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星野リゾート、アフターコロナの業界課題は“ステークホルダーツーリズム”への転換。星野代表「2019年状態に戻すことではない」

2023年4月18日 発表

「星野リゾート LIVE 2023 春」で新規施設の開業や今後の業界予測を発表

 星野リゾートは4月18日、「星野リゾート LIVE 2023 春」オンラインプレス発表会を実施した。

 全国に展開する各施設の代表者がこの春夏に向けた新企画をプレゼンしたほか、都内3軒目となるOMOブランド「OMO3浅草」の開業について情報を初解禁。

 また同社代表の星野佳路氏が今後の取り組みやアフターコロナにおける業界動向について考えを明かした(関連記事「星野リゾート、都内3軒目となる街ナカホテル『OMO3浅草』7月末開業へ。春夏に向けた新企画やトレンドを発表」)。

2023年は国内外に5施設がオープン
OMO5東京大塚、OMO3東京赤坂に続く都内3つ目の街ナカホテル「OMO3浅草」
国内21施設で夏季限定企画「界のご当地風鈴オーケストラ」を実施
新サービス「70歳以上限定 温泉旅シリーズ」が4月18日スタート
界 加賀に「金継ぎ工房」が4月19日オープン
星野リゾート トマムに「雲海テラスドッグラン」が6月1日からオープン

星野代表、今後業界は2019年に戻るのではなく「ステークホルダーツーリズムへの転換が大きなテーマ」

星野リゾート 代表 星野佳路氏

 星野氏によれば、コロナ禍はマイクロツーリズム含め日本各地を旅行する国内需要が活発になり、これがプラスに働いた。一方アフターコロナでは、インバウンドが戻ってくると同時にアウトバウンドも戻ってくる。海外旅行が復活するにつれて国内需要のマーケットは失われていくものだという。

 しかし現状で「アウトバウンドは意外に伸びておらず、戻りが遅いというのが我々の肌感覚」と星野氏。

 これは日本のコロナに対する意識に加え、円安が重なったことで海外旅行のコストが高くなってしまったことも原因のひとつであるという。

 インバウンドの状況を星野リゾート全体でみると、東京・京都・大阪の3エリアは戻りが早いことが分かる。元々日本のインバウンドはアジア依存率が高く、それは2019年の反省すべき点でもあると星野氏は言う。「コロナ禍でゼロになったインバウンドを今後戻していくときに、欧米ターゲットが大事。次の危機・変化に備えて強い集客態勢を見据えることが重要」であると説明した。

 また2019年の“コロナ前に戻りたい”ということがしばしば言われるが、「2019年の観光のかたちが決してパーフェクトだったわけではない」と星野氏。

 その理由として挙げられたのは、インバウンドの比率がある特定の都道府県に集中していたこと。コロナ前から現在まで、トップ5の地域で60%、トップ10地域で80%を占めていた。よって残り30の県は、インバウンドの経済効果をまだまだ得られていないし、観光へのプラスの効果もない。ここをどうしていくべきかが大きなテーマという。

 また「日本政府はインバウンドを3000万人から6000万人に伸ばす目標を立てているが、東京・京都・大阪の3地域だけで倍にするのではいろいろな歪みが生じる。新たな問題が起こってくる」と星野氏は指摘。

 京都では2019年の段階でオーバーツーリズムが問題視されていたことに触れつつ、星野リゾートが得意とする「文化観光」を活かしながら不得意の「自然観光」を強くすることによって日本の観光は大きく変わっていけるという考えのもと、「星野リゾートが力を発揮すべき部分」と強調。

 インバウンドを30の県に誘致することによって、「都道府県にみられる大きな差が平準化された集客になっていくのではないか」とした。

コロナ前のハワイビーチのようす
コロナ前の京都・渡月橋のようす

 これらを踏まえ「世界の観光が大きく変わろうとしている」と星野氏。2019年型の観光に戻るのではなく、新しい観光のかたちを模索しようというのが星野氏の提唱する「ステークホルダーツーリズム」の考えであるいう。

 たしかにコロナ禍では経済活動は止まり、観光需要は減少し、私たち事業者が困った事実はあったとしたうえで、「同時にコロナ禍では有名観光地に住んでいる人にとってプラスもあった」という声についても言及。

 たとえば、経済活動が停滞したことで空気がきれいになり「ロサンゼルスの街から雪山が見えるようになった」「海岸が久しぶりに美しくなった」などの報告が各地で見られること。

 また2019年は1日4000人の観光客が訪れていたハワイのHanauma Bay(ハナウマ湾)というビーチでは、コロナ禍で訪問客がゼロになった一方で「水質が改善した」というハワイ大学の研究も発表されていることが挙げられた。

 そして今世界中の観光地で「2019年の状態に本当に戻していいのか」という議論が盛んに行なわれていることから、「今後も観光需要は伸びると予測されているが、2019年のスタイルで我々はこの大きな市場を受け止めることができるのか模索すること」が課題のひとつであるとした。

 ハナウマ湾では1日の受け入れ人数を3分の1に変え、事前予約制とし、料金も2倍以上に引き上げ、週2日は休業とするなど、世界に先駆けて新しい方向に舵を切っているという。

 このように、コロナ禍で浮き彫りになったさまざまな課題を解決し、観光事業者だけではなく、旅行者やコミュニティ、地域の環境を踏まえた新しいかたちに向かっていくことが大事であるとした。

 また事業者が取り組めることとして、星野リゾートでも今後、西表島ホテルなどを中心に「連泊のすすめ」に注力していく方針。海外旅行では3~6泊が一般的であるように、国内旅行や地方の滞在でも連泊を楽しめるような工夫をしていくことで、「地域全体の経済に貢献できる」という。

 この連泊プロジェクトを展開していくうえでは「短期的にみればいろいろなハレーションが起こるかもしれないが、長期的には日本の観光を変えることになる」と語った。

世界の観光産業が排出するCO2の半分が交通からきている現状からも、星野リゾートでは「連泊のすすめ」に取り組む方針
「滞在時間が長くなればいろいろなアクティビティを体験でき、ホテル以外の場所で食事することによって地域らしさを感じていただける」と星野氏