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重文・旧奈良監獄、ラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」として2026年開業。5平米の独居房×9が1つの客室になる「不思議な空間」と星野代表

2023年9月14日 実施

星野リゾートが「関西プレス発表会 2023」を実施

 星野リゾートは9月14日、大阪市内で「関西プレス発表会 2023」を実施した。

 関西近隣に展開する各施設がこの秋冬にかけての新企画をプレゼンしたほか、「旧奈良監獄」を活用したホテルに関する情報が解禁。そのほか、星野リゾート代表の星野佳路氏がアフターコロナに向けた今後の展望などを語った。

ラグジュアリーな監獄

明治の五大監獄の一つ「奈良監獄」。2026年開業予定の「星のや奈良監獄」ではこれまでにない宿泊体験を提供するという

 国の重要文化財「旧奈良監獄」を活用したホテルを同社の高級ホテルブランド「星のや奈良監獄」として、2026年春にオープンすると発表。施設の所有権は国に残し、運営権を星野リゾートが請け負うコンセッション方式となる。

 当初は日本初の監獄ホテルとして2024年夏に開業を目指していたが、想定よりも耐震工事への分析・対策に時間と費用が要したこと、そしてミュージアム部分とホテル部分の区分け・運営の仕方について検討が必要だったため、2026年春の開業予定となった。

 旧奈良監獄は明治の五大監獄として全国5か所に作られた監獄の一つで、1908年(明治41年)に竣工。赤レンガが特徴的な建物で、意匠的にも優れた近代建築として歴史的価値が高く、2017年に国の重要文化財として指定されている。

 2026年に開業する「星のや奈良監獄」では、旧奈良監獄の歴史を今に伝えるミュージアム部分と、ホテル部分とに区分けされ、ミュージアム部分についてはホテル利用者以外でも見学することができる。ホテル部分は1部屋約5m2の当時の独居房の横9室を一つの客室に仕立て、全48室を予定している。

 星野佳路氏は同ホテルについて、「監獄時代の独房の扉などは当時のままに、もともとは監獄だったので景色を楽しむような部屋にはならないが、監獄独特の高い位置にある窓からたくさんの光が差し込み、“かつては監獄だったんだ”ということを存分に感じてもらいながらフラグシップにふさわしい不思議な空間になる」としている。

 全容が見えてくるのはもう少し先になるが、世界でもめずらしい“監獄”に泊まれるホテルが星野リゾートによってどのように料理されるのか今から楽しみだ。

関西近隣施設のプレゼンブース。各施設ともに秋冬に向けてさまざまな企画を用意している。いつ利用しても宿泊客を飽きさせない取り組みは星野リゾートの強みと言える

星野リゾート代表 星野佳路氏がかたるアフターコロナ、今後の展望

発表会の最後に登壇した星野リゾート代表 星野佳路氏

 2019年のインバウンド需要をピークに、世界中がコロナに病んだ約3年。海外との行き来は閉ざされ、インバウンド需要は一気に下火となった。そんなコロナ禍では自宅から1~2時間で行ける観光、マイクロツーリズムを提唱した星野氏。コロナ禍の密を避けながら小旅行を楽しむ需要は活発となっていた。しかし、2022年10月の水際対策緩和を起点にインバウンドが徐々に回復の兆しをみせる。次に星野氏が提唱するのは「ステークホルダーツーリズム」だ。

 インバウンドの回復とともに、日本人の海外旅行も復活し、国内旅行のマーケットは小さくなっていくのではないかとの見方があった。しかし実際には円安の影響などもあり、アウトバウンドはインバウンドほどの回復スピードはない。ただインバウンドもコロナ前ほど戻ってはいない。かといって急いでコロナ前(2019年)に戻す必要もないと星野氏は語る。単純に数字をコロナ前の水準に戻すだけではダメ、2019年の状況がベストではない。課題も多くあり、これらの課題を解決しながら需要を回復させていくことが重要だという。

 課題の最たるものがオーバーツーリズムに代表される観光地の疲弊だ。京都などの有名観光地では多くの観光客が集中し、道路の渋滞や交通機関の混雑が常態化。地元住民の生活に影響がでるなど深刻な問題となっていた。

コロナ禍で人の移動がなくなったことで、ロスから遠く離れた山並みが見えるように

「コロナ禍では意外によいことが起こっていた」と星野氏。コロナ禍で観光客が有名観光地から消えた。人の出入りがなくなることで空気がきれいになったり、海がきれいになったなど、地元住民は快適と感じ、観光が与えていた経済面のよい影響もあったのだろうが、同時に観光が与えていた地域への悪影響を改めて実感することができたのは、コロナ禍を経験したからこそと言える。

星野氏が提唱する「ステークホルダーツーリズム」の概念図

 星野氏が新たに提唱する「ステークホルダーツーリズム」では、コロナ禍で可視化された多くの問題を解決させながら、新しい観光のモデルを模索する仕組み、すなわちこれまでの観光ステークホルダー、例えば観光事業者である旅行代理店やホテル(投資家含む)などの宿泊施設、公共交通機関に、地元の商店や地元住民などの地域コミュニティや観光客を含め、「観光産業」だけでなく、「旅行者」「地域のコミュニティ」それぞれの観光ステークホルダーが観光からフェアなリターンを得られる仕組みを構築することが重要だと星野氏は言う。

 星野リゾートとして「ステークホルダーツーリズム」に貢献していくためには、泊数を増やしていくことが重要で、すでに西表島ホテルでは、2泊以上の連泊しか受け入れない取り組みを始めている。さまざまなハレーションはあるものの、地元との連携が進み、多様なアクティビティが提供できているという。その結果、利用客の満足度は非常に高いものになっている。

 1泊2食の旅ばかりだと、交通やホテル事業者などは潤うが、意外と地元にお金が落ちていかない。それに加えて利用客の移動が増えるため、CO2の排出も減らない。「1回あたりの旅行の泊数を伸ばしていく取り組みを業界が積極的に手を打つ必要がある」と星野氏は力強く語った。