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ワクチン接種証明アプリ、見えた課題と活用。国内ではアプリの使い分けを

2021年12月20日 公開

デジタル庁が「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」の配信を開始

 デジタル庁は12月20日、「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」の配信を開始した。Android版とiOS版を用意しており、国の公式な新型コロナワクチンの接種証明書として、国内外で利用できるようになっている。そこで、簡単に接種証明書アプリを利用した接種証明書の発行方法を紹介するとともに、どういった場面で使われるのか、またどういった課題があるのか、見ていくことにしよう。

わずが数分で簡単に接種証明書を発行できる

 今回の接種証明書アプリに先立ち、紙の「新型コロナワクチン感染症 予防接種証明書」が自治体単位で発行されている。特に海外では、入国の際に新型コロナワクチンの接種証明書提示が義務付けられている国が多く存在しており、これまでは海外旅行の際には紙の接種証明書の発行が不可欠だった。

 ただ、紙の接種証明書を発行するには、申請書類などを自治体の窓口に提出したり郵送で発送したうえで、発行までに早くて数週間の期間が必要となり、非常にめんどうかつ時間がかかっていた。

 それに対し接種証明書アプリでは、対応するスマートフォンとマイナンバーカード、海外用の接種証明書が必要な場合には有効期限内のパスポートがあれば、わずか数分で接種証明書を発行できる。

 そこでまず、簡単に接種証明書アプリを利用した接種証明書の発行手順を見ていこう。

 冒頭でも紹介しているように、接種証明書アプリはAndroid版とiOS版を用意している。対応するスマートフォンは、マイナンバーカードを読み取る機能を有する(NFC Type Bの読み取りに対応する)端末が必要になり、OSはAndroid 8.0以上またはiOS 13.7以上。

 Androidスマートフォンの場合はおおむね2018年以降に発売されたNFCやおサイフケータイに対応する端末、iPhoneの場合はiPhone 7/iPhone SE2以降で利用可能だ。アプリは、AndroidスマートフォンではGoogle Playから、iPhoneではApp Storeからそれぞれ入手できる。

新型コロナワクチン接種証明書アプリ(Android版): Google Play
新型コロナワクチン接種証明書アプリ(iOS版): App Store

 アプリ入手後の接種証明書発行手順はどちらもほぼ同じで、アプリを起動してマイナンバーカードに登録した数字4桁のコードを入力し、スマートフォンでマイナンバーカードを読み取るだけ。海外用の接種証明書を入手する場合には、その手順に加えてパスポートの情報をカメラで取り込む作業が加わる。

 実際に、AndroidスマートフォンのPixel 6 ProとiPhone SE2を利用して接種証明書を発行してみたが、手順は非常に簡単で、実際に数分で国内用、海外用の接種証明書を発行できた。問題となりそうと感じたのは、端末ごとにNFCの読み取り位置が異なるため、うまくマイナンバーカードを読み取れない場合がありそう、という点ぐらいで、そこさえ問題なければ、ほとんどの人がほとんど苦労することなく接種証明書を発行できそうだ。

 ここで注意したいのは、マイナンバーカードに登録したパスワードの入力だ。もしパスワードの入力を3回連続で間違うと、その時点でマイナンバーカードはロックされ、自治体の窓口でロックを解除してもらわない限り利用できなくなってしまうので、この点だけは十分注意するようにしたい。

iPhone SE2での接種証明書発行手順
App Storeから接種証明書アプリをインストール
アプリを起動し、利用規約に同意する
「接種証明書を発行する」ボタンをタップ
国内用または海外用の接種証明書いずれかの発行を選択。今回は両方選択した
マイナンバーカードに登録した数字4桁の暗証番号を入力
iPhoneでマイナンバーカードを読み取る
このようにiPhone SE2上部をマイナンバーカードに近づけて読み取る
読み取りが完了したら「次へ進む」ボタンをタップ
海外用の接種証明書取得を選択した場合には、次にパスポートを読み取る
このように、カメラでパスポートの顔写真が印刷されているページを読み取る
パスポートの読み取りが完了したら「次へ進む」ボタンをタップ
ワクチンを接種した自治体を選択
接種記録が見つかったら「発行する」ボタンをタップ
以上で接種証明書の発行が完了する
接種証明書が発行されると、アプリで接種証明書や2次元コードを表示可能となる
Pixel 6 Proでの接種証明書発行手順
Google Playから接種証明書アプリをインストール
アプリを起動し、利用規約に同意
この先の手順はiPhoneの場合とまったく同じだ
Pixel 6 ProのNFCリーダーは背面のカメラ付近にあるので、そちらにマイナンバーカードを近づけて読み取る
それ以降の手順もiPhoneの場合と同じで、すべて完了すると無事に接種証明書が発行される

接種証明書アプリは、当面は海外での利用が中心か

 このように、接種証明書アプリでは接種証明書を簡単かつ短時間に発行できることは分かってもらえたと思う。では、今後どういった場面で接種証明書アプリは使われることになるのか。

 国内では、主に「ワクチン・検査パッケージ制度」の枠組みでの活用を想定している。例えば、新型コロナウイルス感染者数が再拡大して緊急事態宣言が発令され、ワクチン・検査パッケージ制度に基づいた行動制限緩和を行なう場合に、ワクチン接種有無の確認に活用される計画だ。例えば、接種証明書アプリで接種証明書を示すことを条件として、大規模イベントへの参加人数上限を緩和したり、飲食店への入店を認めるなどの行動制限緩和が行なわれることになる。

 自治体が発行する紙の接種証明書でも接種証明書としての効力は同じだ。ただ、接種証明書アプリでは登録時にマイナンバーカードの利用が前提となってるため公的な個人認証が終わっているとされ、本人確認手続きを簡略化できるというメリットがある。特にスポーツ大会やコンサートなど大人数が参加する大規模イベントでは、接種証明書アプリの2次元コードだけで接種証明や氏名、生年月日などの情報が読み取れるため、入場時の手続きをスムーズに行なえることになり、広く接種証明書アプリが活用される可能性が高い。

 トラベル Watch的な視点では、国内の公共交通機関の利用や、遊興施設、観光施設などを利用する場面での活用も考えられる。もちろんその場合も、基本的にはワクチン・検査パッケージ制度の枠組みでの活用になるとは思うが、各事業社や施設が普段から自衛的に接種証明書を確認することも考えられる。そういった場面でも、接種証明アプリならいつものスマートフォンを持って出るだけですむのはありがたい。

 とはいえ、現時点では国内でどこまで接種証明書アプリが活用されるのかは未知数で、今後しばらくは、国内ではほとんど出番がないという状況も十分考えられる。

 それに対し、確実に広く使われるようになると思われるのが、海外での利用だ。接種証明書アプリで発行できる海外用の接種証明書は76の国と地域(12月13日時点)に対応しており、渡航先で2次元コードを示すことで接種証明書を提示できる。

 現時点で多くの国が入国時にワクチン接種証明書の提示を義務化しており、これまでは取得に手間と時間がかかる紙の接種証明書を入手する必要があった。しかし今後は接種証明書アプリを利用して簡単かつ短時間で海外用の接種証明書を入手できるようになる。紙の接種証明書でも効力は同じだが、やはりスマートフォンの画面に2次元コードを示すだけですむ利便性の高さはアプリならではだ。今後海外旅行に出掛ける場合には、可能な限り持っておくべきアプリとなり、多くの人が活用することになるだろう。

国内向けの接種証明書。2次元コードや氏名は隠されており、必要なときに開いて表示させるようになっている
海外向けの接種証明書。ICAO VDS-NCとSMART Health Cardsの2種類の国際規格に対応した2次元コードを表示でき、76の国と地域で利用できる

便利に使えるが課題も残されている

 接種証明書アプリは、非常に簡単かつ短時間に公的な接種証明書を発行できる点が大きな特徴となっているが、課題も残されている。

 まず、接種証明書アプリで接種証明書を発行するには、接種時に自分が住んでいた自治体が接種証明書アプリでの接種証明書の発行を開始している必要がある。その情報はデジタル庁のWebサイトで確認できるが、現時点ですべての自治体が対応しているわけではなく、接種した場所によっては接種証明書アプリから接種証明書を発行できない場合もある。ただこちらについては、それほど時間を要することなく解消されるはずだ。

 また、接種証明書アプリでの接種証明書発行にマイナンバーカードが必要となる点も課題の1つだ。マイナンバーカード普及率は、12月3日時点で40%をようやく超えた程度。つまり、接種証明書アプリを利用できる人も全国民の約40%に限られるわけで、現時点では国民の過半数の人が接種証明書アプリを利用できない。

 マイナンバーカードには持ち主しか知らないパスワードの入力によってアプリ上で利用者を特定する仕組みが盛り込まれているのに対し、運転免許証などにはそういった仕組みがないため、仕方のない部分もある。それでも、今後さまざまな場面での利用を想定しているのなら、マイナンバーカードがなくても接種証明書アプリを利用できる仕組みを用意すべきだと感じる。

 さらに、マイナンバーカードを持っていても、マイナンバーカードに旧姓表記があると接種証明書を発行できない。そのほか、海外用の接種証明書を発行する際にも、パスポートに旧姓などの併記があったり、マイナンバーカードとパスポートの氏名表記が異なっていると発行できない。こちらについてデジタル庁は、近日中に対応予定としているものの、現時点ではいつ対応になるか分からない。そのため、こちらに当てはまる場合には接種証明書アプリは現時点では利用できない。この点も早急な対応を期待したい。

国内では適材適所でほかのワクチン接種アプリとの使い分けがオススメ

 ところで、この接種証明書アプリだけでなく、すでに自治体や民間が提供するワクチン接種証明アプリが多く存在している。いずれのアプリも、ワクチン接種済みであることを示すという点では同じだが、当然性格は異なっている。

 まず、今回提供が始まった接種証明書アプリは国が提供するものであり、国内外で公的な接種証明書として利用できるとい点がほかのアプリとは大きく異なる部分。それに対し、自治体が提供するワクチン接種証明アプリは、その自治体内では公的な接種証明として活用できても、それ以外の地域では活用できない可能性がある。民間のワクチン接種証明アプリについても同様で、基本的には公的な接種証明書とはならない。

 とはいえ、ワクチン接種済みであることを示すという意味では、どのアプリも変わらない。そのため、場合によって使い分けるのが賢い使い方と言える。

 例えば、東京都が発行している「TOKYOワクション」では、登録すると協賛企業などからさまざまな特典が提供される。また、メディカルチェック推進機構とICheckが共同で発行する「ワクパス」も、協賛企業の店で割引きが受けられるなどの特典が提供されている。それに対し、国の接種証明書アプリにはそういた特典はない。飲食店などの事業社が独自に特典を提供する場合もあるかもしれないが、お得に利用できるという意味では、自治体や民間が発行するワクチン接種証明アプリの方が有利だろう。

 なお、国の接種証明書アプリも含めて複数のワクチン接種証明アプリを同時に発行し、適材適所で使い分けること自体にまったく問題はない。そのため、国内では国の接種証明書アプリに固執することなく、特典目当てで自治体や民間が提供するワクチン接種証明アプリを利用するのもありだ。そして、そういった活用ができるのも、アプリの大きなメリットなので、自分に合ったお得な使い方をぜひ探してみてもらいたい。

東京都が提供しているワクチン接種証明アプリ「TOKYOワクション」
メディカルチェック推進機構とICheckが共同で提供している民間のワクチン接種証明アプリ「ワクパス」
TOKYOワクション、ワクパスとも協賛する企業によるさまざまな特典を提供。割引クーポンなどお得な利用が可能だ