん・まごころ」(県内3店、フォーシーズ傘下。セルフ店展開は早かった)などの勢力も根強い。このなかではなまるうどんは県内で14店。県民の支持はそこまで盤石でなく、丸亀製麺にいたっては先に述べたとおり、3店舗のうち1店しか残っていない。
高松市の老舗商店街に本社を移転したはなまるうどんは、まずは地元・香川県でブランドを再構築したうえで、どう本場の味を発信し、香川県以外で丸亀製麺の出店ペースに追いつくことができるか……今後の動向に注目したい。