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首都高、ドローンや360度カメラ、3Dスキャナによる橋梁点検の最新技術を公開。架設47年の荒川湾岸橋で作業者の負担減らす
2022年8月29日 18:34
- 2022年8月24日 公開
首都高速道路は8月24日、同社の施設の点検、維持管理に活用する最新技術を報道関係者に公開した。
公開したのはトラス橋点検用ロボットや橋梁点検用ドローン、全方位カメラ昇降点検システムなど現場での点検に用いられる新技術と、点検や補修に関する膨大なデータを一元化して管理する首都高独自の維持管理システム「i-DREAM」の2点。これらの技術はすでに試行段階に入っているが、さらなる追加対策案を整理し年内にはとりまとめ案を発表する予定とのこと。
会場となったのは1978年1月に共用開始した(桁架設完了は1975年4月)首都高速湾岸線 荒川湾岸橋で47年経過した鋼橋の現在の損傷具合や修復を終えた箇所の状態と新技術による点検風景などが公開された。荒川湾岸橋の場合、これまで巡回点検、高速上の徒歩点検、ロープアクセスなどによる近接点検のほか、橋に設置された点検通路上から双眼鏡や望遠カメラなどを使った目視点検、高架下から高精細カメラを使い画像による点検を行なってきた。ちなみに首都高全体327kmの約63%を占める鋼橋のなかでもトラス構造を採用する部材数が多くどうしても作業に必要な足場の設置が大規模になってしまいがちだったという。
そこで作業の効率化やコスト削減のために導入されたのが今回公開された新技術の数々だ。その1つ、トラス橋点検用ロボットはタイヤの付いたロボットにガイドローラーや全方位カメラを組み合わせて、作業者のリモート操作でトラス橋の部材を行き交わせるというきわめてシンプルなもの。
カメラから送られる床版や鋼材部の映像は作業者のタブレットにリアルタイムで送信される。これにより床版下面の約81%、縦桁の約75%が点検できるようになり、その数値は従来より大きく向上したという。
ただし、このロボットでも複雑な構造のトラス橋の場合約20%ほど視認ができない領域があり、橋梁点検用ドローンがそこをカバーする。
ドローンは狭い箇所へのアクセスも可能な小型ドローン(Skydio2)と、暗所でも撮影が可能な大型ドローン(PF2)を使用する。なお、今回見学できたのは小型のもので上下6つの魚眼レンズで捉えた360°の映像は、ロボット同様リアルタイムでタブレットに送信される。従来からの目視に加えロボット、ドローンを活用することにより点検の精度は飛躍的に向上するという。
さらに橋に常設された点検通路上からも昇降式の全方位カメラで点検して橋の状態を把握し、これらの情報を確認したうえで損傷個所が見つかれば、ロープで直接作業員がアクセスしてさらに詳細な調査に移る。これらの一連の流れにより死角のない点検と、直接作業員がアクセスする場所を正確に把握することによる維持管理の効率が飛躍的に上がったとのことだ。
首都高によると、従来の点検項目で確認できないすべての箇所にロープで作業者がアクセスして詳細を直接確認する方法だと、5年以上の期間がかかるとのこと。また、水深が浅く流れの速い荒川にかかる荒川湾岸橋は橋長が870mと長く桁高も高いため、台船を用いた高所作業車による点検も困難という。
見学していてもところどころに塗装の劣化や剥離、部材の腐食などが遠目で見受けられたが、ロボットやドローンによる死角のない点検はロープアクセスなどによる詳細な調査をすべき点を正確に割り出すことができ、シンプルながら作業全体の効率化はもちろん作業者の安全性も含め、有効性は非常に高いと実感する。今回公開された映像を使った新技術のほか、打音検査や赤外線サーモグラフィ法による検査も行ない施設全体の状態を把握する。
以上の点検における技術と並行して紹介されたのが、首都高独自の維持管理システム「i-DREAMs」だ。道路の維持管理に関する膨大なデータを一元管理するシステムで、現場の点検作業で得られたデータは現場のタブレット1つで登録でき、過去の履歴も現場で閲覧できるようになった。システムは建設現場特有の専門用語にも対応した音声入力システムを備えており、また画像の入力も簡単にできるなど現場で使う作業者の負担を減らす工夫が盛り込まれているのも大きな特徴だ。
なお、これまで作業後に事務所で行なわれていた報告書の作成も今後は現場でタブレットにより入力された内容がそのまま報告書となる。「i-DREAMs」は60年もの歴史を持ち今なお発展し続ける首都高全体のこれからの維持管理を支える基幹のシステムとなるのだ。
また「i-DREAMs」はロボットやドローンのカメラによる映像のほか現場で取得した3Dハンディスキャナーによる3Dデータも活用する。その名のとおり片手で持つことのできるコンパクトなスキャナーで施設の3Dデータを作成することにより損傷状況を面的に定量化するのだ。このデータが加わることにより損傷の正確な診断や補修補強のプランが立てやすくなる。また補修補強後の状態も記録することで、より高度な維持管理が効率よく行なえるようになるとのことだ。
首都高は限られたスペースで作られたゆえに複雑な構造が多く、河川や一般道路上といった点検困難箇所に立地する道路だ。さらに交通量もきわめて多い。また、生産年齢人口の減少による技術者不足という社会背景のなかで、今回公開された技術はこれからの首都高の安全に大きく寄与する取り組みと言えるだろう。