ニュース

首都高大師橋が拡幅で走りやすくなる! 更新事業で掛け替える橋桁の運搬・回転作業を見てきた

2022年5月14日 公開

橋梁更新工事が行なわれている首都高速1号線 高速大師橋

 首都高速道路は5月14日、橋梁更新工事が進行中の首都高速1号線 高速大師橋(東京都大田区/神奈川県川崎市)において、橋桁運搬作業の一部を報道公開した。

高速大師橋更新事業

 高速大師橋は昭和43年(1968年)の開通時に建設された橋梁。多摩川を航行する船舶を妨げないように橋脚間が長く、加えて軽量化を図った設計としたことにより、もともとたわみやすい構造であったうえ、50年以上が経過するとともに1日およそ8万台が通過することによる負荷が大きく、橋梁全体に1200か所以上の疲労亀裂が発生していた。そこで、疲労亀裂が発生しにくい構造に作り替えるとともに、現行基準にあわせ幅員を拡幅(16.5m→18.2m)した橋梁への掛け替えが実施されることになった。

更新区間構造概要

橋長 :292m
橋桁重量 :約4000t
構造
[橋梁形式]鋼3径間連続綱床版箱桁ラーメン橋
[橋脚形式]鋼-鉄筋コンクリート複合橋脚(門型柱)×3基(河川部)、鉄筋コンクリート橋脚×1基(陸上部)

 今回の掛け替えでは既設橋桁の横に新設橋桁を用意、スライドして新旧を置き換える「一括横取り工法」を採用。施工は「新設橋橋脚組み立て」「新設橋組み立て」「通行止め、既設橋移動」「新設橋架設」「既設橋解体・撤去」の5ステップで行なわれ、2025年度の完成を目指す。

 現在は2番目のステップが進行中で、3つの橋桁に分割した新設橋の組み立てを行なっている。ここでは、中央部および川崎側の橋桁は組み立て済みのものを台船で水上運搬、ジャッキおよび干満差を利用してベント(橋桁移動設備)上に設置。残る川崎側は新設橋上にクレーンを設置、順次架設していく。

新設橋橋桁

中央径間 :132m、約1900t
川崎側径間 :82m、約1300t
東京側径間 :74m、約700t

 橋桁は台船に積み込まれ東京湾から多摩川を経て現地まで運搬するが、多摩川河口域は水深が浅く、また3月に開通した多摩川スカイブリッジを潜る必要もある。そのため、事前に2.5mの浚渫を実施、さらに多摩川スカイブリッジ橋脚への接触を防止するためスペーサーとなる台船を設置したうえで、曳舟ではなくアンカーを設置してウインチ操作で移動するといった万全の対策が取られた。こうして4月20日に中央部の橋桁の設置が完了している。

開通当時の高速大師橋(右側)と産業道路の大師橋(提供:首都高速道路)
工事着手前(提供:首都高速道路)
取材時の状況。中央に見えているのがベント上に設置された中央部の橋桁
上流側から。横方向に伸びているのがベント
橋桁の重量増加に伴い橋脚はI字形(写真中央)から門型に。橋脚外側は耐久性の高いPIC(Polymer Impregnated Concrete)パネルを採用する
川崎側橋桁の台船搭載状況
運搬経路
多摩川スカイブリッジの通過方法

1300tの橋桁を回転

 続いて川崎側橋桁の作業へと移行したが、台船への積載にあたって「架設位置の関係で後方に積む」「橋脚側が重いためオフセットする」などの制約があったため、左右逆の状態で現地に到着。設置にあたっては向きを変える必要が生じた。

 向きを変えるといっても相手は1300tもの橋桁を積載した台船。今回も多摩川スカイブリッジ下を通過した際と同様にアンカーを設置、ウインチ操作による移動となった。現場責任者の指示により作業がスタートすると、台船は音もなく回転を開始。10分足らずで作業完了となった。このあと、架設位置まで移動し、台船のリフトおよび潮位差などを利用してベント上に設置する作業が翌15日にかけて実施された。今後は中央径間との接続、東京側径間の組み立てなどを経て、来年度実施予定の掛け替えに備えることになる。

 なお、掛け替えに伴う通行止めは2週間を予定しているが、実施時期については現状では2023年度とおおまかな予定のみ。通行止めになる区間についても検討中とのこと。詳細については今後の発表を待ちたい。

橋桁の回転作業
作業前の状態
小さく見えるが作業員と比較すると巨大さが分かる
ほぼ横向きになった状態
アンカーを軸に回転している
中央橋桁との接続部。左右の橋脚部は設置位置に据え付けたあとに溶接で固定する。その作業には2昼夜/箇所を要するという
回転終了。このあと、ベント上に移動して設置する作業を行なう

2023年度の掛け替えでは1号線を約2週間通行止め

 現場公開前に行なった説明会では、まず首都高速道路 更新・建設局 局長の諸橋雅之氏が、1号線東品川~鮫洲区間、日本橋区間の地下化などの大規模更新事業を進めており、この高速大師橋では2023年度に掛け替えを実施すると説明。その際には1号線を2週間ほど通行止めにする必要があることから、「首都高の利用を控えていただくか、湾岸線に迂回していただきたい」と協力を呼びかけた。

首都高速道路株式会社 更新・建設局 局長 諸橋雅之氏

 更新・建設局 事業推進部長(神奈川・埼玉地区)の野網孝之氏は、事業概要を説明した。首都高は開通から60年近くが経過しており、「より効果的、効率的な維持管理をするために道路構造物を作り替える大規模更新を実施」しているという。

 同橋梁においては1968年の開通から50年以上経過しており、「高齢化、過酷な使用状況」「多摩川の流れを阻害しないため橋脚間が長く、軽量化によりたわみやすい構造」のため、「1200か所以上の疲労亀裂が発生」しているものの、「補修・補強により橋の健全性は保ってきた」とコメント。工事では東京タワーとおおむね同等の長さ、重さである新橋梁を既設橋梁と置き換え、およそ2週間で供用を開始。既設橋梁の解体などを含め2025年度に工事完了となる予定だと述べた。

首都高速道路株式会社 更新・建設局 事業推進部長(神奈川・埼玉地区) 野網孝之氏
実施中の大規模更新事業
工事の概要
高速大師橋の損傷状況
構造概要
施工ステップ
ベント組み立て
掛け替え
完成イメージ。下部に恒久足場が設けられ維持管理性が向上

 工事の概要は、更新・建設局 大師橋工事事務所長の松下雅行氏が説明した。2番目のステップでは橋桁を3つのブロックに分けて製作。中央および川崎側の橋桁は東京湾内に設けたヤードで組み立て、台船で運搬。台船に設けられたジャッキと最大で2mある潮の干満差を利用してベント(橋桁移動設備)上に設置。残る川崎側は新設橋上にクレーンを設置、順次架設していく。

 そのあと、今年度は橋桁の組み立て後、壁高欄、遮音壁、舗装などを行ない、来年度に実施する2週間の通行止め(掛け替え)に備えると述べた。

首都高速道路株式会社 更新・建設局 大師橋工事事務所長 松下雅行氏
3つのブロックに分けて製作していく
橋桁を水上運搬
ベント上に設置された中央部の橋桁