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骨格検知で人道踏切の滞留を監視・事故を防ぐ。西武鉄道、踏切滞留AI監視システムを公開

2021年12月22日 公開

西武鉄道が「踏切滞留AI監視システム」の現場を公開した

 西武鉄道は12月22日、AI画像解析で踏切内の人の滞留を検出する試験の現場を、報道向けに公開した。

 西武池袋線と西武新宿線の計3か所の踏切で12月14日から順次実施しているもので、「踏切滞留AI監視システム」を池袋線の池袋第9号踏切と所沢第3号踏切に、「3D画像解析踏切監視システム」を新宿線の井荻第2号踏切に設置している(関連記事「西武鉄道、AIや3D画像解析を用いた検知システムの導入試験を3か所の踏切で開始」)。

 この日公開したのは椎名町駅すぐそばの池袋第9号踏切で、自動車が通行できない「人道踏切」と呼ばれるもの。同社の沿線に設置している踏切総数341基のうち、人道踏切は65基存在する。

西武池袋線 椎名町駅すぐそばにある「池袋第9号踏切」。自動車が通行できない「人道踏切」だ

 自動車も横断する踏切の多くでは、事故や故障などで車両が滞留していると、状況を検知して踏切付近の列車に知らせる「踏切支障検知装置」を導入している。検知装置には、レーザー光線網を使う「光電式」や、レーザーのような線の検知より精度の高い“面”で検知する「2D式」「3D式」などの種類があり、設置数は235か所。ただし装置自体が非常に高価なこともあり、設置率は全体の約7割となっている。

 一方、押しボタン式の「踏切支障報知装置」(いわゆる非常ボタン)は、341基すべての踏切に配備している。

 どちらも異常を検知・ボタン押下で「特殊信号発光機」が作動し、列車(運転士)に緊急停止信号を送るという点では同じだが、これまで人道踏切には非常ボタンしかなかったため、例えば踏切内で人が倒れても、周囲にボタンを押す人がいなければ発報できないという課題があった。

 そこで同社は比較的人や自転車の通行が多いという前述の3つの踏切で、AIや3D画像解析で人の滞留を検知して、特殊信号発光機で付近の列車に停止信号を送るシステムを導入。また、監視カメラ画像を司令部が遠隔で視認することで、安全確認の支援を行なう。これらは年度内の試験期間を経て、早ければ2022年度から沿線での本格導入を進めていくという。

2つある監視カメラのうち、下の円柱状のカメラが今回の試験で取り付けたもの
カメラの根元には、AI画像処理を行なう黒い角柱状の端末と装置一式を格納する箱がある
その全体

 池袋第9号踏切で今回取り付けたのは、踏切内全体を視野に収めることのできる監視カメラと、その映像をその場(エッジ)でAI解析する端末などの一式。解析用の端末は実はカメラ一体型のもので、以前の検証では撮影と映像解析をまとめて行なっていたが、今回の試験では夜間(低照度)でもよく映るよう別途カメラを用意したため、解析機能だけを利用しているそうだ。そのため、写真をよく見るとレンズが付いているのが分かる。このほか、電源やLTE回線のアンテナなどもこの一式に含んでいる。

 本システムが踏切支障検知装置と決定的に異なるのは導入コストで、西武鉄道の見込みでは「支障検知装置の5分の1くらいで済むのでは」としている。

西武池袋線の池袋第9号踏切の解析画像(画像提供:西武鉄道)
西武池袋線の所沢第3号踏切の解析画像(画像提供:西武鉄道)

 別掲した解析画像を見ると、遮断機がすでに下りているにも関わらず、歩行者が踏切内に残っていることをAIが解析・検知しているのが分かる。また、その歩行者が移動している向きや、踏切待ちで遮断機の外にいる人間・自転車も認識できている。

「踏切滞留AI監視システム」は、踏切の警報音が鳴って遮断機が下り始めると、通行している複数のオブジェクト(人間や自転車、車椅子など)に対して個別にIDを割り当てて滞留時間の計測を開始、滞留して3秒で発報(特殊信号発光機が作動)する仕組みになっている。同時にLTE回線を通じて管理クラウドに状況を共有し、司令部で状況が確認できるようになる。

 監視カメラ映像のなかを移動する(自動車など)「物体の検知」は以前からできていたが、今回のようにオブジェクトを「人間」と判定するのは、共同開発に加わった沖電気工業と丸紅ネットワークソリューションズの技術が使われている。

 具体的には、人間の肩・肘・腰・膝など18か所ほど関節点を画像のディープラーニングで抽出・推定し(骨格検知)、人間の歩いている様子や向きを判定している。関節点のつながりの強さも学習することで、腕を振る・足が曲がるといった人間の動きを検出できるようになっている。例えば一度に多くの人が歩いたり、雨の日に傘を差していたりと、映像上で関節点が隠れてしまっても、見えている関節点から推定することができ、高精度の検出を実現できるという。

 ちなみに、本システムでいう「滞留」の定義は止まっていることではなく、監視カメラの範囲内(=踏切内)に存在することなので、転んだりして踏切内で倒れている場合はもちろん、遮断機が下りているのにムリに渡ろうとしても滞留と判定し、特殊信号発光機が作動する。

上の五角形の装置が「特殊信号発光機」。異常を認めると、2灯ずつ循環鳴動して運転士に知らせる
どの踏切にもある非常ボタン(踏切支障報知装置)。これを押した場合も特殊信号発光機が働く

 踏切内の人間を検知するという仕組み自体はすでに3年ほど検証を行なっており、今回の試験ではその精度を踏まえたうえで、AIの画像解析から異常検知・発報、発光機が動作するという一連のシステム連携がうまくいくかという点に主眼を置いている。ただし、いったん人間の滞留で発報しても、安全に渡りきったことを確認すると発報を止めるという仕組み上、実際の運行にどの程度影響が出るかといった面を検証する必要があるという。

 この導入試験の詳細を説明した西武鉄道 電気部 信号通信課 課長の犬塚隆晴氏は、システムの導入を進めることで「踏切での不幸な事故をなくしたい」と話す。また、今回の試験で踏切の映像を頻繁に確認するようになってから、「踏切警報音が鳴り始めても渡ろうとする人が多い」ということに気づいたという。踏切では遮断機が下り始めているときはもちろん、警報器が作動している間は立ち入らないのが基本的な交通ルール。犬塚氏も「電車と歩行者が使うところなので、安全マナーを守って使ってほしい」と呼びかけた。